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翌日

 見学から戻った翌日、朝礼で調査隊が新たに作られることになったという報告を聞いた。

 想定より多い魔物と遭遇したのはロック達だけではなく、むしろ見学に行ったほぼ全ての班が予想以上の魔物と遭遇し、生徒を連れたままでは危険と判断して早々に引き戻したという。

 生徒を戻した後緊急会議を開き、討伐隊を派遣。とりあえずしばらくは襲撃されないようにかなりの数の魔物を駆除したが、また増えないとも限らないため、原因を探るための調査隊が作られたとのことだ。

 ちなみに魔物と直接交戦したロック達だが、想定外の事態であることと、他の班も交戦してしまったところが多数あったため、今回はノーマンも含めてお咎めなしという結果になっている。


「さて、物騒な話はここまで。ところで諸君、入学してからもう少しで一ヶ月経つが、中間試験の準備は進んでいるかな?」


 シュバイツがさらりと告げたことに、ロックはガタンと椅子から落ちそうになった。他の席からも音が聞こえてきたため、動揺したのはロックだけではないことだけはわかった。

 中間試験、入学後ちょうど一ヶ月経つ頃に行われる試験であり、学内でどれだけ成長しているかを判断する重要な行事である。

 この最初の試験により、魔法の性質の判定が行われ、生徒一人一人により性質が伸ばせるような特別なカリキュラムに変更されるのだ。

 他の生徒は緊張などによって動揺したようだが、ロックはここ数日の度重なるアクシデントと訓練などによる詰め込まれたスケジュールのせいで、すっかり試験の事が頭から抜け出してしまっていた。

 まずい、と忘れていたことに若干冷や汗をかく。


「ま、実技はあくまで性質を見るためのものだからリラックスしてくれて構わない。といっても学内講習の筆記試験もあるから無理かもしれないが、まぁ頑張ってくれ」


 シュバイツがそう言い残して去って行ったあと、次の講師が来るまで教室内は中間試験の話題で持ちきりになった。



「ロックベル、また貴様はそうやって調子づいているな!」


 午前の講習後、ノーマンが懲りずにまた挑発するように近付いてきた。

 先日の一件の後、マリーに対してビクビク怯えていたが、あろうことかマリーは「苦情は責任者のこちらに」とロックに手を向けて誘導してきたのだ。

 自身が受けた屈辱を晴らす格好の獲物を見つけたとばかりに、ノーマンは以前にもまして口汚くロックを罵るようになった。昨日の放課後も言わずもがな、今朝も朝礼前にいつもの下端二人を引き連れて、さんざん貶そうとしてきたばかりだ。

 もっとも昨日も今日も、自分がやったことの反省をしろという、物凄い剣幕のアリアナに押し切られてしまい、早々に立ち去っていったのだが。


「昨日の件も運のいいことに罰を逃れたそうだな!」


「最初に手出ししたのはノーマンだろ」


「使い魔も自分の思う通りにできない様子だな!」


「お前に言われたかねぇな」


 ロックがノーマンにこれまで口を閉ざしてきていたのは、反論のしようがない正論を声高々に告げられていたためだ。逆を返せば、反論の余地のある矛盾に関しては黙っているつもりはなかった。

 ノーマンの嘲笑いながら繰り出す主張を、じっと目を見据えて一つ一つ丁寧に指摘して反論した。

 今まで反論してこなかったはずの相手が急に反論してきたことに、ノーマンは驚きの表情を見せ、気に入らないとばかりに顔をしかめて歯をきしませている。


「成績最下位の庶民風情のくせに! でしゃばるんじゃない!」


 現状では言い負かすことができないと判断したのか、悔しそうな顔をしたノーマンは吐き捨ててその場を後にし、下端が置いていかれまいとバタバタと慌ててその後を追っていく。

 まだ教材を片付けていたのか、アリアナとジェイドはそれぞれの席で座ったままその様子を見ていたようだが、ロックと目が合うと「よくやった」と言わんばかりに二人とも親指を上げてみせた。


「ロックベル・プライム! 君に決闘を申し込むぞ!」


 教材を片付けて昼食を取ろうと立ち上がりかけたその時に唐突に聞こえた叫び声に、ロックは勢いに押されて椅子から転げ落ちた。二度目の決闘申請に、まばらだった教室内が騒ぎ出す。

 決闘を申請してきたのは、ヨハン・スピネット。ラベンダーのような薄紫の外に向かってはねている癖毛に、黄土色をした瞳、ロックより少し低めの身長をした、同じく庶民出身の少年だった。

 彼とも話したことはないが、クラス内で使い魔を一番多く従えていることで有名であるため、ロックも顔と名前は憶えていた。

 そんな彼の決闘の申し出は想像に難くない。


「僕が勝った暁には、君のその使い魔の魔女をよこせ!」


 《願い石》で召還された使い魔は、前代未聞の魔女。使い魔コレクターを自称するヨハンからしてみれば激レア中の激レアだろう。おおよそ喉から手が出るほど欲しいに違いない。

 しかしマリーが召喚されてから今までの期間、彼はマリーについて話を聞きに来ることはなかった。決闘を申し込むにしても、どうしてこのタイミングで決行したのかについて疑問が浮かぶ。

 ロックが直接そのことに質問してみると、「いや、なんか最近忙しそうだったから声がかけられなかった」と、なんとも情けなさそうな顔をした。

 アリアナの個人講習にマリーの訓練、そしてトイレ掃除の罰と毎日やることが多くあちこち移動していたせいで、ヨハンはロックを捕まえることが出来なかったようだ。

 一方指定された本人であるマリーは、気にするほどの事でもないらしく、爪の手入れをしながらあくびをしている。ヨハンにもロックにも目もくれない暢気な様子だった。


「あー、じゃあ、俺が勝った場合は友達にでもなるか?」


 決闘を申し込まれた際のヨハンに対する希望が特になかったため、アリアナとマリーが行った決闘の際の申し出を真似てみる。

 なんだかんだいってもクラス一のテイマーであるため、マリーの扱いに関する相談は一番しやすいかもしれない。そんな考えがロックの脳裏をよぎった。

 ヨハンは一瞬キョトンとしたが、すぐに顔を振って疑念を払い、いいだろうとよく響く大きな声でこたえた。


「僕は使い魔たちと、僕自身で戦う! ロックベル、君も使い魔と共闘して構わないぞ!」


「やだ、ご主人だけで十分。わたしやらない」


 爪を磨きふっと削りカスを吹かして飛ばしながら、マリーは二人を見もせずに答える。

 自分は関係ないから他所でやってくれと言わんばかりの反応だ。交渉材料であり当事者のはずなのだが。


「毎回毎回、せめて俺の意見聞いてから言ってくんね?」


「やだ」


 定番の流れになりつつあることに危機感を感じてマリーに頼むが、それも呆気なく却下された。

 どうにもこの使い魔、ロックの意見を尊重するつもりは全くないらしい。無理やり使い魔にしたことに対する当てつけなのだろうかと、ロックは反省しながら少し後悔する。

 しかしマリーは今回の決闘はアリアナとの時と違い、ロック一人で十分だとはっきり言い切っている。

 そのことにロックは気付いており、マリーがそう言うなら大丈夫かと思いかけたが、訓練の実力設定の見誤りを思い出し、苦々しい顔になる。

 本当に自分一人で大丈夫だろうか。しかし申し出を言ってしまった手前、今更断ることができる空気でもない。


「それではシュバイツ先生に許可を取ってくるからな! 首を洗って待っていろ!」


 まだやるなんて言ってないのにと、ロックは背後にアリアナとジェイドの気配を感じながら、嬉々として走り出したヨハンの背中を複雑そうに見つめていた。

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