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月の果実は恋の味  作者: v私立桜咲学園文芸部
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第二話 ヒーロー

私には心強いヒーローが居るんだ。

「………」


 この学校には中庭に桜が咲いてるから、教室の窓から桜を眺めることが出来る。この季節にしか見ることが出来ない桜が大好きで、スマホのケースやアクセサリーも桜に関連する物ばかり付けている。


「何見てんの?」


「桜、凄く綺麗だよ」


 桜の木の下にはいつも立花さんが居るような気がする。登校してからすぐに見ているって言うのもあるけど、私はどうしても立花さんと仲良くなりたかった。だって、立花さんと桜が似合いすぎるくらいに似合っているから、仲良くなってから一枚写真を撮らせて欲しかった。今日こそは話しかけるんだ。


「日向、頑張って立花さんと友だちになってくる」


「おう。頑張れ」


 桜花爛漫って程じゃないけど、満開の桜と立花さんは言葉じゃ表現出来ないくらいに似合ってる。桜が大好きな私としてはぜひとも友達になって一緒に桜のグッズを買いに行ったり写真を撮ったりお花見に行ってみたい。

 でも、立花さんがクラスの人と話しているのを見たことが無い。もしかしたらすごく怖い人のなのかも。もしそうだったら……ううん、話しても無いのに決めつけるのは良くない。高校生になって変わるって決めたんだもん。立花さんが教室に帰ってきたら話しかけるんだ。

 今の内に緊張を解しておかないとって思った瞬間に立花さんが教室へと入って来た。もうこのまま勢いで行くしかない!


「あの……立花さんだよね?」


「え? あ、はい」


 よし、何とか話しかけることが出来た! ここから何とか話を繋ぎつつ桜の話題に持って行くんだ。緊張で足が震えだしそうだった。


「あ、え~っと……その、一度お話してみたいなって思ったの!」


「お話?」


「桜、ずっと見てるから好きなのかなって」


 何とか桜のことを聞けたけど、それから立花さんは何かを考え込んだまま動かなくなっちゃった。変な質問しちゃったかな? 初対面でこんなこと聞くのってやっぱり変だったのかな? え~っと……どうしよう……


「穗村さんはあの男の子と仲が良いよね。中学一緒だったの?」


 立花さんの目線の先には日向が居た。目が合うと優しく微笑んでくるから心がきゅってなって危なかった。


「日向は私のヒーローなの。中学生の時にイジメられてた私を助けてくれたヒーローなんだ」


 自分で言ってて思ったけどこの説明をするのって凄く恥ずかしい。どうしよう立花さんの目をまっすぐに見つめられない。それでも、日向は今まで私を守ってくれたヒーローだし、そこだけは胸を張って伝えられたから良しとする。


「私のことは桜って呼んでくれて良いよ」


 初めて話しかけた日に、こうして下の名前を呼んで良いって言われるのはすごく嬉しかった。中学の時の嫌な記憶はまだあるけど、高校生になって変わってやるんだって強く願った。こうして優しくしてくれる友だちが出来たから私もそれに応えたい。


「桜……ちゃん。私も月奈って呼んでくれて良いよ」


「月奈ちゃん。可愛い名前だね!」


 面と向かって可愛いって言われたのは生まれて初めてかも知れない。そんな初めてに耐性が無い私は恥ずかしさのあまりうつむいて頷くことしか出来なかった。すごく嬉しかったし、ありがとうってまっすぐに伝えたかったけど今の私にはレベルが高すぎた。


「これからよろしくね!」


 差し出された手を見て辛かったあの時のことが頭の中で蘇って来た。いや、桜ちゃんなら大丈夫! 今の私には日向も居るから絶対に大丈夫。


「……うんっ! よろしくね!」


 今出来る精一杯の返事で手を握った。これが私の一歩だ。傍から見れば凄く小さな一歩かもしれないけど、私にとってはとてつもなく大きな一歩でかなりの距離を進めた気がする。


「頑張ったな。おめでと」


「ありがと。さっきね、あの時のことを思い出しちゃって不安でどうしようもなかったんだけど、今の私には日向が居るんだって思うと勇気が出たんだ。これからもずっと一緒に居てね」


「なら、約束しよう」


「約束?」


「これからもずっと一緒に居ような。約束だぞ?」


「うんっ!」


 日向の笑顔に何度も励まされたし、何度も背中をして貰えた。日向は私のヒーローだって胸を張って言える。そんな日向とずっと一緒に居れる。私は世界で一番の幸せ者かもしれない。


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