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危険に飛び込むのが好きだな

 こうして花畑の中で食事をする事に。

 今日持ってきた籠の中にはたくさんのサンドイッチや、焼いた野菜、芋などが入っている。

 他には瓶詰の飲み物もいくつか。


 氷の魔法でよく冷やされたそれは、冷たくて美味しい。だが、


「どうして五人前」

「それくらいの量なら、リフェは食べられ……リフェが食べても残りそうですわね」


 籠の中の食べ物を見てエレンが呻くように呟く。

 それぐらいの量ではあった。

 確かお願いした時に、リフェは多めに食べるから五人前くらいと言っておいたけれど、リフェが沢山食べる分も考慮してくれたらしい。


 多すぎだけれど余分に食べるのもきついし、後でおやつ代わりにでも食べてもいいかもしれない。

 よく見ると端の方に甘いジャムの小瓶も入っている。

 デザート代わりに、三時のおやつとして楽しむのもいいだろう、そう私が計算しているとそこで、空気が凍り付くような、割れるような魔力の気配を感じた。


 はっとして私はそちらを振り向く。

 私達がいるのは、お花畑の入り口付近。

 お花畑に包まれて食べるのは良いが、先ほど歩いてきた入口の方からは死角になるような場所で、結界を張って食事をとる予定だったのだ。


 理由は単純で、冒険者の人達の邪魔にならない場所で、かつ、道に出てきたなものが見通しがいいために急に襲ってきても、すぐに見つからないだろう場所なので、対応できるからである。

 それが功を奏したのか、花畑の中心部でそれは起こっているようだった。

 渦巻くように空間が歪み、魔力の発露を感じる。


 そこまで綺麗とはいいがたいけれど透明さを感じる水に、ドロリと濁った水がなだれ込むような醜悪なおぞましさを感じる。

 その場所から溢れ出す怖気を感じ取って、私はそれを睨み付けた。

 “どうしてこんな場所に”。


 私は自分の中にある知識と感覚、その全てにおいて“それ”が何なのかに気付く。

 どうして今またそれが現れたのか?

 “聖女”が生まれるのには必然があるというが、今まではそんな気配すらなかったのだ。


 だから私は普通に楽しもうと思って、こうやって遊んでいたわけで……こんなことになるなら、


「もっと装備を充実させておくべきだったわね。いえ、練習しておくべきだった。……まさかあのダンジョンの主も? いえ、それは考え過ぎね。でも、“彼等”は私に気付かれないように動く術も知っているか……」


 自分の思考を確認するために呟いた私にエレンが悲鳴じみた声を上げた。


「な、何ですの、あれは!」

「うーん、“敵”のようなものね。まさかこんな所に出るなんて」

「よ、余裕ですわね」

「余裕? あれに対して余裕だと思っていると、死ぬわ」

「……え?」

「死ぬわ」

「……」


 言い切った私にエレンが何も言えなくなったらしい。

 なまっているとはいえ、こう見えても私は“聖女”で、昔の“聖女”の知識もある。

 そうずっと、こんな化け物を相手にしてきたのだ。


 だから人間やそこらの魔物程度に危機感は覚えない。

 ただ、現在初心者なほかの二人も含めて、今、勘の鈍っている私だけでどうにかなるのか……。

 逃げる選択肢もあるけれど逃げた所でどうにかなるとも思えない。


 さて、どうする?

 やるしかない!


 私の中で瞬時にそう判断が下された所で、誰かが後ろから走ってきて、私達の前に出る。


「……本当に危険に飛び込むのが好きだな」


 嘆息するように私の前に現れたロランは、私を振り返りもせずそう告げたのだった。


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