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あれは大量殺人

「でも、カオル、後藤君はボーイじゃない。調理場のスタッフだ。そんな服着てた。アルバイトの学生じゃなかったかな。そんなんが助っ人になるか?」

「あんな、セイ。19人殺しに必要やった条件は」

①桜井美穂が運転手として岩切山ホテルに入る、

②岩切山ホテルで同窓会、

③帰りの(行きでも良かったか)バスを桜井美穂が運転すること、

④吉村加世をバスに乗せないこと、

「この4つや。4番目の条件が偶然で無い事が分かった。あと3つの条件も、上手いこと操作しよった気がする。だがな、『助っ人』の誰かが、ホテルに入り込んでないと不可能やと思う」

「それでバイトの後藤君が、元市役所職員の後藤と関係があると……」

 同じ<後藤>なだけで、くっつけていいのか?


「バイトの後藤、昨日岩切山ホテルに行ったら、蝶ネクタイして、フロントにおった」

「そうなの?……調理場とボーイ、両方やるのか」

「客席係のネエちゃんに、それとなく聞いた。院生でアルバイトには違いない。けど、高校生の時から、 ずっと、おるらしい」

「バイトだけどキャリアは長いんだ」

「そう。予約状況、運転手のスケジュールを把握できるポジションかも」

 聖は、<後藤>の顔を覚えていた。

 まだ少年と呼ぶのが似合う、童顔だった。

「学生のアルバイトが、あの非常事態に、運転手の替わりをしたんや。山奥まで俺たちを運んだ。後藤はマイクロバスの運転に慣れていた。自分からやると言い出したのか支配人の指示かは分からん」


「運転はスムーズだった。……彼、事故現場見て、興奮してたよな」

 あの時、<後藤>は嬉々として喋っていた。

 その様子に、幼さを感じたのを、聖は思い出した。

 <他人の死>はイベントにすぎない感覚。

 責める思いは沸かなかった。

 若いから無理も無い、と思った。


「現場の横を、ゆっくり通ったな。俺は、コイツは現場を見たくて運転手やったんかと思った。野次馬根性は罪では無い。自らが計画した大量殺人の惨状見物やとしたら、許されへん」

 大量殺人と、薫は言った。

 19人を殺したのは桜井美穂だ。

 しかし背後には<助っ人>達が居ると確信しているのだ。

 後藤が<助っ人>なら、

 少なくとも<助っ人>の一人は、殺人現場ではしゃいで、いたのだ。

 聖の頭に、再び後藤の顔が浮かぶ。

 素直そうな目を思い出すと、今は何だか恐ろしい。


「許されないが、現実的に捜査の対象にはならない。セイ、分かってくれるよな?」

 身を乗り出し(向かい合わせに座っている)セイの腕を掴んだ。

 聖は、しっかりと頷いた(わかってる)。


「警察は動けないが、民間人が探偵行為をするのに問題は無い。分かってくれるよな?」

「うん」

 と流れで返事してしまった。


「<後藤写真館>に、偵察に、行ってくれるよな」

「へっ?」

(何、それ?……俺が、どこに行くって?)

 反論も質問も口には出来なかった。

「良かった。セイ、ありがとう」 

 嬉しそうな笑顔に負けた。


「身体が大きいと鼾も大きいのね」

 マユが微笑む。

 薫がソファで眠ってしまうのを待っていたかのように、現れた。


「穂乃華ちゃんの写真を撮った人の家が、写真館なのね」

「そう。南岩切町の駅前商店街」

 当時、岩切市役所の広報課だった後藤は、

 穂乃華の写真を撮った直後に、退職していた。

「公務員だろ。滅多に辞めないのにって薫が言っていた」

 退職した後は、家業の、写真館の仕事を手伝っていたという。


「余程の事があったのよね。……後藤さんは穂乃華ちゃんが19人の同級生に殺されたのを、知っていたかも知れない」

 マユは<後藤>に興味を示した。

「あのさ、俺、良く分からないんだ。後藤は、どうして警察に証言しなかったんだ?」

 マユは軽く首を横に振る。

「わからない。……謎ね。セイが後藤写真館に行けば、この謎も、きっと解けるよ」

 好奇心と、期待に満ちた、微笑み。

 眩しいくらいに可愛い。

 聖は、明日、早々に後藤写真館に行こうと

 決めてしまった。




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