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9.子供の野良

魔族なんかが着る服装を売っている店だからどんな所に隠されているのかと思ったが、意外にも普通に服屋の隣に建っていた。


犬の魔族用、猫の魔族用、狼の魔族用、鳥の魔族用等様々な種族の服を販売しておりどれも作りが違う。


鳥用のだったら背中の部分に穴が開いていたりとか、狼用猫用等もそれぞれ生地が違ったり、犬用は頭から生えた垂れた耳が通るように襟の部分が大きくなってたりもするみたいだ。


他に面白いのと言えば⋯⋯、鹿の魔族の服だな。鹿の特徴と言えば頭のてっぺん付近から左右に伸びた角と、小さく可愛らしい尻尾が特徴的だ。


そのためかよくある普通のティー字のシャツは無く、襟の部分がボタンで閉じたり開いたりできるようになっているポロシャツが一般的らしいな。


「ご主人様、着れました!」


試着室のカーテンが横へと流れていき、白髪の彼女の新しい服装がお披露目された。


灰色のチュニックに丈の短い白のコートというよく分からない感じの服だったが、俺自身もセンスが良い訳でもないし、それで妥協するしかなかった。


「いいんじゃないか?それで」

「本当ですか?じゃあこれにします!」


ズボンもズボンであまり着飾っていないやわらかそうなズボンだし⋯⋯。

なんというか、全体的にふわっとした感じだな。


まぁ、これなら野良と思われることは減るだろうし、なんだっていいよな。




―――――――――――――――――




チャリリンと入口についた鈴の音を鳴らし、新しい綺麗な服を纏ったシルヴィを連れて店を出る。


元々着ていたみすぼらしい汚い服は店の方に処分してもらうことになった。持ってても邪魔になるだけだからな。


「次はどうしますか?エメラさんの所に行くんですか?」


「そうだな。特にすることもないし、仕事でも探さないと」


気が向いたら――とはつけたが、早く行ったって別に悪いことではないだろう。


覗くだけならタダだしな。仕事受けるのもタダだけど。

とりあえず来た道を戻って広場に出ないと話にならない。


「行くぞシルヴィ」


呼びかけるが返事が返ってこなかった。どうしたのかと彼女の方へ首を向けると、目的地に向かう道の反対をじーっと見つめ続けていた。


「ご主人様、あれ⋯⋯」


そう言って差した指の先には、二人の魔族と一人の人間が争うように声を上げていた。


トコトコとそちらへ歩き出していってしまうシルヴィを追いかけるように、俺もそこを目指して歩き出した。


二人の魔族はどちらも背が小さく、子供だというのは簡単に分かる。

そして人間である男は遠目から見ても普通に大人だ。これも分かる。


だが、リースもしくはリリースか、そうではないのか、それは分からない。

ただ使い魔に説教しているのか、野良に難癖をつけているのか、だ。


「⋯⋯んでダメなんだよ!」


「⋯⋯やめよ⋯⋯ねぇ⋯⋯」


「おまえ⋯⋯野良だから⋯⋯!」


近づくにつれて段々と話す内容が聞こえるレベルになってきた。内容から察するに⋯⋯これは後者だな。

シルヴィは魔族だから話している内容は完璧に聞こえているんだろうか。


魔族の二人の特徴も見えてきた。騒がしいのが男の子でもう一人は女の子。


男の子はぴょこんと犬のような耳を生やしている。ノエルと同じ狼の魔族のようだ。何やら頑丈そうな木の棒を片手に持っている。


女の子の方は隣の子と同様ぴょこんとした耳を生やしているが⋯⋯体が細く、男の子が生やしているふさふさした尻尾とは違い、細長くひょろっと伸びた猫の尻尾。つまり女の子の方は猫の魔族ってことだな。両手で箱の様な物を抱えている。


ある程度まで近づくとシルヴィは立ち止まり、チラリと俺の方を見た。先に行ってくれという事らしい。


ここはシルヴィにカッコいい所を見せてやらないとな!


「何してんだお前達。こんな人通りの少ない道でぎゃあぎゃあと、やかましいぞ」


騒いでいた三人に混じるように、そう話しながら仲裁に入った。


横目でシルヴィを見てみるが、嬉しそうに頷いてはくれなかった。このカッコつけ方ではダメだったみたいだ。さて、どうしたもんか⋯⋯。


唐突に割って入った俺に驚いたのか、少しだけ間が空いてから男は口を開いた。


「郊外に住んでる野良のガキがこんな所をうろついて、ましてや募金なんてしてるから叱ってやってたんだよ」


若干暴論気味の言い分を興奮気味に語りだした。


郊外というと、この城下町の城塞の外周りを指すんだよな。でも郊外に住んでるからって中に入ってはいけないのか?


疑問をぶちまけてやりたいところだが、こういう野良イコール悪!と考えてる連中は何を言っても無駄。言うだけ疲れるだけだ。


「確かにそうかもな。あとは俺が言っておくからあんたはもういいぞ。どっかに行ってな」

「ああん?」


不服そうにこちらを睨みつけてきたが、なんとかこの場を去っていってくれた。


もっと時間がかかると思っていただけに、なんだか拍子抜けだ。


男が道を曲がって姿が見えなくなるのを待ってからこの子達をなだめよう。


女の子の方はバツが悪そうに身をすくめているし、男の子はこちらに敵意剥き出しな眼差しを向けて今にも噛み付いて来そうな勢いだし⋯⋯。早く弁解しなきゃ。


――よし、曲がった曲がった。


「さてと、大丈夫だったかお前ら――」


ぽんっと頭に手を乗せようとしたその時だった。


「キュイに触るなっ!!」

「あだぁっ!?」


左手に痛みが走り、俺は声を上げてしまった。反射的に反対の腕で押さえる。


男の子が手に持っていた木の棒で俺の腕を全力で叩いてきたらしい。決して速い振りでは無かったが、突飛的な攻撃に反応できる訳もなくモロにくらってしまったのだ。


「――っ、くぅぅ――!」


柄にもなく情けない声を出していると、焦った様子でシルヴィが腕を覗き込んできた。


「ご主人様!?大丈夫ですか!?」


痛みは徐々に減ってきていたので、右手を離して元気そうに腕を見せてみた。


⋯⋯さすがに太い跡が赤く残ってしまっている。しかし相手は子供だ、激昴する時ではない。


目の前の二人、特に男の子の方は未だ尋常ではない程の敵意をこちらへと向け続けている。


「何するんですか!ご主人様はあなたたちを助けてあげたのに!」


「よせ、シルヴィ」


俺の代わりに激昴しているシルヴィを止めて、男の子の目をしっかりと見つめて語りかけた。


「俺たちはついさっきこの街に着いたばかりの旅人だ。野良だろうと魔族なのは同じ、俺はそんな偏見を持ったりはしていない」


こちらに敵意がないことを表すために、両腕を後ろに隠して話した。


「誰がそんなの信じるかよ、先生以外の人間はみんな同じだ」


荒々しく返事を返してくると、また鋭い眼光をこちらへ向けだした。


くそっ、完全に人間不信に陥っているぞ。確かに野良を良く思っていない人間の方が割合としては多いだろう。


だが、俺みたいにそうではない人間もいることを分かって欲しいのだが⋯⋯。


「ご主人様は他の人間たちとは違います!」


怒りに満ちた様子で男の子に詰め寄るシルヴィ。もう一度止めようと声をかけてみたが、聞こえていないみたいだった。


「モンスターに襲われた私を助けてくれて、野良で行くあてのなかった私を拾ってくれて、綺麗な服も買ってくれて、ご主人様は悪い人じゃありません!」


⋯⋯シルヴィ。


自分の体験談を語って俺を庇ってくれた彼女。元々野良だった彼女の言葉は俺なんかが語るよりも遥かに説得力が感じ取れた。


ハッと我に返り、男の子の前からこちらへと戻ってきた彼女に「ありがとな」と声をかけた。


「行こう。とりあえずあの男は追い払えたし、あとはもう大丈夫だろう」


彼らに背中を向ける。

シルヴィはなんだか不服そうだったが、来た道を歩き出すと横を並走し始めた。


⋯⋯さっ、仕事だ仕事。あの子供たちは見なかったことにして、さっさと集会所に向かおう。


「あっ、あのっ!」


小さな駆け足の音と共に背後から声がした。振り返ってみれば、先程までずっと口をつぐんでいた猫の女の子が箱を抱えたままこちらを見上げていた。


「何してんだよキュイ!」


その後ろから棒を持った男の子が一目散に駆けてくる。もし次も殴りかかってきたらその時は考え直さなければいけなくなるが⋯⋯そうならないことを願おう。


「腕、見せてもらえませんか?さっき殴られたところです」


小さな彼女は、あろうことか殴られた左腕を見せてくれと頼み込んできた。


元々叩いたのはこの子の相方だっていうのに、もしも見せたとして更に追い打ちをかけられたとしたらタダじゃすまないぞ。


⋯⋯いや、この子はそんなことしないな。心配、不安、恐怖、様々な感情が小さな体から溢れだしているのが分かる。


「ほら」と俺は左腕を見えるように女の子の前に突き出した。


「うわぁ⋯⋯見事に腫れちゃってますね⋯⋯」


覗き込むや否や、哀れみの声で俺に見たままの言葉を言い出した。そんなの俺だって見ればわかる。


「子供のしたことだ。気にしちゃいない」


二回目は許さないけどなと続けようとしたところだったが、その前に女の子が割り込んできた。


「私たちのお家に来ませんか?ぜひ、手当てさせてください」


――驚いた。いかにも人間を憎んでそうな境遇に会っていたのに、その人間を家に連れ込もうというのか。


別に俺は構わないし、手当てしてくれるなら直ぐにでも行きたいところだ。本音を言うと、結構痛いんだぞ。


「本気で言ってんのか!?人間だぞ!」

「クーンは黙ってて!」


男の子の方は警戒心からか否定的な感じだが、それを女の子が一蹴した。


「この人は本当に助けてくれただけなのに、クーンが勘違いして怪我させちゃったんだよ?」


つかつかと男の子に詰め寄っていき、威圧をかけている。目線を徐々に下に向いていき、耳も情けなくへにょりと曲がってしまった。


振り返り、「どうですか?」と再度尋ねてくる。


「どうします、ご主人様?」


「ここは好意に甘えさせてもらおう。お前らの家に上がらせてもらってもいいか?」


返事を聞くと、ぱぁっと顔を明るくさせてにっこりと頷いた。その子供らしい純粋そのものな笑顔は、俺を安心させてくれる何かがあった。


「じゃあ行きましょうか!こっちです!」


タタタと元気そうに道を駆けていく彼女を、俺とシルヴィと男の子、三人で後ろを追いかけていった。


「来るのはいいけど、うちの奴らに手出したら許さないからな!」


この子にはまだ信用されていないみたいだな。でも、あの女の子がいればこの子は大丈夫そうだな。

地名や人名って難しいよね。


人名だと「ル」とかを多用しちゃうんだ!

ルってつくと可愛くならない?なるよね?やったー!

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