昇華
大陸破壊魔砲ムラバによる砲撃と、その一部を吸収して回復し、攻撃に変換した魔力の刃による斬撃、そして切り付けると同時にロック自身が魔女の魔力を吸収する。
吸収された膨大な魔力がロックの身体中を濁流となって、うねりをあげながら暴れ回る。一度はその身体が破裂寸前まで昇りつめた。
つまり、出力が足りない。魔力の吸収が上回って、排出が追いついていない。
「ああああああああああああああああ!!!!」
ロックは力を入れるように口から吐く息に怒声を乗せ、顔を歪ませる。
その身体中に溢れている魔力を全て押し出し、出し尽くすように。
主流である吸収魔法を押しのけて、全力で魔力を放出することにより、ストッパーの役目をはたしている枷を外す。
魔女の魔力を吸収しながら、体内を循環する膨大な魔力が、激流のように押し寄せ、塞き止めていたそれを、吸収の効果を発動させながら、大量に放出させる。
力を込め続ける腕を伝い、剣からその刃に変換されていた魔力が、放出される魔力に合わせて凝縮されて、硬化し、純度を高めていく。
ムラバの砲撃魔法を中心に立たせるように浴びせながら、魔女から魔力を吸収し、爆発しそうな高純度の魔力を、そのまま攻撃に変えて魔女に叩き込んでいく。
だが、それでも魔女にはまだ足りない。
ロックはただひたすら魔女に攻撃を加えながら、絶叫した。
その声に呼応して、激流にもまれるように、吸収する魔力も放出される魔力も膨れ上がり、目に見えて威力を増していく。
ロックの身体の皮膚が負荷に耐え切れず、深くひび割れていく。その身体中のあちこちから割れるひびから、血が小さく噴き出し始めている。
剣の柄を握り続けている両掌は、皮がめくれるように、接触部分が全て爛れて血が滑って滴り落ち、その腕はうっ血していくかのように、徐々に黒ずみ始めた。
ダメだ、無理にでも、絶対に身体を持たせろ。
はっきりとした意識を保ったまま、ロックはひたすら自分の身体に頭で言い聞かせながら、攻撃を続ける。
目の前の魔女を、倒すためではなく、救うために。
『ロックベル、すまない――――
軋む身体から溢れそうな魔力を抑えながら攻撃を続けていたロックにだけ、頭の中で声が響いた。
魔女をジッと見据え続けて、見える範囲の視界にその姿はどこにも見えはしないが、聞き慣れたその声だけで誰かはっきりとロックには理解できる。
燻る様に靄を放ち始めていた目の前にいる魔女には聞こえないように、魔法使いは、転移魔法で姿を消した時と同じ言葉を繰り返した。
――――――――人形を、辞めてくれないか』
絶叫し、魔女に攻撃を続けながら、噴き出した血が細く滴り始めた身体で、ロックは口だけ動かしてそれに応えた。
直後、空を覆う黒い渦巻く雲を突き抜けて、凝縮した魔力がロックに直撃した。
ムラバよりもずっと大きく、尚且つ比べ物にならないほどの高純度の魔力が辺り一帯を包み、目の前に白い空間が広がる様だった。
ロックの身体に吸収されていくその高純度の魔力は、身体の構造そのものを変えていった。
負荷に耐えられなかった身体を修復するように、滴り落ちる赤い血が、湧き出るその場所から白い魔力に置き換わっていき、身体からにじみ出た魔力が傷を塞いでいく。
ひび割れていた皮膚も、白い光を放ちながら、擦り切れたボロボロの皮膚に柔らかく覆いかぶさるように新しく生えてきた。
ロックの身体に流れていた魔力が、何十倍、何百倍、更にそれ以上にどんどん膨れ上がっていく。
しかし新しく体内に流れ込んできたそれは、さっきまで破裂しそうに暴れていた魔力とは違い、負荷が全く掛からないほど、軽くしなやかで。
魔力で満たされていく。
魔女と魔法使いを生み出した空間の魔力が注がれ、それを吸収することで身体の構造ごと変わり、ロックは人形の規格から外れた。
この場から転移魔法で姿を消した魔法使いは、魔女からは一見逃げたように見えた。
だが魔法使いは、塔に到達するまでの間で、たった一つだけ、魔女を止めるだけの方法を考え続けている。
そして、向こう側に連れ込まれて怪物と化した人間を目撃し、一つ可能性を閃いていた。
魔法使いは、精神的にも妹として認識していた魔女と戦う勇気が元よりない。
そして魔力封印されていた期間が長く、この世界自体空気中に存在する魔力が薄い。
対峙した時点で魔法使いが蓄えていた魔力は、ずっと向こう側にいた魔女と比べて、比較するまでもなく明らかに少なかった。
このままでは、世界を破壊するために暴走する魔女を止めることが出来ない。
しかしこの状況を放置することは出来ないし、そんなことなど許されはしない。
――ならば誰か他の者に託すしかない。
魔法使いと魔女が生まれた向こう側の空間は、高純度の魔力が凝縮したまま漂っている状態だった。その空間にいるだけで、大量の魔力に包まれる。
魔法使いは転移魔法で生まれたその場所に戻り、人形であれば耐え切れずに破裂するだけの高純度の魔力を集めて、青い球体の外側からロックの身体に順応するように送り付けていた。
(なるほど。こちらから見れば確かに、小さく虚しいだけの醜い世界だ)
内側からでしかこの世界を見ていなかった魔法使いは、魔女がこの世界として見続けていた一端を、外側に戻ったことで、初めて認識できた。
『ウィイイイイイイイイイイイイイイラアアアアアアアアアアアアアアアドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!』
目の前の、小さく燻っていた黒い魔力の塊から、空に向かって大きく絶叫した。
カッと目を見開いた、驚愕した少女の表情が、黒い塊の中でロックの目に一瞬映ったように感じ取れた。
魔女は、魔法使いの行動の全てを察したように、空の向こう側に向かって叫び続ける。
向こう側からロックに魔力を注ぎ込みながら、魔女に対しても攻撃するように、その魔力は黒い塊を激しく炙った。
黒い塊に、ロックの剣は突き刺さったままだった。
向こう側から注がれた魔力を、ゆっくりと身体に循環させていく。隅から隅の方まで、染みわたる様に。
幼い頃の魔女と魔法使いと、同じ魔法。同じ魔力。
真白に光り輝くそれを、突き刺さったまま、魔女であった黒い塊に新たに突き刺すように、その剣の刃に変える。
黒い塊の魔女と同族となったロックのその刃で、一気に腕に力を込めて、残りの魔力を吸収した。
暗く閉じられたカーテンが、するりと明るく引かれていくように。
様々な感情が凝縮された魔力の塊が、酷く絡み合った糸が解けていくように。
抵抗なく、ゆっくりと、黒い凝縮された魔力が、膨れ上がるような煙の濁流になって、ロックに吸収されていく。
黒い塊の姿は煙に巻かれたように、濁流に渦巻かれ、ロックの視界には見えない。
最後の一瞬だけ、魔力が一瞬途切れるように、魔女は使い魔としてよく知っていた人の姿に戻った。
向こう側から放たれ続ける魔力により、目も眩むほどの真白な空間。
そこで、互いに顔を見合わせるように、空中に浮かびながら。
それはたった数秒だったのに、随分と長く感じる程に、間をおいて。
『最強の魔導士、なれるといいわね』
小さく、儚く、笑いながら、それでいて、せいぜい足掻けと言わんばかりに、不敵な表情で呟く。
ロックの目の前が、真白の光に包まれていく。
その光は、周囲を、空間を、大陸を、そしてその世界を包んでいった。
魔力で満たされた向こう側にいた魔法使いでさえ、目を覆うほどに。
木製で出来た小さな小屋のような部屋の隅の一角が、溢れるほどの魔力の白い光に包まれて、弾けた。




