むしろ逃げろ
嘆息するように現れた目の前のロラン。
それを見て私はむっとした。
「別に自分から、危険に飛び込んでいるわけじゃない!」
「飛び込んでいるだろう? こんな初心者とはいえ冒険者の来るような森にやってきて」
「私には自分の身を守る程度の力はあるの!」
「この前、岩にぶつかりそうになっていたのは誰だ?」
「攻撃が来たらそれをどうにかできる防御用の魔法道具も持ってきたから大丈夫なの!」
そう言い返すと、ロランにため息をつかれた。
本当にこのロランは気に入らない、もっと私をきちんと“見て”よ、私だって強いんだもの!
そんな感情が私の中で渦巻くとそこで、唸り声が聞こえた。
地面からふわりと、四角錐の形をした赤い石が浮かぶ。
その石の中には白く光りながら線が描かれている。
“彼等”の道具一つである“恵みの氷”である。
作るのも複雑で時間がかかるらしいが、あれを落として起動させてしまえば後は周囲の魔力を一部吸収し、増幅し、“凶悪”な人類を駆逐するための魔物を呼び出すのだ。
“彼等”がどうしてここにそんなものを設置したのか?
私達がそこに行くのを予測して先回りした、とするならば私の屋敷に内通者がいることになるが、生憎、私がターゲットとは限らない。
何故なら私は“聖女”であることを隠しているからだ。
だからここに来たのは偶然で、もしかしたなら別の目的があったのかもしれない。
それがたまたま、隠しているとはいえ強力な力を持つ私の影響を受けて起動してしまったのだろう。
そう思っているとそこでロランが、
「……やはり“俺”がここに近づいたから起動したのか? 事前に幾つもの場所で設置しているのか? 来そうな場所を先回りしているのか?」
「どういう事?」
「お前には関係ない」
「関係あるわよ、私だって魔力は強いからそれに影響されてあれが動き出したわけだし」
私がそう返すとロランはそこで初めて、訝し気な顔で私を見た。
「どうしてあれが、“強い魔力を持つ人間”に反応すると知っているんだ?」
「……私に才能があるからよ。魔力に反応するものが多いのだから、そう考えても不思議ではないでしょう?」
私はそう言ってとっさにロランを誤魔化した。
その辺の、どうして知っているのかといった事情はあまり周りに知られたくない。
“聖女”という私が隠しているものに辿り着かれてしまうからだ。
これに関しては秘密にしたいが、今のとっさの嘘で何か問題はないだろうか?
などと考えているうちに目の前の結晶に魔力が集まっていく。
大きく形作ろうとしているのは、目の前に現れようとしているのは四つ足の肉食獣、それも大きなものに見える。
相変わらず現実の動物や魔物をモチーフにしたような怪物ね、と思っているとロランが、
「お前達は下がっていろ。むしろ逃げろ」
「……貴方達だけで大丈夫なの? 実は今回、私、エレンとリフェの力を借りて強力な一撃を打ち込める道具を持っているのよね」
「……そんなお遊びに付き合っている余裕は……」
「ロラン達だけで簡単に倒せる自信があるならいいわよ。この敵がどの程度のランクの敵なのか分からないけれど」
「……どう考えても、根的について知っているとしか思えない口ぶりだが、問いただすのは後ででいいか。……その攻撃とやらにかかる時間は?」
そう、ロランが聞いてきたのだった。
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