2話 氷の女王
――先日のZ.L.Fの一件から数日、街の被害は最小限に抑えられた。
町中の修復作業も次世代型E.Lのおかげで従来の何倍ものスピードで修復作業が行われている
町は修復風景の最中だが、社会の歯車は回り続ける。
■■■
相も変わらずそそっかしいクラスメートらに頭を悩ませる風子は今日も奮闘する
「はい、みんな! 授業始まっているんだから静かに!」
電子黒板に向かって電子ペンとモニターをスワップさせて授業資料を展開させていく
―――2020年現在、現代社会において、資源の枯渇問題が挙げられる。年々温暖化による木々の消滅 資材の調達困難において
各業界での資源削減が急務とされている
プラスチック製の机の量産による耐久性で長期の利用コストを実現させる
授業用タブレット搭載型の机が一般的となり学校機関を始め企業機関など社会である程度の人員的
集団で活動または行動する団体においては全てにおいて電子化が一般的だ。
この事によりそれまでかかっていた消耗品へのコストを減らし、幼少期から早期にIT社会への習熟に務める。
風ノ森環境工学校は特にそれが色濃く浸透しており周りから見れば一流学校のように見えるのだった。
――――「はい、これ! わかる人いる?」
風子が電子黒板に出した算数の問題をクラス全員に問う
ふと辺りを見渡せば一人だけ別の教科書を開いているクラスメイトが居る事に気がつく
机の表紙には 『眞鍋誠』と書いてある
「眞鍋さん?何しているの?」
「社会科の歴史模擬に向けての勉強ですが?」
「今は算数の授業のはずだけど……一緒に勉強しましょう?」
「お言葉ですが、私はその問題は既に塾でやりました 同じことをやって時間を無駄にしたくありません」
近年 教育機関での児童らによる教員へのセクハラ 嫌がらせが横行し休職を余儀なくされるニュースが度々報道される
大半は最初はただのいたずら程度だったが次第にエスカレートし、一教員だけでは収集がつけられなくなるケースが多い――。
「確かに、眞鍋さんは塾でやったかもしれないけど誰もが必ずやったとは限らないわ。
復習を兼ねてもう一度やりましょう?」
「そんなの時間のムダに決まっているじゃないですか?もっと充実した授業を要求します」
「うーん あんまり高度な授業だとみんながついて行けないからこうして一緒にやっているんじゃない?
それに、問題が分からない子がいれば眞鍋さんがフォローしてくれると先生はすごく助かるんだけど……」
次第にクラス内がざわめき始める その視線は風子ではなく眞鍋本人へと向けられ次第にその重圧に耐えきれなくなる
パタンと社会の教科書を閉じるマコト
「わかりました そういうことなら私も協力します」
ほっとした風子は教卓前に戻ったのだ
――「なぁなぁマコト、ちょっと言い過ぎじゃねぇか?」
「なによヒノト。あなた最近変わったわよね なんであの先生の肩を持つのよ?」
「んーまぁ 悪い先生じゃないっていうか……」
「ハッキリ言いなさいよ。そんな優柔不断だと聞いているこっちの時間がもったいないわよ それにあんたあの算数の
問題わかってないみたいね」
チラリとヒノトのノートを見ると白紙状態で殆ど何も書いていなかった
「あんたのせいであの先生に一本取られちゃったじゃないのよ 責任取りなさいよ」
「ええっ?! 理不尽すぎるだろ…っ!」
「うっさい!」
マコトはしぶしぶヒノトに算数を教える姿は傍から見れば仲良く勉強をしているのだが、実際は主導権を握られた
弱者が罵倒されながら鬱憤晴らしの為の説教をしているのは、誰も知る者は居なかった――。
――算数の授業が終わり休み時間。マコトに柏崎みらいが話しかけていた
「マコちゃんどうしたの?なんかあったの?」
「別に、なんでもないわ みらいこそどうしてあの先生の肩を持つの?
この間まで軽蔑していたのに」
「まぁ、風子先生は今までの先生とは少し違う…かな?」
「はい?」
「あ、今のは無しで…」
次の授業の始業ベルが鳴るととりあえず席に付く生徒達 マコトもむすっとした表情で席に付くのだった
――――「(なんなの…?みらいちゃんまで……今まで呼び捨てだったのに先生なんて付けて読んじゃってさ……)」
■■■
―――その日の昼休み 風子とヒノト みらいは職員室の中にいた。
「眞鍋マコト……成績優秀 スポーツ万能で右に出る者無しの完璧人間ってトコかな」
「マコちゃんの家は両親が実業家でね 小さい頃から厳しい教育環境で育っているから
完璧主義なんだ。だから、ちょっと他人を見下す傾向があって近寄りがたい雰囲気なの」
風子は電子パッドに映る出席簿のプロフィールと彼らの証言を照らし合わせていく。
「なるほどね」
「でもね、決して悪い子じゃないの。おウチがとても厳しく躾けられてて あんまりお外で遊ばせてもらえないんだ」
「まぁあんなナリだけど、割と男子には人気あるらしいぜ? この間のクラス内人気女子ランキングアプリで…」
「はぁ?どういうこと?ちょっと詳しく聞かせてくれる?というか男子に人気って??」
「げぇっ! これは女子に秘密だった!」
ヒノトの胸ぐらを掴んで問いただそうと乗り上げるみらいに目もくれず考え込む風子
「かなり深刻そうね……」
「あら?風子何か心当たりがあるのかな?」
「なんでもないわよユフィー 二人とも協力ありがとうね」
「いいって事よ! 風子先生も俺たちを頼ってくれて嬉しいんだもん」
「あ、でもこの事はクラスのみんなには内緒にしてね。子供の見栄ってやつでみんな悟られない
ように振舞っているから……」
―――――――その頃、日本外海に位置する地点にてまたもや不穏な動きを見せるZ.L.F一行
複数あるハンガーの中、昨日の一件でボロボロになったキペクロスに溶接の火花が飛び散り修復作業が成されている。
作戦司令室でもあるBARには四天王の ダイテツ ネイ ヒロミツ カナタの4人が集まっている
「カントクぅ~?負けたんだってぇ?」
「るっせぇ!ちょっと油断しただけだ!」
「カントクが負けるのも無理はない。まだ『耳付き』の情報が足りていないからな」
「それじゃ、俺が言い訳しているみたいじゃねえか!」
「世間ではそれを言い訳っていうのよ」
昨日の戦いの動画を見ながら作戦会議のようである。カウンター奥の調理台で3人分の食事を支度するカナタ
「ネイ あんまりカントクをからかっちゃダメよ 私達は仲間でしょ?」
年長者であるカナタの言葉に「は~い」と素直に答えるネイ
「でも、あの白いE.Lはなんなのかしらね 学校っぽい所から射出されているのを見るとあの学校と深い関わりがありそうね」
「それについては、今からみんなに情報共有をしよう モニターを見てくれ」
BARの中央に大きなモニターが現れると風森環境工学校の詳細データが映し出される――。
「これが例の、風森環境工学校の一覧図だ 我々Z.L.Fの諜報員が調べ上げた現状である」
「へぇ こんなのあったんだ」
ウィンター・ラビットの画像も表示されさらに詳しい詳細や憶測のデータが画面中を飛び交う中
負傷したダイテツは怒涛の怒りを表せる
――「くそぅ……耳付きのやろぉちょこまかうっとおしいんだよ!」
「奴は未知数の可能性を秘めている 特に新風の娘はあなどれんぞ……」
「そーいや、耳付きに乗っているのってあの有名な博士の娘なんでしょ?」
モニターに映し出されている風子のプロフィールが展開されている
「っていうかさーこれだけあの風子とかいうオバさんの情報揃ってるなら強襲仕掛けて拉致っちゃえば
いいんじゃないの?」
「ネイよ その作戦は既に決行済みだ しかし、ことごとく彼女の機転という機転に踊らされてしまい手こずり
捕獲は失敗 以後は『政府機関S.L.F』の厳重な警戒網の中なのだ……」
ヒロミツが苦い表情でつい先日の作戦結果報告書を映し出す
「我々も本気を出せばあの包囲網から風ノ木・S・風子を取り押さえる事は可能だ
しかし、今はジーニアス様の大事な作戦中…あまり大ごとにして我々の作戦を悟られるワケにはいかない――」
――「故に、今は彼女を泳がせつつ 我々は『来るべき作戦』の時まで慎重に行動せねばならない」
「ふーん」と相槌を打ちながらコップに注がれたジュースを飲み干すネイ
「そういや、あの二番目の機体ってもう終わってるの?」
ネイがストローで指す方向にその巨大な機影が映し出される
「あの機体のチューニングとOSインストールは終わっている ただ、まだ飛行テストが終わっていなくてな……」
すると、ネイが閃いたかのように蓮華を上に掲げる
「じゃ、私がその機体で行くわ」
一瞬キョトンとしたヒロミツだった
「しかし、まだ飛行テストが終わっていないんだぞ?ちゃんとフライトするかもわからんぞ」
「大丈夫よ 私の運動神経なら出来るわ。ねぇいいでしょう?」
ヒロミツに擦り寄ってくるネイ。年相応の顔つきとスリムな体系 女豹のような細い目つきに普段の冷静さと知的性を見せつけている
ヒロミツもたじたじであった
「わかった……ぶっつけ本番だがネイ用に再度チューニングしよう」
「やりぃ! そうと決まったら体力つけないとね! 姉さんおかわり!」
ネイの元気な声に釣られてダイテツも負けじとカラの皿を差し出したのだった――――――
■■■
――風ノ森環境工学校 授業は4時間で終了し早い下校時刻となった。生徒らは
開放感に満ち溢れそれぞれ午後の予定に向けて真っ直ぐに帰路を辿る。
眞鍋マコトはムスりとした表情で校門を出た。校門の前では何故かみらい ヒノトが待ち伏せていた
「ようマコト!一緒に帰ろうぜ」
「確か今日は塾無い日でしょ?一緒にショッピングしましょ?」
意気揚々と話しかけてくる二人に対して冷たくあしらうマコト
――「悪いけど、そういう暇ないの 帰って勉強しなきゃいけないし」
「えーいいじゃん別に 門限まで時間あるし遊ぼうよー とりあえずショッピングモールね!」
ガッシリとマコトの手を掴んだみらいがぐいぐいと商店街の方へと歩いていく
「だ、だからっ!そうじゃなくって!!ねぇみらいちゃん?!」
■■■
半ば強引に連れてこられたマコトだった
「今日は週末だからお得なのよ! あのお店の可愛い服とか見に行こうよ!」
「もう…みらいちゃん強引なんだから……」
「こうでもしないとマコトちゃん来ないじゃん♪」
やれやれとばかりにため息を付くマコトだが 本心ではまんざらでもないようだ。
「しばらく服も見に行っていないんでしょ? この際だから見ていこうよ!」
更にショッピングモールの奥へと引っ張られていくマコト。容姿端麗で美人 女性と並んでも羨ましがられる
何処かかっこよさがあり回りの大人たちから見ても羨ましがられる事だろう。
一方ヒノトも荷物持ちでガンガン引き寄せられていく だが、年頃の男子にとって
女子と買い物というイベントは願ってもない事であり、それだけで充実している時間であるのだ。
それからというもの 短くも楽しいひと時が流れた
――洋服店で流行りのファッションを着飾ったり
――備え付けのゲームセンターでUFOキャッチャーをしたり
――喫茶店で有名なスイーツを食べたり
それはマコトにとって特別な時間だった。普段から『遊ぶ事』に慣れていない彼女にとって
数少ない娯楽だったのだ。そんな楽しい時間もあっという間に終焉を迎える
「あっ もう17時だ……」
「流石にそろそろ帰らないと門限間に合わないよね」
「うん、でも本当に楽しかったよ ありがとうみらいちゃん」
「ううん、また遊びたかったら遊ぼうよ!」
「でも、私の家厳しいから……あんまり遊ばせてくれないの知ってるでしょ……」
落ち込むマコトの表情を見てみらいはポンッと肩を叩く
「じゃあ、送っていくね ほらヒノト さっさと荷物もって!」
「えぇ?!まだ歩くのかよっ!」
ようやく一息つけると思った矢先の出来事だった
「ごちゃごちゃ行っているとお母さんにあんたの0点のテストの隠し場所教えるわよ?」
「や、マジそれは勘弁!」
夫婦漫才かの如くヒノトとみらいの掛け合いはマコトに笑顔をもたらせた――。
―― その時だった
突如としてモール内がアラーム一色に染まる モニターも掲示板にも全て『EMERGENCY』の緊急コールが
忙しく流れる
「緊急事態発生 お客様は直ちに係員の指示に従って行動してください」
モール中が怪しい空気になり不安に煽られながら全員安全区域へと誘導される――。
一方で、風ノ森環境工学校の職員室ではこの事態に対して対応中であった
「校長!風森町上空に未確認の物体! かなり大きいです!」
「またZ.L.Fの仕業ね 全員第一警戒体制後、プールハンガーハッチオープンよ!急いで!」
「校長、出撃の準備を!」
職員室の戸が激しく開かれると風子が現れた 状況は既に把握済みでいつでも出撃準備可能であった
「ミス風子、準備は出来ているわ。ハンガーへ急いで!」
■■■
「ネイ!勝手な行動はするなっ!今回はテスト飛行だけのはず 早急に帰還しろ!」
「大丈夫だって 全然平気よ 少し町の連中を脅かしてやるだけなんだから」
「今はジーニアス様の大事な作戦の時期 あまり事を大ごとにするなとあれほど言っているだろう!」
普段は冷静なヒロミツもジーニアスの事になると途端に息が荒くなる 唐突にBARの扉が開きジーニアスが入ってきた
「何事だ? 騒がしいぞ」
「…ッ!?ジーニアス様っ! 申し訳ありません ネイの奴が言うことを聞かず勝手な行動を……」
「かまわん ネイ、お前がそれだけ自身があると言うのならば、しかとその実力を見せてみよ」
「ははっ! ジーニアス様のご期待に添えるよう全力で行かせていただきます!」
ジーニアスに仕える事の喜びと 期待の眼差しを受けたネイはより一層張り切るのだった
唐突に急降下し街中を鋼鉄の鳥が風を切りながらあらゆるものを吹き飛ばしていく 突風で
回りのものは全て空中に投げ出され 真空によりビルのガラスも悲惨な事態になっていた――。
夕闇に染まる風守町で異型の形をした飛行物体が音速で飛び回る。
町は騒然とした状況でただ見守っているしかなかった。
「アハハハっ! まるでエアダスターでゴミを吹き飛ばしている気分だわ!!」
「まったく……ジーナ・フォイロは太陽光エネルギーを蓄積しそれをエネルギーへと変換する機関を持っているが
完成してまだ間もない。基地の電力で補っている故、長時間は飛行できないから注意しろ」
「でも、この馬乗り状態のコックピットはどうにかならなかったの?ちょっと操作しづらいわね……」
「機体の軽量化 風の抵抗を最低限にするにあたり、最良のコックピット形状がそれなんだ。些か操作しづらいかもしれないが
慣れてもらうしかない」
「私はてっきりヒロミツの趣味かと思ったわ」
「ば、バカをいうな! 私は決してそんな事を思って設定したわけでは……っ!」
「あー はいはい まったく冗談の通じない石頭ね……」
ネイは機体を急降下させ、再度に地表へと突進する。地表数百メートルになった途端レバーを急回転させた
「へぇ、レバーの感度もいいじゃない 気に入ったわ」
―――――Z.L.Fのジーナ・フォイロが地表への攻撃を開始した。
警察や自衛隊が防衛体制に入る。人の居なくなった街には重装甲の10式戦車や軽装甲車が陣を固めて空戦を始める。
しかし、ネイにはそんな弾道が当たるわけもなく 機体を華麗に動かしながら自衛隊が陣を固めている中央に急降下突進を行う。
そして、先ほどと同じく急ハンドルで機体を起こすと戦車1台まるごと吹き飛ばすような衝撃派が一直線に全てをなぎ払った。
「もぅたまらないわねぇ!!」
ネイは笑いが止まらなかった
―――――ソニック・ムーブ
戦闘機が超音速飛行時に発生する衝撃波の事で飛行する物体が通り過ぎたあとの轟音と共に非常に強い音エネルギーで相手を吹き飛ばす
ジーナ・フォイロは最高速度マッハ5を記録しており、その音速を超えた速度から繰り出されるソニック・ムーブは
たとえ殺傷しなくとも非常に強い衝撃で相手を戦闘不能にしてしまうだろう―――――
■■■
ヒノトら一行は避難経路の終点にたどり着いていた。そこは物が散乱しており
いくつもの土足の足跡が伺える。非常用エレベーターで地上へと向かったようだ
「どうやら先に行った人たちがここを通り過ぎていったようね 私達もこれを使いましょう」
みらいが先導してマコトを引率していく。ヒノトもそれに引き続きエレベーターの降下ボタンを押したのだった
エレベーターの窓から外の様子が伺えた。何やら大きな物体が飛行していて、それに日本の自衛隊が応戦しているが
弾丸を全てかわされて突風により一網打尽になる様が伺える
「あれがZ.L.FのE.L?この間見たやつとはなんか違うな……」
ヒノトが目を凝らして様子を伺っている。一方でマコトはふと思っていた。彼らに助けられてばかりの自分は勉強は
できても いざという事態においてこうもあっけなく何も出来ないちっぽけな人間なんだと…改めて自分の非力さを恨んだ
――「どうしたの?マコちゃん?」
「ううん、大したことじゃないよ……なんだか、二人はすごく逞しいなぁって思ってさ
私は勉強は出来るけど、それ以外の事はからっきしダメ。こういう状況下で二人は冷静でおじけず
行動できるのが羨ましいなって……」
「そんなことないよ? 私だって本当は不安で仕方がないよ でも、うじうじ何もしないで待っているだけじゃ
状況は変わらないって思ってさ そしたら自然に体が動くっていうか……」
「みらいちゃんはいつもそうだよね 小さい頃だって私が男子と対立している時にいつも助けてくれたし」
「マコちゃんだって、勉強できるし何でも知っているの 私羨ましいって思ってるよ?だからあんまり自分と他人を比較しちゃダメだよ」
「みらいちゃん……」
「おい!二人共っ!」
唐突にその瞬間は訪れる――。先ほど外に写っていた空戦型E.Lがとてつもないスピードでヒノトらの居るビルをかすめて飛行する
同時にソニックブームが起こりガラス張りのエレベーターはその衝撃に煽られて全て割れてしまった。あまりの衝撃で乗って居たヒノトと
みらいは手すりに捕まり何とか耐え凌ぐ……が――。
「えっ…?」
――その殺那の最中、目に映ったのは友人である二人の姿 しかし先ほどの衝撃で耳なりが激しく口パクで何を言っているのか分からない
ただ、一つわかるのは自分は今空中にいて 外に放り出されたという事。
仰向けで落ちる最中 遠のく友人らを目に最後の瞬間が来る事を待った――。
「(そっか…私、死んじゃうんだね…)」
涙腺から溢れる雫 それまでの記憶が走馬灯のように脳内フィルムで再生され思い出が蘇る
思えば、自分はただ親に従うだけが生きがいだった。なぜならば親の言うことさえ聞いていれば間違う事は無いし
怒られる事もない 何より、自分で考えるより楽な選択だった。
その楽な選択ばかり選び続けた結果 ただただレールの上を走るだけのつまらない人生へと成り果ていつしか
自分のすることは全てが正しいと踏み込んでいた。――でも、それは違った。
本当は自分で考える事が怖くて バカにされるのが嫌だから年長者達のいいつけを真似する事により相手より優位に立つ事ができる
自分の存在を認めさせられる。そうすれば私は傷つかなくて済む――。
「(馬鹿なのは自分だったんだね……もう今更引き返せる訳…ないか……)」
――それまでの人生を悔やんだ もし、次生まれてくるのであればもっと素直に回りに目を向けよう
それも今ではただの夢物語――。マコトは最後の瞬間が来るのを静かに待った…筈だった。
突如として、自分の目の前が影で覆われたかと思うと目の前にバストアップで巨大な見たこともない物が現れる。
背中の感覚も痛覚ではなく柔らかいゴム材質の何か……?少なくとも何か大きな物に包まれてゆっくりと降下しているのはわかっていた
「えっ? ど、どういう事??」
「ごめんなさい眞鍋さん 到着が遅れてしまったわ」
「その声、風子…先生?」
「ヒノト君が連絡してくれなかったら間に合わなかったわね」
緊急停止したエレベーターの中で携帯型端末を使って丁度連絡が終わっている所だった
「どうして助けてくれたんですか…私あんな酷い事言ったのに……」
「私のクラスメイトなんだから当たり前じゃない それに、子供の言い分でショボくれていたら
先生なんて務まらないわよ」
「………」
「今地上に下ろすわね 戦闘が終わるまでヒノト達と何処かに隠れていて」
巨大なE.Lとは思えない静かな着地で地上に到達するウィンター・ラビット
その頃丁度非常階段から降りてきたヒノトらと合流し建物の影に身を寄せることにした。
――「ユフィー、彼らの安全は確保したわ 次は奴を迎え撃つわよ!」
「了解っ!」
ウィンター・ラビットの頭上に君臨する大きな機影 ホバリングで停滞しその時を待っているようだ
すると、唐突に音声スピーカーから若い女性の声が風子に向けられて発せられる――。
「はぁい 耳付きぁん元気ぃ? 私はZ.L.F四天王の一人、ネイ・シューティーよ。以後よろしくぅ」
「自己紹介なんて、随分と余裕ぶってるわね Z.L.Fの人間はみんな自意識過剰なのかしら?」
すると、ネイの表情が豹変しそれまで見せたことの無い阿修羅のような顔つきになる
「はぁ!?私が自意識過剰だってぇ? 生意気言っていると潰すわよ?賞味期限切れのオバさん」
突如として急降下し地表ギリギリを飛行するネイの操るジーナ・フォイロ
「誰もこのソニック・ムーブに耐えられる訳がないわ」
しかし、後方カメラには耳付きの姿は一切なかった
「えぇっ?!」
「ソニック・ムーブ――確かに強力な現象だけど、それにも弱点はあるわ 衝撃波が発生するのは主に飛行する
物体と地表の僅かな間の真下から左右側面よ けど、空中にはそれに値しない」
空高く飛翔したウィンター・ラビットの脚部にエネルギーが充電していく
回りの大気が吸収されていきやがて大いなる力となる――。
「風子!いつでも放てるよ!」
「いっけえぇ!!」
凝縮したエネルギーを蹴るようにジーナ・フォイロの急所にお見舞いする。機体が凹み各部位から微弱な電磁場がビリビリと
鳴り響く かろうじで飛行を保っているジーナ・フォイロだがこれ以上の戦闘継続は不能だとネイにも分かりきっていた事だろう
「っく……今回はこれぐらいで勘弁してあげるわ!」
「ネイ!早く帰投しろ!」
「わかっているわよ!いちいちうっさいのよ!!」
飛行音を鳴らしながら弱々しく海上の方へと去っていくジーナ・フォイロを見てようやく一息つける
その一部始終を見ていたヒノトらも物陰から出てきて安全のサインを送った――。
■■■
校庭前にヒノトら3人と風子が立っている
「3人とも無事でよかったわ 到着が遅れてしまってごめんなさい」
「先生必ず来てくれるって信じていたもん 私わかってた」
「ありがとう みらいさん」
「先生!俺も俺も!」
「はいはい ヒノトくんも連絡ありがとう」
一方、眞鍋はずっとだんまりを貫き通したままだった。気遣った風子は優しい声を差し伸べる
「眞鍋さん、よくがんばったわね 偉いわ」
「……なさい…」
「えっ?」
「先生ごめんなさい!」
「ど、どうしたの?急に」
辺りが騒然とした空気に包まれる
「私、ずっと先生やクラスのみんなをバカにしてて 自分がクラスで一番賢いと勘違いしてた……」
――「でも、それは私の勘違いだった―― 私はただ過ちが怖くて 年長者達の言うことを鵜呑みにして
それが一番正しい事だと思い込んでいた――」
――「でもそれは、ただ自分の考えが否定されるのが怖くて 誰かに頼る事で自分を安心させる事によって自分を高めていただけだった」
眞鍋マコトは今までの行いを反省し 先生に懺悔することで今後の自分の放心を改める事を決意した。
「大丈夫よ眞鍋さん あなたはまだ小学生なんだから、まだまだこれから色んな出来事があるはずよ 過ちや間違いだって
いくらでも出てくるわ。今の貴方はそれに気がついて こうして謝罪する事が出来るのはとてもいい事よ」
優しく差し伸べた手はマコトの頭を撫でる するとマコトはリラックスした表情で風子を見上げた。
――――わたし、がんばる…っ!