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2.川沿いの街 ベゴニア

ノエルという魔族を背負い、ベゴニアに向かう俺達。目的地はもうすぐだ。


「ジャスティさんはどこから来たんですか?」


フレイと名乗った男性が興味津々な様子で俺のことを聞いてくる。別に聞かれて困ることではないし、まあ話したっていいだろう。


「プーア村って所なんだけど⋯⋯」

「⋯⋯?」


あぁー、やっぱり分からないか。

フレイは首を傾げてしまった。


「山と山に挟まれた辺鄙な村で、旅人が通る理由もなけりゃ商人だって殆ど来ない。ただの貧困な村さ。聞き覚えが無くて当然だ」


俺はそんな村で一生を遂げるなんて嫌なんだ。だから大陸で一番人が集まり、活気があって潤っている王都ファルシアを目指している。


「そういうお前はどっから来たんだ?」


聞かれたんだから聞き返したって罰は当たらないよな?


「僕ですか?僕はオーディナルから来ました」


オーディナル?オーディナルっていうとここから一つ離れた街じゃないか。


ファルシアから見て、この方向で一番近いのがベゴニア、そして次がオーディナルだ。


「オーディナルなら俺も通ったぜ。ってことは、街を出たのはほんの少し前ってことになるじゃないか」


何か理由でもあるのだろうか?万が一ベゴニアに着く前に夜になってしまったりでもしたら危なかったはずだぞ。


「そうですね。じゃあちょっとだけ、僕の話を聞いてもらってもいいですか?」


出たのが遅かった理由を話してくれるらしい。

俺が頷くと、フレイは少しだけ俯きながら話を始めた。


「僕には母さんと父さん、そして兄さんがいるんです。兄さんは力も強いし魔力も多くて、ハッキリ言って天才だったんです。そして弟の僕は力はからっきしだし、魔力も兄さんには遠く及ばなかった」


兄は強くてたくましくて、弟はひ弱。フレイとしては辛い環境だったのかもしれない。


「母さんと父さんは兄のことばかりを褒め、僕はあまり構って貰えませんでした。構ってくれるとしたら、僕を兄さんと比較して馬鹿にする時ぐらいです」

「ご主人様⋯⋯」


兄は優秀で親からも愛されていたんだろう。だが弟のフレイはあまり愛されているとは言い難い話だ。


重苦しい話をする主人に心配そうに声をかけるノエル。主人が微笑みかけると、力の入っていた体がゆっくりと俺の背中に沈み込んだ。


「でも兄さんは優しかったんです。両親が居なくなると僕のことを励ましてくれました。でもそんな優しかった兄さんは家を出ました。半年前、ファルシアにある魔導研究会に是非来てくれと誘われ、兄さんはそこで働くことにしたんです」


魔導研究会と言えば、この世界、フィジクスの様々な所で活動している奴らのことだ。魔法について研究しているらしい。


「魔導研究会から呼ばれるなんて凄いじゃないか。本当に優秀な兄なんだな。」


「えぇ。しかし兄さんがいなくなった途端、両親の僕に対する当たりは強くなりました。お前は魔力も少ないヘボなんだから、あいつみたいに研究会には入れないな、と。だから僕は見返してやるために、半年前から召喚術の勉強を始めたんです」


見返してやるために召喚術の勉強を始めたのか。まあ勉強の動機なんて人それぞれだが、なんとも悲しい理由だな。


「⋯⋯ん?半年前から始めた?」


半年前に勉強を始めて、そして今俺の背中にいるのがフレイの使い魔⋯⋯。

ってことは!?


「お前半年で召喚術を覚えたのか!?」

「凄いんですか?」


背中越しにノエルが尋ねてくるが、正直凄いなんてもんじゃない。


「召喚術といったら普通は二年とか三年かけて覚えるものだ。召喚術は凄く危険な魔法で、失敗するとお前ら魔族の世界、ソーサルへと飛ばされてしまう可能性がある。だから魔族を召喚する時はとにかく時間をかけて失敗しないようにしなければならないんだ」


俺が説明を終えるとノエルは嬉しそうに体を揺らした。


「じゃあご主人様はやっぱり凄いんですね!」

「わっわっ!揺らすな!」


こっちがバタバタしている中、逆にフレイは嬉しそうな顔はしていなかった。


「やめて、ノエル。僕は凄くなんかない。魔法も使えないし、力だって強くない。僕は弱い人間なんだよ」

「なっ、なら⋯⋯!」


フレイの言葉に体を震わせながらノエルは言葉を発した。


「ボクが、ボクがご主人様の力になります!強さになります!だから、だから弱いなんて言わないで!」


「⋯⋯ぷっ!」


普通ならば感動でもしそうな言葉だった筈だが、俺は思わず吹き出してしまった。


「なんで笑うんですか!?」


若干怒り気味に肩越しに俺の顔を覗くノエル。彼にとっては勇気を出して捻り出した言葉だったんだろう。


「たったさっきまで武器も持てなかったくせにそんなこと言って、説得力が無いなぁって思って」


ハハハと笑うと、ノエルは怒るどころかしゅんと落ち込んでしまった。


「⋯⋯そうですよね。ご主人様以上に戦えなかったボクが力になるだなんて、おこがましすぎますよね⋯⋯」


更に怒ってくることを期待していたんだが、真に受けてしまったようだ。これは失敗だったな。


落ち込んでしまったノエルに対し、フレイは優しく背中を撫でた。


「そんなことないよ、ありがとう。これから、二人一緒に強くなっていこうね」

「⋯⋯!はい!」


さすが主人といったところか。召喚したばかりと言っていたが、それなのに扱いが上手い。似たもの同士ってことか。


ノエルの元気が戻ったところで、フレイはさっきの話の続きを話し始めた。


「話を戻しますね。半年間召喚術を勉強した僕は、遂に今日召喚に挑戦したんです」


今日?ってことはノエルは今日来たばかりの魔族だったのか?


「僕の魔力は多くはありません。運が悪ければソーサルに飛ばされてたかもしれません。寧ろソーサルに飛んだって構わないとさえ思っていました」


淡々と話し続けるフレイ。よっぽど家を出たかったんだな。


「そんな気持ちの中、この子が姿を現したんです。正直奇跡でした。今の僕じゃジャスティさんが使ったような簡単な魔法でさえ使うことはできません」


ほら。とフレイは前方に手をかざして見せた。その手からは炎の塊が出ることはなく、少量の黒い煙がプスプスと上がっていた。


「あの、すみません。どうしてご主人様はボクを召喚できたのに、魔力が無いんですか?」


またノエルが背中越しに尋ねてきた。本当に何も知らないんだな。


「魔族がフィジクスで過ごすのには魔力が必要なんだ。簡単に言えば、主人が使い魔となる魔族に魔力を渡すってこと。だから召喚をすると本人の魔力はごっそり無くなってしまうんだよ。ついでに言うと、必要な分の魔力が足りなかった場合、運が悪いとソーサルに飛ばされちまう。そっちの世界じゃどうなのかは知らないが、こっちじゃ常識だぜ?覚えときな」


「はぁ〜。なるほど、ありがとうございます。勉強不足ですみません」


魔族達の住む世界、ソーサルの方では召喚はどうなっているんだろうな。気になるっちゃあ気になる。


でも俺達人間は魔族を無理矢理連れてきてることになるし、ソーサルでは人間は歓迎されなさそうだよな。行ってみたいと少しは思っていたが、やっぱり辞めだ。


「続きを話しますね。ノエルを召喚した僕は、ロクな用意もしないまま家を飛び出しました。持ってきたのは、武器とお金ぐらいです。医療品は盲点でした、本当に助かりました」


ペコリと頭を下げるフレイ。それに続くようにノエルも俺の肩から顔を覗かせペコリ。


「よせよ、当然のことをしただけだって」


礼を言われて嫌ってことはないのだが、なんだかなぁ。


それよりも、これからはモンスターに襲われても大丈夫なように対策を練って欲しいところだ。


「あっ!」


ノエルは大きな声を出すと、腕を伸ばして正面を指差した。


「街です!街が見えてきましたよ!」


指の先には、家の光や街灯などで明るくなった街があった。あれがベゴニアで間違いないだろう。


辺りは殆ど暗くなり、その光が恋しく感じられるぐらいだ。


「結構暗くなっちったし、少し急ぐか!」

「はい、急ぎましょう!」


俺の言葉を聞いて隣を歩いていたフレイは明るい街目がけて駆け出した。


「ノエル、少し走るぞ。痛かったらすぐ言えよ?」

「はいっ、分かりました!」


走った振動で足が痛んでしまうかもしれないが、だからといってのんびり歩いていてモンスターに襲われでもしたら元も子もない。


ノエルを背負ったまま戦うなんて絶対無理だ、痛くても我慢してもらうしかない。

あまり振動が起きないように注意を払いながら、俺は先を走るフレイの後を追いかけ始めた。




――――――――――――――――――――――――――




なんとか無事にベゴニアに辿り着くと、そこにはフレイが息を整えながら待っていた。


「お、遅かったですねジャスティさん」


何を言ってるんだこいつは。怪我人を背負っているんだから当たり前じゃないか。


俺は腰を下げると、ノエルに降りるようにと促した。


「街の中ならさすがにモンスターも入ってこないだろ。よく頑張ったな、ノエル」


ぽんぽんと頭を叩くと、恥ずかしそうに勢いよく首を横に振った。


「違いますっ!頑張ったのはジャスティさんの方です。本当にありがとうございましたっ!」


可愛らしい笑顔を見せたノエルを見ると、俺はフレイに顔を向けた。


「ほら、ご主人様は早く宿を取って使い魔を休ませてやりな。じゃ、縁があったらまた会おうぜ」


俺はじゃあなと手を振ると、二人に背を向けて歩き出した。


なんとも不思議な奴らだったな。今日召喚したばかりの使い魔を連れて家出なんて、滅多にいないと思う。


できればまた会いたい。だが心配なのは二人の戦闘能力だ。フレイはハッキリ言って強いとは言えなかったし、ノエルに至っては初めて武器を持ったみたいだし⋯⋯。


「ジャスティさん!」


背後から声が聞こえてきた。

振り返ってみると、こちらへと走ってくるフレイの姿があった。


「あの、図々しいかもしれないのですが⋯⋯、もし良かったら明日、ファルシアに一緒に向かいませんか?」


思ってもいなかった言葉だった。一人で旅をするのは正直怖かったところもあるし、願ったり叶ったりだが⋯⋯。


「⋯⋯しかたねーな!だけど条件が一つ!」


俺は指で一の数字を作りフレイに向けて突き出した。


「なんですか?」

「これからはもっと対等になろうぜ。お前、会った時からずっと敬語だろ?仲間とは普通に話したいからな」


知らない奴や偶にしか会わない奴、そういう奴らとなら分かるが、一緒にいる時間が長くなるなら普通に話したいじゃないか。


勿論普通に話すのが苦手なら強要はしないが⋯⋯。


「はい。⋯⋯じゃなくて、うん。分かったよ」

「あの、ボクもですか?」


ノエルは少し困った顔をしている。フレイは俺とそんなに歳が離れていないように見えたからそう言ったが、ノエルは俺達に比べればまだまだ子供すぎる。


「お前は――いいよ。喋りやすい方で話しな」


子供が大人に向かってタメ口を利くのは変だしな。


「それじゃあ明日、ファルシア方面の街の出口で待ち合わせで。時間は・・・起きたらでいいかい?」

「ああ、構わない」


俺は改めてじゃあなと手を振ると、二人に背を向けて歩き出した。


「ジャスティさん!」


うぉおい、またかよ!

振り返ると、そこには足をもつれさせながらこちらを目指すノエルの姿が。

俺はノエルの前まで行くと、目線を合わせるように姿勢を低くした。


「今度はどうしたんだ?」

「えっと、ジャスティさんは今夜どうするのかなって思いまして」


どうするってなんだ?そりゃ宿を探して寝るだけだろ?


「適当に宿を探して寝るだけだけど⋯⋯それがどうかしたか?」


俺の答えに、ノエルはニコッと笑った。


「なら、一緒に泊まりましょう!ね、ご主人様?」

「うん。僕から待ち合わせようって言ったけど、ノエルがどうしてもって」


ノエルが?今日あったばかりで主人の友達だったわけでもない人と一緒に泊まりたいと?


「分かった、じゃあ俺も着いていく」


ノエルは嬉しそうに俺の手を取った。

人懐っこいとでも言うのだろうか?よく分からないが、変な人に騙されそうなのが怖いところだな。


「それじゃ行こうか。宿はこっちだよ」


「あっ、ちょっと待ってくれ!」


歩いていってしまおうとするフレイを急いで呼び止める。


「どうかした?」


不思議そうに振り返るフレイに、俺は指を突きつけた。


「お前の剣、それにノエルの短剣。俺に貸してくれないか?」


俺の言葉にフレイは驚いたようだ。それもそのはず、急に身を守るための武器を渡せと言われたら焦るだろうし、簡単には渡せないはずだ。


だが、ノエルは気にしていない様子で腰から短剣を外してしまった。


「これですよね?はい、どうぞ」

「あ、あぁ」


差し出された短剣を受け取り、右手で握りしめた。やっぱり、こんな簡単に武器を渡してしまうなんて、この子は心配だ。


「ごめん、ジャスティ。疑いたくは無いんだけど、理由を説明してもらえる?」


俺の急な発言に疑いを隠せない様子だ。


見た目はただの弱々しい男だったが、しっかり人を疑うことができる。思っていたよりはしっかりしているみたいだな。


「人を疑えるんなら大丈夫そうだ。安心しろ、俺はただ武器を洗いに行くだけだからな」


狼共と戦ってから血のついた武器はそのままだ。これをそのままにしておくとなると武器も弱くなってしまうし、何より血の匂いが臭いんだ。


「⋯⋯はぁ。焦らせないでよ。急に武器を渡せなんて言われたら疑うに決まってる」


フレイは苦笑いをしながら頭の後ろを掻いた。こいつが人を疑えるかどうかを見たわけだから、この企みは成功かな。


「でも、あなたは僕達の命の恩人。だから信じるよ」


はい、と投げられた剣を俺は左手でキャッチした。


彼の剣は細い見た目通りとても軽く、確かにひ弱そうな体格でも扱えなくはなさそうだ。


「確かに預かった。お前らは先に宿に向かっててくれ。洗い終わったらすぐ向かうからさ」

「宿の位置は広場を南に行った所にある。大きなロッジの見た目なのですぐ分かると思うけど、大丈夫?」


えーっと、今いるここが街の西側。広場は多分街の中央にあるだろう。

そして川は街の北側に沿って流れている。川沿いの街、川のほとりの街、リバーサイドタウン、ベゴニアというのはそういう街だ。


わざわざ広場を通って行く必要もないだろう。ここに北へと伸びる道があるし、ここから川に向かい、広場から伸びている道に合流してまっすぐ進めば宿に着くことができるだろうしな。


「多分大丈夫だ。それじゃあ俺はこっちから川に向かうから、また後でな」

「また後ほど!」


今度こそと俺は二人に背を向け、手を振って歩き出した。

んっん〜

どういう物語にしようかな〜

ポンさん困っちゃう(^ ^)

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