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コーヒーの香り

「お知り合い、ですか?」

「ええ。……実は岩切山ホテルのバス事故の日に、」

自分は居合わせたと、事実を喋ってみた。

吉村加世が、事故バスに乗らなかった経緯も。


店主は聖の話を、瞬きもせずに聞いた。

 そして、(ああ、)と声に出し、ため息。

 何か、考えることがあったに違いない。


「お客さん、新婦はね、結婚式でお会いした、だけです。『橿原神宮』で式をして、披露宴は大阪のホテルでした。私は新郎に頼まれて、式の写真を撮りに行った。本当は息子を披露宴に招待したかったそうです。でも、亡くなりましたから」

「……吉村加世さんの、ご主人が、息子さんと親しかったんですか?」

 聖は、思いがけない吉村加世と後藤写真館の接点に、驚いていた。 

「彼、佐々木君は大学生の間、うちでアルバイトしてました。あ、何だか急に、……コーヒーが飲みたくなったな。……付き合ってくれますよね?」

 店長は、言って、どこかに「アメリカン2つ」と電話を架ける。


「佐々木君は『岩切山ホテル』のオーナーの一族です。佐々木グループは、『スーパー銭湯』、『パチンコ屋』に、『ガソリンスタンド』、奈良、大阪で何軒もやってる。お兄さんがいるらしいから、次男ですね……それでも養子にいくなんて、吉村家も相当の資産家なんだと、思いましたね」

 吉村加世の夫が、<後藤写真館>でアルバイトをしていた。

 新たに判った事実が、今回の事件に、どう関係するのか、

 聖は、まだ分からない。

 ただの偶然ではないと、それだけは分かる。


「あの……、息子さんは、ネットに出回ってる、バス事故の運転手の、娘さんの写真を、撮られたんですよね?」

 聖は、頭の中の情報を整理しながら、確認のための質問を始める。

「そうです。当時市役所の広報の仕事をしていました」

「……運転手、桜井美穂の写真が、此処にあるっていうことは、元々知り合いだった。……だから娘の写真を広報の表紙にしようと、思ったのかな」

 聖は大急ぎで推理して、出た結論を、正しいのか否か聞いてみた。


「神流さんが、そう思われるのは当然だと思います。もし、桜井美穂さんの写真が、うちに有ることが広められたら、この店と、桜井親娘とは古い付き合いだと、思われるでしょうね。でも、全然事実は違う」

「……違うんだ」

「ええ。美穂さんの写真、市民会館中ホールです。市民会館のイベントの写真は、ずっと、うちが撮ってました。それだけの縁です。ここに、美穂さんの写真があるのは、ただ、美しかったからです。私が良い写真をコレクションにした、それだけの事なんです」

 老店主は息子が亡くなる七年前までは、行政からの仕事を多く請け負っていたと語った。

 市民ホールのイベントの撮影、幼稚園から高校までのアルバム、など。

 

「偶然なんですけどね。19人亡くなった、若い娘さんの卒業アルバム、桜井さん親子の写真、全部、ここに有るっていうのは、辛いですね」

 メンソールのタバコを一服して、白い煙を煩げに、手をヒラヒラさせながら、

 白フクロウに似た老人は呟いた。

 聖は、この人自身は、桜井美穂と親しくはなかったと、推測する。

 親しかったのは、7年前に亡くなった息子だろうと。


 ドアが開き、

「お待たせしました」

 とオバサンの声、

 同時にコーヒーの香り。


「ありがとう」

 五十前後の小太りのウエイトレスに言う。

「あら、綺麗なお客さん」

 と、聖を見る。

 色白でぽっちゃりした身体。艶のある真っ黒に染めたショートカットで化粧は薄い。

「まいど、おおきに」

 と、愛想良く、さっと出ていた。




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