表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/18

仇討ちの助っ人

「ヤノさんって、男の人だったのね」

マユが笑っている。

「……そう、みたい」

 聖は、薫に悪いことをしたかなと思う。

 でも、吉村と薫が顔を合わせる事なんて、滅多に無い。

 大丈夫、薫の耳に入る事は無い、と考えた。

 が、それは刑事相手に考えが甘かった。


「セイ、俺を使って、何を探った?」

と、すぐに電話が掛かってきたのだ。

薫は、あっさり吉村の電話番号を教え、

そうして吉村に、聖の用件を問いただしたのだ。

刑事に質問されれば、全て話したに違いない。


「ゴメン。実は……」

聖は、薫に経緯を話した。

自分の、<霊感>でバス事故の被害者達全員、<人殺し>と判ったと、

そこから全て話した。

 

「なる程な、そういう事か」

薫は驚かなかった。

聖の<霊感>を疑いもしなかった。


「今度の事故が、何人かで、つるんで、引き起こした、可能性が出てきたな」

ヤノが吉村を現場に行かせるように誘導した。

その件についても否定しなかった。

「始まりは、桜井穂乃華の死や。事故とされた内容、目撃者はいなかったのか、調べてみる」

と、電話は切れた。

「じゃあ、あとはカオルさんからの連絡待ちね」

マユは、結果に満足したようだ。

そうして、もう用事は済んだというふうに、

立ち上がって、

消えた。


「あ、待って」

呼びかけたが返事は無い。

マユの気配は無い。

「事件の謎解き以外に、俺と話すことはないのかな」

足下で寝ているシロに愚痴った。


翌日から3日、聖は<リスザル>の仕事に集中していた。

「ちっちゃくて、かわいい」

作業室では昴がべったりと、まとわりついた。

「まだ子供だから、余計に小さいんだ」

「子供なんだ。マスターそれって、随分高いんだろうな」

「多分」

「高いお金出して買ったのに、すぐ死んじゃった。それでまた、お金使って剥製にするんだ。……お金持ちなんですか?」

「どうだか」

小猿は、体毛がところどころ剥げていた。

自分で毟ったらしい。

強いストレスのせいだろう。

骨はスカスカで脂肪が少ない。

栄養状態は良くなかったようだ。

「虐待? もしかして飼い主に殺されたの?」

「外傷は無いけどね……放置されていたかも」

「飽きたのかな。それとも面倒くさいから嫌になったのかな?」

「さあ」

衝動買いの悪い結果なのか、飼い主に異変があったせいか判らない。

詮索も出来ない。

「仕上がっても、受け取るかどうか怪しいな」

と、幽霊のくせに金の心配をしてくれる。

聖も、そんな予感はある。

今までにも何度か、宅急便で死骸を送りつけて連絡が取れない事はあった。

「それでも、解体しちゃったし、ちゃんと綺麗に作ってやらないと」

こんなに可愛いから、自分の物になるのも悪くないと思っていた。


「猿もなかなか、可愛い、なあ」

ようやくカタチが整った頃に、薫は来た。

作業室まで、勝手に入ってきた。

慣れた手つきで、冷蔵庫の中から、ビールを取り出している。

「餃子と、シューマイ、買ってきた。夜食や」

という。

「夜食って、そんな時間か」

昼食を食べてから、仕事に没頭していた。

夜は更けて、もうすぐ日付の変わる時間だった。


「セイ、桜井穂乃華の、最後の写真を撮った、市役所広報課の職員は、七年前に病死してる」

ソファの上でくつろいで、缶ビール2つ開けてから、薫は切り出した。

「死んでるの?」

聖はがっかりした。

穂乃華が19人の同級生女子に殺された現場を

誰かが見たとしたら、

写真を撮った市役所の職員、一番可能性が高そうではないか。

「残念や」

薫はタバコに火を付ける。

「なあ、セイ、その職員な、後藤という人やねん」

「後藤?」

珍しくも無い名字だ。

 ああ、でも……ごく最近、その名字を聞いた気がする。

「岩切山ホテルのボーイ、覚えてるやろ? 帰りのバスを運転してた、若い男。アイツが、後藤やった」

 そうだ、彼は後藤と名乗っていた。

 偶然か?

「明日、調べる。もし二人の後藤に接点があったとしたら、どういう事やろうな」

 薫は、また、新しい缶ビールに手を伸ばした。

 そして、

「事故は、桜井美穂が娘を殺された、その仇討ち。ほんで『助っ人』が何人かおったと、いう事かな」

 呟いて、大きなため息をついた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ