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【短編】あさ

作者: 空知 縹


少し眠りすぎただろうか。

携帯を開くと、残り時間 53:21、20、19…

どうやら、またアラームが鳴る前に目を覚ましてしまったらしい。

また、と言ったのは、昨日も時間前に目を覚ましてしまったからだ。

6時間と5分の睡眠を得た瞳に映る携帯の光の刺激が強く、耐えきれず布団の中に潜り込んだ。

眠い。そもそも、6時間では足り得るわけがない。


このまま眠りについてしまったら、俺はどうなってしまうんだろうか。

入社二日目の朝に、堂々遅刻をすれば間違いなくこう言い告げられるだろう。

「いつまでも学生気分じゃ困る」と。

もしそんなことを上司に言われてしまったら、俺なら絶対に立ち直れない。

屈辱も屈辱、俺は会社を無言で立ち去って行くだろう。

大げさに見えてしまうかもしれないが、人に失望されるのは俺にとってどんな羞恥よりも嫌なことだ。

俺は布団の中で目をがっ、と見開いて勢いよく布団を投げ出し準備を始めた。


昨日の夜は、楽に執筆をしてしまったために時間を忘れ、気がつけば壁掛け時計は11時の針を超えていた。

次にこんなことをすれば、まさに最悪の事態を招きかねない。

俺は昨晩の夜ご飯に買ったが、あまりにも筆が進むために食すのを忘れてしまったサンドイッチの封を開け、もくもくと口内に進めていく。

流石にお腹が空いていたのか、噛む速度が自分でもわかる程に早い。

サンドイッチの1枚目を食べ終わると、間髪入れずに2枚目を手に取った。

なんだか今日一日、頑張れる気がする。

俺は、特に理由もなくそう思った。

俺は玄関に向かい、ポストに手を突っ込むと朝配達の牛乳を手に取り、その場でぐびりと飲み干した。

もちろん、腰に手を当てて。

腰に手を当てて飲む牛乳と、当てて飲まない牛乳とでは、全く味が違う。(あくまで個人的に、である)



俺はその後、朝シャワーを全身に満遍なく浴びて体を火照らせ、スーツに袖を通す。

どうでもいい話だが、『パンツ、シャツ、靴下、ズボン』の順で着ると途中で至極滑稽な姿になるので、俺はいつも必ず『パンツ、ズボン、シャツ、靴下』の順でスーツ姿になる。

何がどう滑稽なのかがよく伝わらない。という人は、ぜひ1度やってみて欲しい。

恐らく、それでも伝わることはない。


そんな、誰に向けているのかもわからない思考を巡らせつつ朝の脳内体操を終え、俺はようやくリビングにある椅子に腰をかけ、足を組み、一息つく。

このゆったりとした、俺だけのためにあるこの時間が永遠に続けばいいのに。

そうして、瞳をすぅっ、と閉じてブレイクタイムを堪能していると、自室の方から携帯電話が鳴り響いた。

こんな時間に誰からだろう、なんて非常識な。

少し苛立って電話を手にとると、その主は、アラーム様だった。

ああ。

現実に置き換えれば俺は、モーニングコールをしてくれている人に「なんて非常識な」、と言ったことになる。

ごめんよ、マイアラーム。


こうして俺の朝は、鼻で笑ってしまうほどの下らなさで始まり、そしてきっと、凄惨に終わっていくのだろう。

俺はそんな朝を、心の奥底では大切にしている。

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