決闘-2
決闘の仕組みはアリアナとマリーの対戦により、大体把握できていた。
しかし今回はロック自身が戦闘に参加することになる為、事前準備を欠かさないようにする。といっても、鎧なんて高価なものは持ち合わせていないので、自身の武器である両手剣を丁寧に手入れするだけだが。
この両手剣は、両親の死後に形見として手渡された唯一のものだった。
人里離れた森の中に住んでいたロックの両親が、魔物から身を守るために持っていたとみられている。
孤児になり教会に預けられる際も、武器であることを理由に取り上げられそうになったのを、魔物に襲われたことと唯一の形見であることから絶対に手放さなかった。結局教会側が折れて、教会内で他の人間に向けないことを絶対条件に受け入れられたのだった。
そんなこの両手剣だが、どうにも魔力が備わっているらしい。振るえば任意の魔法が使えるらしいのだが、魔法が使えないロックには当然宝の持ち腐れだった。
魔力が付いていることにも気付かなかった彼だが、魔物とたびたび戦っているにもかかわらず妙に物持ちがいいため不思議には思っていた。
両手剣をみたマリーが何かに気づいたように声を漏らしたため追及したところ、魔力があると判ったのが事の経緯だ。
形見の両手剣を携えて決闘場に赴く。
ヨハンの決闘申請はまたもやあっさり通ったようだが、アリアナの時とは違い、少し小さめの決闘場になっている。本来新入生が主だって使う場所だ。審判は言わずもがな担任のシュバイツが担当している。
ヨハンが多くの魔物を使い魔にしていることは本当だった。ワーグが五体、斧を構えたリザードマンが三体。
これで全ての使い魔ではないらしいが、曰く「ロックは一人で戦うのにあまり多く出すとこっちが悪者っぽくなる」というヨハンなりの気遣いらしい。
ロックは一通りの準備体操を行って体に不調がないか確認する。最初は見学者がまばらにいたのだが、ロックが戦闘すると分かるや否やみな戻っていった。
彼らが見たかったのはマリーの戦闘らしい。
決闘場の中央付近で向かい合い、ロックは両手剣を、ヨハンは弓矢をそれぞれ構えた。
「では、はじめ!」
シュバイツの号令を合図に、ヨハンの使い魔が一斉にロックに襲い掛かってきた。
ロックは自分を落ち着かせるように深く深呼吸すると、ワーグ五体が一斉に飛び掛かってくるタイミングを見計らって横に剣を大きく振るう。
空中にいたワーグは避ける事が出来ず、正面からその攻撃を受けた。
訓練によって鍛えられていたロックの剣は、通常の魔物であればもはや一振りで簡単に倒せてしまうほどに成長していた。
攻撃を受けたワーグは五体全て、頭部から尻尾まで途中で止まることなく、まるでバターのように簡単に二つにスライスされる。
どさりとその場に落ちたワーグが動くことはなく、壊れた人形のように崩れ落ちていたが、しばらくするとヨハンが召喚を解除して、魔法の光となって消えた。
「こんな思いっきり倒すつもりはなかった、すまん」
「いや、いい。決闘が終わった後使い魔復活魔法を使うから」
さすがに一撃でワーグ五体全て葬り去ることが出来るとはロックも考えてなかった。
ワーグ自体は下級の魔物であるが、ゴブリンよりは強い。訓練をしていても簡単に倒せるものだと思っていなかったのだ。
ワーグの厄介な点はその素早さ、まずはどこか負傷させてそれを抑えようと考えての行動だった。
驚きのあまり目を見開いて固まっていたヨハンだったが、召喚を解除した今は冷静になっている。
リザードマンに指示を出し、三体のリザードマンが一定の距離をあけて、ロックを中心に反時計回りにゆっくりと回り始める。
ヨハンが弓に矢を構え、ゆっくりとロックに向けて狙いを定めている。
睨み合いながら、ギリギリまで弓弦を引き締める。張り詰めた緊張が解けるのと同時に、矢羽の部分を手放した。
ヨハンが弓を放つのを合図に、リザードマンが三方向から一斉に斧を振り上げて襲い掛かってくる。
一番早かった矢を切り落とし、リザードマンの間に飛び込み、前転しながら斧を回避する。
受け身を取りながら回転を利用し、地面を蹴って飛び起きる。そのまま体を横に回転させて、一番近くにいたリザードマンに切りかかる。
後ろに回り込んだ形になったため、リザードマンが斧で防御態勢をとる前に切りつけることが出来た。リザードマンが斜めに切られ、生暖かい液体が噴き出す。バタリと血だまりを作りながら倒れたそれも、ヨハンがすぐに召喚解除して光となり消える。
リザードマンが明らかに動揺している空気を感じ取り、ロックはそのままリザードマンの懐に走りこんだ。
斧で防御態勢をとったリザードマンに、下から剣を振り上げる。リザードマンが構えた斧ですら、まるで木の棒のように簡単にぽっきりと折れてしまう。
そのまま斧ごと縦に真二つになり、左右に分かれるように倒れ、また召喚解除されて光となる。
最後に残ったリザードマンは、ヨハンを守るようにその傍に警戒しながら後退する。
ヨハンは新たに矢を構えて、素早くロックに狙いを定め、今度は間を待たずに放った。的確にロックを捕えた矢であったが、マリーの訓練を受けた後では、ロックにとってはスローモーションを見ているかのように遅く感じた。
次々と連射されてくる矢を、ハエを叩き落すかのように的確に切り落としてヨハンの元に走り近づいていく。
リザードマンはロックか近づいてくるのに合わせてその手の斧を振り下ろし、ロックは剣を横に構えてそれを受け止める。雑誌でも丸めてチャンバラでもしているぐらいの威力しかロックには伝わらなかった。
腕に力を加えて斧を弾き飛ばし、そのままリザードマンに切りつけ、正面から攻撃を受けたリザードマンがその場に倒れた。
「うん、降参。無理。敗北しました!」
剣の切っ先を顔に向けられて、ヨハンはあっけなく両手を挙げて敗北を宣言した。
翌日ロックはヨハンと友人になった。
決闘ということで遠慮なく全力で切り込んではいたが、予想外の威力で使い魔を次々切り倒してしまったことに、ロックも少なからず罪悪感をあったので、事の経過を聞いてみると、使い魔復活魔法で怪我は回復したが、その分体力を消耗したので休ませているとのことだった。
「使い魔が多いとよく経験することだから、そんなに気にしなくていいよ」
心配していることが顔に出ていたのか、ヨハンが苦笑いしながら話す。
「にしてもロックベルって、思ったより話しやすいね。もっとガラ悪い感じだと思ってた」
「まぁ、よく言われる」
「ロックは目つき悪いだけだからな、中身はただの筋肉馬鹿だよ」
「えぇ、ただの筋肉馬鹿ですわね。肯定しますわ」
「やめろ! 誤解を与えんじゃねぇ!」
ヨハンと食堂で話していると、アリアナとジェイドがやってきて向かいの席に座ってきた。
昨日の決闘については一応二人にも話していたが、手続きがヨハン任せであったため、決闘の日時を教えることが出来ず、見学に来ることが出来なかった。
ヨハンとの様子から、どちらが勝ったかはすぐわかったようで、ヨハンにもそれぞれ自己紹介している。
二人とのやり取りも、あまり悪い印象は抱いていないようだった。
「しかしこれで四人行動できるようになったのですから、パーティ申請してもよろしいかもしれませんわね」
「えっ、この四人でパーティ組むのか?」
「バランスもそれなりにとれてるしいいんじゃないか、ヨハンはどう思う?」
「いいと思うよ、他の人たちはもうほとんどパーティ申請してるし」
魔導士として魔物対峙する際には、基本的にパーティを組んで行動する。
学園では四人以上でパーティが組めるようになるため、ロックはまだパーティの申請をしていなかった。
一緒につるんでいたジェイドはまだ納得できるとして、アリアナとヨハンはもう既に他の生徒とパーティを組んでいても不思議ではなかったのだが、どうやらまだ申請していなかったようだ。
アリアナの方は「貴族であることを理由にした方ばかりでお断りさせていただいておりました」と言い、ヨハンの方は「使い魔集めてたから人と触れ合う時間がなかった」と語る。
他の三人がいいのならとロックも同意し、パーティ申請をする為に、シュバイツの元に訪れに行くのであった。