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到達

 全員が回復を終え、それぞれが集まってきたところで精霊王が右腕をあげて塔を指す。

 地面からもりもりと葉が生えてきたと思うと、一瞬にして巨大な樹木はヘビがとぐろを巻くように絡み合いながら成長し、塔までの道を作り出した。


「私が協力できるのはここまでです。申し訳ございません」


「いや、十分だ。感謝する、精霊王」


 精霊王が申し訳なさそうに唇を噛みながら目を伏せて頭を下げれば、ウィラードは真顔で返して頷いた。

 そのまま塔を目指して魔導士たちが警戒しながら走りだす中、ロック達もそれに従い続こうとしたが、その瞬間精霊王に腕を掴まれた。


「えっ? あ、えっと……?」


「一時であれ、マリアージュ様と主従関係を築いていたのは貴方でありますか?」


「主従……出来てたかは怪しいけど、まぁ、使い魔契約はしてたな」


 怪訝な顔でロックが精霊王に訊ねると、静かな声で、それでいて苦い顔をしながら質問で返してきた。

 先程のウィラード達の会話からもわかるように、精霊王も生みの親の一人である魔女のマリーとは面識がある。

 そしておおよそ、使い魔として接していたロックとは違い、ほとんど素で接しており、付き合いはより長い。


「マリアージュ様は、基本気まぐれではありますが、興味のない事には労力そのものを費やしません。貴方と使い魔契約をしていたのには理由があるはずです」


「理由が……?」


「説得の理由には乏しいですが、なにか突破口になればと」


 そういって精霊王はロックに対して深く礼をした。突如として聞かされた話にロックは困惑したが、今は考えても分からない。

 ロックは精霊王に素直に礼を述べ、パーティメンバーを従えて塔に向かって走り出す。

 確かに精霊王の言う通り、使い魔であった時のマリーは、興味のないことに関してはいくら命令しても梃でも動こうとはしなかった。

 《願い石》の製作者である為、その願いにさえも抵抗できるはずなのに、敢えて抵抗せずにロックの使い魔になったことに理由があるとすればなんだろうか。


 前方から魔法による攻撃だろうか、爆発と悲鳴があがり、走っていたロック達の気がそちらに逸れた。

 マリーが出てきたのかと一瞬警戒したが、遠方にいる小さい姿はそれとは違う茶髪の神父服の少年、マイルズだった。


「あはははははははは!!」


 常軌を逸したように大きく笑いながら、転移魔法の様にあちこちに瞬時に移動しては、攻撃魔法を繰り出して、木で出来た塔までの道から魔導士たちを叩き落そうとしている。

 転移魔法のように見えるが、使っているのは時間操作の魔法、一般的に言う時間停止だ。

 転移魔法とは違い、時間を止めている間に何をされるかわからない分対応しにくい。

 悲鳴があがり、時間停止中に遥か高い木の幹から空中に魔導士たちが放り投げられたのか、落下していくのが見える。


「なんしよんがあいつは!」


 ロック達の傍を走っていたタギャルが、急にスピードを上げてマイルズに突っ込んでいった。

 ファフィストとラパスが別々の場所で幹に両手をつくと、そこから小さな蔓が伸びて、落下していく魔導士たちを何とか掴んで落下を引き留める。

 魔導士たちが一斉に、それぞれ個性的な攻撃魔法をマイルズに向かって放つが、時間を操る彼はそれにあたる前に姿を消すと、魔導士たちのすぐ背後に移動し、回転しながら蹴り上げてまた木の幹から突き落としていく。


「同じ手ぇは俺んは通用せんぞ!!」


 マイルズに追いついたタギャルが大きくその双頭斧を振るう。

 同じようにマイルズはそれをギリギリで避けるかと思われたが――。

 時間停止に抵抗する魔力を即座に展開したタギャルの攻撃をもろに喰らった。

 カーンと空き缶が大きく弧を描いて跳ねるような音。

 そのまま双頭斧の刃のない部分を前頭部に受けたマイルズは、攻撃を受けた額から軽く血を流しながら大きく飛ばされて、塔の入口付近に叩き込まれて目を回す。


「種が割れりゃ時間停止なんぞ怖くないわい」


「普通人間は時間停止を魔法道具で抵抗するものなのだが、人間なのだよな?」


 タギャルの抵抗に、マイルズの動きを止めようと両手をあげた状態でウィラードが困惑して言葉を投げる。

 ファフィストとラパス、ガザルガにシュバイツが蔦を生やして落ちそうになった魔導士たちを捕まえ、蔦が届かない所をハンニバルが浮遊魔法で上まで引き上げる。

 その様子を眺めながら木の幹を駆け上がっていたロック達がタギャルとウィラードに辿り着くと、ノックアウトされたマイルズが潰れているのが見えた。


「どうする。まだいたいけな少年ではあるが、色々やりすぎな面もある」


「さっきの笑い方は明らか正気じゃなかったしな」


 ロック達の後ろについて来ていたオブティアスがマイルズの両頬をぺちぺち叩きながら言う。

 気絶から目を覚まさないかと少しはらはらした様子でそれを見守るが、特に気が付く様子はなかった。


「魔力を無効化して海底国に転移させておこう。その後の事はまぁ、本人次第か」


「……あの子を、生き、返して」


 ウィラードが対応を検討する中、昏睡した状態のままマイルズがぼそりと上の空で呟いた。

 その場にいた全員がしんと静まり返って倒れたままの少年をじっと眺めたが、起き上がってくる様子はない。


「……死を受け入れられない、か。それでマリアージュに縋りついたか」


「……ウィラード」


「いや、たとえ私やマリアージュであってもそれは不可能だ」


 ロックがマイルズをじっと見つめながら言いかけたことをすべて察して、ウィラードが応える。

 その後は無言のまま、先程自身が提案したように魔力を無効化する拘束魔法をマイルズにかけた後、転移魔法でその姿は薄く光りながら消えていった。




「ふぁあ、ん? あぁ、やっとか……あら、この人数にこれじゃ狭いかしら」


「寝てたのかよ……」


 魔導学園の崩れた瓦礫を魔力で固定した塔は、ロックの吸収魔法による無効化も全く効く様子がなかった。

 瓦礫で固められた両開きの扉を慎重に開くと、瓦礫で作ったいびつな玉座の腕置きに突っ伏していた魔女が、大欠伸しながらゆっくりと身を起こす。

 マリーが片手で大きく開いた口を押さえながら、左手の人差し指を素早く左右に行ったり来たりを繰り返すと、塔の瓦礫がまるでパズルのように移動して、横に広がるようにその姿を変えていき、あっという間に学園の大広間と同じほどの広さなりに、その分塔の高さが低くなった天井に圧された。


「やめる気はないのかマリアージュ」


 魔導士たちの中心を、一歩前に出たウィラードに、マリーは肩眉を吊り上げながら指で上を指し示しながら返す。


「空がこの状態だから時間の経過わかんなかった? もう宣言してから三日は経過してるんだけど」


 魔導学園が爆破され、そこから逃げて、回復魔法を施し、大陸中の住人の避難、更にここに引き返してくるまでに相当な邪魔が入った。

 太陽も月も出ない、真暗闇の空に、魔物を降り注ぎ続ける黒い雲。

 おかげで時間の経過が全くわからなかったが、ロック達が感じていたよりもずっと早く時間は経過してしまっていたらしい。


「本当にやめる気はないんだな」


「しつこいな、戦いたくないなら帰れヘタレ野郎が」


 再三にわたり説得しようとウィラードが声をかけたが、マリーはそれを目を細めながら一蹴する。

 不機嫌そうに足を組みなおし、片肘を腕置きについて頬を乗せるその表情は不満そのものだった。

 攻撃してくる様子はないが、破壊をやめる姿勢も全く感じない。


「残念じゃが、説得は無理のようじゃな」


 ハンニバルが大きくため息を吐きながら、ウィラードの横に足を運んで並ぶ。


「色々と世話になり、助言もいただいて感謝もしておった。こんなことになり残念じゃ」


「そう」


 ハンニバルの言葉に対しては興味すらないのか、マリーは肘をついたまま明後日の方向を向いて聞こうともしない。


「ロックの事を守ってくれると、ルシフォードと交わした約束は何だったんだ」


「使い魔でいるうちはと、何度も念押ししたじゃない」


 両手を前に出して一瞬だけ縋るようにしかめっ面で問いかけたオブティアスに、冷たく言い返す。


「マリー、お前使い魔になって、結局何がしたかったんだ?」


 ロックがいくら考えても、拙い憶測の域を出ない。

 魔女は興味のないことはしないし、使い魔になったことを嫌がりながらも、本気で恨んでいる様子がない。

 マリーの考えていることが何一つわからない。だったら本人に直接きくしかない、だからそう声をかけた。


「さぁ……」


「……」


「…………」


「なんだったかしらね」


 ロックの問いかけにしばらく間を置いた後、全く表情がわからない、学園を攻撃したときと同じのっぺらぼうのような顔で、虚空を見つめながら魔女は首を傾げた。

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