中編②
彼だと認識して咄嗟に見つからない様に集まっている人たちの影に隠れる。
どうして?どうしてこんな所にいるの?
断罪されたあの日から二年。
顔を見ることは一度も無かった。
でもその顔を忘れたくても忘れられなかった。
「…グレン…様…。」
もう過ぎた事なのに昨日のように思い出す。
優しく微笑んでくれたグレン様が天敵を見るかの様に私を睨め付け罪を暴くあのお顔。
「…っ。」
思い出すと胸を締め付けるように心が痛んだ。
「リリー、あの人歩いてあっちに行ったぞ。」
シェナ君の声をきいて正気に戻った。
グレン様は集まった人達の中で私がいる事に気づかずお供の人を連れて町を歩いていた。
そうよね。そうよ。私が過剰に気にしているだけであって、あの人は時期環境大臣として環境局で勤めているのだからたまたま仕事で来ているんだわ。
もう私はあの人とは何も関係ない。
だってもう既に私は断罪はされているのだから。
罪人の私と婚約破棄して彼女と婚約しているのだから。
心の中でそう言い聞かせた。
だけど何故か胸騒ぎがする。
「…リリー、とりあえず今日はリラさんのところに帰ろう。」
シェナ君は私の手を優しく握った。
「…でも今からジーナさんの所に挨拶に行くって…」
「親父のところは明日行こう?とりあえず今日はブロンさんとリラさんだけ報告してゆっくり休んで。…今の貴族様は多分親父に用があると思う。このまま行くと鉢合わせするし辞めておいた方がいい。」
シェナ君の言う通りだ。今町長のジーナさんに会いに行けば鉢合わせする。
もう私と彼の関係は終わっているけど、今の私はきっと彼に普通に接する事が出来ない。
シェナ君は私を守ろうとしてくれている。
「…シェナ君ありがとう。」
小さく微笑む。それを見たシェナ君は照れ臭そうにそっぽをみた。
「…旦那になるんだし当たり前だろ?あと、いい加減俺のことを呼び捨てで呼べよ。子供じゃあないんだし。」
ちょっと子供みたいに拗ねた言い方をするそんな彼に少しだけ面白くて笑ってしまった。
彼が一緒だから大丈夫。
…だけどやっぱり嫌な予感は当るものだった。
グレン様は仕事で町長に会いに来たわけでは無く私が養子に出された家に用事があったのだから。
私たちは出来るだけ大通りを通らず遠回りして家に戻った。
家の前で隣の家の人達が我が家から少し離れて立ち話をしている。
「あらっ二人とも出掛けていたの?」
私たちをみた隣のミーミルおばさんが驚いた様に言う。
「どうかしたの?」
ミーミルおばさんとテルおばさんが顔見合わせて困った顔する。
「…いや…ねぇ。今ブロンさん達の家に貴族様が来たの。…こんな所にまで貴族様が来るなんて…リリーちゃん絡みかな…と」
私の顔をちらちらと見つつ言いづらそうに話す。
グレン様が家に来ている。
更に顔が強張る。
「リリー…。」
「………。」
心配そうに見てくるシェナ君の服を掴み金縛りにもあったかように動けない。
「…リリー、入ってみよう。」
「…シェナ君…。」
シェナ君は決意した様に私を見ている。
「どうして貴族様が来たのか分からないかど、もうリリーはブロンさん達とっても俺にとっても家族だ。
例え何があっても俺が守るよ。」
心強いシェナ君に勇気付けられた。
「…うん。そうだね。」
私も頷く。
そして玄関のドアを開けた。
※※※
「何度も言いますが、リリーはもう貴族ではありません。あなた方の都合で連れていかれても困ります!」
義父さんの声が大きく響く。
「リリーはもう十分償っています。あの子は私たちと一緒に毎日地に足をつけて働いています。だからもう十分ですよね?」
義母さんも切迫する様な顔で相手に訴る。
目の前には私の義両親と町長のジーナさんそして先ほど見たグレン様とその従者がいて
義父さんと義母さんは必死に彼に抗議をしている。
だけど彼は両親を冷ややかに一瞥してこちらに目を向けた。
「リリー」
「っ!」
ビクッと体が震えた。その目に心臓を掴まれた様な感覚になった。
「…。」
その場でもう貴族では無いのに無意識なのかスカートを掴みそのまま淑女の礼をとる。
「久しぶりだな。リリー…少し…痩せたか?」
「…グレン…様」
グレン様は無表情に私を見つめこちらに向かって側まで来た。
2年の歳月がたって20歳のグレン様は背が伸び青年からより大人っぽくなった。
そんなグレン様の手が私に伸ばされる。
…やめて…触らないで。
でも体が何故か動けない。
そう思った瞬間、私の目の前にシュナ君がかばう様に立った。
「リリーに何の用ですか?」
私を庇う様に前に立ちグレン様をみるシュナ君にグレン様も目を細める。
横からグレン様の従者が来て挨拶する様に軽く頭を下げた。
「リリー元ブロッサム令嬢、お迎え参りました。」
「…迎え?」
従者が顔をあげ淡々と語る。
「はい、この度マーカス侯爵家子息でありグレン、オールド子爵様がリリー嬢を妾として迎ることを決め光栄なことに子爵自らリリー嬢を迎えにいらしたのです。」
「め、妾?」
「左様でございます。ただし子爵様の妾としてリリー嬢にはグレン様の御子を産み正妻にその御子を渡して頂きます。」
「‼」
衝撃な言葉に声が出ない。
「2年前王立学園にて貴女は罪を犯しました。グレン様はそんな貴女に心を痛めていました。
平民として月日がたち十分に反省されたということでグレン様は御父上であるマーカス侯爵様に貴女の平民行きを取り下げ願い妾として引き取りたいと進言したのです。
お慕いしているグレン様の妾になれるんです。これ以上の光栄な事はないでしょう?」
義父さんがバンッと机を叩く。
「リリーが罪を償ったなら、もうリリーの好きに生かせたらいいだろう!?
何でわざわざ貴族の愛人なんかにするんだっ!それに子供を作れ?この子を何だと思っている!?
貴族の道具じゃあないんだぞっ‼」
義父は怒りに浸透している。
「ですが彼女は罪人の娘であり彼女の姉は...「ウェントもういい。下がれ」
グレン様に止められ従者は彼の後ろに下がった。
「従者の過ぎた発言には詫びましょう。私は妾だからといって決して彼女を蔑にするつもりはありません。
リリーは私にとって大切な幼馴染であり婚約者でした。
…リリー。私は今までの君を赦したいと思っている。だからこそ君の所に来た。
…一緒に帰ろう。」
私が知っている以前の彼の優く微笑んでいる顔、大好きだった優しいグレン様が目の前いて私に手を差し伸べる。
でも…でも私は。
彼の手を取らず両手を胸の前で握り締めて距離をおいた。
戦いに挑むような気持ちで彼の顔をしっかり見る。
「…いやです…お断りします!…私が大切なのはここにいる人たちです。もう貴方じゃあない!私の家族がいるこの場所が私の家なんです!私はあなたの元には行かない…彼女がいる癖に妾なんてっ馬鹿にしないで!!」
グレン様は私が声を上げて拒否した事に一瞬驚いたがすぐに痛ましい様に私を見つめた。
私はグレン様を睨め付ける。
前に居たシェナ君も私を守る様に抱きしめてグレン様を睨めつけて言い放った。
「お貴族様、リリーは俺の大切な妻です。子爵様の命令だからといって妻を渡せません。お引き取りください!」
「平民がグレン様に逆らう気か!身の程を知れ!!」
拒絶する私たちに彼の従者が声をあげる。
だが従者はグレン様によって手で制された。
グレン様は冷たく刃のような視線でシェナ君をみた。
「…お前がリリーの夫か?」
さらに凍てつくような視線を向ける。
「そうです。」
シェナ君は私を後ろに隠し守ろうとする。
怖いはずなのにそれなのに彼に立ち向かう。
「なら…。」
グレン様はそんなシェナ君をみて顔を下向けたが次の瞬間。
死んでくれないか?
グレン様は腰に拵えてある剣を抜きシェナ君の胸に突き刺した。
「…リリーは私だけの女だ」
お読みいただきありがとうございます。
消したり増やしたりで投稿が遅くなりました。
あと次で完結予定ですが、もしかしたらもう一話追加するかも知れません。
宜しくお願いします。