団地クエスト
私の実体験や友人の話を元にお話作りました。
クエストしますか?
≫はい
いいえ
☆☆☆☆☆
そんなつもりはなかった。
本気でなかった。
真梨恵は泣きたくなった。
空は曇天。
通行人ひとりおらず、
同乗者もおらず、
真梨恵はただ一人内装を可愛くカスタマイズした軽自動車で途方にくれていた。
お気に入りのアルバムも、お気に入りの消臭芳香剤も慰めひとつにもならない。
ちょっとした気分転換のつもりだった。
真梨恵の知るメイン道路はいつも混む。
そこそこ田舎の住まいの周囲は一本道をそれると住宅地や田んぼや畑が広がるのどかな、なんにもない所だった。
だから近道しようとして迂闊に知らない道にはいると、
少し街場だと一方通行ばかりになったり、
のどかな外灯少ない道だと田んぼの畦道のような心ともない道ばかりになり知らぬ間に私有地もしくは切り返しのできない行き止まりになることもある。
だから真梨恵は地元では知らない道に絶対行かなかった。
免許取りたての時に山奥の友達の家に行こうとして迷って、半泣きで偶然見つけた配達業者の人に道を聞いてなんとか家に帰った事があってから。
若葉が取れて二年目、慢心してたのかもしれない。
となり町は地元より栄えているから、大丈夫!
なんて思って鼻歌混じりに見知らぬ道に右折して、少し走って行き止まり。
あら?
ってなって切り返して反対の道へ。
登って下って、いくつか引き返して、戻って…そしたらもうどこにいるかわからなくなった。
そして途方にくれる真梨恵。
不意に友達の朱音っちの話を思い出す。
『まりちん、山道もヤバイけどさぁ!
ほんっと、団地もマジヤバイ!
迷路だよ、迷宮だよ!
こないだうっかり団地入っちゃってさぁ、出られなくてマジ泣いた!
ばーちゃん病院に連れてった帰りで一緒にいたから助かったけど、一人じゃぬけれなかったよ!』
よく知らない道で近道なんて信じられない、なんて言った自分を殴りたい。
今、正にそんな状態だ。しかも勘の鋭い友達の祖母なんぞいない。
お腹もすいてきた。
トイレにも行きたい気がする。
絶体絶命。
大ピンチ。
けれども、助けに来てくれるようなヒーローも彼氏もいない。
父親はゴルフ、母親は地元しか運転しない。
たのみのスマホは充電し忘れてさっき強制終了した。
ああ、どうしたら。
半泣きの真梨恵から泣きべその真梨恵に進化してしまった。
いい大人がみっともないと思うけど涙は止まらない。
『団地はね、迷う人もけっこういるみたい。
私も引っ越したとき自分ち分からなくて泣いたよ、小学生の頃だけど。
一概にはいえないけど迷ったら新しそうな道とか、公園とか目指すといいよ。
道が広いとか舗装されてるってことはメイン道路に行くのに使われる道だし。
公園は団地案内図とか近所の地図の看板あったりするから。』
不意に分譲住宅団地住まいの美人な友達の美鈴ちゃんの話を思い出す。
真梨恵は涙をティッシュて拭いた。
ついでに鼻も盛大にかんだ。
美鈴ちゃん、朱音っち、見てて!
私、やるわ!
そうして真梨恵は美鈴ちゃんの教えと勘を便りに突き進んだ。
道はきれいだが細くなっていく。
不安はよぎったが突き進んだ。
そして…
真梨恵は始めに曲がった道に辿り着いた。
どっと疲れがきた。
真梨恵は心に誓った。
もう油断しない…と。
行けそうな気がする!ってのは気のせいだと。
そうして疲れたまま買い物は続けた。
ウキウキ一人ランチを予定していたがコンビニおにぎりとコーヒーで済ませるという事にはなったが。
その帰り道、真梨恵は曲がる道を間違えて見知らぬ道に出てしまった。
クエストしますか?
はい
≫いいえ
真梨恵は迷わなかった。
砂利の空き地で華麗にUターンをして元来た道を戻っていった。
もう、団地のクエストはしない。
真梨恵は誓ったのだ。
けれども、真梨恵の人生はまだまだある。
人は忘れるもの。
またやらかすとも限らない。
地図とカーナビを次の少ないボーナスでなんとか
買う事を夕日に誓うのだった。
どうでもいい補足。
真梨恵は位置情報オンにしたくないタイプなのでカーナビを別に買おうとしています。
団地…私の想定している団地は『団地ともお』系ではなくて、住宅地が集まった系の団地です。
あれ?一般的には集合住宅地なのか…?