苦悩と不安
魔王討伐をあと1ヶ月に控えた夜、俺は久しぶりに魔物の討伐をしていた
「せいっ!!」
俺が振った剣で魔物が倒される
この世界では魔物を倒すと、倒された魔物は淡い光に包まれて消えていく。そして、経験値が入ってくるという仕組みになっている
すると、頭の中でファンファーレが鳴った
「レベルアップか」
この世界では、レベルアップするとファンファーレが鳴る
ちなみに、最初はLv0らしく何も表記されていなかったのはそのせいだった
今の俺のステータスは
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【文月 七河】
Lv 15
体力500/500
魔力480/480
攻撃力430
防御力450
知力520
魅力50
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これでようやく皆の足手纏いにならないレベルだ。
もちろん魅力には触れない。
だっておかしいじゃん!!レベル15でようやく凡人なみって!!なんなの!?イジメ?どんだけ俺をイジメれば気が済むんですかぁぁぁぁ……
自虐してもしょうがない、早く部屋に戻ろう
そう思っていたら
………………神無が中庭で壁に頭突きをしていた
…………え!?何してんの!?
「おい、どうしたんだよ!?神無」
我に帰った俺は、神無を止める
「離してよ!………って………な、七河?」
「なんだよ。そんなに俺が珍しいのか?」
神無の額は赤く腫れていた。早速俺は
『ヒール』
と唱えた
『ヒール』は初歩的な回復魔法だ。だが、このくらいの傷は直ぐに治る。少し魔力を上げると、神無の傷が治まった。さすが異世界。元の世界ではあり得ないことをやってのける‼
「どうしたんだ。話くらい聞くぞ」
俺たちは、中庭のベンチに腰かけた
………………沈黙が続く
が、
「な、七河…」
神無が口を開く
「私のお姉ちゃんのこと、覚えてる?」
「……ああ、覚えているよ」
こいつには、姉がいる。たしか、名前は六羽 水無だったはずだ。彼女は………
「私、早く元の世界に帰りたい」
………彼女は、生まれつき体が弱く、いつも寝たきりの生活を送っている。俺も直接会ったのは数回だけだ。水無は、今まで神無が着きっきりで看病をしていた。そして、
「私が早く戻らないと、お姉ちゃんが………」
水無は、あと数ヶ月の命だった。
もう数ヶ月も経ってしまったから、まだ生きているかは分からない。でも、俺はまだ生きていると信じている。彼女が簡単に死ぬはずがないと………
「最近、夢を見るんだ。元の世界に帰って、急いで家に帰ったら、お姉ちゃんが死んでいた夢………。もう、嫌だよ………今こうやって話している時にも、万が一お姉ちゃんに何かあったら………」
俺は何も言えなかった
「なんで、なんでこうなっちゃったんだろうね……教えてよ、七河ぁ」
神無はそう言って俺の胸にしがみつき、泣き出してしまった
……俺は、神無の問いに解を出すことが出来なかった
どう接することが彼女の問いに対しての解なのだろうか
。そもそも、この問いは、他人が簡単に解を出して良い問いではない。
だから、俺は考えるのを止めた。
解は出さない。解を出すのは、彼女自身。教師と同じだ。生徒に解を求められたら、すぐに答えるのではなく、その解に辿り着くまでの方法を示す。
「俺には、どうしてこうなったのか全く分からない。
けれど、水無さんは大丈夫だと思う」
「………どうしてそう言えるの」
「お前が、そう信じているからだよ」
神無が目を開く
「神無は、言ったよな。『万が一、お姉ちゃんに何かあったら』って」
「………………………うん」
「万が一ってことは、一万回の可能性の中の一回ってことだろ。ってことは、それ以外の九千九百九十九回は、何も起きないことになる。
確実ではないが、水無さんに何かある可能性はゼロに限りなく近いんだよ。お前は本能的にそう思ったんだ」
少し無理に近いが、神無に希望を持たせる
「もちろん、俺はまだ生きていると信じている。お前が信じなくてどうすんだよ!生きていてほしいんだろ!」
「………………………うん」
…………道は示した。背中は押した。あとは、彼女次第だ
「………………………そうだよね。うん、お姉ちゃんは生きている!!私はそう信じる!!」
これで、良かったのだろう。一件落着か
「七河!!」
「…………………どうした」
「ありがとう」
「……………………ああ」
そう言うと、神無は自分の部屋に帰っていった