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未来


「出たぞおおおおおお!!! ポイズンワイバーンだあああああああああ!!!」


 討伐隊に怒声が響く。紫の瘴気を霧状に漂わせながら、翼を羽ばたかせてポイズンワイバーンが上空から襲い掛かる。

 近隣の村を襲い、多大な被害を出してから、討伐依頼が出てから久しい。

 討伐隊は何度もその魔物から周辺の数多の村を救おうと駆け付け、戦闘を繰り返すが、実力が伴わず、蹂躙されるのみ。

 今日もまた、討伐の為に編成されたはいいものの、魔物と遭遇する度に突進され、パッと宙に舞って毒の霧を浴びる。


「毒を浴びたものは即時回復を! そうでない者は遠距離から弓を放てぇ!!」


 隊長と思わしき、一回り大きい体格の男が叫ぶ。

 毒を浴びた隊員を引き摺って後方に下げながら、隊列を組んで一斉に矢が放たれるが、ポイズンワイバーンは翼の風圧で難なくそれを吹き飛ばした。

 隊員たちはそれにも怯まず次の矢を構えるが、ポイズンワイバーンがまだ突っ込んできて、悲鳴と共に毒を浴びる。


「ギンジュ隊長、このままではまた部隊は壊滅します!」


「この討伐で既に十回目だ、これに失敗すれば我々はもう後がない。戦うより他ない」


 村に運よく居合わせたとされる傭兵達は、その周辺でも名の通る武闘派集団で、彼らは魔物の知識もなく軽い気持ちで討伐隊を編成してしまった。

 部隊数は二十数名程度、この辺りはどの国にも所属していない辺境の地であるため、国で運営するような兵隊の増援が呼べなかった。

 それなりに腕の立つ彼らとて、田舎のならず者の集団には違いなく、練度が足りず魔物に蹂躙され続けている。

 これ以上失敗を繰り返せば、自分たちの名前は地の底まで落ちてしまう。傭兵としての生業を立てている彼らには死活問題だった。

 何とかしてこのポイズンワイバーンを倒さなければならない。


 そう思った矢先、睨み付けるように空中に静止していたポイズンワイバーンが、首の向きを変えて九十度方向を変えた。


「隊長! 人が!!」


「なんだと!?」


 旅人がたまたま通りかかってしまったのだろうか、茶色いボロボロのマントを着た、爆発するようなボサボサ頭の少年が、ポイズンワイバーンの向かう先にポツンと佇んでいる。

 ポイズンワイバーンは飛行機雲のように瘴気を後ろに引きながら、涎を垂らして大きな口を開け、その少年に向かって低空で高速飛行を始める。


「少年! 逃げろおおおおおおおおおおおお!!」


「よっと」


 一瞬だった。少年が腰につけていた剣を引き抜いたと思った瞬間、ポイズンワイバーンは綺麗に真二つに割れて、切れ目を大きく開きながら少年の背後に大きな音を立てて落下し、慣性に乗った死体が引きずられて大きな土煙をあげる。


「げっほげっほ、あー煙てぇ」


 土煙には、紫の瘴気が混じっている。常人であれば意識が混濁し、即座に処置しなければ最悪の場合死を招く強力なものだ。

 それを吸い込んでいる様子が見えたギンジュ隊長は、大慌てで少年――ロックベル・プライムの元へと向かう。


「ポイズンワイバーンの毒を吸ったならすぐ手当を! 死んじまうぞ!!」


「あ? あー……。俺その手の毒効かない体質なんで」


 ロックは自分に向かって大きな声で呼びかける大男に、頭をボリボリかきながら、適当にはぐらかした。

 ロックの一言に呆然になっている討伐隊の面々を尻目に、空の方に目をやると、既に日が傾き、夜の深い色が垣間見え始めている。


「やっべ、遅れる!!」


 呆けている討伐隊を完全に無視して、ロックは魔力間移動で上空高く舞い上がる。


「ま、待ってくれ!!」


 ギンジュ隊長が我に返って叫んだ時にはもう遅く、流星のような光となって、ロックはその場を飛び去って行った。




 小さな町にある、よくある酒場。町の住民が自然とそれぞれの席に座り、旅人が一息つくために訪れる場所。

 カウンター席から、ひげを綺麗に剃っているつるっぱげの、口紅を綺麗に塗った店主から、オネェ口調で料理が運ばれてくる。


「はーい、お待ちどうさま。キッシュと、ごめんなさいね、甘い物ってここらじゃこれぐらいしかないの」


 黒いトレンチコートとポークパイハットを被った青年に、二、三歳くらいの小さな女の子が、頭に被った小さな三角帽をぴょこぴょこ動かし、床に全く届いていない足をばたつかせながら、目の前に置かれた皿に積まれているビスケットを一枚、しゅぱっと手に取って口に放り込む。

 もしゃもしゃと咀嚼するのを青年が眺めながら、彼も目の前に置かれたキッシュに手を付け始めた。


「ぱしゃぱしゃ」


「砂糖が少ないのに、出てきただけでも感謝してほしいところなんだけどー?」


「申し訳ありません」


「ま、口の割に美味しそうに食べてるからいいわ。もうちょっと味わって食べてほしいところだけど」


 素早い動きで次々にビスケットを口に放り込み、もぐもぐと動かしながらも、顔をほころばせて美味しそうに食べている少女に、店主はため息をつきながらも満足そうだった。

 二人が食事をしながら、店主がカウンターで洗い物を始めた頃、バタンと荒々しく扉が開かれて、店内の客が訝しげな視線を入口に向けた。

 灰色の正装を着た、それでいてゴロツキのような風貌の男達が、ニヤニヤしながら入口から複数入ってくる。


「国際警察だ。ここに亡国の姫君が匿われているという通報があった。隠すだけ無駄だぞ、さっさと連れてこい」


「ちょっと、変なイチャモンつけんじゃないわよ」


 店主は肝が据わっている人物らしい。両手を組んで、そんな事実は知らないとばかりに眉を吊り上げる。

 国際警察を名乗った男たちはそれにも関わらず、ズカズカと中に入ってくると、ぐるりと周囲を見渡す。

 ヒッと小さなか細い声が上がり、店主の方から小さく舌打ちが聞こえる。

 どうやら当事者の姫君とやらは、こういう場になれてないらしく、店内の隅の見えにくい場所、変装した護衛らしき数人の従者の後ろで、繊細な身を抱きしめるように縮めカタカタ震えていた。

 隠し切れないと判断したのだろう、従者の一人が剣を抜き、今にも襲い掛かろうとしている男を睨み付け、周囲の客がそっと息をひそめるように距離を開けた。


「大人しくしねぇと――」


 リーダー格の男だろうか、先程から命令を告げていた一番前にいた男が、突然背後の、おおよそ同業者であるはずの別の男に殴りつけられた。


「っ、て、んめぇ!! 死にてぇのか!!」


「うるせぇ! おれは元々偉そうに命令しかしねぇお前の事が気に喰わなかったんだ!!」


 殴りつけた背後の男に掴みかかったリーダーに、その男はさらに拳を握り締めてもう一撃を顔面にぶち込んだ。

 その背後でまた怒声が響き、別の男が別の同業の男に蹴りを入れ、罵倒し、殴り合いが始まった。


「ちょっと、ちょっと、やるんなら表でやりなさいよ!」


 ガタンバタンと、椅子や机で殴りつけ、家具に向かって叩き付け、他の食事中の客の方に放り投げられている彼らに、店主の声は聞こえないようだった。

 突然目の前で仲間割れを始めた国際警察を名乗る連中に、部屋の隅にいた従者たちと姫君は、呆気にとられて呆然としている。


「マリアージュ、その辺にしとけ」


「ちっ」


 店主に聞こえない小さな声で、青年、ウィラードは笑いを堪えるように震えている妹に告げる。

 マリアージュが小さく舌打ちした後、店内は急に水を打ったように静まり返った。

 ゴロツキのような風貌の連中は、互いに互いが信じられなくなったのか、足を引きずる様に、わたわたと扉から外に逃げていった。

 カウンターに向かっていた二人を除いて、店内にいたすべての人間が、何が起こったか分からず呆気にとられている。

 最後の一人が出ていったのと入れ違いになる様に、待ち合わせ場所に到着したロックベルが怪訝な表情をしながら中に入り、見慣れた二人をカウンターに見つけて近寄ってきた。


「ろっくべぅ、おしょい」


「わりぃわりぃ……で、なにがあった?」


 扉の方を見つめていたロックが、口を尖らせているマリアージュに視線を戻すと、口の割に上機嫌な様子に眉を顰めてウィラードに訊ねる。


「国際警察の奴らだ」


「えぇ、また厄介事かよ」


「ごろちゅきのくしぇにけいしゃつなのう、うけけけ」


「なにしたんだ?」


「にゃかまにふまんがたまってたかりゃ、ほんにんにここりょのこえをぷえじぇんと」


 心の中で呟いている仲間内の不平不満を、任務中の緊張状態の彼らにだけ聞こえるようにしたらしい。

 互いを信用してない、力だけのゴロツキだからこそよく効く手法だった。

 彼らは国際警察を名乗るだけあり、大陸中にその巨大な組織は編成されているのだが、各国の警備やその他色々な事に手を出して、各地で小さな諍いを引き起こしている。

 そして、ロック達は行く先々で何故かよく絡まれるので、正攻法と徹底的な証拠を突き詰めて、諍いの問題を解決して回っている。

 最も今回は、自分たちがターゲットだったわけではなかったようだが、亡国の姫君など、かなり大掛かりな面倒事の予感しかしない。

 ロックとウィラードは互いに目を見合わせた後、一泊置いて大きく溜息を吐いた。


「行く場所行く場所で厄介事に巻き込まれんのなぁ」


「そういうしぇかいにうまえた。こうかいしろ!」


「はいはい」


 最近ようやくまともに言葉を話せるようになってきたマリアージュは、まだ呂律が回っていない。

 そしてロックの予想通り、その行動パターンから記憶はばっちり所持したままだった。

 マリアージュがまた厄介なことを起こさないよう、ウィラードとロックの二人がかりでこの小さな魔女を見張っている。


 魔女との戦闘から、数千年が経過した。

 今や、かつての名前も姿も人々の間には忘れ去られ、創造の魔法使い、災厄の魔女、救世の魔導士という、古い伝承としてしか彼らは知られていない。

 ロックは卒業後間もなくウィラードと合流し、老いもないまま各地を訪れ一緒に旅を続けている。

 そして足を踏み入れるその場所その場所で、厄介事に巻き込まれては、解決していた。


 どれだけ年月が経っても、周りからどれだけそう呼ばれようとも、ロックは最強の魔導士を自称することは一度もなく、それを目指して己を鍛え続ける。

 彼らの旅は、まだ続いていく――――――――

 長きに渡りご愛読いただきありがとうございました。

 一話三千文字以上、一日一話投稿を縛りとして、ラストまで書き続けることを最低条件に、初めての小説サイト投稿に四苦八苦しながら、何とか書き終わりました。

 途中から書き溜に追いついてしまったため、書くことに集中したので見直すが浅く、誤字脱字等多数あり、まだまだ荒い面も多々あると思います。


 とりあえず、物語について語らせていただきます。

 主人公ロックベルは、いわゆる不老不死化した為、生き続けていく彼らの物語に終わりはありません。

 最終話からの新たな物語も、一応軽く考えてはいるのですが、とりあえずまぁここでいったん一区切り、ということで。

 これからちょこちょこ修正したり、閑話休題として、語られなかったそれぞれの登場人物の背景等も追加できたらと思いますが、今までのように毎日投稿というわけでもなく、休憩をはさみながら追加修正していく形になると思います。


 毎日投稿は疲れますが楽しかったので、また新しい物語だったり、はたまた続編を書き始めた時には、出来ればまたお付き合いいただければと思います。

 ではでは。

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