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チェリーミルク

 難なく校門から入る事が出来た。やはりボクの裸には人を狂わせる魅力があるらしい。あれほどしっかりしている警備員でさえボクの裸を見れば、たちまち勘違いを起こすほど目を狂わせてしまう。嗚呼、なんて罪深き裸なんだ。

 さて、HENTAIにとってのパラダイスである女子校に潜入した訳だが何をしようか迷ってしまう。このテーマパークには素晴らしいアトラクションが数多く存在しており、それは日中所狭しとフル稼働しているのだ。

 まず代表的なのが『教室』だ。男子校や共学校ではまず見られない、パンツやナプキンが空を舞い、目と目で心を通い合わせ綺麗な百合の花が咲くなど、素晴らしい世界が広がっていると聞く。HENTAIとしては是非とも『授業参観』してみたいものだ。

 早速ボクは昇降口からキチンと靴を脱ぎ、忍者よろしく音を立てないように歩き、直ぐ近くの教室を覗いてみた。既に授業は始まっているらしく、黒板の前で先生がチョークで何か書いている。それを良いことに、生徒達は化粧をしたり、ケータイをいじったり、胸をもみ合ったりなどそれぞれが好きなことをしている。さすが思春期、先公の言うことなんか聞かねーぜオーラを前面に出している。これはボクが直々に出向き『教育的指導』をして女子校生を『調教』すべきではないのか?

 そんな心配をよそに、やはり先生がその空気に耐えきれず罵声を生徒に浴びせる。

「何やってんだお前ら!授業受けに来たんだろ!黙って聞いてろボケが!!!」

 なんと汚い言葉を使うのだこの女教師は。これは女教師も『調教』が必要か?

「何だよてめー、はやく授業進めろよ」

「うぜーよ先公」

「バーカバーカ」

 汚い言葉が次々と生徒からも吐き出されていく。大和撫子が揃いも揃って、はしたないことこの上ない。見るに堪えなくなってきたので、思い切って教室の前の扉から威風堂々と飛び出していった。

「キミ達、本当に世に言う女子校生なのか?実に嘆かわしい」

 その言葉とその風貌に、一同唖然とした。

「え?何?なんで裸?」

「ちょーヤバいんですけど」

「マジ受けるんですけどこのHENTAI」

 ボクの姿を見て嘲笑したり、目を必死に覆ったりして楽しんでいる。ああ、なんて快感なんだ!大勢の女子校生がボクの裸に釘付けになっている。やはり裸は見られてナンボ。見られれば見られる程ボクのリビドーが高まっていく。朝の挨拶の時とやっていることは同じだが、ここでは明確にボクの裸に目線を向けているのを間近で確認できる。

 おっと、あまりの快感に我を忘れる所だった。ボクはこの女子校生たちを『調教』しなければならないんだった。

「キミ達!ボクの裸よりもっと学ぶべきものがあるんじゃないんのか?」

「うぜーよHENTAI!」

「わ、わたしに体でおしえてくれますか?」

 おや?何か聞き覚えのある声が聞こえたような・・・・・・って、ハタノミキか?このクラスだったのか。何という奇遇なんだ。これもまた運命という奴か。

「もちろん、肉体的指導はお手の物だ。体育館倉庫へ行こう」

「な、な、何やってんのアンタ!!!」

 騒ぎを聞きつけてきたのか、何処からかボクの思考を読んで来たのか、ワダジマエイミが教室に乱入してきた。恐るべしワダジマエイミ。ボクの行動を逐一監視してるんじゃないか?

「別に監視してないわよ!勝手にアンタの思考が流れ出てるだけよ」

 それ程までにボクのリビドーが溢れ出しているというのか。

「・・・・・・とにかくここから出ましょう。授業の邪魔よ」

 ボクの手を取り、教室から引きずり出そうとする。しかし、そんな光景を見てロマンスに餓えている女子校生が黙って見過ごすわけがなかった。

「ねーねー、二人って付き合ってるの?」

 一人の女子校生がこんな言葉を投げかけた。ボクは待ってましたとばかりに満面の笑みでこう答えた。

「ええ、ボクたちはセフレです」

 当然そんな言葉を聞いた女子校生は一斉に沸き立つ。

「キャー!!!」

「みだらだわ・・・・・・」

「HENTAI!」

 賛美と批判の入り交じった教室はさながら動物園と化した。獣達が好き好きに咆哮している様は女子校生といえども、その目にはとても卑俗に映った。

「早く!こっち来なさい!」

 もう我慢ならなくなったワダジマエイミは力一杯ボクを引っ張り教室から引きずり出す。名残り惜しくもハーレムランドとは、しばしのお別れとなった。

 

 先ほどの教室からはだいぶ移動し、学校内の部室棟へと足を運んだ。

「全く、アンタは世話ばかりかけて、もう・・・・・・」

 先導しながらブツブツと文句を垂れ流すワダジマエイミ。こんなボクに付き合っていて、授業の方は大丈夫なのだろうか。

「大丈夫よ。別に授業を受けなくてもテスト満点だし」

 なるほど、人の思考を読み取れるのであれば勉強しなくても答えが分かってしまうのか。テストでは最早無敵なのだろう。

「そんな汚い真似はしないわよ。ちゃんと勉強してるんだから」

 そう言って案内されたその部屋は、『生徒会長室』だった。

「へぇー、生徒会長とお友達なんだ」

「違うわよ。アタシが生徒会長なの」

 仰天動地だ。この見るからに友達がいなさそうなつっけんどん女子校生が、まさかの生徒会長?いやいやいや、さすがに嘘だろう。こんな奴が生徒会長を務められる訳がない。

「何さっきから失礼なことばかり考えてるのよアンタ。ただと、友達がいないだけで、生徒会長として『表』では人気なのよ」

「ほう。猫を被って見事当選したわけだ」

「猫被って・・・・・・確かに被ってたわね。必要以上にボディタッチしてたし」

 凜々しい女というのは、いつの時代も同性から人気なのだろうか。宝塚歌劇団の男役が女性であるにも拘わらず、同性人気を集めているそれと同じであろうか。

「それで、猫被り生徒会長は授業も受けずにここで何してるんだ?」

 ボクは断りも無く、生徒会長のデスクの本革張りの椅子に腰を掛ける。

「べ、別に何だってイイでしょ?生徒会長の仕事が忙しいから、特別に授業が免除されてるの」

「本当は?」

「・・・・・・あんまり人と居るのが好きじゃないの。聞きたくない事も聞こえて来るし。ここなら自分のペースで勉強も出来るし」

「体育はどうするんだ?」

「体育も同じよ。万年遠隔見学」

 そういって生徒会室にある無数のモニターの電源を付ける。そこには校内の監視カメラの映像が映し出されていた。

「アタシはこの部屋で学校に関わる全てのことを処理できるようにした。そうしないと、『声』に押し潰されてアタシ自身がどうにかなっちゃうし。いわばここは、アタシが学校に通うための最後の砦なの」

 監視モニターから無数の声が聞こえてくる。会話を楽しむ声、泣きじゃくる声、陰湿な虐めによって泣き叫んでいる声、悲喜交々のこの声達が、ワダジマエイミの頭の中に入り込み続けている。それは生きている限り続く『拷問』だ。ワダジマエイミはそんな環境下に置かれていても尚、ボクと友達になろうと頑張ってくれた。最初に出逢った時もそう、遊園地に行った時だって、外には無数の人が蠢いている中で、彼女は懸命に笑いかけ続けてくれた。 

 それなのにボクは一体、彼女に何が出来たというのだ。何も出来ていないじゃないか。ただ裸体を見せつけ、彼女と居る時は『セフレ』と言い張り続け、彼女を辱めているだけじゃないか。ボクはHENTAI紳士なのに、なんてヒドいことをしたんだ。

「そんなことないよ」

 ワダジマエイミが、そう言うとボクの背後から手を伸ばし抱きついてきた。

「アンタはいつもそう。他の人と違って心が真っ直ぐなの。ちょっとHENTAIなところはあるけど、でもそれがどうでも良くなるほど誰よりもキレイで輝いて見える。これって、どういう感情なのかな。友情?それとも・・・・・・」

 ボクは彼女の手を取り、こう告げる。

「それは、リビドーだよ。キミぼボクと同じでHENTAIなんだ」

「・・・・・・そうね、こんな裸の人を好きになるなんて、HENTAIよね」

 幼い感情ながらも交わされた愛の誓いは、体を駆け巡り宙を舞った。

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