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真冬の夜のできごと

登場人物


高戸望たかどのぞむ

男。田舎から上京してきた20歳のフリーター、ひとり暮らし、黒猫を飼っている

猫の名前はマギカ


月浦美姫つきうらみき

魔界から転移してきた魔王の末っ子。見た目は少女だが、年は不明

人間離れした身体能力をいかして泥棒をやっている。月に30万を稼ぐ

忍び込んだ家の冷蔵庫から缶ビールを盗むのがいつもの決まり

奔放で衝動的な性格。嬉しいことがあるとすぐ近くにいる人に抱きつく


・謎の男

美姫を追いかけてくる。帽子もコートも靴も何もかも黒い。身長は190cmほど


あらすじ


そろそろ冬も終わろうかという頃。望むは日課のマギカの散歩をしていた。

マギカは犬でもないくせに毎晩散歩に行きたがる、そしてリードをつけなくても逃げない賢い猫である。

相変わらず寒さの残る夜だったから、望はウォッカを飲み体を温めつつ歩く。

いつもの電柱にマギカが小便をする横で、望は奇妙な光景を目にする。ひとつ先の電柱の下に黒ずくめの男が倒れている。

望はふらふらと男に近づき、顔を寄せた瞬間に腹を刺される。男は望の腹から流れ落ちた血を浴びると、バネのように立ち上がった。


目を覚ますと望は病院のベッドの上に寝かされていた。刑事がきて、簡単な事情聴取を受ける。

刑事の話によると、事件発生直後に通報があったおかけで早く望を発見することができたらしい。しかし奇妙なことにその通報は道に黒い服の男が倒れているからきてくれ、というものだった。刑事は「なのに現場に駆けつけると君が倒れていた」と首をかしげていた。

望は黒い男に腹を刺されたことを刑事に話した。


13日後に望は退院した。不思議なことに、マギカはアパートのドアの前ですやすや寝ていた。

部屋の中に入ると、床に猫用の食料の缶が積み上げられている。いくらマギカでもスーパーで買い物して缶切りで缶をあげることはできまい、と訝しむ。

その日の夜、ふと目が覚めると枕元に少女が座っていた。少女は鋭い瞳で望の顔を睨んで、唸っている。

望は飛び起きて、腹を痛める。少女は傷を完全に治す方法があると言い、望を仰向けに寝かす。

少女は、「私は月浦美姫、よろしく」と微笑み、突然ナイフで自分の手首を切る。

流れ出た血は望の腹に染み込み、傷が塞がる。

望は美姫の自傷行為に取り乱し、身の危険を感じて逃げ出す。アパートからずいぶん離れたところまで全力疾走してから腹の痛みが消えていることに気づく。アパートに戻ると、ちゃぶ台の上に手紙が置いてある。『怖がらせてごめんなさい。お腹の傷はもう大丈夫です。本当にごめんなさい』


数日後、望がバイトを終えると店の外で例の刑事が待っていた。刑事は事件の不審な点に気づいたと言う。それは黒い男コートを着た男が血まみれで倒れているという通報のことだった。「高戸望さん、あなたはその男が血まみれで倒れていると気づきましたか?」と聞かれ、首を横に振る。望は、真っ黒なコートが血に濡れているとは気づかなかった。ならば通報者はなぜそのことに気づいたのか、そして男はなぜ望を刺したのか


望はマギカと散歩しながら考える。男に刺された理由には思い当たるところがあった。月浦美姫が持っていたあのナイフは男の持っていたナイフと形や装飾が似ていた。あのナイフによって切られた血を浴びると傷が治るのではないか、と考える。

マギカがこないだと同じ電柱に向かって小便をしているところ、ひとつ先の電柱の下にまた黒い男が現れる。男は「こないだは悪かった。俺も必死だったものでな」と馴れ馴れしく話しかけてくる。「あやうく死ぬところだったし、それに警察に事情聴取などされると面倒なことになる」

男は望の腹の傷に触れて、眉をひそめた。


望は布団に寝転がりながら、マギカとの出会いを思い出す。中学時代、修学旅行でこの東京にやってきた。電車の乗り換えにミスって降り立ったのがこの街だった。せっかくだしと街を散策していたら、ひとりの少女に出会った。少女は望にマギカを手渡して、「この子をお願いします。うちの家では飼えなくて……でも野生に返すのは危ないし、平和な日本なら生きていけるかなって、だから……お願いします。もしもの時はあなたがマギアを守ってあげてください。そのための能力を授けます」

その後のことは記憶が薄れている。望は気がつけばクラスの皆と合流していた。

高校を卒業してから、マギカを連れて上京して、この街のアパートを借りたのだった。


そんな思い出にひたりながら、月浦美姫の顔を頭に浮かべる。もしかして、あのコがあの時の少女かもしれない。

アパートに戻ると、部屋に月浦美姫がいた。腕に包帯を巻いている。望はマギアを美姫の腕に抱かせ、「覚えてますか? 俺、昔この黒猫をある少女にもらったんです」

美姫「え? うぇ!? って、あああ! もしかしてあの時の猫、マギカ? この子マギカなの……?」「そして君が、ずっと育ててくれてたんだ。嬉しい!」感極まった美姫は望に抱きつく。

突然窓が割れて、黒い男が飛び込んでくる。黒い男は望の傷が完全に治っていることを察し、もしやと思い後をつけていた。

そこで美姫が魔王の娘であることと魔界から家出してきたということが明らかになる。

黒い男は力尽くで美姫を連れて行こうとする。その光景を目にして、望の胸中にはどす黒い怒りが湧き上がってくる。望自身にもなぜ自分がそこまで怒るのか理解できなかった。

望は思いきり力をこめて黒い男の腹のド真ん中に拳を叩き込む。黒い男は膝をつき、「くはっ! なんだこれは、あのノロマなトロールの棍棒をまともにくらったようなこの衝撃は!? 人間のガキのくせに!!」

望は力が尽きたように倒れ込む。


望が目を覚ますと、見慣れない豪奢な部屋のベッドに寝かされていた。

妙に生暖かい枕の感触、それは美姫の太腿だった。

望「ここは?」

美姫「私の部屋だよ」

望「あれ……家出してたんじゃ?」

美姫「帰ってきたの。君と一緒に。あとマギカも連れてね」

望「困るなあ、マギカを勝手に連れてくなんて。それに俺も……ん? 俺も連れて?」

美姫「久しぶり、私の眷属くん! 魔界へようこそ」


つづく

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