初めての知識
不定期な更新ですみません
転生してはや一ヶ月ほど。
新しい発見と、俺のSAN値を削っていく日々。来る日も来る日もおしめを変えられ、乳を飲まされ、寝かされる。正直御免被りたいが、自分では動けないので身を任すしかない。
俺の名前は東郷 浩からイーサンとなり、肉体は生まれたての赤ん坊となった。
転生し、生まれてから三日間ぐらいは変わった事が多すぎて、頭は混乱していたが、今ではもうすっかり慣れてしまった。
「ほんと、貴方は可愛いわねぇ〜」
母さんが俺を抱き寄せて微笑む、父さんも笑う。そんな二人の顔を見ているだけで、俺はちゃんと人間に転生できたんだな…と安心する。今でもたまに豚とかに転生した夢見るから洒落にならん。
「おい、俺にも後で抱かせてくれよ?」
俺を見ながら母さんに話しかけているのが、親父。
名はアルバート。小心者のヘタレでこの街でそこそこの武器屋をやっている、ヒゲオヤジ。店云々は、帳簿や商品を見たため間違いないと思う。
今抱き上げてるのが、今生の俺の母親。
名をアメリア。金髪碧眼のめっちゃ美人、教養もそこそこあるし…何処か良いとこの娘かもしれない。
「それにしても、貴方は全然夜泣きしないわね…賢い賢い!」
「うぐぅ…それは酔うと泣いちまう俺への嫌味か?」
「それ以外で何があるのよ」
母さんと親父が談笑している、まぁ親父が遊ばれてるだけだけど。
…ここが、これから俺が帰る家。新しい人生を歩む場所なんだ、名前も見た目も、多分全然違うけど、俺を暖かく迎えてくれる場所になった。
それから一年ちょっと経ち、ようやく歩けるようになった俺は転生してからずっと気になっていた、ある事を試してみる事にした。そりゃ誰だって親が目の前で指先から種火出したりしたら、魔法があると考えるだろう?
と、言うわけで…取り敢えず親父の真似をして指を振ってみる。
…うん、やっぱり何も起きない。まぁ…何処ぞのラノベ主人公と違って、特典も何もなしだからな。一般人とさほど変わらんステータスなんだろう。
でもなぁ…だからって簡単に諦められない俺が、黙々と指を振っていると、母親がニコニコしながらこっちを見ていることに気が付いた。
「…あの人の真似でもしてるのかしら。ほら、もっと振ってごらん?」
自分の親に言うのはあれだが、うん。美人だ。穏やかに微笑しながらこちらを見ている様子はまるで絵だな、やっぱり異世界ってすげぇな。
「ほら、こんな感じに振るのよ。っと言ってもイーサンにはまだ無理だと思うけどね」
クスクスと笑いながらまるで独り言のように語りかけてくる母さん。見てろよ、すぐに魔法を使って驚かしてやるからな!
…なんて意気込んでも、あれから三年は経ったと言うのに、実際に使える訳もなく。全く進展しない魔法の特訓を、俺は諦めた。いや、特訓自体はやり続けるが…
取り敢えず、三歳のこの身では魔法は使えないらしい。
逆に今は、勉強の方に力を入れようと日々努力している。読み書き、そろばんみたいな?うちの場合、親父が店をやっているので、幸い先生には困らなかった。
「イーサン、またココ間違えてるぞ?ココはこうやって解くんだ」
「げぇー!またかよ…」
元々、前世では大学まで進んだ俺にこの程度の問題は、正直言って楽勝だ。しかし、あまり簡単にポンポン解いていたら怪しまれてしまうからな。たまには間違えたりしてみたり、色々と工夫が必要だ。
…うん、自分で言うのもなんだが可愛げの無いガキだな。
「まぁそう焦るな、お前は筋がいい。しっかりと基礎さえ覚えれば勉強なんて簡単にできるさ」
そう言って俺の頭を撫でる親父、悪い気はしない。何だかこう、くすぐったいような安心するような、変な感じだ。そのせいだろう、昔は俺もこんなふうに親父に頭撫でてもらってたなぁと、変に思い出してしまった。
「さてイーサン、続きをやってしまおう。この後は生活魔法の練習…するんだろ?」
「生活魔法?なんだそれ」
俺は聞き覚えのない単語に首を傾げる、『生活魔法』とは何なのだろうか。
親父は一瞬、呆けたと思うとすぐに腹を抱えて笑いだした。
「…ふ、はっはひひひぃ!ひ、ひ!お前魔法の基礎も知らんで魔法を使おうとしてたのか?コイツは傑作だ!はっははは!」
「そ、そんな笑わなくたっていいじゃないか!」
俺は親父の腕をバシバシと叩く、結構力を入れて叩いている筈なのに親父はビクともしない。それどころか、叩いているこっちの手が痛くなる。…親父、鍛えてるのかもしれない。腕硬い。
「それなら、『魔素』も知らないだろ?」
「魔…素?あぁ…あの美味しいやつね、知ってる」
「お前…」
勿論、冗談だ。
俺が知ってる魔素って…あれだ。某親が豚になる映画の仮面付けた顔の無いやつみたいな、虫操るやつしか知らない。魔素が流動してそうな名前のやつ。
「仕方ねぇ、魔素ってのはなぁ…」
親父からの説明に耳を傾ける。今日は寝る事はできないかもしれない…俺は一言一句聞き逃すまいと耳に全神経を傾けながら親父の話を聞く準備をすすめた。
中途半端かな…?