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性質


「ご主人の魔法の性質は吸収。他人の魔法を取り込んで自分の魔力に変える力を持ってるの。入学検査でやたら魔力だけ高かったっていう話があったでしょう? 高くて当然なのよ。人一倍周りから魔力を吸収する能力が高いんだから。でもこの性質は人間には不向きなのよ。人間の魔法の性質は家族の家系が大きく関わってくるけど、どっちかの家系が病弱じゃなかったかしら?」


 マリーに促されて、ロックは幼い頃を必死に思い出す。そして、幼いながらも、そういえばそんな話を聞いた事があることを思い出した。


「母方の家系は、昔から早死にが多かったって一度だけ聞いたような、おふくろも実際病弱で寝たきりだった」


「人一倍魔力を吸収するから、人間の脆い体じゃその負荷に耐えられないのよ。だからこの魔法の性質を持ってる人間は大概早死にするのよね。幸いなことに、ご主人は体が頑丈に生まれたのと、幼い頃から鍛えてたお陰でその負荷に耐えられたから生き延びることが出来たってわけ」


 確かに病気らしい病気にも罹らなかったし、怪我の治りも人一倍早かった。

 生まれつきそんな頑丈な体に加えて、魔導士になるためにと必死に鍛錬をしてきたため、ロックは魔法の性質にこそ気付かないものの、影響がなかったらしい。


「負荷に耐えられたとしても、その性質だと実用出来るまで相当体を鍛える必要があるのよ。魔法を他の人間と同じように使おうとしても、自分の性質が邪魔をして、放出しようとした魔力を勝手に吸収しちゃうわけ」


「魔法を使おうとしてもその魔法に必要な分の魔力も使う前に勝手に吸収して戻っちまうってことか?」


「そういうこと。だから人にどれだけ教わっても魔法をまともに使えないのよ」


 体の中の魔力が使おうとしても吸収するように動いてしまうため、魔力を溜め込むだけ溜め込んで、体の中で循環している状態らしい。勝手に体に溜まっていくのに、放出することがとてつもなく難しいのだ。確かに人間には不向きの性質だった。

 マリーによると、この性質の魔法を持った人間は生まれること自体は珍しくないらしい。ただ負荷に耐えられるだけの体を持つ前に絶命してしまうほうが圧倒的に多く、尚且つ人間だけでは原因が解明できないため、未知の病としての病死と判断されることがほとんどだそうだ。

 未知の病として幼い頃に死に絶えてしまう一族は実際にいくらかあったはずだと、アリアナが思い出すように口にする。


「そんな状態だから魔力だけが馬鹿みたいに膨らんで負荷に耐えられなくなって、破裂して死ぬ。大概の人間はそうやって早死にする。だから生きてる状態でその性質持ってるご主人は希少なわけ。そんでもって、そこまで生きながらえた場合、吸収の魔法にはいろいろと副作用が生じているわ」


 マリーはここまで話して一息つくように、いつから持っていたのか紅茶を一口含んで、先を続けてほしいと固唾をのんで見守る五人を眺めながら話を続ける。


「まず防御魔法の無意識の無効化。自分の中に魔法を取り込んで自分の魔力に変えちゃうから、防御魔法を取り込んで、自分の魔法に変えるの。だから防御魔法が反応しなくなる。あくまで設置された魔法だから、完全に消滅させてしまうほどの無効化は、よっぽど意識しないとできないでしょうけど」


 ロックは呆然としながらも、心当たりのあることを思い出す。《願い石》を取りに行ったときも、防御魔法があったはずなのに発動しなかった。今回のレンガの建物に入った際も、ロックが先頭に立って入ったため、無効化されてしまったとしたら、話の辻褄が合う。

 しかし無効化した後でその場所を調べても、無効化する前と特に変化はなかったことも思い出した。

 シュバイツもそのことに気付いてマリーに聞いてみたが、あくまでその場にいる際、無意識に無効化しているにすぎないため、その場を離れれば元の状態に戻るらしい。

 だからハンニバルもその変化に気づけなかったのだ。その為特に警備魔法に関して心配するようなことはないと言われる。


「それから、私ぐらいじゃないと使い魔はまず付かないでしょうね。近くにいる使い魔の魔力も吸収するから。魔力は魔物にとって生命力そのもの。自分の命を常に吸収されながらなんて、どの魔物もごめんでしょうよ」


 ロックは初めて自分にまともに魔法が使えないことと、使い魔が付かない本当の理由を知った。魔力を放出しようとしたと同時に吸収しようとする力も働くのだ、そんな状態で魔法がまともに使えるはずがなかった。

 使い魔にしたってマリーの言う通り、たとえロック自身がどれだけ強くとも、命を常に削られ続ける様な相手となど、どんな魔物が好き好んで使い魔契約などしようか。

 ここまではっきりとした理由があったことに、ロックは口をあんぐりと開けて驚いていた。その場にいたパーティメンバーやシュバイツさえも、予想していなかった理由に愕然としている。

 テイマーであるヨハンも驚いたものの、なるほどと納得するように喉を鳴らした。人間は魔物に比べて魔力の感知が鈍いので、吸収魔法に気付くことが出来ない可能性があり、逆に魔物は生命力そのものであるがゆえに、その魔力の動きを感知して逃げ出したのではと推察した。


「お前は、その、大丈夫なのか? 魔力吸収されて」


「あーら、ご主人程度の人間に、私の魔力が全て吸収されるとでも思ってんの?」


 お馬鹿さんとでもいうように、蔑んだ瞳でマリーはロックを見下ろしてきた。余裕釈然としたその態度からは、魔力が吸収されていることに関する危機感は見受けられない。


「そんじょそこらの魔物や、昨日の青二才魔王と一緒にしないでくれる? ご主人が吸収している魔力なんて、私にとっては微々たるもの。そんなの一々気にしてやるほど、ケチじゃないのよ私は」


 鼻で笑われたロックはとりあえず大丈夫そうだと安心した。にしてもこの使い魔は昨日対峙した魔王に対してなんて呼び方をしたのだろうか。この使い魔も一応魔物ではある、それもかなり強力な部類に入るだろう。昨日は直接会うことはなかったが、ひょっとしてあの魔王と面識でもあったのだろうか。


「青二才て、ひょっとして魔王と知り合いだったりするのか?」


「まさか、知り合いなわけないでしょ。魔王っても即位して千年もたってない青臭いガキなんか知るわけないわ」


 約九百年が青臭いガキ。またしても使い魔から信じられないようなとんでもない発言が飛び出してきたが、この様子から知り合いではないようだ。マリーの性格からその辺りの説明を求めても答える気はないだろう。

 ロックはとりあえず置いておいて、魔法の性質の話を続ける。話を聞いていて一つ疑問に思ったのだ。

 他人の魔法を魔力として吸収するのがロックの魔法の性質なら、ひょっとすると他の魔導士のような普通の魔法はロックには使えないのではないかと気付いたのだ。そのことに絶望し、恐る恐るマリーに問いかける。


「周りの魔法を吸収するのが俺の魔法なら、普通の魔法ってのはもう使えないのか?」


「あら、使えるわよ。切り替えればいいだけだもの」


 あっさりと否定されて、ロックは逆に驚いた。そして安心もした。もしまともに魔法が使えないとなると、魔導士としてこの学園にいられるかわからなくなるからだ。


「吸収の魔法を意図して使えるようになれば、逆に意図して止められるようになる。吸収を止めた状態なら普通の魔法も使えるわよ」


 つまり、魔法を使おうとした際に阻害してくる吸収の魔法を意図的に止めれば通常の魔法が使えるようになるということだ。

 ややこしいことだが、出来るようになれば、蓄積した魔力の多いロックは相当な戦力になるかもしれない。

 ようやく魔法が使えるかもしれないと光明を見出したロックは、期待しながらマリーにそのやり方を聞いた。


「で、どうすればそれはできるんだ?」


「こればっかりは感性が物を言うから、本人の感覚で切り替えるしかない。だから言ってんのよ、訓練しろって」


 何を言ってもマリーが訓練をしろとしか返してこなかった本当の理由をここで理解して、ロックは希望から絶望へと叩き落されたのだった。

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