第十話 特別への憧れ
自分に持ってないものほど特別価値があるように見える。
これからどうしよう。人だかりはさっきの倍にも膨れ上がって日向とプロデューサーさんは人混みに巻き込まれて一瞬のうちに姿が消えてしまった。そんな状況でも気にせず話し続ける星月さんたち。普段から人前に立つお仕事をしてるから気にならないのかな? いや、そんなことは問題ではない。何が問題かって言うと、ザ・普通の私がここに居ることによって自然と私に注目が集まってくる。そりゃそうだ。めちゃくちゃ美人の中に普通が居るんだもん。
「月奈ちゃんは文化祭どうするの?」
「日向と桜ちゃんを誘って出店巡りしようと思ってます」
「桜ちゃん楽しみにしてたからいっぱい食べさせてあげてね」
星月さんは桜ちゃんの話をするとき、ものすごく優しい笑顔を見せてくれる。なんて言うんだろう? 恋愛感情じゃない愛情、お母さんみたいな? それは失礼か。保護者みたいな感じがする。
「あ、なるほど」
「赤羽さん?」
「輝夜と月奈だからだ。なんか妙に相性良いなって思ったから」
赤羽さんも日向みたいなことを言っている。私なんかが日本一のアイドルと相性が良いなんて失礼すぎるし恐れ多い。
「竹取物語だっけ? おとぎ話だよね」
その話に食いつく望無先輩。竹取物語が好きなのかな? そんな女子高生見たことないけど。
「絵本に出てくるような物語が好きなだけだよ」
「そうなんですか。え?」
口には出てなかったはずなのに。いや、無意識に呟いていたのかも知れない。そうじゃなきゃ説明が付かないし。
「絵本に出てくる物語って大体は現実で起こるはずのない夢物語だからね」
確かにそうだ。私は今の状況の方が並みの絵本よりもずっと信じ難い状況なんですけどね。桜ちゃんにお礼を言わないと。普通過ぎるくらい普通の私が憧れていたアイドル達とお話が出来るのは桜ちゃんが居たからだ。
「凄く幸せそうに笑うんだね。ボクは君みたいに幸せそうに笑う人が好きなんだ」
「あ、どうも……」
本当に何だろう? アイドルにモデル。特別な職業に就く人は特別な才能と特別な考え方をするって言うのは聞いたことがある。この天使みたいな先輩も女神みたいな先輩も。桜ちゃんも含めて、普通の考え方とは言えない。桜ちゃんは文芸部で小説書いてるし、少しくらいは違っててもおかしくないけど、この先輩たちはどうなんだろう? そういえば、楓ちゃんもこんな感じだった気がする。私の周りには凄い特別を持った人たちがいっぱい居るんだ。そんな中で私は……
「ううん、君は人を助けてあげられる優しさも強さもあるじゃないか。自分だけが普通だなんて思わないで」
「………変なこと聞いて良いですか?」
「どうしたの?」
「天日先輩は人の心でも読めるんですか?」
今の状況が状況なだけにあるはずがないって言いきることが出来ない。
「……面白いことを言うんだね」
少し間を空けた後、少し微笑んでからそう言った。確かに変な質問だし傍から見れば頭のおかしな子だって思われるかも知れない。けど、だけど私には否定することが出来なかった。
私にはそういう人が居てもおかしなことじゃないって思ってる。楓ちゃん…ううん、楓は特別だったから。何でも出来る楓にいつしか憧れを抱いてたのも事実だし。
「特別になりたいの?」
「え? あ、まぁ……天日先輩には分かっちゃうんですね。楓みたいに」
「あ~うん……? あの子とボクは違うけどね。誰にだって個性や得意なものがあるんだよ。君だって人を助けてあげられる凄い人じゃないか! 人の個性や特技が凄く見えたり憧れたりするのは人間だから仕方ないとしても、まずは自分を褒めてあげて欲しい。それに」
「それに?」
「君はあの子の特別でしょ?」
本当に、何でも見通す天使みたいな先輩だ。