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討伐

 一呼吸終えて、ロックは剣を地面から引き抜く。一体倒して残りは十二体、五体は学園の魔導士がそれぞれ注意を引いている。残りはパーティのメンバーが教会の人間のところに行かないように引き付けている。

 元々混戦していた状態だったため、魔物の配置はバラバラだ。ロックは走って別の魔物に近寄り、その剛腕で剣を叩き付け、腕力で押し倒して吹っ飛ばす。衝撃を受けた魔物は怒りを向けるように咆哮した。ロックがまた走り、別の魔物に剣で攻撃を加えて吹っ飛ばし、先ほどの魔物にぶつけて昏倒させた。

 今度はその二体とは別の魔物に走り寄って、足元を掬いあげるように横に切り込む。翼竜の飛ぶことに特化した不安定な脚を強力な一撃で崩せばすぐにバランスを失い、倒れ込もうとする瞬間に合わせて、先ほどの動きのままもう一回転して一撃加え、上空に浮いた状態だったその魔物も同じ場所に吹き飛んだ。


「あぁ、なるほど」


 その様子を見ていたジェイドとアリアナ、ヨハンは互いに目配せして頷いた。

 アリアナは瞬時に氷魔法で目の前の相手をしていた二体の魔物の脚を氷漬けにして動きを奪う。そのまま氷魔法で地形を作り、巨大な坂のスロープを作り上げると、その頂上に魔物と同じ大きさ程の氷の球体を作り出した。そのままアリアナが腕を後ろから流れるような動きで前に動かせば、球体は坂に乗って転がり始め、動きが取れなかった二体の魔物に直撃してボーリングのピンよろしく吹っ飛ばし、ロックがまとめた三体に覆いかぶさる。

 ジェイドは空気魔法を自身に使用して素早さを上げ、上下左右から激しく魔物にハルバードで突き攻撃をくらわせる。その動きに魔物が上空回避をしようと翼を広げた瞬間を見計らい、素早く右手を突き出して空気魔法で風を送り込み、暴風を翼に受けた魔物が吹き飛んで魔物の山にさらに加わる。

 ヨハンはトロールの肩に乗ったまま、足だけで体を支えると弓を複数引き絞る。魔物が咆哮した瞬間を狙い口の中目掛けて放てば、そのまま口内に複数の矢が突き刺さり、そのまま後ろによろけたタイミングでトロール三体に指示を出して同時に殴りかかり、その勢いで飛び上がって魔物の山に一体追加された。


「ジェイド!」


 ロックが叫びながら、魔物と反対方向に向かって走り出した。

 心得たとばかりにジェイドはハルバードを地面に突き刺して両手を自由にした後、手で空中に何かを丸める様な動きを始める。瞬時に、魔物の周囲の空気が渦巻き、七体の魔物をすべて包み込むような豪風が吹き荒れ、その巨体を空中に巻き上げた。


「アリアナ!」


 走り続けながら、ロックは呼びかける。

 アリアナは状況を把握して、冷静な表情で左手を優雅に差し出す。空中から複数の川が流れる様な水の動きがしたかと思えば、アリアナがその手を握り締めた瞬間七体の魔物全てを覆いつくすほどの巨大な氷塊で魔物を封じ込める。


「ヨハン!」


 ロックはそのまま走り込んだ。

 待ってましたとばかりにヨハンはトロールに指示を出す。ヨハンに向かって走り続けていたロックはそのまま飛び上がると、トロールの手の中に着地した。トロール三体の剛力によって、ロックはそのまま空中の魔物を封じ込めた氷塊に向かって投げ出された。


「おおおおおおうらああああああああああああああああああ!!!」


 先程と同じ、ガチリと体内で何かがはまり込んだ感覚。腕から剣へと体内から大きな力が放出され、ロックの持っていた剣に、巨大な魔法の刃が伸びる。そのまま空間を切り裂くほどの大きな一撃を、氷塊目掛けて叩き込んだ。

 風を切るような音。真二つになった巨大な氷塊は、白い岩の地面に落ちてその空間を音とともに揺らした。粉々に砕け散った氷の中に、同じように真二つにされた七体の魔物の姿が、氷が解けるよりも早く砂のように崩れていった。


「お見事!」


 疲労感に肩で息をしていたロックに声がかかる。振り向けば、ラパスが拍手していた。講師達が相手取っていた残りの五体の魔物がちょうど、大きな音とともに岩の地面に倒れ込み、同じように砂のように崩れはじめる。終わったのだ。


「あー……疲れたぁ」


 ロックはそのままへたり込んだ。初めて魔法を、しかも二回も使用した上、誰がどう見てもその魔力の使用量は常人の域を超えていたのだ、常人以上に疲労して当然だった。竜族の血による強靭な、尚且つ普段から多大に鍛えた身体だからこそ、疲労感のみで済んでいる。ただの人間ならば反動で死にかねない量だった。

 周りに足音が聞こえ、頭だけ上を向けば、ジェイド、アリアナ、ヨハンが、それぞれの個性豊かな、満足そうな笑みを浮かべていた。


「そ……んな、なんで、なんで! 僕たちだって対処できなかったのに! なんでこんなあっさりと! くそっ!」


 ジェイドとヨハンに支えられながらロックが立ち上がると、マイルズが信じられないようなものを見るように、その顔には困惑と絶望を貼り付けながら、わなわなと両手を震わせながら呆然と立ち尽くしていた。


「魔導学園が! そんなに僕たちを馬鹿にしたいのか!? くそっ、こうなったらあの場所に……、!?」


 ロック達が戦っている間にある程度回復したであろうマイルズは、そのまま空中に向かって何か魔法を作動させようと手で動きを作る。しかし何も起きなかった。


「そんな、そんな馬鹿な!? なぜ転移魔法が出来ない……!?」


「転移先の空間潰したからね、そうなると転移なんてできないっしょ。あー! ご主人おっそーい!!」


 その場の空気に全く合わないのほほんとした声に、教会の人間も含めたその場の全員が振り向くと同時に戦慄する。数日ぶりに姿を現したマリーは、その左手に新型の魔物と同じサイズの、巨大な竜の骨の頭だけを引っ掴み、ズルズルと大きな音を立てて引き摺っていた。その頭を見た講師が何人か同時に「スカルドラゴン!?」と恐怖に声を戦慄かせて叫んだ。


「ん? あー、遊びに夢中になりすぎたね。いらないのに持ってきちゃったよ。ほいっとな」


 マリーが講師の声に気付いて、左手に掴んだままのそれを、丸めた紙ごみを投げるかのように放り投げる。スカルドラゴンの巨大な引きちぎられた頭は、そのままロック達の頭上を遥かに飛びさって、マリーが来た方向とは反対側の壁に激突して霧散した。


「そんな、なんで、僕たち教会の人間が五千年掛けて封じ込め続けた化け物を……」


「あ、やっぱり五千年前の一番大きい個体だった? 大きさ的にそうかなーと思ってたんだよね。そんで、精霊王じゃなくて君たちの意思で封じ込めてたの。そうかそうか」


 真青な顔でヘナヘナとその場に座り込んだマイルズの言葉に、マリーは興味深そうな顔をしながら近付いていく。


「ねぇ、知ってる? スカルドラゴンは憎悪と怨嗟しか知らない。それを暴れて発散させれば消える」


「馬鹿にするな! 常識だろそんな話! だから被害が拡大する前に、神殿を見つけた当時の教会の人間が精霊王に頼んで封じ込めたんじゃないか!」


「へぇー、知ってたんだぁー。じゃあ、これもわかるかな?」


 座り込んだまま叫ぶマイルズに、マリーはニタニタ笑いながら近づく。その笑顔は、いつもの仮面を被った笑顔ではない、常軌を逸した、見ているだけでゾッとするような、恐ろしいもの。


「憎悪と怨嗟は、その意に反して他から無理やり押し込めれば、膨れあがるんだよ? 君にだって覚えがあるでしょう?」


 マリーはマイルズのすぐ近くまで歩み、腰をまげて目線を合わせて、にっこりと微笑んで告げる。

 その言葉を聞いたマイルズの瞳から、瞬時に光が消え、空間を照らす白い光が色を変えるようにその顔は青くなった。


「君たちはスカルドラゴンの被害を抑えたと思って、浮かれあがってたんでしょ? 自分たちは誰にも知られないヒーローにでもなったつもりだったのかな。でも、じゃあ抑え込まれたスカルドラゴンの憎悪と怨嗟の魔力はどこに行ったと思う? ぜーんぶこの神殿に漏れ出してたんだよ。だから本来は時間の影響を受けないはずの神殿が風化したし、癒しの水も憎悪と怨嗟にあてられて腐り果てた。そして最後に、封じ込めている精霊王の命を奪わんとその身を蝕んだ。人間に負い目のあるあの弱虫は渋々引き受けたんだろうけど、そのことに気づいたときにはもう手遅れだったんだろうねぇ。五千年も時間はあったのに、ゆっくりと少しずつ変化したせいで」


 マリーから語られる言葉に、マイルズはカタカタと震えながら呆然と虚空を見つめていた。魔導士の講師達の後ろにいた教会の人間たちも、腰を抜かしたようにその場に崩れる音が複数木霊する。


「癒しの水を腐らせ、神殿を破壊し、精霊王を殺さんとした気分は如何かな、正義のヒーローくん?」


 心の底から楽しそうに、絶望に打ちひしがれたマイルズの様子を眺める魔女の姿は、さながら悪魔のようであった。

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