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報告

 グランクロイツ魔導学園では、学園でありながら他の国に所属しない特殊さ故に、国同士の協定や交渉の調停役とされることが多々あった。

 協定交渉の為に用意されている協定会議室。

 部屋中央の大きな円卓には、贅沢を控えながらも高級感漂う繊細な彫刻が施された机と、かつて栄えた大陸人間国の数である十二席が今も設置されている。

 各国の重役が座するが故に、強力な防御魔法に加えて、お互いの騙し打ちを防ぐために、この部屋の中では悪意を持った嘘をつくことが出来ない。

 また、部屋に一歩入れば他人に対する攻撃魔法は一切使うことが出来ないが、退室に関して特に条件があるわけでもない。

 そんな部屋の座席は現在七つがそれぞれ埋まっていた。

 コルドネア王国の代表としてゼギルデイド、ドミニカの代表代理としてノーマン、滅亡したとされる魔王国の王オブティアス、侵略を受けたナハム公国のドゥラゲール公爵、海底国カペーチュミストロの女王ヤトルッド、学園代表である学園長のハンニバル、そしてそれらの発端を引き起こしたウィラード。

 加害側と被害側の両国も出席しているためか、部屋の空気は緊張で張り詰め、ピリピリとした雰囲気が肌を刺すような不快感に襲われている。


「さて、それではまず、この一件より前から続いていた報告を聞こうか。ノーマン」


 海底からの侵略と、鉄鋼蟲の襲撃から一週間が経過していた。

 ドミニカとコルドネアの戦争から一歩も学園に足を踏み入れていなかったノーマン。

 多くのドミニカ出身の生徒達が保身のために貴族として国に戻る中、彼は一人、ドミニカ内での不正に関して調べていた。

 それは偏に、身に危険が及んだ妹を、国王から守るために匿ったはずの修道院で、彼女の身に起こった出来事に不信感を抱いたため。


「ドミニカ、コルドネア、ナハムと全ての教会関連に関してですが、各国教会責任者の貴族が結託して資金を横領し、長年に渡って私腹を肥やしていたことが判明しました。国が違うが故に、各国の資産運営を他国の資産平均と比べて翌年資産を決めるという手法を逆手にとった方法で、国を渡って結託していたため情報にたどり着くまで時間がかかりましたが、横領していた資産を押さえました。ただ、それに関して一つ重大な問題が発生しております」


 ノーマンは、庶民出身であるロックベルに尽く噛み付いていたが、何も庶民出身と学年最下位であることだけが理由だったわけではない。

 資金提供が多大なはずの教会出身でありながら、みすぼらしい格好に教育が行き届いてない状態が見える態度から、税の無駄遣いをしていると腹を立てたからだ。

 しかし、妹を修道院に匿ってもらい、定期的に交わしていた手紙の連絡が急に途絶えてから、精霊王の神殿での一件、またコルドネアとの戦争によって、家に戻ってきた彼女からの修道院の暮らしぶりに、ノーマンは驚きを隠せなかった。

 妹を匿う関係上、教会の資産資料をその都度丁寧に確認し、自身の家からも多大な金額を寄付金として納めていたというのに、妹のテパが送っていた生活は、庶民でも貧乏と言わざる得ないほど酷いものだった。

 資金は十分足りているはずなのに、なぜそのようなことになっているのか。そこでノーマンは資金の横領を疑ったのだ。

 資金横領の調査のため、戦争が明けても学園に戻らず各地を回っていたところ、そもそもの資金運営を担当している教会責任貴族で金の動きが綺麗に止まっていることに気付いた。

 流行した新種の病気や、襲撃した新種の魔物など、教会側で抱え込んでいた数々の問題報告情報がストップしていた本当の原因はそこにあったのだ。

 病気が流行っていることが国に知られれば、教会が薬も買えない状態にあることが気付かれ、横領している事実を探られる可能性もある。

 そう考えた貴族が、情報を聞いていながらあえて国には報告しなかったのだ。


「重大な問題とな、続けてくれぬか?」


「異国同士の貴族が結託した手法に関してですが、魔導士を介しておりました。魔導士は依頼等に偽装して各国の当該貴族に接触し、情報を流していたようです」


「……なるほど、これは学園側にも責任が及ぶ案件になってきたな。して、その魔導士も割れているということじゃろう、どの者かの」


「……サーカム元第一学年学年主任です」


 自国の教会責任貴族が資金を横領していることを突き止めたノーマンだが、横領の防止や資金運営の例としての制度である、他国の教会資金を参照にする方法は、かなり古い時代から使用されていた。

 自国の貴族だけで横領出来るような仕組みではない。となると、他の国も同様の方法で横領している可能性が高かった。

 その為、ノーマンは調査のためにコルドネアとナハムに頭を下げて調査を依頼し、結果両国とも横領の疑いがあることが判明。

 横領資金の場所をようやく突き止め、貴族を尋問して、ようやく国を違えてもそれを成し得た手法を聞き出すことが出来たのだ。


 サーカムは魔導学園に所属した何十年も前から、教会資金の横領に携わり、そのおこぼれを貰っていた。

 彼が依頼として偽り、貴族の屋敷に出入りして情報交換を担当していたのだ。

 ロックの一件以来学園を辞めたサーカムの行方は、今も掴めていない。


「……まさかそこまで落ちぶれておったとは」


「現在大陸をあげて捜索しているのですが……」


「腐っても魔導士であり、実力は折り紙付きじゃ。そう簡単に捕まりはせんじゃろうて。また厄介なことになったの」


 ハンニバルは大きくため息をついた。教会が国への信頼を失ったがために、魔法使いに頼ったのが一連の発端。

 どうしてそうなってしまったのか、この場にいる全員にその過程を説明する必要があった。

 ノーマンの報告が終わったことを示すように、彼は一礼して席に戻る。


「そして、国に見捨てられたと考えた教会の人間数人が、学園で眠っていた魔法使いを起こした。そういうことじゃな?」


 ここにきて、女王ヤトルッドは初めて声をあげた。相変わらず扇子で顔の半分が隠れているため表情を伺い難いが、その視線は恐ろしく冷たい。


「千年眠っていた魔法使いは、起きた後寝ぼけて暴れた。その結果が、我が国の魔法道具の破壊と、魔王の国地下の鉄鋼蟲の巣の破壊じゃとの?」


「……その件については、本当に申し訳なかった」


 ウィラードは椅子から立ち上がると、椅子の横に移動したと同時に、机の対面からは姿が見えなくなる。

 対面側が首を長くして消えたあたりを伺うと、驚いたことに土下座していることが分かり、そこまでの謝罪の姿勢を見せたことに当事者の二人は驚いて目を見開いた。


「俺はそこまでしてもらう程じゃねぇって、ウィラード! 元々国の地下にあれだけの鉄鋼蟲の巣があったってことは、いつかはこうなる可能性が常にあったってことだ。どう考えたってあれは対処できねぇし、気付けなかった俺達にも非はある。悪気があってやったわけじゃねぇってのもわかってるからさ」


 オブティアスは土下座したウィラードに慌てて申し出る。

 国が滅びたことに関して悔しくないと言えば嘘になるが、ウィラードの一撃がなくともそれが起こる危険性は常にあった。

 攻撃力の高い魔族の国であるがゆえに、自分たちの力で滅びてしまう可能性もあったのである。

 あの一撃はあくまできっかけに過ぎない。どうしようもなかったことだった。


「では、魔法使い殿はこれについてどう説明するつもりやのかえ?」


 一方女王は、そんな魔法使いの行動にさらに不信感を得た様に、長いドレスの裾に手を入れ、あるものを取り出して円卓の中央に転がした。

 黄金色に輝くビー玉程の大きさの石が、コロコロと軽く転がり、ウィラードの席の目の前で止まる。


「我が国の作業技師が、これによってムラバを修復したと報告してきたのだ。しかし、揃いも揃って行方不明になり、同時に見たこともない魔物が出現した。技師たちは魔物に喰われたと考えるのが自然であろう。彼らは皆一様に、魔法使いの加護を得たと申しておったのだが、どう説明するのだ?」


 冷ややかな目線でそう投げかけた女王だが、ウィラードはその顔にも視線を投げず、目の前に転がされた石を、未だかつてないほどの驚愕の表情で凝視していた。


「これが見つからぬものだと考えていたのかえ?」


「……あいつは、今どこにいる」


 女王からの質問には答えず、ウィラードが震える声でかけたのは、学園長のハンニバルだ。


「あいつは、あの魔女は、マリアージュはどこにいる!!? ロックベルだ! 今すぐ彼の使い魔を連れてきてくれ!!!」


 まさに鬼の形相で、ウィラードはハンニバルにほとんど掴みかかるように怒鳴り込んだ。

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