口だけは達者
“気に入らない”イケメンと遭遇してしまった。
彼の方もそうであるらしく、私と彼はにらみ合う。
すると彼は私を見て、嗤った。
「それで、か弱そうに強気で……どうしたいんだ? お嬢さん?」
「……どうやら私の実力が分かっていないようね。隠しているといっても見抜けないならまだ二流だわ」
「ふん、口だけは達者だな」
「そちらの言い方が悪いんでしょう? 女性には優しくするべき。もっとも貴方の場合は、何もしなくても女性の方から寄ってくるから、する必要がなかったのでしょうけれど……後で後悔することになるわよ?」
その内好きな女性が出来た時、この口の悪さが裏目に出ることになるだろう、そう私は思ったのだ。
だから皮肉も込めて忠告してやると、イケメンも私の方を見て更に嗤い、
「そんな風に助けたのに素直にお礼も言えないようじゃ、婚約者か恋人に逃げられたリするんじゃないのか?」
「あら、よく分かったわね。既に婚約者は、寝取られ済みよ」
私は寝取り女ミズハという、あの面倒くさい自尊心と承認欲求を拗らせた様な恥ずかしい女を思い出しながら、時々でれっとしていた王子を追加で頭に浮かべる。
今頃どうなっていることやら。
彼女が勝利の美酒に酔っている間、何が起こっているのか?
乙女ゲームに関する知識から推測はいくつかできるかもしれないが、本音を言うとこれから楽しい“冒険”が待っているので、それに脳内の容量を割きたくない。
そう思っていると目の前のイケメンが珍しく申し訳なさそうな顔になった。
「……それは悪かった」
「いえいえ、未練のない相手でしたので。そして、そうですね、先ほどは助けていただきありがとうございました」
私がお礼をいって微笑んでやる。と、
「……笑えば可愛いんだな」
「? 何か言った?」
「な、何でもない」
聞き逃した私がそう言い返すと、目の前の彼は顔を赤くしてそう答える。
と、誰かがやって来たのだった。
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