表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/92

決意

 曲がりくねった洞窟のような通路を、ひたすら先へと進む。身を屈めながら、ロックは先程のテパの話を頭の中で繰り返していた。

 教会は、一体いつから耐え忍んできたのだろう。国こそ違えど、教会は遥か昔から健在であるため、どこも同じようなシステムで運営されている。つまり、どこも同じように苦しんでいたということだ。

 ロック自身も教会の出身で、ある程度の情報は知っている。テパの言う通り、依頼を学園に受けてもらえた試しはない。ロックのいた教会では、ロック自身が訓練名目で幼い頃から薬草の採取を買って出ていたため、別段困らなかった。自分が魔法がなぜか使えないと躍起になっていたが、確かに同じような孤児の中に魔法を使える者がいた。そういった子どもは大抵知らない大人に連れていかれた。どこかの誰かに引き取られたのだとずっと思っていたが、それが魔法を扱えるために教会の人間によって隔離されていたとしたら。

 自己利益を優先して依頼を受けておいて、なにが慈善活動だ。本当に助けを必要としていた人間が一番近くにいたはずなのに、どうして今の今まで気付けなかったのか。武器もなく、ただひたすらに手を握り締める。


「みんなは魔導士がきらいだけど、私は好きだよ。お兄ちゃんがね、学園に行ってて、すっごくかっこいいの。でも、私は悪いことをして修道院に入ったから、これ以上心配かけたくないの。だから、お兄ちゃんに助けてって言えない。でも、もうみんな疲れてる。このままじゃきっとよくないことが起きるの」


 だから、誰かに助けてって言わなきゃって、ずっと言ってるのに。そうテパは続けて、先に進んでいた。こんな小さな幼女でさえ危惧するほど、事態は悪化している。


「テパ、俺の武器、どこにあるかわかるか?」


 ロックの声に、テパは歩みを止めてゆっくりと振り返った、心配しているようなその眼の色は、ロックを見た瞬間に息を飲んだ。

 後悔するなら、いくらでもできる。でもそれでは前に進めない。今まで教会の人間がどれだけ苦しんできたのか、ロックにはそれを図ることは出来ない。


 だが、今苦しんでいる人間を放置していい理由にならない。苦しんでいるなら手を差し伸べる、それがロックの目指すべき魔導士だ。


「武器? どうしたのロックお兄ちゃん」


「戦う、湖のやつ。その為にはあの剣がいるんだ」


「え、え!? だって、教会のみんなにも勝てなかったのに、ロックお兄ちゃんが勝てるわけないよ! このままいけば山の反対側に繋がってるから、そのまま学園に戻ったほうがいいよ!」


「でも、助けてほしいんだろ?」


 ロックの言葉に、テパは口をつぐんだ。ずっと、誰かに助けてほしいと言葉にしていた彼女は、ただの一言もロックに助けてくれとは言わなかった。おおよそ神殿での戦闘を見ていたのだろう、今は危険が及ばぬように外に連れ出そうとしてくれていたようだった。

 だがしかし、不意に出たその言葉の真意をロックは歩いているうちに少しずつ見抜いた。外に繋がる道があるというのなら、いくらでも助けを呼びに行けるはずだし、その年には重すぎる仕置きから逃げ出すことだって出来たはず。だが、彼女が決してそうしなかった理由。


「ここにいる教会のみんなも、助けてほしいんだろ?」


 幼い子どもに鞭打っていることが世間に知られれば、孤児を保護するべき教会は崩壊する。新種の魔物がいることも、無闇に話せば教会の人間に猜疑が向けられる。他に目撃例が王宮にしかないのだ、教会の人間が連れ込んだのではないかと疑われる可能性だってある。

 彼らは、処理できない問題を、誰にも相談できない形で抱え込んでしまったに過ぎないのだ。彼らに出来うる限りの方法で被害を抑えようと動いた結果、精霊王の神殿内に押し込むことしかできなかった。だからこそ、彼らにも救いは必要だと分かってもらえる人でないとだめった。

 テパはそれが分かっていたから外に逃げ出すことが出来なかった。テパの、希望を示されて呆然とした顔を眺めながら、ロックは確信した。


「助けて、くれるの……? ほんとに?」


「おぅ、それなりに強いからな、多分」


 おずおずと、震える声を絞り出したテパに、ロックは答えた。多分ってなに、とテパは眉を下げながらも、初めてニッコリと笑った。


「武器はみんなあんまり使えないから、多分、物置の方にあると思う」


「俺のほかにも仲間がいたと思うんだが、そいつらはどうなったかわかるか?」


「別の地下牢、でもあっちは、人数が多いから見張りがいて、近寄れなくって」


「人数は?」


「え? 三人、くらいだと思うけど」


 よし、と一人呟いたロックに、テパは怪訝な表情をする。いいからいいからと、ロックはテパを促して先に進んだ。

 そのまま剣がある物置まで、来た道を戻り別の穴をくぐり、しばらくすると壁沿いのような直線になったところで、テパは外の様子を壁に耳を当てて確認した後、隠し扉を開いた。

 物置というだけあって、日用品から掃除道具など生活感のあるものが整然と並べられている。それほど大きい部屋ではないが、あまり使われていないのか、並べられた箱や棚は埃をかぶり、蜘蛛の巣が所々張っていた。使われていないせいで薄暗い中目を凝らして探し、闇に視界が慣れてきたころに発見した。

 ロックの武器である剣は、他の捕まった者の武器と一緒くたにされて床の上に無造作に投げ捨てられてあった。音をたてないようにそっと引き抜き眺めてみたが、特に使えないように傷つけられていたなどはしておらず、そっと腰の鞘に戻す。

 どうしようかと迷ったが、とりあえずパーティメンバーの武器だけ手に取り持っていくことにした。それ以上持てば通路は通れないし、講師達は多少武器がなくとも魔法で最低限の自衛は出来るはず。なんならここの場所を伝えてもいいと考えた。

 隠し扉から通路に戻り、そのままテパに案内されて、別の地下牢にたどり着く、静かにするよう口に人差し指を当てたテパの様子から、隠し扉からそう遠くはない場所に見張りがいることが分かった。

 持ってきた他の武器をそっと下におろし、テパにその後ろで待機しておくように促す。脱いでからずっと隠し持っていた例のガウンを着た後、なるべく音を立てないよう、慎重に隠し扉を開いた。

 見張りは三人、神父にしてはやたら屈強な体格をした男が三人、何か話し合いをしながらも警戒した視線を向けている。その視線を辿ってみれば、武器を取り上げられたジェイド達がいた。それほど大きくない石で出来た部屋に、後付けで取り付けたような鉄格子がはめ込まれている。監視から一定の距離を開けるように格子から離れて壁の方に集まり、先ほどの戦闘で怪我をした講師が何名か、治療魔法で手当てを受けている。どうやら神殿の壁に当たる白い壁などは言わずもがな、鉄格子には魔法が効かないように細工されているようで、魔法を扱えるものの脱出が出来ない状態のようだった。

 自分ほど酷い目にはあっていなさそうなその様子に、ロックはひとまず胸をなでおろすと、見張りの方に視線を戻す。ロックがその場にいる事には、ガウンのおかげで全く気付いていない。

 ロックがとりあえず気絶させようかと近付こうとした矢先、伝令だろうか、慌てた様子で扉のない出入り口の方から一人の神父が飛び込んできた。自分が脱走したことが発覚して伝えに来たのかと一瞬肝を冷やすが、神父の口から出たのはその程度のことではなかった。


「湖だ! 全員集まれ! 一斉に暴れ始めた!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ