プロローグ 後編
俺が訳がわからず呆けていると、女は俺が起きたことに気付いたらしく声をかけてきた。結構胸があって可愛いと思ったのは内緒だ。
「やぁ、起きたのかい?ならもうちょっとゆっくりしときな。すぐに裁判だからね」
《…あーあー聞こえない。裁判?俺捕まったのか?いや、あれはどう考えても…》
死んだんじゃね?と思う。最後の記憶は少女を突き飛ばした所で途絶えている。というより、どう考えても60km/h以上は出ていた車に跳ね飛ばされてまだ生きてたら、俺自分が人間なのか怪しむぞ。
「あ〜アンタそっちのタイプか。面倒くさいねぇ…ま、仕事だから説明はしたげるよ」
そっちのタイプとか言われて更に混乱し始めた俺にその女は色々と説明してくれた。女の説明はとてもわかりやすく、そして、とても理解したくない内容だった。
「…理解できたかい?」
《…ああ、つまりあれだろ?ここが三途の川でアンタが船頭。俺は死んだけど、天寿を全うはしてないから今から裁判して、来世が何か決める。…だろ?》
内心違うと言ってほしい、だって三途の川=地獄ってイメージが俺の中にあるんだもん。仕方ないじゃん?そりゃあ天寿は全うしてない。でも、だからって裁判はないだろう。だが、目の前の女はそんな俺の考えを真正面から打ち砕いてくれた。
「まぁ、人間にはなれないかもねぇ?何をして死んだかは知らないけど」
《…嘘やん》
あぁ…死ぬまで神様なんて信じてなかったのに、死んでから頼りにするなんて…神様、助けてください。
さぁて、俺はどこにいるでしょう?答え?いいぜ、教えてやるよ。
正解は…閻魔様の前でした!Oh…ジーザス。さっきから冷や汗止まりません、死んでるから出ないんだけど。
ドキドキしていると、裁判官の木槌みたいな奴を叩いて閻魔大王が話しだした。その声は荘厳かつ本能から恐怖を呼び起こすような、形容し難い威厳を含む声だった。
(あぁ…もうこうなりゃヤケだ!)
さぁ、どんと来やがれ閻魔。俺はさっきの姉ちゃんから人間にはなれねぇって聞かされてんだよ!つまり、お前の怖さ半減だからな!
希望なんて必要ねー。 へへへへ 来世にはもう用はねー! へへへへ 言い訳も必要ねーや。 へへへへ 誰が閻魔なんか。てめーなんか恐かねぇ!!
「汝への刑を言い渡す!」
(うわぁ…メッチャキレてる!?)
ごめんなさい、やっぱ恐いです。調子に乗りましたぁ!言ってみたかっただけなんです。本当に。
「汝、畜生への転生を言い渡す。精々、日々精進する事だ…と言いたい所だが」
《…へ?》
俺は一瞬、また呆けてしまった。畜生への転生じゃないのか?どうなってる?もしかして更に酷い事になるのか…?そんな俺の気持ちが伝わったのか、また閻魔が低く地響きしそうな声で話し始める。
「汝は汝の人生で、何一つ達成せんかった。それは人間の七つの大罪、怠惰に値する。この事は赦されることでは無い。本来ならば畜生からやり直せ、と言いたいが…」
ゴクリ、と自分の唾を飲み込む音が聞こえた。まるでインフルエンザにかかったときのような、気持ち悪い熱が体を駆け巡る。やっぱり畜生も嫌だし、畜生以下も嫌だ。だが、閻魔が言っていることも事実。というかあちらが正しいんだろう。確かに閻魔の言う通り、俺は何一つ達成できていないから。
「汝は最期、身を呈して少女を守った。これは称賛に値する。そこで、汝を生き返らせてやる事にした。まぁ、詰まるところ輪廻転生だ」
《…》
ビックリしすぎて声が出ないというか…マジで?俺、人間で生き返れるの?もし、もしそれが本当ならばこんなに嬉しいことはない。だが、相手は閻魔、油断は禁物だ。
「…この処置を施したのは他にも何人かいる、そやつらはやれ能力だの何だのと抜かしよったが…汝は言わぬのだな、関心関心。その精進の心、ゆめ忘れる事なきよう気を付けよ。では…さらばだ」
(え?なんか貰えたの?うそ、能力って事は異世界?…俺、何も無し!?)
《ちょ!閻魔さまぁァァァァあ!?》
俺が閻魔に声をかけようとした瞬間、足元の床が開き、俺は瞬く間に落下していった。そして、意識がなくなる寸前にとんでもない事を聞いてしまった。
「もし汝が再び大罪を犯したならば…その時は、存在ごと消えると思え」
その言葉を最後に、俺の意識は――闇に沈んだ。
意識が回復した俺は、目を開けようとして開かないことに気が付いた。そして体の感覚からして、恐らく水に使っている。コレは…まさか、なぁ?軽く現実逃避を始めた俺に、とどめを刺す様に声が聞こえてくる。
「あなた?いま…軽くこの子が動いた気がします」
「おお!それは本当か!?どうだ、どんな感じだ?」
「あなた…まだ動いただけですよ」
あぁ〜あ、これはもう駄目かもわからんね。また赤ん坊からのスタートですか?おいおい、俺あのガキ特有の無邪気ムーブかまさないといけないの?無理よ?『赤ちゃんはどこから来るの?』とか、『お母さん!だっこ』とか、やったら精神崩壊しちまうよ…。
「ふふ、元気に生まれてきてね?」
「…ああ、その通りだ」
…まぁ、生まれますよ。そんな心配しなくとも。頑張るのは母親だぜ?
あぁ、赤ん坊だからかやけに眠い。…赤ん坊の睡眠は立派な仕事だよな、うん。
俺は、この現実から逃避するように…静かに眠りについた。