婚約破棄らしい
「え? 婚約破棄ですか?」
私、公爵令嬢のマリナは目を瞬かせた。
美少女だが目立たないと言われた私だが、実はそれこそが私の望む所だった。
その話は今は置いておくとして、私はその日、父に呼び出された。
かと思うと、そこには神妙な顔で私を見つめる母がいて重い口を開くように婚約破棄されたと私に告げる。
そして更に母は、
「ええ、しかも貴方、“悪役令嬢”と呼ばれているの。だからしばらくは……誰も知らない場所で、静かに暮らして欲しいの」
「……分かりました。ただどうして婚約破棄といった事態に? 私は特に何もしておりませんが」
「それが先方のバカ息子……ではなく王子が、貴方を妙にライバル視していた伯爵令嬢ミズハがいたでしょ?」
「ああ、眼中になかったあの方が何か?」
「それでもあちらはライバル視していたらしくて、王子の一番は私とやってしまってね」
「はあ」
「……やっぱり、あの駄目王子、マリナはあまり好きではなかった?」
そう言われて私は大きく頷きそうになったが、必死でこらえ、代わりに沈黙する。
そんな私を見て母はため息をついてから、
「なんにせよ、婚約破棄され悪役令嬢と呼ばれているのは事実です。その噂が収まるまで、しばらくは田舎の別荘で大人しくしていてもらうわ。いいわね、大人しくするのよ」
「はーい」
私は素直に母の言葉に頷くも、心の中でほくそえむ。
これならば堂々と、全く違う人生が歩めるかもしれない。
誰も知らないなら、別の誰かに私はなれるだろう。
そうすれば私の秘密も必死になって隠さなくていいかもしれない。
そう考えると、この婚約破棄も悪くないものに思えたのだった。
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