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外出

 外出申請をする為、ロックと荷物を部屋に置いてきたアリアナは、寮から外に出た。初夏の少し汗ばむ気温に、太陽の光が顔を照らす。

 並べられた生垣に沿って道を進んでいくと、十分もしないうちに正門にたどり着いた。正門横に総合受付があり、ここで大抵の申請をする為だ。

 講義期間であれば、依頼などの理由のない外出は許可されないが、幸い今は夏季休暇中。寮に残っている生徒でも、申請書類さえ出せばいつでも外出できる。二人で羊皮紙の申請書に必要事項を記載して提出し、すぐ傍の正門の外へと歩いて行った。

 学園内には、それぞれの国との提携により、転移魔法陣が設置されている。転移する場合、双方ともに書類により申請して許可を得ることが必要である。国によって大まかに転移魔法陣の部屋は決まってはいるが、悪用されることを考慮し、学内それぞれにバラバラに配置され、常に講師の一人が監視の意味でついている。

 もっとも今回の場所は、学園からさして遠くない、むしろ一番近い町だ。まだ午前中でもあるので、歩いていくことにしたのだ。

 学園へは諸外国の要人も馬車で赴くため、一番近い町からの道はかなり整備が行き届いている。平らにならされた熱気が返される石畳を歩きながら、ロックはアリアナの気をそらすために、夏季休暇中のほかのメンバーについて話題をあげた。


「ジェイドんところは結局どうなったのかわかるか? 俺には何にも話さねぇんだよあいつ」


「貴族位は剥奪されましたので、庶民になった。といいましょうかね。今回の帰省は、家の人間が誰一人いなくなってしまったので、事後処理に追われているようですけれど」


「事後処理?」


「雇っていた使用人とか、家具や屋敷とか、領地や民についてとか。家の人間でないと処理できないものもありますが、今はジェイド以外全員監禁されておりますので」


「あいつしか処理できる人間がいないから、引っ張り込まれたと」


「親戚方も、大罪を犯した家とは縁を切るでしょうからね」


 何やら大変なことになっている様子なのが話から推察できるが、アリアナはあまり気にしていない様子だった。


「まぁ、ジェイド様なら上手く処理なさるでしょう。「これさえ終われば貴族からおさらばして自由の身だ」って、転移魔法陣に入る前に嬉しそうにおっしゃっていましたから」


 どうやらジェイドは貴族に対してあまりいい目を見ていなかったようだ。まぁ本人がそういうならと思い、ロックはもう一人に話題を変える。


「ヨハンからは手紙がちょくちょく届いてる。追加でまた使い魔増やしてるっぽい」


「すでに十数体いましたわよね? そんなに抱え込んで対処できるのでしょうか……」


「知らん。だけどヨハンは魔物に好かれやすく、勝手に寄ってくるらしい」


 羨まし気にロックがこぼすと、アリアナは小さく笑った。

 そもそも使い魔コレクターを自称するほどであるのに、ヨハン本人にはあまり戦闘力がなかったため、ロックは以前に疑問を持ち聞いた事がある。

 ヨハン曰く、最初は怪我をした魔物の介抱をしたら懐いたらしく、しかし魔物に対して真摯に対応していたのが評価を得たのか、魔物同士の連絡網によりどんどん増えていったようだった。学園に入学して判明したことだが、ヨハンの魔法は、魔物に好かれやすくなる魔法、らしい。


「なるほど、魅惑魔法の一種でしょうか、魔物限定ですけど」


「その分厄介な魔物も寄ってきやすいって話もあるってよ」


「それならなおの事ロックベルのパーティでよかったですわね。厄介な魔物を制するのに、魔王ほどの適任はいらっしゃいません」


「やめてくれよ……」


 オブティアスとルシフォードは休暇中、魔王の城に戻っている。「一緒に城に来ようぜ、兄貴の部屋を案内してやる!」というオブティアスからの誘いを、ロックは全力で断った。

 夏季休暇に入るまで、学年が違うというのにオブティアスはちょくちょくロックの前に現れては、新しく出来た甥に気に入られようと色々画策してきた。

 おかげで学年最下位から脱出したというのに、今度は魔王の親戚であるという事実が瞬く間に広まってしまい、以前にもまして人が寄り付かなくなってきたのである。

 そんなことは露知らず、オブティアスは相変わらずロックに「ブティ兄ちゃん」と呼ばせようと、事ある毎に絡んできて、ロックはだいぶ滅入っていたので、夏季休暇の一人の時間は正直ありがたかった。

 そんな実情を知っているパーティメンバーは、ロックのオブティアスの扱いについて茶化してくるようになった。もちろん最初に茶化したのは使い魔のマリーだ。


「生徒会長たちは、アリアナの一件に巻き込まれなかったのか?」


 意趣返しの意味合いで言った後で、ロックはこの話題からそらすために話を始めたことを思い出して、しまったという顔をした。

 ゆっくりとアリアナの方を見れば、またもや黒い靄を背後に、不気味な笑顔でフフフと口から声が漏れている。


「よくも忘れかけていたことに話題を戻しましたわね、ロックベル。まぁいいですわ、お兄様とゼギル殿下はおっしゃる通り対応に追われていらっしゃいます」


「そ、そうか。あ、町が見えてきたぞ!」


 この会話をしてはいけないと本能的に察知したロックは、前に見えてきた街への検問所を指さして話題を変える。

 グランクロイツ魔導学園はどの国にも属さない。その為学園のみであるにも関わらず、一つの国のような扱いを受けている。そのため学園に面する場所は、その国からは国外と認識されるため、検問所を通る必要があるのだ。

 といっても名高いグランクロイツ魔導学園であるため、そこに所属しているならば、学生ならば学生証を、講師ならば免許証を提出して記録されるだけの、形式だけの検問所であるが。

 学生証を提出して記録してもらい、検問所を通過してナハム公国に入国する。

 学園と直に交渉する貴族が寝泊まりするための施設を有するため、国の末端に位置する町にしてはかなり大きく賑やかだ。

 初夏の虫の喧騒だけが響いていた先ほどまでの道のりとは異なり、聞こえてくるのは活気あふれる住人や店員の呼び声や話し声。

 そんな彼らの中を歩いていくと、物珍し気な目線がロック達に向かった。

 学生であることを証明するため、グランクロイツでは生徒は全員学生服着用が義務付けされている。青を基調とした、軍服のようなデザインが基準ではあるが、個性豊かな魔法を扱う利便性を重視して、改造が許可されている。

 校章と腕章さえ残して、青を基調とするならばあとは自由にしてくれという、かなり幅のきいた改造許可だ。

 ロックは入学時に魔法が使えなかったうえ、吸収魔法が発動するようになった今でも、特に影響はないのでデフォルトのデザインのまま。

 アリアナは貴族らしいフリルとリボンとレースが追加され、スカートもドレスのようにふんわりとなびいてお淑やかさが際立っていた。

 ようするに、町を歩けばグランクロイツ魔導学園の生徒はかなり目立つ。その為好奇の目を向けられることは多い。貴族としての交渉が多い町といっても、学生が多く訪れるのはまた別の話だからだ。

 さらに言えば、一見して不良生徒っぽいロックと、明らかに高貴な貴族様であるアリアナがセットで歩いているので、余計目立っているのだ。


「依頼の時も歩いたけど、やっぱ視線が痛い」


「仕方ありませんわよ、今回はパーティでの行動でもありませんから。何の用かと勘繰られているのでしょう」


 依頼を受けた時は四人で行動していたため、どこかの依頼かと思われたのかあまり注目されなかった。それが今回は明らかにパーティではない二人行動だったので、一体何だと興味を持たれたようだった。

 いたたまれず二人は足早になって、人通りの多い道を抜け、そそくさと町から出て教会に向かった。


 前回は依頼であったため神父が待ち受けていたが、今回は相談であり、尚且つ決まった日時による待ち合わせでもない。

 教会は誰でも出入り自由のため、扉は基本的に開いているので、そこから中に入った。

 扉から入れば中は聖堂だった。設置されたものが左右対称にそろえられ、石で作られた装飾の施された柱が数本壁から覗き、左右横長の椅子が十ほど縦に並び、その間の通路に赤い絨毯が敷かれている。その先に教卓と同じほどの台座が置かれ、神父がここで話をしたりするのだろうと見て取れた。

 正面から台座に向かう壁を見れば、人と同じほどの大きさの十字架が中央に設置され、その上を覆うようにステンドグラスがはめ込まれており、夏の日差しが色を付けて聖堂内に淡い光を差し込んでいる。

 依頼時は中までは見なかったことから、清潔でありながらも、金銭が恵まれないのか古びた感じはロック自身の育った教会に似ており、どこも同じなのだなと親近感を覚える。


「わ、わざわざ来てくださったんですか!?」


 正面壁の右脇に設置された木製の扉が開いて、誰かが出てくると、プラチナブロンドの髪をゆらりと揺らして、その視線がロック達を見つけ目を見開く。

 その声色に、ロックが内心癒されると同時に顔が火照ったのを、アリアナは見逃さなかった。

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