表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/18

あの日、山で、

夕方、工房に戻ると、結月薫が待っていた。

「ボーイは、後藤の息子で当たり、やったか。ほんで、吉村の養子が、いっちょ、かんでたんや」

ソファにシロを抱いて座っていた。

タコ焼きを一緒に食べていた。

「カオル、19人殺害に、加世さんの旦那が関わっていたと、思う?」

聖は、そうは思いたくない。


「セイ、俺が『助っ人』がいると考えたのは、吉村親子がホテルで出会ったのは偶然では無かったからや。山田工務店のヤノは、吉村親子の情報を把握していた。同窓会の予定を知るルートは色々ある。しかし、親睦会は限られた人間しか知らないイベントや」

加世の夫なら、知っていただろう。

彼は、<死のバス>に妻を乗せない方法を色々考えた。

そして、父親の親睦会を使った。

「ヤノを使ったっていうの? 山田工務店の従業員と、どうやって知り合った? 偶然知り合いだったって言うのは出来すぎてる 」

「ヤノは、知らない男に頼まれたんや」

「へっ、そうなの?」

薫は、ヤノと接触していた。


「動物霊園関係の、親睦会担当者様はおられますか、と電話が掛かってきたらしい」

親睦会に呼ばれている老人の孫だと、男は名乗った。

「祖父と、昔ケンカ別れした親族を、偶然、岩切山ホテルで会わせたい、と言ったそうだ」

謝礼は10万。

ヤノにとって悪い話では無かった。

「指定された、ホテルも日時も、社長の意向の範囲だった。絶対、とは約束できないが、やってみます、と請け負ったらしい」

電話は公衆電話からだった。

10万はコンビニから現金で振り込まれた。

振込人の名前、電話番号は架空だった。

「ヤノは、バス事故の事もあって、妙な依頼のこと、礼金を受け取ったことを気にしていた。それでスラスラ喋ってくれた」

ヤノは大阪府で生まれ育っている。

山田工務店には二年前から働いている。

新卒で入った食品メーカから転職した。

不動産関係の資格を取りたいと思ったらしい。

バス事故で、「友達が二人死んだ」と山田鈴子は言っていたが、実際は自分では無く姉の友達で顔見知り程度だったらしい。


「じゃあ、ヤノは頼まれただけか。後藤君と吉村加世さんの旦那が、桜井美穂の『助っ人』?」

「多分、主導者は後藤の父親やったんやろ。父親は、穂乃華が殺されたと知ってるんや……。セイは19人全員で、殺したと、霊感でわかってるんやろ?……どうやって殺したかも、わかるん?」

薫は聖を真っ直ぐに見た。

学校行事の山登り、下山途中で<転倒して死んだ>美少女。

本当は殺された。でも。どうやって?

「わからない……でも、事故で処理されたって事は、不自然な死に方ではなかった訳?」

「セイ、事故の記録を調べた。死因は全身打撲、内臓破裂や。穂乃華は転倒し、その上をクラスメイトが踏みつけて、それで死んだんや」

一人の<美少女>の写真撮影が終わるまで

山頂にいたのはクラスメイトの女子19人(登山は男女別だった)と、担任、市の広報(後藤)だけだった。

「熊がいる、と最初に誰かが叫んだ。それから集団ヒステリー状態になって、我先に山を下っていった」

担任と、後藤は、彼女たちから、すこし距離をとって後ろを歩いていた。

雪と泥に埋もれた穂乃華を発見したのは、この二人だ。


「パニックになって、何を踏んでるのかも、無我夢中で分からなかったのか」

セイは何年か前に、どこかの花火大会で起こった事故を思い出した。

群衆に踏みつけられて数人亡くなった。

19人は結果的に穂乃華を殺してしまったが、

やはり事故だったのかと。

「セイは19人全員が穂乃華を殺していると言った。事故なら、有り得ない。被害者が先頭を歩いていて転倒したとしても、19人全員の足が、踏みつけるなんて、ない」


聖は、ふと、マユが言ったことを思い出した。

……自分たちの中から、一人可愛い子を選んで、大人達が連れて行く。

……その子が写真を撮られている間、ただ待っている。寒い山の上で


「『熊がでた』は嘘や。……パニックを装って、後ろを歩いている担任達から距離をとり、被害者を押し倒して、皆で踏みつけて、殺したんや」

 その情景を思いうかべると、残酷すぎて気分が悪くなってきた。

「集団ヒステリーやな」

と薫は呟いた。


「綺麗な友達に、『嫉妬』してヒステリーおこしたのか?」

「『嫉妬』か。なんと呼ぶか分からんが、とにかく彼女たちはショックを受けた。それこそ、人食い熊に遭遇したように、恐怖でパニックになったんやろう」

「……一人だけ写真に撮られた、ただそれだけで? 中学生だよ。自分より優秀な友達が存在する現実に慣れてるはずだろ」

「どうかな。容姿の優劣の現実を突きつけられたのは初めてやったかも。担任と後藤が彼女たちに、もう少し配慮して、先に下山させるとか、皆の写真も撮るとか、しても良かったんや」

 まるでエキストラのように、寒い中で、撮影する間放置は屈辱的ではないか。

「後藤さんは亡くなった。当時の事は聞けない。でも、担任は? カオル、担任には当たったのか?」

薫は首を横に振った。

「行方知れずや。後藤と同じく山の事故の後、退職している。当時は二十代で、女の先生や」

 穂乃華の<事故死>が余程ショックだったのか?

 それとも……。


「事故では無いと、分かっていたかも知れない、と俺は思う。担任も後藤も」

「……うん」

聖も同じ事を思っていた。

分かっていたが、……確かめられなかった。

………おそろしくて。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ