表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/92

復活

 一息ついた後、ラパスの指示で教会の人間を一時的に拘束した。魔物の秘匿は一歩間違えれば大惨事になりかねない。とはいっても今回、教会側も相談しなかったのではなく、取り合ってもらえなかったというのが正しいので、そこまでひどい咎めを受けるわけでもない。利益を優先させたのではなく、被害の拡大を防ぐために動いていたにすぎないので、情状酌量の余地は十二分にあるのだ。

 教会の者たちにもそのことを再三説明している。スカルドラゴンの一件以来、彼らは正しいと思っていた自分たちの行いが、癒しの水を腐らせてしまう結果となっていたことに意気消沈しており、立ち直るには時間がかかりそうな様子だった。マイルズも、マリーの放った一言に手酷く傷付いた様子で、真青な顔でずっとブツブツ独り言をつぶやき続けている。


「癒しの水を探しに来たってのに、使えないとなるとなぁ、どうにかならねぇのか?」


「スカルドラゴンの憎悪と怨嗟五千年分を? 私に利がないからやるわけないじゃん」


 ロック達は癒しの水であった真黒になった湖の傍で待機していた。精霊王の状態をラパス含む数人が様子を見に行っているためだ。教会の者から詳しい地図を入手し、精霊王のいる部屋に設置型の転移魔法陣があるため、その魔法陣に転移魔法をつなげたラパス達が戻るのを待っている。

 ロックは疲労した他のパーティメンバーと一緒に白い岩に座り込んで休みながらも、当初の目的が果たせなかったことに肩を落とし、どうにもならないことを使い魔に訊ねてみる。出来ないと言わないあたりがこの使い魔の厄介な所だ。この口調だと命令しても絶対にやらないことをロックは知っている。


「利がないからやらないだと!? 浄化できるならしてくれよ! それで何人も助かるのに!」


「はぁ? 自分たちがやってきたこと棚に上げた上さらに尻ぬぐいしろっての?」


 マリーの言葉にマイルズが噛み付いたが、白い目を向けられながら投げられる棘のある言葉に再び黙り込んでしまった。ロックを含め見張りのためにいた魔導士の講師達は物凄く気の毒そうな顔でその様子を眺めている。


「大体そういうのは私じゃなくてお人好しに……」


 イライラした様子で両手を組み、呆れたように喋っていたマリーが、急に言葉を途切れさせて顔だけ振り返った。様子を見ていたロックもつられてその視線を追うが、マリーが怪訝な表情で眺めているのは開いたままの出入口でもラパス達が転移した魔法陣でもなく、風化して削れてしまったただの白い石壁でしかない。

 ロックが使い魔の様子に驚いて声をかけようとした瞬間、全員が地面から吹き飛ばされるかのような衝撃に一度空中に浮きあがって地面に叩きつけられた。痛みに呻きながらロックが身を起こしていると、強烈な地響きによるものであることが、地震のように揺れ続ける地面から感じ取れた。


「あぁーもう!!! そのまま寝かせとけばいいのに!!!!!」


 唯一揺れの影響を受けずに地面に立ったままだったマリーが、見たことがないほど怒りを滲ませ、組んでいた両手を解いて振り下ろしながら叫んだ。


「大丈夫か、まだ何かいたのか!?」


 転移魔法陣が光り輝いて慌てた様子のラパス達が戻ってきた。新型の魔物にスカルドラゴンまでいたので、更にまだ何かいたのではないかと、先ほどの地響きから推察したらしい。

 しかしロック達が地響きに驚いて見渡しても、天井の岩肌が地響きに削られてパラパラと湖や岩の地面に落ちるだけで、魔物が現れたような様子はなかった。


「こっちじゃない、学園の方だよ」


 マリーが唸りながら、八つ当たりするかのように地面を右足でダンと足踏みする。学園の方というマリーの言葉に学園の人間が全員目を見開いたが、誰かが何か言葉を発する前に乾いた笑い声が地響きの続く湖の空間に大きく木霊した。

 その笑い声に吸い寄せられるように、教会の人間も学園の人間も顔を向ける。笑い声をあげていたのはマイルズだった。一通り大笑いした後、困惑して声をかけようか迷う動きを見せていた教会の一人を手で制し、学園の人間をたっぷりと嘲笑うようにニンマリと笑いながら話し始めた。


「僕たち教会も一枚岩じゃなくてね。魔法使いを特別崇拝している奴らの中に、ここに押し込んだ魔物やスカルドラゴンの事を伝えて何とか助けてもらおうと考えてた一派がいたんだよ。あんな無謀な計画、まさか実行するとは思わなかったけど」


「魔法使い? 計画? それが何で学園に繋がるんだ」


「その魔法使いウィラードが学園の下で寝てるからでしょ。あーもう面倒くさい」


「は?」


 ロックが問い詰めるようにマイルズに詰め寄っていると、横からマリーが眉間にしわを寄せながら吐き捨てた。

 地響きに倒れたまま話を聞いていた魔導学園と教会の人間何人かは、困惑の表情をしたまま固まるが、講師の魔導士の中で何人かが、ハッとしたように顔色を変えた。


「ご主人も見たでしょー? マリーを召喚したときに、最初に会った時、鎖に繋がれた鉄の扉」


 ロックはそのマリーの言葉に、記憶がよみがえる。《願い石》を手に入れたあの場所から続くようにあった、頑丈に鎖で幾重にも塞がれた分厚い鉄の扉。描かれた魔法陣から強力な魔法によって封印されているように見えたあの場所。《願い石》よりもずっと厳重に守られていた、なにか。

 学園の反応しなかった講師の魔導士も、ロックのパーティメンバーも、それが学園の魔法道具の保管区画だと繋がり、顔から血を抜かれていくかのように真青になりながら慌てて立ち上がった。アリアナに至っては取り乱してマリーの肩を掴んで話すが、ほとんど叫んでいるようだった。


「待ってください! 学園に、伝説の魔法使いがずっと封じ込められていたってことですか!?」


「封じ込められ? 違う違う、おおよそ自分で寝入っただけだっつの。魔力封印されてもそこら辺のやつに封じ込められるほどやわじゃない」


「まるで見てきたように言うんだな」


 拘束されたままのマイルズは、マリーが詳しく知っていることが気に食わないのか噛み付くが、当のマリーは全く気にしておらず、肩を掴んでいたアリアナの手首を掴んで腕を下ろした。


「自分の目にしか頼ることの出来ない人間と同じにしないでくれるかな。まぁ見てたわけじゃないから詳細は知らないけど、知ってそうな反応をした魔導士さんたちならそこにいるじゃん?」


 そう言うとマリーは、また両手を組みながら首だけ動かしてラパスの方を見る。彼もマリーが最初に魔法使いが学園の下にいると話した時に反応した講師の一人だった。事情を知らない様子の講師とロック達のパーティも全員が半信半疑のその顔を向ければ、ラパスはため息を吐いて俯き気味に話し始める。


「確かに魔法使いが千年前から学園の地下に眠っている。当時の記録によると、自身の存在自体が争いの種になりかねないが自身も疲れてしまったから誰にも知られないようにひっそりと眠りたいと頼ったそうだ。魔導学園ならば自身の保護にも、周りへの危害へも対応できるだろうからと。以来、その眠りを妨げないように厳重に封鎖されていたんだ。この事実を知るのは学園の魔導士でも上位の一部のみだったんだが」


 なぜ知っているのか、という目でラパスはマイルズの方を盗み見る。マイルズはその視線に気付いて、意地の悪い笑顔を浮かべる。


「教会にだって伝手はあるんだよ、僕の直接の知り合いじゃないからどうやって知ったかは知らないけどね。まぁ魔導学園の一番厳重な場所だから、攻めるだけ無駄だと思ってそいつらの事は放置してたんだけど。なんだったかな、奥の手があるとかなんとか言ってたっけ」


「つまり、現在進行形で魔導学園が攻撃を受けて、魔法使いが眠りから目覚めたってことか……?」


 ロックが呆然としながら、今までの会話の流れを要約する。先程からずっと続く地響きは全く止む気配はないが、魔導学園からも相当離れているはずなのにここまで揺れているとなると、魔導学園がどうなっているのか想像もつかない。その場の魔導学院の人間が、見る見るうちに真青になった。


「全員、戻るぞ! 必要ならば救助に回る! 急いで用意を……」


 ラパスが続きを言うよりも早く、溜息を吐いたマリーが指を鳴らす。ロック達は気が付けば、転移魔法で現場である魔導学園の校庭まで戻ってきていた。

 ずっと地下にいたため時間の感覚も外の様子も全くわからなかったが、その場に着いた瞬間異常であることがよく理解出た。

 学園の校舎は原型をとどめないほど粉々に砕かれ、校庭に瓦礫が散らばり、あちらこちらから呻き声やら悲鳴のような声が聞こえてきていた。空は赤黒い雲に覆われ、その中心に、多大な魔力が渦巻いている。上空の遥か上の方に、黒い豆粒ほどの小さな人影がロック達の目に入る。


「なぜ私を起こしたあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 叫びとともに、空気が魔力で爆発するように振動した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ