無意識の影
「どこまでついてくるつもりだ?」
「別に。あんたと帰る方向が一緒だからよ。」
暁人はすぐには自分の研究室に戻らず、部品のジャンク屋を回っていた。
その間、ずっと花賀瀬はついて来ていた。
「ねえ、さっきイヤホンしてたじゃない?何聞いてたの?」
「これだ。」
暁人は花賀瀬に先程のイヤホンと音楽プレーヤーを渡した。
花賀瀬はイヤホンをつけ、再生ボタンを押す。
すると、砂嵐のようなザーッという音が流れた。
「何これ?嫌がらせ?」
花賀瀬は暁人を睨むような目で見る。
「……お前にも聞こえないか。」
「え、どういうこと?」
「なんでもない。忘れてくれ。」
「いや、そういうわけにもーー」
「忘れろ。」
たまにでる暁人のこういう威圧的な態度を鞠亜はすこし不思議に思っていた。
そして、それは唐突にきた。
「ぐっ……。」
暁人は急に頭を押さえる。
少し遅れて、暁人の足が止まったことに気づいた花賀瀬は振り返る。
それと同時に、暁人が花賀瀬に向かって倒れてきた。
急な事で花賀瀬は暁人に抱きつくような形になる。
「ちょっと!変態!おい!聞いてんのか!」
急なことに暁人が意識を失っているということに気づかず、花賀瀬は叫ぶ。
「この!いい加減に!」
花賀瀬は、横に投げるように、暁人を倒す。
暁人はそのまま投げられた勢いのまま、倒れる。
「あれ?おい、ちょっと!大丈夫⁉︎」
暁人は夢を見ていた。
自分の夢ではない。
誰かの夢だ。
自分の視点は何処からか見下ろすような形である。
そこには何かわからない機械と、黄金色に近い茶髪のショートヘアの少女がいた。
彼女は何か言っている。
しかし、暁人には聞き取れなかった。
暁人も声を出そうとするが、声が出せない。
暁人はたまにこういう夢を見る事があった。
そしてそれは決まって突然に起きる。
暁人が眠っている間ではなく、起きている間に唐突に。
「お前は誰だ?」
そう声を出して、届くはずのない手を必死に動かす。
すると、むにっ、と感触がする。
おかしかった。
夢であるのにリアルに感触がする。
ぼんやりとした意識は急な腹への衝撃で急激に覚醒した。
目を開くと、そこには先程の夢の女ではなく、俺についてくる赤みがかった茶髪の女の顔があった。
何故か顔が真っ赤である。
「触られた。誰にも触られた事なかったのに!」
いまいち、状況が掴めないまま、何故かもう1発殴られた。
「この変態。」
その言葉の意味もよくわからなかった。
そうこうしているうちに日も暮れてきていた。
「お前、本当に帰らないのか?親御さんとかは大丈夫か?」
「私、一人暮らしだから。」
「はぁ……。何が望みだ?俺についてきても何も無いぞ。」
「『T- cube』。」
「何?」
「『T- cube』を見せてくれるまで帰らないわ。」
「……。」
暁人は考える。
「お前、それは純粋な興味か?それとも科学者としての興味か?」
「もちろん科学者としてよ。それと、そのお前っていうのやめてくれない?無性に腹が立つわ。」
「俺はそもそもお前の名前を知らん。」
「ああ、そういえばいってなかったわね。私は花賀瀬 鞠亜。名前くらい聞いたことあるでしょ?」
「そんな奴は知らん。」
「この間の雑誌にも載った天才科学者の名前よ⁉︎ 本当に知らないの⁉︎」
「知らんし、興味もない。そんなことより、見せるに当たって一つ条件がある。」
「そんなことよりって……。まあいいわ。それで?条件って?」
「お前には俺の研究所の研究員になってもらう。それが『T- cube』を見せる条件だ。」
「えー。あんたの研究所に?私が?それ、本気で言ってるの?」
「ああ、でなければ『T- cube』は見せられない。」
「……。」
「別に断って構わない。というか、断った方がいい。お前は俺達の研究所にいない方がいい。」
「あ!言ったな!良いとも入ってやりますとも。」
「……わかった。最後にもう一度聞くぞ。本当にいいんだな?」
暁人は今まで以上に真面目な顔で花賀瀬に尋ねる。
「ええ、あなた達の研究を2年は進めてやろうじゃないの。」
そうして、研究所に新たなメンバーが一人増えた。
ガチャッという音をさせ、研究室兼俺の自宅に入る。
すると、奥からトコトコと幼馴染の片瀬 ほたる がやってきた。
「お帰り、アッキー。」
片瀬 ほたる はどこかおっとりとした少女で今年で17になる。
よく暁人に晩飯や差し入れをしにきてくれる。
「ただいま、ほたる。」
「あれあれ?アッキー、後ろの人は誰?」
「俺を探していたとほざいた割に急にキレて、挙げ句の果てに家まで押しかけてくる迷惑な女だ。」
「ちょっと、やめてよその紹介。はじめまして、私は花賀瀬 鞠亜 と言います。」
「えーっとね。私は片瀬 ほたる です。それにしても意外だなぁ。アッキーが女の人を家に連れてくるなんて。」
「わ、私とこいつはそういう関係じゃないから!」
「カズは?」
「いるよ〜。カズくん〜。」
「はいはい。どうしたん?ほたるちん?」
「お邪魔します。」
奥からカズこと北野 政和が顔を出してくる。
「アキアキ!どうしたん?この美人さん!はっ!まさかアキアキの竿で釣ってきたん⁉︎」
北野 政和は太っていて、御世辞にもカッコ良いとは言えないが、発明の腕だけは認める事ができる。
「いきなり下ネタはやめろカズ。えーっと何だっけ?花、花、花沢さん?が、引いてるだろ?」
「花賀瀬よ!何なのここ?変態しかいないの⁉︎」
「アッキーもカズくんも変な人だけどね〜、悪い人じゃないんだよ〜。」
「片瀬さんみたいな普通な人が何でこんな奴らと付き合ってるのかしら?」
「う〜んとね。アッキーはほっといたらーー」
「ほたる。それは言わなくていい。」
「あ、ごめんね〜。アッキー。」
「?」
花賀瀬はわからないと言ったような顔を浮かべる。
「早く上がれ。」
「わかってるわよ。命令しないで。」
花賀瀬が靴を履いたまま部屋に上り込む。
「靴を脱げ!」
「あ、ごめんなさい。アメリカが抜けてなくて。」
花賀瀬が部屋に上がり、部屋を見渡す。
「しっかし、何なのこの部屋?これが研究所?設備なんてほとんど無いじゃない。」
「仕方ないだろ。俺は貧乏人だからな。」
「そこは、自信ありげに言うところじゃないわ。それで?『T- cube』は何処にあるの?」
「あれあれ?何でハナハナが、『T- cube』のこと知ってるん?」
政和が、話しかけてくる。
「ちょっ!変なあだ名つけないでよ!」
「あれはカズの癖だ。どうしようもない。こいつは新たなここの研究員だ。こいつの自信たっぷりな脳を我が研究室のために使ってもらうことになった。2年は研究を早めてくれるそうだから、期待しよう。」
「うっ……。嫌味のこもった紹介ね。まぁ、いいわ。それで『T- cube』は?」
「これだ。」
暁人はドアからは一番遠い、机の上に置かれた、白色の半透明な立方体を指差す。
この部屋は1ルームのキッチン風呂付のため、玄関から部屋が全て観れる。
「これが……『T-cube』?確かに……見たことないわね。触ってもいいい?」
「ああ、だが、上の穴にだけは手を触れるな。消し飛ぶぞ。」
「穴?」
花賀瀬が『T-cube』の上を見ると、そこにはげんこつサイズの穴が空いていた。
「この穴は?」
「燃料のレモンを入れる穴だ。」
「は?レモン?」
花賀瀬は意味がわからないといった顔をしている。
「『T-cube』はレモンと水と空気で動く。当初強い酸が必要なのかと思い試して見たが、硫酸などよりもクエン酸がいいようだ。原理はわからない。」
「へぇ、なかなか興味深いわね。それで?これで何ができるの?」
昔の古いパソコンくらいのサイズ(もしくはブラウン管といった方がわかりやすいかもしれないが)の『T-cube』を持ち上げ、花賀瀬が尋ねる。
「時間遡行だ。」
「は?」
花賀瀬が固まる。
「ちょっと待って。私の聞き間違いでなければ、今、時間遡行って聞こえたんだけど?」
「そう言ったんだ。」
「できるわけないでしょ!それもこんなレモンで動くような変な機械で!」
すると、そこで暁人の雰囲気が変わる。
「『T-cube』は変な機械ではない。」
たまにでる暁人の威圧的な雰囲気だ。
多分、少し怒気がこもっているのだろう。
花賀瀬はすこし、たじろぎながら、それでも意見を言う。
「時間遡行なんて物は絶対に存在しないわ!理論上無理だもの!」
「なら、実際に見せてやる。カズ、実験の準備開始だ。」
今回は暁人視点です。
この話はサブタイトル考えやすくていいです。
今日だけで一気に3話も描きあげちゃいました。
しかし、こっから話がややこしくなるので書くのがどんどん難しくなります。
読んでる人にわかりやすいようにかければ良いのですが、それもなかなかに難しいんですよね。
理解しやすいように善処します。