結成
パーティ申請することが決まり、申請用紙をシュバイツから受け取ったロック。とりあえずパーティ参加者のロック、アリアナ、ジェイド、ヨハンの四人の名前を記入したが、そこで問題に突き当たる。
だれがリーダーをするかについてだ。なぜか満場一致でロックがリーダーになるべきだというのだ。
ジェイドは自分がなることを嫌がり、アリアナはマリーとの決闘の際に慢心があったため務まらないと語り、ヨハンはテイマー以外実力不足だと投げた。アリアナの話には納得できるが、ジェイドとヨハンは面倒だからやりたくないように見える。
もちろんロックもリーダーなんて面倒なことはやりたくはない。
学問最下位成績であるのだから当然知識は劣っているし、魔法も使えない。どちらかというと敵陣に突っ込んでいくタイプなので、指揮することには向いていないと思っているからだ。
全員にどう反論するか考えるよりも先に、ヨハンがマリーの方を見ながら口を開いてロックを説得する。
「でも君の使い魔をある程度制御できるのも、君だけだろう?」
「別にリーダーが俺に指示してくれれば、命令するけど」
「でもその場合、使い魔はロックの直接的な意志じゃないから、従わないんじゃないかな」
テイマーとしての経験や知識の多いヨハンは、朝から友人になったにも関わらず、昼食までの間にマリーを観察したことでその行動パターンをある程度分析したという。流石の行動力にロックは脱帽した。
言われてみれば、教師からマリーを教室の外に出せとか、召喚解除をして姿を消させておけと言われて命令してみたが、どれも拒否どころか完全に無視されたことがある。
なるほどと納得すると同時に、ロック以外がリーダーになった場合、そのリーダーに従わない危険性を認識した。
「それで俺をリーダーに指名してるのか?」
「他の人がリーダーになって、ロックの使い魔が言うこと聞かなくなったら困るじゃん」
「大丈夫ですわよ。リーダーはパーティ申請を行った後からでも変更手続き出来ますので。今はロックベルが適切だと思いますわ」
一番力あって尚且つ問題行動が多いからこそ、マリーをどう制するかがこのパーティでの一番の問題点かもしれない。
そうするとロックがその問題を解決するのに一番適しているからこそ、今はリーダーになったほうがいいという他のメンバーからの提案だった。
結局押し込まれてしまい、流されるままロックがリーダーとして、パーティの申請書に記入して提出したのだった。
「でもま、これで依頼は受けられるようになったわけだ」
納得のいかない表情で戻ってきたロックに、ジェイドがいつものヘラヘラした顔で声をかけてくる。
学園にはパーティを組んだ学生に、地方からの依頼を受けられるシステムがある。依頼は学園の担当部門によって難易度別にランク分けされており、未熟な魔導士生徒の成長を促すとともに、地方の奉仕活動につながる、両方にとって得になるシステムだ。
地方に足を運び、尚且つ討伐任務が多いため単独行動は危険と判断されており、依頼を受ける最低条件はパーティを組んでいることとなっている。
ロックは強くなるためと地方を守るこのシステムにとても興味を持っていたが、パーティを組むことが絶望的だったため、かなり肩を落として諦めていたのをジェイドは知っている。
「あっそうか! パーティ組んだし、依頼受けられんのか!」
「最初は学園近くの町の、レベルの低い依頼からですわよ。ロックベル」
「それでも受けられるんならいいってもんよ」
ロックのこれまでにない浮かれぶりに、アリアナとヨハンは面食らった。ジェイドは何やらほほえましい幼い子どもを見るような目で見ており、マリーはうるさいとばかりずっと背を向けている。
パーティ申請をしていたため少し遅れて昼食をとったのち、午後の実技講習を終えて、ロックは一人足早に依頼が張り出されている区画へと向かった。
掲示板にピンで張り出されている依頼書は、難易度別に大雑把に区画されており、左に行くほど難易度が高い。これは入学時の学園案内で教えられていたことだ。
一番難易度の低い右側には「初めての依頼」と貼り紙がされている。内容はほとんど迷子になったペットの捜索か、一番弱いスライムを一体倒してくることだ。
「いつになく張り切っておりますね、リーダー」
「うっせ」
しばらく掲示板を眺めていたら、ようやく追いついてきたらしいジェイドが茶化してくる。アリアナとヨハンもその後ろから追いついてくるのが見えた。
マリーは昼食を終えたあたりから姿を消しているようで、ずっといない状態だ。
アリアナとヨハンもすぐ近くまで来ると、ロックの隣から掲示板を見て内容を確認する。
「まぁ初めての依頼なら、このあたりが妥当ですわよね」
「試しにどれかやってみる? いい機会だと思うよ」
アリアナとヨハンも依頼を受けることには賛成のようだ。そして決定権はリーダーにあると言わんばかりに期待の込められた目でロックを見つめていた。
突然のことにロックは動揺するものの、掲示板を真剣に眺めた後、目に留まった一つを手に取った。
後ろからヨハンとアリアナが覗き込んで内容を確認する。
「これは教会からだね。学園から一番近い奴で、内容は……」
「薬草採取の護衛、ですわね」
「俺も孤児で教会出身だけど、この手の依頼出しても来てくれた試しがなかったからさ」
慈善活動と言っても、学生たちは自分たちが強くなるための訓練を望む。
その為魔物の討伐依頼が一番好まれるのは当然である。
また、魔導士としての顔を売っておきたいと考えるためか、貴族からのペットの捜索依頼も討伐に次いで人気があった。
そのため、慈善活動としての依頼は学園側が世間から望まれる程こなせていないのが現状である。
貴族が慈善活動の建前として寄付金を与える程度の教会からの依頼は、場合によっては全く魔物とも遭遇しない護衛任務であるから、必然的に生徒たちから優先度がかなり下げられていたのだ。
しかし教会は孤児を預かることが多いため、子どもが多いと必然的に怪我の頻度も増える。小さな怪我でも場合によっては感染症を誘発する可能性があるため、医薬品は教会からしてみれば生活必需品であった。
寄付金で子どもたちの食糧費をまかなっていた教会では、薬草のためにまでお金は回らない。病気のための薬など高価で夢のまた夢だった。
そのため、藁にも縋る思い出こういった依頼を学園や騎士団などに送ってはいたのだが、勝手に優先順位を下げられていたため、自分たちで警戒しながら取りに行くしかなかったのだ。
「……ロックは純粋に、人助けがしたくて魔導士を目指してるんだね」
ヨハンは教会からの依頼に思い出に耽っていたロックをみて零す。
ロックは驚いて周りを見て、魔導士とはそういうものじゃないのかと逆に聞き返した。
聞き返した時に、ジェイドの表情が一瞬曇ったのも見て、そういえば貴族で拍が付くからジェイドはここにいることを思い出す。
「違うと思うよ。この学園は厳しいけれど、入れるだけの実力さえあれば、庶民でも学ぶことが出来る。僕はテイマーとしての職に付きたかったから、この学園に入ったんだ。庶民生まれの子はこの学園を卒業すれば、確かな職が約束されるから。みんな働き口を目指して入ってる子の方が多いよ。まぁ、庶民生まれは物語に影響されやすいから、まったくいないわけじゃないだろうけど」
「貴族の方も、魔導士として資格が認められるこの学園を卒業すれば、拍が付くので入学している者が多いです。私は淑女であろうとも自衛が出来るようにとこの学園に入れられましたが、魔導士として独り立ちするのは家の許しが降りないでしょうね。本来の魔導士の役割である英雄を目指してこの学園に入っている方は、貴族の中では皆無でしょう」
想像できなかったわけではなかった。ノーマンのような男がいるように、この学園にくる生徒たちにはそれぞれの人生があり、それぞれの考えがあって入学している。それを否定するつもりはロックにもなかった。
だけど予想していた以上の人間が私情で入学していたことに改めて驚かされる。
「まぁそいつらにはそいつらの考えがあってのことだし、俺は俺の目指してる魔導士になれればそれでいい」
自分に言い聞かせるようにそう呟いて、依頼を受けるために学園内になる依頼受付へと歩き出す。
ロックのそんな反応に他の三人は驚いたものの、しばらくして彼に続くように後ろから足音が聞こえてきた。