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「……お前が、私を、その名で呼ぶのか、ウィラード……!!!!!!!!」


 マリアージュと魔法使いに呼びかけられたロックの使い魔の魔女は、ウィラードの復活を知った時とは比較にならないくらいの怒り様、ガチギレだった。

 先程の戦闘を見ていた全員が、その場で震えあがる。なんだかんだ言いつつ、ロックもマリーが本気で怒ったところは見たことがなかった。だがそのあまりの剣幕に当てられて、少しでも距離が取れないかとその場にいた全員が後退し始める。

 マリーの周囲には、怒りのあまりどす黒い魔力が渦巻き始めていた。寝ぼけていたウィラードの比ではない。

 ウィラードもその剣幕になぜか慄き慌てふためいていた。さっきまで国を軽く滅ぼしかねない暴れ方をしていたのが嘘のような動揺の仕方だった。

 が、マリーは瞬時にいつもの仮面の笑顔に戻った。

 そして普段は全く触れ合うどころか指でさえ触ることすらしないのに、突然ロックの斜め上に転移してきたかと思うとそのまま覆いかぶさるように抱き着いてきて、ロックは軽いながらも突然の衝撃によろめいた。


「私マリー、使い魔のマリー! 今このご主人の使い魔やってるの!」


「使い魔??? は???? お前がか?????」


 ウィラードはその様子に面食らった様子だったが、続けて発せられたマリーの言葉にさらに困惑したようだった。

 頭に大量のはてなマークが浮かんでいるのが見て取れるほどのウィラードの様子だったが、突然抱き着いてきた使い魔にロックも頭にはてなマークを大量に浮かべる。


「そう、使い魔! 《願い石》を使われてね!」


「《願い石》で? でもお前は……」


「最強の魔導士になりたいらしいよ。だから魔導学園にいてくれた方がマリーとしても都合が良かったんだけどー……」


 そういってマリーはロックに抱き着いたまま、上半身を動かして、魔導学園だった粉々に砕けた残骸の方に向いた。

 そこにきてウィラードは周囲を見渡して初めて自分が何をしでかしたのか思い出したかのように固まってしまった。


「……修復、手伝おう」


「当然だろ、こなくそ」


 俯きながら申し訳なさそうに申し出たウィラードにマリーは罵詈雑言を浴びせる。ロックに抱き着いていたその両手を放して空中を滑るように移動すると、ウィラードに呼びかけられる前にいた校舎の残骸近くに戻る。ウィラードが背中合わせになるようにその背後に転移した。

 二人が両手を広げて、まるで音楽隊の指揮者のように、リズミカルに両手を動かす。すると、校庭のあちこちに散らばっていた校舎の瓦礫が、破壊された時の逆再生でもするかのように、空中に集まり、くっつき、修復されて建物の姿を取り戻し始めた。


「なに、この、何だこの魔法……」


 ロックの隣にいた魔王オブティアスが完全に思考を放棄するほど、二人が行う魔法は凄まじい。

 戦闘魔法や、移動などのための魔法こそ数知れているが、この場で見ているような、粉々にまで砕けた巨大な建造物を元の状態にまで戻すような修復魔法の存在など、魔法の専門家である魔導士や魔王ですら、この場にいる誰も知らなかった。

 二人が最後に、演奏を終えるように両手を高く掲げて握れば、先ほどまでの粉々に砕けたことなどまるで初めからなかったかのように、むしろ建てたばかりの真新しい校舎の状態でキラリと輝き、折れた木々も生命力を取り戻して、青空に吹かれる風にサワリと心地よく揺らめいた。


「魔導学園の最高責任者とお見受けする。この度は誠に申し訳ございませんでした」


 修復魔法の様子をあんぐりと口をあけながら眺めていた、回復魔法を受けているハンニバルに歩いて近付いたウィラードは、その場で腰低く深々と頭を下げる。

 伝説の魔法使いが、地面に頭がこすれそうなほど深々と謝罪している状況に、ハンニバル含めた講師達全員が度肝を抜かれた。


「顔を上げてください、魔法使い様。我々は貴方様の頼みを守り切れなかった。謝るべきは我々の方です」


「いえ、その件に関しては起きた後の対処を全く考えてなかった私にも非があります。マリア……マリーがこの場にいなければ、私はこの世界そのものを破壊していたかもしれない」


 寝ぼけて世界を破滅されたらたまったものではない。その場にいた全員が、想像以上の事の重大さに気付いて震えあがった。

 ウィラードが顔を上げた後、じっとマリーの方を見つめ続けている。当のマリーは、ウィラードがまた「マリアージュ」と呼びそうになった際に恐ろしい顔を向けただけで、修復魔法が終わった今、完全にガン無視を決め込んでいるようだった。


「マリア……マリーはいつからこちらに?」


「入学の一週間後でしたから、春ごろからですね」


「割と最近か」


「あの、お知り合いで?」


「あぁ、まぁその、一番の古馴染み、とでも今は言えばいいのか……?」


 説明が難しいのか、両手を組んで考え込みながらウィラードはハンニバルに応える。ガン無視を決め込んでいるマリーに、恐る恐るロックも聞いてみたが、睨み付けられただけでこちらも無視されてしまった。

 ウィラードはマリーの様子を伺うように視線を何度も向けていたが、やがてまたハンニバルに向き直る。


「とにかく、私は万一起きてしまった後もまた眠るつもりでいたのだが、マリア……マリーがいるとなると状況も変わる。先程散々暴れてしまい、そのような上で申し上げるのは、とても身に余るものは承知の上ではあるのだが、しばらくは私の身を学園に置いていただけないだろうか?」


「魔法使い様が学園にいてくれるというのであれば、我々としても心強いです。今、ウィラード様が起きる前から世界は混乱し始めています」


 ウィラードの怪訝な表情に、ハンニバルはここ最近立て続けに起こった出来事を話し始めた。





 伝説の魔法使いが復活し、学園に居付いたというニュースは、大陸各国に衝撃を走らせた。

 奪ってしまった命は取り戻せるものではなく、ほぼ無意識の状態でドミニカ軍を壊滅させてしまったことに、ウィラードは激しい罪悪感に苛まれている様子だった。最も、ドミニカはコルドネアの対応がかなり優しかっただけで、本来ならばコルドネアに全滅させられてもおかしくはない状態ではあった。

 ドミニカ国王は今回の失態で王座から引きずり降ろされた。さらに、戦争の原因が甘い汁を吸っていた周囲の臣下にあることが、ずさんな証拠管理により芋蔓式に判明して、王政が一掃され、戦勝国であるコルドネアがドミニカの体制をしばらく管理することとなった。

 新種の病気に関しては、ウィラードが大陸全体を覆うほどの巨大な魔法陣を展開し、大陸ごと回復魔法を使ったため、一瞬にして解決してしまったが、対応が素早過ぎたため、結局原因が分からずじまいになってしまった。

 精霊王は、ウィラードが大陸に対する回復魔法を使ってしまったため、スカルドラゴンの影響を回復させるまでの魔力はすぐには戻らないらしいが、生命を蝕んでいたスカルドラゴンがあっさり退治されてしまったため、時間さえ置けば回復するとのことだった。精霊王が回復すれば、癒しの水が湧く湖も回復する見込みがあるそうで、あとは時間が解決してくれるようなものだった。

 教会の人間に対するお咎めは、地域奉仕という形に留まった。要するに、教会に戻っていつも通りに過ごすという、ほぼあってないようなお咎めであった。

 しかしマイルズを含む何人かの人間は態勢のごたごたに紛れて逃走してしまったと、拘束していた部屋の見張りから報告があがった。ウィラードかマリーの探索魔法で探せばすぐに見つかるかと思われたが、スカルドラゴンの件で受けたショックも大きいだろうとして、今回は見逃す事となった。


「お前、ここまでの件、何もしてないだろうな?」


 魔法使いウィラードが学園に所属してから一週間。ロックがマリーの使い主という関係上、直接面識がある様子のウィラードとは、使い魔を通して何度か顔を合わせるようになった。

 学園内も全体的に解決傾向にあるそれぞれの問題に、魔導士たちが事後対応に追われてバタバタと飛び回って慌ただしい中、廊下だったり、教室だったり、校庭だったり、まるでストーカーに待ち伏せされるかの如く、ウィラードはその伝説の魔法使いという肩書に似つかわしくなく、物陰から魔女の様子を伺い、声をかけようとしながらも、やたらウィラードに対して嫌っているのか、当のマリーがガン無視したり、わざと足を強く踏んで行ったり、突飛ばしたりして会話らしい会話があまりなかった。

 そんな光景に最初は恐れ多くドン引きしていたロックだが、最近は自分よりも手酷い扱いに半ば同情の目線をささやかながら送っていたのだが、今日はいつもと違う趣向らしく、人気のない廊下を、待ち伏せではなく堂々と声をかけられる。


「どう答えたって、ウィラードには同じことだろう?」


 ウィラードの戒めるような鋭い見上げる目線に、マリーは不敵な顔でせせら笑い見下ろしながら初めて言葉で答えた。

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