3話 乙女の秘密 風子先生の過去 前編
前回までのあらすじ
Z.L.Fの襲撃事件から翌日。普段通りの学校生活が始まるかと思いきや突然黒ずくめの重装備部隊が風子の5-3組に押しかけてくる。国際警察ローエンはここ最近の事件についての説明を求め学校へと乗り込んできたのだった――
風守町上空襲撃事件から一夜明けた翌日。
風子もいつもと変わらず学校へ出勤し、相変わらず手のかかる生徒達を相手に苦戦していた。
しかし、少なくとも一部の生徒らの信用は徐々に増えてきており先日の出来事もあったせいで
眞鍋マコトも先生への信頼を置いている
「みんな 静かにして! 風子先生が授業できないでしょ?」
マコトの一言でクラス全体が静まり返る。
クラスの委員長も努めている彼女の発言はこのクラス
ではかなりの権限を有しているのである。
従わぬのなら論破されてしまうので特に男子生徒はあんまり 関わらないようにしているのだ。
しかし、容姿端麗で純情系少女として男子に人気があるのも事実である。
そんなマコトの一面を見て風子はほっと胸をなでおろす。いくら大人といえば一人でこの個性的な
クラスメイト達を取りまとめるのは不可能であるからだ。
「マコトちゃんのおかげで大分クラスがまとめやすくなったわよね」
「うん……でも子どもに頼りきっちゃうのもちょっと気が引けるわね…」
――苦笑い
気が引けちゃう風子はそう笑ってユフィーを誤魔化した――。
―――その時、教室の外から何やら騒がしい行列の影がうごめいている。
ガラッと戸を叩きつける音がクラス中に響くと外から特殊武装で身を固めた恐ろしい人たちがぞろぞろと入ってくる
「風ノ木・S・風子で間違いないな?」
特殊武装をした隊員の一人が乱暴な口調で問いただす
「貴様を国家反逆罪で連行する。無駄な抵抗はやめておとなしくついてきてもらおう」
「はぃ?私が何をしたって言うの?」
「令状はここにある。先日のZ.L.Fの戦闘の際に脅迫および器物破損した罪で来てもらうぞ」
「むちゃくちゃよ!一体誰がそんな令状出したっていうのよ!」
「俺だ……」
教室の入口からコートを来た白髪の紳士風の男が入ってくる。
かなり年季の入ったおんぼろコートに年相応の老けた小じわがよく似合う。
「私は国際警察のローエンだ とりあえず、話は向こうで聞こうか……」
「ちょっと!待って! いま授業中なのよ?!部外者は出ていって!」
「なら授業は中止だ。おう、ガキども 今日の授業は終まいだってよ さっさと帰って勉強しな」
突然入ってきて、ましてや見知らぬおじさんの言うことなどいくら風子のクラスメイト達でも些か動揺し
誰ひとり席を立つ者などいなかった。
「おらよ さっさと来ないと罪が重くなるぞ?なんなら俺が口添えして刑期を増やしてもいいんだぜ?
「納得いかないわ!というかあなた達本当に警察?手帳見せなさい!」
ローエンはめんどくさそうに眉間にシワを寄せる。先ほどポケットから取り出したタバコに火を付けて一服する。
「ねぇちょっと!聞いているの?」
―――「えぇ、間違いなく彼らは警察よ」
それは聞き覚えのある声。声のする方向へ全員が視線を寄せるとそこには当校の最上級責任者である
マナミが佇んでいる。側近にはダイスケ マスダ ヒルコの3人が添わるようにビッシリと並ぶ。
「お久しぶりねミスター・ローエン」
「ようマナミ 調子はどうだ?」
「最悪な気分ね。どこぞの誰かが、私の学校に土足で入り込んで 私の教員を自分の特権で確保して
連れて行かれる場面を見せられているんですもの」
冷静な表情から毒のある言葉がスラスラで出てくる。
ローエンは冷静な表情でマナミを見つめて事情を話した。
「ちゃんとこの令状に書いてあるだろ?年取って老眼になったかマナミ」
「それはお互い様よね、ミスター・ローエン 令状というものは裁判所の裁判長から認め印を押してもらって始めて
その効果が発揮されるはずよ。でもこの紙切れの印鑑は明らかに偽造ね。どんな彫刻師を雇ったかわからないけど私の
目はフシ穴じゃあないわよ」
「やれやれ そのメガネは老眼対策じゃないんだな 裁判所の印鑑なんて待っていたら地球を一周しても
間に合わねえよ」
「相変わらず強引ね。伊達にあなたのお目付け役を担っていた訳じゃないわ。あなたの癖 習性 好きな食べ物 色 性癖……なんなら
全て今ここで暴露してあげてもいいのよ」
年に不似合いなマシンガントークを放つマナミにギブスも流石にたじたじであった。
「プライバシーの侵害はどっちなんだか。だがな、俺らもここで引き下がる訳にゃいかねえのさ
こっちは日本の防衛省のお偉方が説明を求めてくるんだ。彼女を連行して事情を説明してもらわないと
何度だってこの学校に乗り込んでくるぜ?」
「どうせ言っても引かないのでしょう? いいわ、事情聴取という項目ならば連れて行って構わない。ただし、聴取は当校の空き教室を使って
行いなさい。『絶対』よ?」
マナミが強調する『絶対』 その言葉の重みを知るギブス。
「ま 聴取部屋を貸してくれるなら構わん。こちらも状況証拠として録音させてもらう わかるだろ?」
「好きにしなさい それと、校内は禁煙よ」
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――海原に揺れる一隻のLNGタンカー 船内では先日の戦闘で半壊したジーナ・フォイロが無残な姿でハンガーに
収納されている。技術班の整備士達もつい口を滑らせてしまった
「見ろよこの機体。先日ロール・アウトしたばかりだというのにこの破損率……」
「噂じゃ、例の白い耳の付いたE.Lがやったんだってよ」
「あぁ そうらしいな。四天王のパイロットねーちゃんは無事だったようだ」
「――にしても、先日の機体も万全だったのに、この機体までもがこんなザマとは
相手のE.Lは一体どんなやつだよ……」
「さぁな。何でも見た目以上に敏感な動きで従来のE.Lの運動能力じゃないってハナシさ。今度の技術者会議で
対策会議を行うってリーダーが言ってたぜ」
「だとしたら、新しいパーツ開発も視野に入るのかぁ こりゃ数日は徹夜覚悟しないとな……」
―――無残にも敗退したジーナフォイロを見つめながら技術者達が話し込んでいる。
そこへネイ・シューティーが様子を見に来た。甲板の音で技術者達もその存在に気がつき敬礼を行う
「ご苦労さま。私のジーナ・フォイロどう?」
「はい、見た目はあんな感じですが修理すればまた動きます。ただ、他の機体の修理や開発と調整もあるので
優先度は低くなり、修復には少し時間がかかります」
「ま、しょうがないわよね。あなた達に任せるわね」
そう言って、髪をなびかせて立ち去ったのだった
――「やっぱり、何度見てもいい女だよなぁ……あれでまだ10代らしいぜ?」
「マジかよ?! 恋人とかいんのかな?」
「さぁな、むさ苦しいZ.L.Fには数少ない女性隊員さ 手なんて出したらどうなるかわかってんだろ?」
そんな呑気な会話をしていた彼らは、遠くからリーダーの招集がかかり大急ぎで向かっていったのだった
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タンカーの中に不似合いなBAR しかしそこは数少ない船員達の憩いの場であるが、今の時間に限っては四天王である彼らの
貸切BARとなっている。ハンガーから帰ってきたネイをおちょくるダイテツ
「ようネイ ジーナちゃんどうだった?」
「言わずともわかるでしょう まだ修理中よ!」
「くっくっく おめぇもコテンパんにやられてんじゃねえか」
「うっさい!!」
戻ってきたネイをおちょくるダイテツ。恐らく前回の仕返しのつもりであろう。
「ダイテツ、そのへんにしておけ ジーニアス様が来るのだぞ?」
「そうよ二人共 ジーニアス様はお忙しい身なのよ?」
その名を耳にすると身が硬直するように背筋を伸ばす二人。程なくして
BARの扉が開き肩まで広いコートを着た男が入ってくる。ジーニアスだ
「――お待ちしておりました」
頭を垂れるヒロミツ 既に作戦会議の準備は整っているようで指定された席へと案内する。
案内された席の前に大きなモニターが展開されており既にいくつかの情報が表示されている
モニター前にヒロミツが着くと同時に他の三人も席に着席する――。
「では、これより今後の作戦について説明する――」
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風ノ森環境工学校は今朝から緊迫した状況だった。風子のクラスだけでなく1年生から6年生まで
全てのクラスが政府機関の特殊装備の兵隊に監禁されトイレや飲食以外の行動が厳しく制限されていた。
とある視聴覚室では風子とローエンが長テーブル越しに対立している。
懐から取り出した近代社会では珍しい録音テープがポンと置かれた。
「こいつは、超高性能集音用マイクだ。こいつにカセットテープを差込みお前の証言を記録する」
「構わないけど、今時カセットテープなんて随分古参なのね」
「一般のトーシロにはわからねーと思うが、高度なIT企業や機関ほどアナログでの記録を
徹底している。なんせ、データが消えた時に確実に手元に残して置けるからな」
ローエンは機材のセットを終えると風子の前にやってきて尋問を始める
「では、まず最初に名前と所属 生年月日をどうぞ」
風子の座る机にテープレコーダーを置くギブス。風子は静かに深呼吸をし、
これまでの経緯を語り始めた――