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修復

 黒い石で出来た壁の中、部屋の中央に民家よりもある巨大な岩でできた、色とりどりに光る大きさのバラバラな丸い石があちこちはめ込まれた魔法道具の前で、その男に向かい合うようにロック達は立ち止まっていた。

 ヤコから父親としてロック達に紹介された男はタギャルと名乗り、ヤコからの説明を受けながらも終始胡散臭そうな表情でウィラードを睨み続けていた。


「あん攻撃が事故やってぇ? へぇ? 随分よく狙った攻撃やと思うたけどな」


「やめんかいオトン、みっともない」


「魔法使いはここを見捨てた偽善者や。みんなそう思うとる。おまけに空間維持の魔法道具は直さんと、武器だけいそいそ直しくさりはって」


「なんだと?」


 タギャルの発言にウィラードは帽子の鍔とぼさぼさの髪でほとんど見えない眉を吊り上げる。

 武器というのはおおよそ大陸破壊魔砲ムラバの事だろう。どうやらあの兵器が修復されたのはつい最近のようだ。

 しかも、この町の住人も知らない方法で。


「他ん仕事仲間が口揃えて『魔法使いの加護でムラバが直った』いいくさりはったん。これはどう言い訳するつもりじゃい」


「誰かが直したのか? その人物は本当に私を名乗ったのか?」


「んなもん知らんわそんなこと! 俺はそいつに会っとらんし、女王に仕えとった担当の同僚みんなあんバケモンに食われてしもたんやからな!!」


 タギャルが叫び、全員が驚愕の表情を示す。ヤコもこの話は初めて聞かされたようで、困惑したように近付いて肩に手を置いた。


「あんバケモンに食われた? どういうことやオトン、みんな女王と一緒に陸近くの街の方に逃げた言うてはったやん!」


「バケモン出てきたんはムラバを保管してた場所や、武器は直すけど技術は教えんっちゅーこっちゃろ。ここに来たんも、俺らを食い殺す気じゃろがい」


「え、でも、そんなん。女王も知らんはずないやんそんなの!」


「知っとるわい! だからもう魔法使い待つん諦めてムラバ持って出ていこうとしとるんやないか!」


 ヤコの諭すような口調に、タギャルはほとんど怒鳴りつけるように上から大声を出す。

 ロック達もこれは何か言うべきだと即座に思ったが、行動に起こすよりも早く、ヤコがタギャルの脛を踵で蹴りつけ、体格の大きいタギャルはその場に倒れ込んで痛み悶えた。


「そんなんただの侵略やないかい! 避難場所探す説得する言うとったのにあん嘘つきが! オトンもなに全部知っとって止めんのじゃ! あほたれ!」


「あそこまでキレた女王止められるか!」


「そこで意地でも止めんのが男やろが!」


 女強し。ヤコはそのまましゃがみこんでいたタギャルの頭に一撃くらわせる。

 少女が拳で殴る基準よりもずっと重く響く音がして、タギャルの動きがスローモーションのようにゆっくりに見えた。

 エスカレートしていく言い争いに、止めるべきかどうか迷いながら、ロック、ジェイド、ウィラードはその様子に威圧され引き気味に眺めていた。


「そんで一人めそめそとそこで直せん魔法道具直すフリしとったって? あー女々しい! 意地張らんかい男じゃろうに!」


「だれがめそめそ女々しいじゃ! 直せんでも時間稼ぎぐらいできるわい!」


「でもオトンじゃ直せんのは確かじゃろがい! 直してくれる言うとる奴はどうするつもりじゃ!」


「直せるもんなら直してみぃ!!」


「おっしゃ言ったったな!!!」


 二かっと笑って腕を振り上げたヤコに、タギャルはハッとしたように固まった。

 タギャルがその言葉を吐き出すことを狙ってヤコは言い争いに発展させたとロックはこの時理解する。

 ヤコは先程までの言い争いの様子など微塵も感じさせずに、自慢げな笑みでウィラードに向かって振り向いた。


「許可は得たで。さぁさどうぞ」


「え」


「さぁさどうぞ」


 ヤコは困惑しているウィラードの両肩をがっしりと掴み、そのままズルズルと魔法道具の目の前まで押し運んでいく。

 タギャルは口から出た言葉を否定する気はないようだが、自身に怒り心頭で悪態をつきながら黒い壁に頭を打ち付け始め血を流し始めた。

 血が出るほどの強い衝撃で黒い壁に頭をぶつけ続けているタギャルを、ロックとジェイドは心配して壁から引き離そうとしたが、近付いただけで抵抗し振り払ってくる。


「あー、オトンの事は気にせんでええ。いつものことや」


「いつもなにやってんだよ……」


 頭を打ち続けてヒビの入った石がめり込み始めたのを目に入れながら、呟くようにロックは言う。


「ウィラードさん、さっさと直したほうがいいんじゃないかな」


「そ、そうだな。ふむ、損傷が激しいが、これならなんとかなりそうだ」


 諦めたジェイドがまだ困惑してこちらを見ているウィラードを促し、ウィラードは慌てて魔法道具に向いて現状を確認する。

 そのまま魔法道具に両手をかざし、掌から光が魔法道具に流れ込み、強力な魔力の層が魔法道具に駆け巡っていく。

 建物を直す時とは違う、複雑に機能が入り組んだ魔法道具に、魔力を針に糸を通すよう繊細に流し込むことによって、小さな亀裂から少しずつ直していく。

 ウィラードの両手から煌びやかに流れていく魔力の層に、ヤコはうっとりとして感嘆の声を漏らす。

 タギャルも頭を打ち付けるのをやめて、額から血を流しながらもその様子を壁の方からじっと眺めていた。

 ロックとジェイドも呆然とその様子を見ていたが、石が擦れる様な音と気配に、ロックは入口の方に振り返る。


「どれくらいかかりそうですか?」


「む……くそ。すまん、まだ大分かかる」


 ロックの問いかける固い声をきいた後、ウィラードもその気配に気づいた。視線は魔法道具から離さず、声だけでロックに応える。

 ロックはジェイドに視線だけで目配せし、音をたてないように二人は入口に近づいて外を覗き込むと、思わず息を飲んだ。

 新型の魔物が翼をバサバサ羽ばたかせながら、お互いの骨をこすりつけ合うかのようにギチギチと密集していた。二十、いや三十体近くいる。


「こっちに近づけねぇほうがいいな」


「オッケー、ヤコちゃんちょっといい? いい感じに開けてる場所ってこの近くにあるかな」


 音をたてないように入口から離れた二人は、なるべく小さい声でこの町の地理に詳しいヤコに場所を聞く。


「そんなら広場が通りのちょっと先ん方にあんけど……どしたん?」


「さっきのバケモンと同じのがすぐそこに密集してる。三十体近く」


 ロックのその言葉にヤコが大きく口を開けて悲鳴をあげそうになったが、素早く傍に音もなく駆け付けたタギャルがゴツゴツした大きい手で塞ぐ。


「タギャルさんはそのままヤコとここにいてください。ジェイド、行けるか」


「そこは『行くぞ』でいいんだぞ、リーダー」


 タギャルに声をかけ、ジェイドと話しながらロックは周りを見渡す。マリーの姿がこの部屋に入る前あたりから見えない。

 強引にここまで誘導したことに対するあの不機嫌な様子から、どうやら召喚を解除して引きこもってしまったのだろうとロックは考えた。


「ウィラードさん、終わったら呼んでください。マリーを呼び出しますんで」


「了解した」


 声だけの返事が返ってくる。出来る限り修復時間を縮めようと、ウィラードは先程よりもずっと集中している様子だった。小さな亀裂はその修復していく数を増やしている。

 ウィラードの返答を聞いてロックはジェイドと顔を合わせて頷き、二人とも武器を取り出していつでも戦闘に入れるように携える。

 ロックが腰の鞘から引き抜いた剣にタギャルの視線が動いたが、ロックはそのまま気付かずに入口から素早く外に飛び出していった。

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