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その勇者、うんこにつき  作者: ふろばのねこ
第二章 落ちぶれ元勇者だけど、魔王軍に入ってみた。
9/19

新たなる任務と、カイ隊長の奇妙な反応

「お待たせしました」


 やがて魔王がやってきた。


 相変わらず美形だし、見るからに強そうだし。俺のしょぼさが際立つ。

 今ならば、他の構成員からうんこネタ扱いされても、何も否定できない。

 甘んじて受け入れますって気分。頭にうんこのせてブリブリ言っちゃうぞってかんじ。


「お疲れ様です」


 カイ隊長に続いて、俺も敬礼した。


「ソウエくん、仕事はいかがですか」


 まだ魔王軍に入って間もない俺に対する気遣いだ。


「まあ……なんとかってところです、かね……」


 なんとかもなにも、辞めるべきだと痛感したばかりなのだが、適当に話を合わせるしかない。


「まだ立ち上げたばかりのパトロール隊ですが、魔王軍にはなくてはならない部隊なんですよ。ソウエくんは魔王軍がもとは自警団だったことは知っていますか?」

「……あー、なるほど」


 ついそんな言葉が漏れた。たぶん早合点じゃないはずだ。


 今を遡ること六十年前、魔王軍は当初、民衆の敵どころか味方だったというのは、有名な話だ。


 古くから近隣諸国との争いに晒され続けてきたがゆえに、天楼の人々はおのずと自衛手段を身に着けていったわけだが、そうした腕に覚えのある者たちによって結成された自警団──それが魔王軍の始まりなのだった。


 ハクロの祖父にあたる初代魔王は、神がかり的な武術の達人であり、かつ民衆からの信頼も厚い、指導者に足る人物だったらしい。


 ところが二代目魔王、ハクロの父親が魔王軍を変えた。


 二代目魔王は、民衆の守護者ではなく、搾取して虐げる独裁者として天楼に君臨した。

 金儲けのために島外のマフィアと取引した結果、阿片窟が乱立するようになったのも、二代目魔王の頃からだという。


 ちなみに島外のマフィアは、法が及ばないという天楼の利点に目をつけ、麻薬や人身売買等の経由地にする目的があったが、二代目魔王は魔王軍が島外マフィアに吸収され、操られるのを避けるため、あくまで距離を保っていたらしい。

 島外のマフィアはマフィアで魔王軍の中にスパイを送り込みはしたのだが、魔王軍の構成員は武術に長けた人間ばかりであり、溶け込むのは困難だったようだ。


「初代魔王軍みたいに、この組織を民衆のために機能させるのが、魔王の目指すところ……ですかね?」


 俺の答えに魔王は頷いた。いかにも満足げというか、嬉しそうな表情。

 この飾り気のなさもまた人間的魅力なんだよなあ……などと思っていると、


「そのためにあなたの力が必要なんですよ」


 殺傷力抜群の一言が放たれた。居合い抜きで瞬殺されたみたいな気分。


 だって一年前のこの場所で、俺を完膚なきまでに叩きのめしたのは、他でもない魔王本人なのだから。


「さて、本題に入りましょうか。ソウエくんは勇者を知っていますね」


 俺の呼吸は停止した。

 ていうか呼気と吸気が喉元で正面衝突して、グエというかグゲというか、そういうガマガエルみたいな鳴き声が地味に放たれた。


 魔王は今、「ソウエくんは勇者を知っていますね」って言ったよな……?

 それって、すでに俺、正体がバレちゃってるってこと? ちょっと待って、まじで? え、え、え?


「あのときの民衆の力には凄まじいものがあったでしょう。魔王軍は民衆の力を無視できなくなり、勇者からの決戦を受けざるを得なかったわけですから」


 うわうわうわうわああああバレちゃったバレちゃったよどうしよどうしよ──、


「今後は僕たちも民衆と一丸となっていく必要があります」


 ……あ、あれ?


「パトロール隊は立ち上げたばかりですから、民衆たちにまだ認知されてはいません。正直、今はまだ天楼の治安維持への意識が低い隊員も少なくないですから、活動を前面に押し出していいものか逡巡するところもありますが──そう悠長なことも言っていられませんからね。ですから今後は、隊員の意識向上も見込んで、パトロール隊とその活動を民衆の間に浸透させていきたいと考えているんです」

「す、す、すばらしい案だと思います!!」


 俺は腹の底から大声で言い放った。

 ……ひとまず、身バレしたわけではないらしい。ああ心臓が持たない。


「明日、あなたがた第三部隊があたることになっている任務も、その一環なんです。ソウエくん、任務内容は知っていますね」

「えっと……炊き出し、ですよね」


 教会が行う炊き出しの手伝い──先日、カイ隊長から知らされていた。


「炊き出しは、パトロール隊としては初めての任務なんです。これまでは僕が個人的に手伝っていただけですから。ですから明日は、パトロール隊にとって、ひいては魔王軍にとって、大きな一歩を踏み出す日というわけなんです。それをわかってもらいたくて、今日はあなたを直接呼んだんですよ」

「わ……わかりました」


 思わず目が泳いでしまった。

 だって俺、もう魔王軍辞めるし……なんか罪悪感。胸がモヤモヤする。


「では明日はよろしくお願いしますね」


 それから魔王は腕時計を確認して、カイ隊長に尋ねた。


「……コム隊長が遅いですね。彼女にも今日来てもらうよう伝言してくれていますよね」

「ええ、勿論です。どうしたんでしょう」


 コムもここに来る予定だったわけか。

 魔王からの召集に姿を現さないなんておかしい。

 律儀そうなコムの性格を思えば、なおさら奇妙だ。


「明日の炊き出しをコム隊長にも見てもらうようお伝えするつもりだったんですよ。今後はカイ隊長の部隊だけでなく、コム隊長の部隊にもやってもらわなくてはなりませんから」

「お言葉ですが……彼女にそういった任務が向くとは思えません」


 カイ隊長、はっきり言うなあ。

 まあ確かに、炊き出し中に美少女兵器が発動してしまえば、パトロール隊の活動を民衆に知らしめるどころではない。


 魔王はしばらく沈黙していたが、


「……わかりました。今回は、あなたに一任しましょう」


 魔王がカイ隊長の肩に手を置いた。


「あなたの働きにいつも助けられていますよ。明日もよろしくお願いしますね。僕も幹部会議が終わり次第、向かいます」


 魔王が去って行くのを敬礼して見送ってから、カイ隊長は「次の現場に向かうぞ」と俺を促した。


「カイ隊長、魔王から信頼されてるじゃないすか」


 俺の言葉に、カイ隊長は返事をしなかった。


 ……何なんだ?

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