悪役令嬢は勘違いされてるっ!?
私の名前はセリス・リル・オーフェン偉大なるオーフェン侯爵家の長女ですの!!お父様はアルカ王国の宰相の位につかれていて、私に会うといつもお前は自慢の娘だと褒めてくださりますの。
今は貴族のみが通うことを許される学園で勉学と淑女のたしなみなどを学んでいますの。学園は五年制で十歳から入れられて十五歳になるころにはみんな立派な紳士、淑女になって活躍していくのですわ。
それはそうと私は二年生になった今年から生徒会の会長に抜擢されましたの。今までも通りざまにマナーがなっていないお方には注意をしてきましたが、これからはより一層学園内の風紀やマナーに気を使わなくてはなりませんわ!しかし最近、マナーがなっていない生徒がおりますの。それが…
「サクラさん!胸元のリボンが曲がっておりますわ!!普段から身だしなみをしっかりしておきなさいとあれほど言っているでしょう!それにそら、くせっけがまたはねておりますわ!なんであなたは・・・」
「は、はい!すいません生徒会長・・・」
「生徒会長ではありません!淑女たるものあまり面識がないお方に対しては家名でお呼びするようにと授業で言っていたでしょう!ましてや、普段から面識があって尚且つあまり親しくない人を位だけで呼ぶなんて…淑女としてあるまじき行為ですわっ!」
「は、はいぃぃ」
このサクラさんはなんでも庶民でありながらも街を散策していた第一王子に見初められて婚約を申し込まれたとか‥。そして王子直々にこの学園に一緒に入ってほしいと頼まれ入ったそうですの。つまりルックスは申し分ないのですから後は私が第一王子様に見合うだけの立派な淑女に彼女を育て上げればいいのですわ!
運がいいことに私とサクラさんは同じクラスなのですからなるべく彼女に気を配っておかないと…変なことをして怒られてしまっては彼女があまりにもかわいそうですもの。
それからしばらくたって、サクラさんは初めはおぼつかなかった淑女のたしなみもそこそこできるようになってきていたので、そろそろもっと上級の嗜みを教える頃ですわね!
「サクラさん、ちょっといいかしら?」
「はぃ、オーフェン様」
「自信なさそうにしない!淑女たるもの常に背筋をピンと張って堂々としているものですわ!」
「はぃぃぃ!」
「よろしいですわ!ではついてらっしゃい」
その光景を見ていた周りの女生徒たちはヒソヒソと話す。
「今の見ましたこと?また、オーフェン様がサクラ様を目の敵にしていましてよ…」
「ええ、ええ。しかもここしばらくサクラ様だけにきつく当たられていてサクラ様もすっかり元気をなくされておられますわ。かわいそうに…」
「ええ、しかし、いくら嫉妬しているからって公衆の面前で堂々としかるなんて殿下のお耳に入れば何と言われるか…」
そんなことは露知らず、当の本人は張り切ってサクラを自室に招き入れた。
「オーフェン様ここは・・・?」
「私の部屋ですわ!」
「ですがなんで私なんかを…」
「もちろん!淑女の嗜みをお教えするためですのっ!」
「わ、私なんかのためにオーフェン様のお手を煩わせるなんて・・・」
「サクラさん!!」
「は、はぃぃ!」
「貴女は殿下に選ばれた女性ですのよ!決して貴女『なんか』ではありませんの!」
「そ、そんな・・・」
「それと、もう貴女と私は親しくないわけではないと思いますの…そ、その・・お、お・・・」
わ、私は何でこんなことを言うのにためらっていますのっ!サクラさんのことをお友達と呼べばいいだけなのですわ…うぅ・・恥ずかしくてサクラさんのお顔を見れませんの…さあ、しっかりなさい!セリス!自信をもって!私が意を決して言葉を発しようとしたときに先にサクラさんが口を開いていた。
「お友達、ですよね!」
驚いてサクラさんの顔を見るとサクラさんは笑っていた。
「い、いいんですの?思えば私…貴女を立派な淑女にしようとしすぎるあまりきつく当たってしまっていたと思いますの…」
「大丈夫です。確かにつらい時や苦しいときもありましたが、オーフェン様は私のことを思って言ってくれていたのは分かっていましたから。」
「サクラさん!」
「はいぃぃぃ!?」
「わ、私のことはそ、その、セリスと呼んでくださいまし…」
「ふふふ、わかりました!セリス。私のこともサクラと呼び捨てにしてください!」
「わかりました。サクラ」
と、言いたいことも言ったので。
「では、淑女の嗜みの授業の時間ですの!」
「えぇぇぇ!?」
「驚いてる暇はありませんわ!私の友人である以上は立派な淑女でなくてはなりませんわ!」
そして時はあっという間に過ぎて遂に淑女の晴れ舞台である、半年に一回学園で開かれる定期舞踏会がやってきた。
私は運営に回っていたので入場はできなかったがサクラさんは殿下と共に立派な晴れ着姿で入場していましたわ。
しかし、夜会の途中の談話の時間に思いもよらないハプニングが起こった。
私がほかの生徒のお方々や来賓の方々とのあいさつ回りに忙殺されていた時、第一王子殿下が突如、
「セリス・リル・オーフェン!我が前に来るがいい!」
はて、何か呼ばれることがあったのだろうか、と。思いながらも殿下の前に行くと、
「貴様、我が婚約者に何やら嫌がらせをしているようだな。」
と、予想外のことを言われ、驚きのあまり横にいるサクラのほうを見てみるとサクラもこのを知らなかったようで同じく動揺している。
「い、殿下。私はサクラさんに淑女の嗜みをおしえようと・・・」
「五月蠅いわ!」
「ひぅっ」
殿下のあまりの剣幕に思わず、委縮してしまう私に対してさらに追い打ちをかけるように言葉を並べる。
「貴様が白昼堂々とサクラに対してそのような口実を作っては厳しく接していたのは分かっておるわ!」
「い、いえ私はただ・・」
「まだ言うか!大体…!!」
殿下の言い分に耳を傾けていると確かに他人の目から見るとそうであったという場面がいくつも挙げられていた。ただ、自分がためになると思っていたことをこうも真正面から否定されると、心に来るものがある。だんだんと目の前の視界が涙でぼやけてきていたその時、
「アリエニス殿下!」
もはやだれも止めないと思っていたのに止める声がしたことに驚いてその声がの主を見るとなんとサクラであった。
「オーフェン様は・・いえ!セリスは私の友人であり、淑女の嗜みを教えてくれた大切な人です!!確かにはたから見ればそういった場面もあったかもしれませんが、すべては私のためを思ってのことですの!」
それはもう、立派な淑女の口調と、態度であった。相手の目を見て背筋を伸ばしている彼女は最初に会った時のサクラとは大違いであった。
「し、しかしだな・・・お前がそこにいるオーフェン嬢から何やらいじめられていると聞いていたのだが…」
さすがの殿下もこの態度には驚いたようで、少し落ち着いた口調で尋ねるが、
「いえ!彼女からは何の害も受けておりません!むしろ彼女といることが貴女様といる時間の次に楽しいぐらいですわ!」
「むぅ・・お前がそこまで言うのであればそうなのであろう。オーフェン嬢、先ほどはすまなかった。紳士としてあるまじき行為だった」
と、引き下がってくれた。
「いえ、私のほうにも原因がありましたので。」
と、涙声で応じる。
その後は何事もなかったかのように夜会は進みその日はお開きとなった。
次の日の朝、私はサクラの部屋を訪ねていた。
「セリス、昨日は本当にごめんなさい!」
とサクラは私が部屋に入るなり言ったが、それこそ私が思っていたことなので、
「私こそ、サクラ、今まで本当にごめんなさい。私がしていたことってそこまで過酷なことだったのですね…」
そういうとサクラはブンブンと音が出るくらいに首を横に振り、
「私が殿下の暴走をお止めできなかったせいでセリスは傷ついてしまったのでしょう?」
「決して貴女のせいではありませんの…私が…」
「セリス!!」
私の言葉を遮ってサクラは怒ったように言葉をつづける
「私はセリスのおかげでこんなに立派な淑女になれたんですのっ!あなたのような友人は他にはいませんの!」
「ですが私は・・・」
「自信をもって!!胸を張って!!それが淑女の嗜みなのでしょうっ!!!」
ハッとして私はサクラのほうを見る。
「そうでしたわね。サクラ!!やっぱりあなたは私の最高の友達ですのっ!」
「ええっ!」
そういって私たちは何だかおかしくなってふふふっと笑う。
それから数年後、彼女たちは学園を卒業してそれぞれの道へ進んだが、サクラ王妃とセリス第二王妃の仲がとてもいいという噂は王宮内では誠しなやかに流れていたのであった。