表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

ホテルへ

神流 聖:29才。178センチ。やせ形。端正な顔立ち。横に長い大きな目は滅多に全開しない。大抵、ちょっとボンヤリした表情。<人殺しの手>を見るのが怖いので、人混みに出るのを嫌う。人が写るテレビや映画も避けている。ゲーム、アニメ好き。


山本マユ(享年24歳):神流剥製工房を訪ねてくる綺麗な幽霊。生まれつき心臓に重い障害があった。聖を訪ねてくる途中、山で発作を起こして亡くなった。推理好き。事件が起こると現れ謎解きを手伝う。


昴(享年14才):双子の弟に殺された少年。剥製造りに興味があり作業室に出没する。


シロ(紀州犬):聖が物心付いた頃から側に居た飼い犬。2代目か3代目か、生身の犬では無いのか、不明。


結月薫:聖の幼なじみ。刑事。角張った輪郭に、イカツイ身体。

山田鈴子(50才前後):不動産会社の社長。顔もスタイルも良いが、派手な服と、喋り方は<大阪のおばちゃん> 人の死を予知できる。



例年より涼しい初夏。

神流工房のある山はもっと涼しい。

早朝は寒い程だった。


6月11日月曜。

神流聖は朝からクローゼットの中を物色していた。

「白衣はマズい。高級ホテルの食事会だからさ」

何しているの? 

と、言いたげなシロに説明する。

「ゴメン、連れて行けない。シロは留守番だよ」

 

山田鈴子の招待で

<岩切山観光ホテル>に行くのだ。


山田工務店の新事業、ペット墓地が来月オープンする。

近郊の住民に、挨拶をかねて御馳走を振る舞ってくれるらしい。

 隣組8軒、招待されている。


ホテルのバスが、午前11時半に楠本酒店に迎えに来る予定だった。

聖は数分前に現場に着いた。

愛車のロッキーを、酒屋の駐車場に停める。

白いシャツに黒のサマースーツ。

結局、<仕事服>を着ていた。

亡き父が、接客の時には、いつも黒のスーツだった。

(動物であっても )死に携わる仕事だから、と。


酒屋のお婆さん(死んだ子が憑いてるのが、聖には見える)と

湯本家の爺さん(八十過ぎ。柿畑で農作業現役)。

他五人、楠本酒店前に揃っていた。

隣組以外に、吉村純一郎(八話登場)の顔があった。

大柄でふさふさした白髪。高校教師を定年まで勤めた。

ペット墓地となる土地が、元は吉村家所有だった。

その関係で招待されたらしい。


 吉村は、誰よりも上機嫌だった。

「偶然やけど、嫁に行った娘もね、今日、<岩切山観光ホテル>で、女子会なんです。中学の同級生の集まり、同窓会です」

<イノシシ男事件>(第八話)で、破談になるのを心配していたが

事無く、嫁いだと、言う。

<首斬り紀一朗>の事は、この先も黙っていて欲しいと、

皆に頭を下げた。


  平日にも関わらず全員参加なのは、高齢者と、自営業で

 皆自由なんだと、聖は思った。

ところが、

結月薫がバイクでやってきた。

「良かった、間に合った。岩切山をコレで登るのはキツイ」

と、汗を拭きながら言う。

淡いピンクのポロシャツに紺のチノパン。腰回りはスッキリしている。

仕事中ではなさそう。


「カオルも?」

聖の記憶に、鈴子と薫を引き合わせたシーンはない。


「ソレがな、署に電話が来たんや。神流聖さんと関係が深い警察官を捜してると」

「そうなんだ」

鈴子と電話中に、薫が側にいた事がある。

聖は刑事だと話した。


白木(暴力団幹部:三話初登場)の子分二人が、薫に会っている。

刑事らしい男が居た、随分親しそうだったと、上に報告した。

白木は、剥製屋と親しい<刑事>の存在をスルーしなかった。

鈴子に、神流聖と、どういう関係で、どんな刑事かと、聞いてきた。

鈴子は(確認します)と答えた。

ヤクザ相手に(知りません)などと言えない。


薫は、自分が呼ばれた経緯に、察しは付いていた。

白木が仕事上の利害関係だけで、聖に構っているのではないと感じていた。

気にかけている堅気の青年に刑事の友人がいた。

今後の付き合い方を計る上で、どんな刑事か知りたいのだ。


裏を返せば薫も思いは同じだった。聖と白木の真の関係を知りたい。

そしてヤクザとの仲介役の鈴子についても。


「白木の招待やったら断るけどな。山田工務店は老舗で優良企業や。招待は、セイの幼なじみで、この地域と関わりが深い、と言うことらしい」

「そっか。成る程」

それなら自分を通せばいいのに、とか

何故、事前に知らせない、とか、

全く思わない。

聖はそういう性分だ。


程なく迎えのバスが来た。

34人乗りの中型で、

ホテルの名前が大きく書かれている。


「皆さん、お揃いのようですね」

バスから鈴子が降りてきた。

すると

辺りの林から、数羽の鳥が飛んで……逃げていった。


素材不明の金色のワンピースを着ている。

ネックレスと指輪は大粒のゴールデントパーズ。

小粒のダイアとのコラポで煌めき度は高い。

鳥が怖がっても無理はない。


いつもながら派手。

でも、明るい茶色だった髪が黒くなっていた。(二度見したら紺色だっだ)


バスの中に金髪で白いスーツの男が居る。

聖にだけ笑いかける。

鈴子の守護霊だ。

彼の姿(昭和のスター、Jの等身大ポスターから抜け出た)は、

聖にしか見えない。

守られている本人には見えていない。


「にいちゃん、道が空いてたからな、早くホテルに着いたんや。退屈やから、迎えに来た」

鈴子は晴れやかな笑顔で言う。

ペット墓地オープンが嬉しいに違いない。


「大きなバスやな。これは楽や」

酒屋のお婆さんも、嬉しそうだ。

皆の持っているバッグはやや大きい。

温泉も入れるというので、着替えを持っている。


「なんや、遠足思い出すな」

隣で薫も笑ってる。

でも、

何で、席が空いているのに、

わざわざ隣に座るの?


「それは、セイと喋りたいから」

「なんか、俺に話があるの?」

「うん、あるよ」

薫は、行き詰まっているゲームについて話し始める。

「そんなの、攻略サイト見たら、いいじゃん」

「それはアカン。アレ見たら知りたくない事まで知ってしまう危険があるんや」

「ふうん。そうなんだ」

そして中学生男子のように、

ゲーム会話が始まった。


聖は心が弾んでいた。

本当に、小学校のバス遠足の気分だった。

隣組の8人と吉村に薫。そして鈴子と守護霊


バスに乗っているのは知っている人(霊も含め)だけ。

<人殺しの手>を恐れなくていい。


実際は……バスの中に、もう一人居た。

運転手が、いたのだ。

聖は<彼女>の顔を見ていない。


……だが、刑事は見ていた。


後になって、薫はこう、答えた。

(あの女性ドライバーの運転に問題はなかった。ただ、ペットボトルの水を飲む回数がやや多い気がした。運転席の温度、制服の通気性を考慮すれば、異常な行動ではない程度ではあります)


聖は運転手が男か女かさえ、

見てはいなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ