敵
口をかくかく動かしながら無表情で、瞳に石の光もない状態の王子が、私に向かって告げる。
木製の人形が、紐を引くと口が開くようなそんなイメージ……。
「……この王子、少なくとも馬鹿ではあったけれどここまでこんなじゃなかったはずだけれど」
「あら、バカなんて酷いわね。元婚約者に」
楽しそうにくすくす笑うミズハだが、私としては、
「はぐらかさないで。彼にいったい何をしたの? うちの王子様よ?」
「その王子様をお馬鹿さんて言うのはどうかと思うわ、マリナ」
「貴方と下らない話をするつもりわないわ。答えて」
「あら、残念だわ。もうすぐ会話をする事すらできなくなるというのに」
「消えるのは貴方の方よ」
私がそう言い切ると、ミズハは楽しそうに笑った。
「貴方、私に勝つつもりなの? 私に?」
「ええ、貴方が負けるのは、すでに確定事項よ!」
「……お仲間の方も大変ね。こんな“アホの子”相手にこんな所に来てしまって……命を落とすのだから、と言いたいところだけれど、そちらの王子様方二人がいるから、私が動く羽目になった部分もあるのよね。マリナはおまけで殺そうと思ったの」
ミズハが私を殺すのは“ついで”だと言う。
けれど、“彼等”について知っている私は、
「それは“嘘”だわ。だって貴方達は、“人間”何て相手に普通はしないもの。でも貴方は“ついで”だと、本来の目的ではないと言いながら私を気にしている」
「……何が言いたいの?」
「そんなに貴方は私に“勝てない”と思うものがあったの?」
そう挑発するとミズハの眉が片方吊り上がった。
少しだけ楽しかった。
そして黙ってしまうのは、この有利な状況で怒鳴り散らして今私が言った事を“肯定”したくないのだろう。
とはいえ現状では答えて欲しい事にこたえてもらっていない。なので、
「それで、ミズハ。貴方は王子に何をしたの?」
「……相変わらず口の利き方がなっていないわね。でも私は寛容だから見逃してあげるわ。この王子様はね……あまりにも素敵だったから“人形”にしてしまったわ」
「それは操るという意味?」
「そうよ。もっとも、役にあまりたたなくなったら本物の人形にしてしまうかもしれないけれどね。“人質”として価値がある間は生かしておいてあげるわ。価値が無くなったら飾りの人形よ」
「気持ち悪いわね、ミズハって」
「……」
本当の事をとりあえず思ったまま口にしてみると、じろりと私は睨むもすぐにミズハは笑う。
「マリナ、貴方は目障りだから初めに死んでもらうわ。……行きなさい」
そこでミズハは指示を出すと、同じ顔をしたメイドなどが何人も私に向かって走ってくる。
ぎょろりと私を見るように目を動かしているが、それを見てリフェが、
「うちにいるメイドさんが何人も、しかも同じ姿で……」
「全員内にいたのね、どうりであの場所に貴方達の魔物がいたのね」
そう言うとミズハは笑う。
「ええそうよ。貴方が初心者用のダンジョンに行くと聞いた時、危険な魔物が召喚されるように細工して、本当は誘導予定だったけれど貴方は自力で見つけてくれてとても良かったわ。……邪魔が入ったけれど」
「思い通りに行かないってどんな気持ちかしら」
「ここで今すぐやられる貴方に言う必要はないわ」
ミズハがさらに苛立ったように告げる。
同時にメイドの人達が、めきめきと音を立てながら肉の塊のような化け物に変化する。
感じる魔力は、この前の花畑で遭遇したものよりは小さいけれど、
「意外に全力ね」
私は小さく呟いて杖を構え、ロラン達も剣を構えたのだった。
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