仇討ちの助っ人
「ヤノさんって、男の人だったのね」
マユが笑っている。
「……そう、みたい」
聖は、薫に悪いことをしたかなと思う。
でも、吉村と薫が顔を合わせる事なんて、滅多に無い。
大丈夫、薫の耳に入る事は無い、と考えた。
が、それは刑事相手に考えが甘かった。
「セイ、俺を使って、何を探った?」
と、すぐに電話が掛かってきたのだ。
薫は、あっさり吉村の電話番号を教え、
そうして吉村に、聖の用件を問いただしたのだ。
刑事に質問されれば、全て話したに違いない。
「ゴメン。実は……」
聖は、薫に経緯を話した。
自分の、<霊感>でバス事故の被害者達全員、<人殺し>と判ったと、
そこから全て話した。
「なる程な、そういう事か」
薫は驚かなかった。
聖の<霊感>を疑いもしなかった。
「今度の事故が、何人かで、つるんで、引き起こした、可能性が出てきたな」
ヤノが吉村を現場に行かせるように誘導した。
その件についても否定しなかった。
「始まりは、桜井穂乃華の死や。事故とされた内容、目撃者はいなかったのか、調べてみる」
と、電話は切れた。
「じゃあ、あとはカオルさんからの連絡待ちね」
マユは、結果に満足したようだ。
そうして、もう用事は済んだというふうに、
立ち上がって、
消えた。
「あ、待って」
呼びかけたが返事は無い。
マユの気配は無い。
「事件の謎解き以外に、俺と話すことはないのかな」
足下で寝ているシロに愚痴った。
翌日から3日、聖は<リスザル>の仕事に集中していた。
「ちっちゃくて、かわいい」
作業室では昴がべったりと、まとわりついた。
「まだ子供だから、余計に小さいんだ」
「子供なんだ。マスターそれって、随分高いんだろうな」
「多分」
「高いお金出して買ったのに、すぐ死んじゃった。それでまた、お金使って剥製にするんだ。……お金持ちなんですか?」
「どうだか」
小猿は、体毛がところどころ剥げていた。
自分で毟ったらしい。
強いストレスのせいだろう。
骨はスカスカで脂肪が少ない。
栄養状態は良くなかったようだ。
「虐待? もしかして飼い主に殺されたの?」
「外傷は無いけどね……放置されていたかも」
「飽きたのかな。それとも面倒くさいから嫌になったのかな?」
「さあ」
衝動買いの悪い結果なのか、飼い主に異変があったせいか判らない。
詮索も出来ない。
「仕上がっても、受け取るかどうか怪しいな」
と、幽霊のくせに金の心配をしてくれる。
聖も、そんな予感はある。
今までにも何度か、宅急便で死骸を送りつけて連絡が取れない事はあった。
「それでも、解体しちゃったし、ちゃんと綺麗に作ってやらないと」
こんなに可愛いから、自分の物になるのも悪くないと思っていた。
「猿もなかなか、可愛い、なあ」
ようやくカタチが整った頃に、薫は来た。
作業室まで、勝手に入ってきた。
慣れた手つきで、冷蔵庫の中から、ビールを取り出している。
「餃子と、シューマイ、買ってきた。夜食や」
という。
「夜食って、そんな時間か」
昼食を食べてから、仕事に没頭していた。
夜は更けて、もうすぐ日付の変わる時間だった。
「セイ、桜井穂乃華の、最後の写真を撮った、市役所広報課の職員は、七年前に病死してる」
ソファの上でくつろいで、缶ビール2つ開けてから、薫は切り出した。
「死んでるの?」
聖はがっかりした。
穂乃華が19人の同級生女子に殺された現場を
誰かが見たとしたら、
写真を撮った市役所の職員、一番可能性が高そうではないか。
「残念や」
薫はタバコに火を付ける。
「なあ、セイ、その職員な、後藤という人やねん」
「後藤?」
珍しくも無い名字だ。
ああ、でも……ごく最近、その名字を聞いた気がする。
「岩切山ホテルのボーイ、覚えてるやろ? 帰りのバスを運転してた、若い男。アイツが、後藤やった」
そうだ、彼は後藤と名乗っていた。
偶然か?
「明日、調べる。もし二人の後藤に接点があったとしたら、どういう事やろうな」
薫は、また、新しい缶ビールに手を伸ばした。
そして、
「事故は、桜井美穂が娘を殺された、その仇討ち。ほんで『助っ人』が何人かおったと、いう事かな」
呟いて、大きなため息をついた。




