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大規模遭遇戦

エストール王国 ガイゼリック帝国国境付近


 見渡す限り地平線まで続く平原に突如として寸胴鍋が現れた、それはただの寸胴鍋ではない人の背丈程の高さで、しかも分厚い鉄製のものだ。鍋の中は空っぽで何も入ってはいない。

 その鍋の影に黒いマントで体を包み、顔に包帯を巻いた男がいた。男の周囲には自分がスッポリ入ることのできそうな麻製の大きな袋が四〇袋置かれていた。袋は気密性を高めるためか油が塗られ、気体が入っており風船のように丸く膨れていた。

「国王との密会の後に術式を失敗してから一年、ここまで長かった」

 すると男はマントの内側から古びた一冊の分厚い本を取り出した。その本は背表紙に『魔力に関する研究と研究成果の応用及び研究成果の実用化』と記されていた。

 男は本をゆっくりと開いた。ページの至る所に注釈や細かな書き込み、紙などが挟まれていた。男がこの本に記された知識をなんとしても習得しようと躍起なった証拠であった。

「最高純度の魔力……一〇〇〇Lはおよそ標準大袋四〇枚分……生成法も問題は無い……」

 ぶつぶつと小さな声で呟き最後の確認を済ませた男は本を閉じ大切に懐へとしまい、懐からナイフを取り出すと、全ての袋に次々と突き立てた。袋からは一気に気体が噴き出す。

 噴き出した気体は奇妙なことに青白色の光を放っていた。

「もう二度と失敗することはできない……」

 男は自分に言い聞かせるかのように呟き、こぶしを強く握りしめた。男は息を軽く吐き目を閉じると、青白色の光を放つ気体が男の周囲に集まり、次第に男の右腕へと集まり始めた。男は苦悶を浮かべ、そのまま巨大な寸胴鍋の前に立つと鍋の中に右腕を入れた。気体は男の腕から鍋の中へと移っていく。

 鍋の中から右腕を出すと、腕に纏わりついていた気体は鍋の中に留まった。男は鍋に向けて両腕をかざす。

「……あと少しだ」

 鍋の中では気体が渦を巻き、徐々にその体積を減らしていった。鍋の中で気体が圧縮されているようだ。

「まだ、何のか」

 男の腕や足は極度の疲労により震え、息は荒く肩は激しく上下した。男は渾身の力を込めて鍋の中をかき混ぜ、圧縮を繰り返した。

 圧縮に膨大な熱が発生しているのか、寸胴鍋の側面が赤くなり始めた。鍋の中は蒸発した鉄が雲になり、雲が冷えて鉄の雨が降り注いでいた。

 圧縮され続けた青白色の気体は次第に色が濃くなり深青色へと変わっていった。

「完成だ」

 男は力なく腕をおろし、地面に座り込んだ。

 寸胴鍋は熱せられた飴のように形が崩れ、また陶芸に失敗した壺のようでもあった。

 男は体に鞭を打ち立ち上がると、熱せられ高温になり原型を留めていない寸胴鍋の中を覗き込んだ。

「あれだけの純粋気体魔力を用いても生成される液体魔力がわずかにこれだけとは」

 量にしてほんの数滴。サファイアのような美しい輝きを放つ液体が鉄と交じり合うことなく鍋の底に溜っていた。

男は懐から再び古びた本を取り出し、ページを開いた。

「一〇〇〇L……今生成した液体魔力の一〇〇万倍の量を用いて結晶魔力を生成するだと、ふざけている。一体いつになれば私は古代文明の技術に手が届くのだ!」

 男は声を張り上げ錯乱しかけたが、何とか持ち直し眼前の目標を達成できたことに喜んだ。

「――まあいい、儀式の完成まであと一歩だ」


 セントラル・シティ 二桁街 《ボルボックス》ホーム


 アップデート開始まであと十分、二桁街は未だに冷める事のない熱狂の渦となっていた。街の至る所で二〇〇mm砲から花火が打ち上げられ夜空を七色に彩る。ケチケチすることなく盛大に打ち上げられ、煙も出る事のない、特大の花火はリアルより美しい物だった。

 そんなお祭り騒ぎから早々に抜けたクフィボルボックスの面々はさっそく地下にもぐりミーティングを開いていた。

 地下二階に設けられたミーティングルームに影丸を除いたメンバーの全員が集まり、定位置である各自の席に座っていた。

「トヨイズミさん、影丸さんが居ません」

 クフィは常に隣の席にいるはずの影丸が今に限っていないことを心配し、トヨイズミに質問した。

「あー、……影丸は心配しなくていい。そのうち帰ってくる」

 影丸は現在、忍刀とクナイの実装があまりにも嬉しくて夜の二桁街で奇声を上げながら走りまわっている。ビルの屋上から、隣のビルへと飛び移ったり、壁を駆け上ったりと普段の寡黙な影丸なら戦場以外しないようなことをしていた。

 これまでの影丸の努力を知っていたトヨイズミは今日ぐらいはと、影丸の欠席を大目に見たのだった。

「では早速ミーティングを始めよう」

 議題はアップデートで追加される三つ目の追加要素クリエイティブ・ラボについてである。

「俺の方で少しだけ調べたんだが……すまん、詳しくは解らなかった」

 トヨイズミは発表の直後から情報サイトや公式サイトを巡回し少しでも多くの情報を調べたのだがあまり信憑性のある情報は無く、公式サイトにも『まもなく実装クリエイティブ・ラボ詳細は近日報告』とだけしか書かれていない。

「だが、これは俺の予想なんだが……そのクリエイティブ・ラボとやらは相当金の掛る施設もしくはアイテムになると思われる」

「それはどうしてですか? トヨイズミさん」

「そうだな……、俺達、特に二桁街の連中ってのは、はっきり言って相当金持ちだ。それこそ、ビルの高さを競ったり、土地を何ブロックも買ったり、何十億AUもする戦闘機を故意に墜落させて遊んだり、戦車でレーシングして大破させたりな」

 トヨイズミは苦笑を浮かべながら言った。メンバーの中には耳を痛そうにしている者もいる。

「俺はそれを悪いと言っている訳じゃなんのだ、RWWはこれまでも、そしてこれからも自由なゲームだからな。つまりだ。俺達は金を持て余している。個人資産だけでもちょっとした国が買えるくらいに、だ。そこに来てこのアップデート、このクリエイティブ・ラボ……本当にやり込もうと思ったら一瞬で金が溶けるぞ」

 ミーティングルームの空気が張りつめた。クフィはたまらずトヨイズミに、

「トヨイズミさんは、どのくらいお金が掛ると予想していますか?」

 と質問した。トヨイズミは考えるしぐさをして、十秒ほどの沈黙が続いた。

「俺の予想では、おそらく底なしに金を使うだろうな……」

クフィは「そんな」と呟き頭を抱えた。

《ボルボックス》のメンバーもトヨイズミの推測に反論する者はいなかった。みな薄々思っていたのだ、運営が上位プレイヤーの懐に溜りに溜った莫大な個人資産を一気に溶かしつくすような、金をそれこそ再現なしに食うシステムを組み込むことを。

 ミーティングルームにずっしりとした重い空気が漂う。

 その時、激しく階段を駆け下りる音がミーティングルームに届いた。音は次第に大きくなり、勢いよく部屋の扉が開いた。現れたのは影丸であった。

「ミーティングに遅れてすまなかったでござる。拙者、気が付いたらサイド・シティにいたでござるからして、帰ってくるのに時間が掛ったでござる」

 影丸の登場は重く凝り固まった空気の良いはけ口となった。

「ど、どうしたでござるか……」

 トヨイズミからウィスパーでメッセージを受け取った影丸は急いで帰ってきたのだが、部屋に入った途端、全員の視線を一身に浴び、影丸は思わず後ずさりした。

「やあ、影丸氏。ようこそバーボンハウスへ フヒヒ」

「まあ、影丸はずは座れ」

 トヨイズミが促すと影丸は定位置であるクフィの隣に座った。

「俺達には二つの選択肢がある。クリエイティブ・ラボを使わず、今の潤沢な資金を使ってプレイヤーが新たに作り出した新型装備を買うのか。それとも手持ちの資金を湯水のように使い、研究の第一線に立ち続け、新たな技術を生み出しひともうけするか。前者には何れ二桁街からの撤退という《ボルボックス》の衰退がまっている、後者には破産というリスクがある」

 そこまで言うと、トヨイズミは一息つき、

「俺はここまで仮定で物事を話してきたが、もしそのような事になっても俺は後者を選びたい。そして莫大な金を集め、全世界ランキング九位を目指す!」

 と、言い切った。

「僕はいいですよ、目指しましょう。九位!」

 クフィはトヨイズミの案に賛成した。一切躊躇のない即答だった。

「シャーリーンたんがつまらない男は嫌い! と言っているので不肖、このピッグマン、微力ながらその意見賛成させてもらいますぞフヒヒ」

 クフィの後に続いてピッグマンがM14を撫でながら賛成した。

「拙者もトヨイズミ殿の案に異存は無いでござる」

 クフィ、ピッグマン、影丸と《ボルボックス》内でもトップの実力を持つ三人が一斉に賛成し、それを追うようにして次々と賛成意見があがった。

「別に一位になってしまっても構わないのだろう? フヒヒ」

「それはフラグだ。ゲロ豚野郎!」

「お前ら……、気が早い奴らだ。全く」

 結局、一つも反対意見の出ることなく、ミーティングは終了した。《ボルボックス》メンバー全員はこれからもRWWのトッププレイヤーであり続けることを決意したのだった。


『第一種警戒警報発令、繰り返す第一種警戒警報発令。第一級戦力認定されているクラン並びにプレイヤーは可及的速やかに所定の位置に移動してください』

 突然、セントラル・シティ並びにサイド・シティに第一種警戒警報が発令されたのはアップデートが滞り無く完了した直後のことだった。

『敵集団はサイド・シティから西に五キロの地点を時速四キロで進行中』

さっそくクリエイティブ・ラボとやらを試すために、購入手続きを行っていた最中にこの第一種警戒警報である。《ボルボックス》メンバーは一斉にミーティングルームを飛び出し、各自の装備を取りに行った。

「このくそ忙しいときに敵襲だと、全くどこのバカだ、しかも時速四キロって遠足気分か?」

 トヨイズミは手続き中のウインドーと渋々と閉じ悪態をついた。

「ふむ、考えられる相手としては隣の202都市でござるか……。前回の都市攻防戦では拙者達が圧勝したでござるからな、恨みは持っているはずでござる」

 ちなみに《ボルボックス》とクラン対抗戦をした《ブルちゃんズ》は202都市に本拠地を置くクランである。

『数は推定で五〇〇〇。戦車や装甲車等は確認されず。純歩兵の模様。――なっ……失礼しました。た、ただいま入った情報によると敵部隊は鎧を身に着け帯剣しているとのこと、繰り返す、敵部隊は鎧と剣を装備している模様』

「鎧に剣とは……何かのイベントでござろうか?」

「俺もRWWをやって長いが、そんなイベント聞いたことも無い」

 装備を完全に整えた影丸とトヨイズミは話しながら地上に出た。

 外は燦々と太陽が降り注ぐ昼間だった。トヨイズミは腕の時計を見て首を傾げる。時計は午前二時半を指していた。

 アップデートにより、一時的にバグが生じているのではないかとトヨイズミは当てをつける。

「トヨイズミさんこっちです」

 と、トヨイズミを呼ぶ声があった。それは《ボルボックス》特攻組ことクフィ達である。

 《ボルボックス》のホームの庭に設置された巨大な土蔵風車庫から装甲車を引っ張り出し乗り込んでいた。クフィは車体上部の銃座からトヨイズミと影丸に手を振っていた。

 乗り遅れた二人が急いで乗り込むと装甲車は砂利と土埃を巻き上げ前に進んだ。巨大な四対の無パンクタイヤがアスファルトにうまく食い込み、装甲車の巨体からは想像もつかない速度で移動していた。

 普段あまり車の通らないサイド・シティの道路には戦車や装甲車、自走式迫撃砲であふれ返っていた。

「ちっ、また渋滞だ。お前ら、ここから歩くぞ」

 トヨイズミの判断にみな頷き、素早く装甲車から降りた。

クフィは装甲車の銃座から四〇mm自動グレネードを取り外し肩に担ぎ、装甲車から飛び降りると、ピッグマンに向かって怒声を飛ばした。

「ブタ! 五〇発入りの弾倉五つと簡易銃座は持ったか!」

「アパム! 弾持ってこい! フヒヒ」

 M14を大切そうに抱え、簡易銃座を小脇に抱えたピッグマンは装甲車の方に向かって大声を張り上げた。

「誰ですか、この人は?」

 《ボルボックス》は比較的小さいクランであるためクフィは所属しているメンバーの顔と名前さらには趣味まで把握している。

 装甲車の中から現れた人物をクフィは今日初めて見た。

背丈はクフィよりも小さく茶色い短髪に黒い瞳、体の線は細く小麦色の肌が健康的に見えた。四〇mmグレネード弾が五〇発ぎっしりと詰まった弾倉を五つもポシェットのように首から下げていた。弾倉が重すぎたためか足取りがおぼつかない。

「いったいどこに紛れ込んでいたんですか……」

「アップデートの直後に《ボルボックス》に入りたいって言ってきたんだお、その時は適当に断ったんだけど、どうやら装甲車に忍び込んで、弾薬庫に隠れていたみたいだお フヒヒ」

(こいつ、ホームを出発する前から隠れているのに気が付いていたな)

 クフィは初めて会う人がいる手前、クフィ表情に出さず心中で悪態をついた。

「おい、お前等早く来い」

「はい、今行きます」

 トヨイズミに返事を返したクフィはため息を一つ吐くと、その入団希望者が持っている弾倉を二つ取り、一つは自分で持ち、もう一つはピッグマンに押し付けた。

「さっさと行きましょう」

「はい」

 笑顔で返事をした入団希望者を連れて、二人はトヨイズミの後を追った。 

「まって、これ、重……フヒヒ。僕はどんなことが有ろうともシャーリーンだけは置いていけな――」


 所属不明の敵部隊五〇〇〇名は真っ直ぐ、サイド・シティを目指し進軍していた。

 鎧を身にまとい馬に跨った騎士や、弓兵、軽装の歩兵、パイクメンなどその部隊の装備はまるで、中世から飛び出して来たようなものであった。

「こりゃすげー、まるで中世だぜ」

 トヨイズミはサイド・シティの外延部に張り巡らせた塹壕から顔をだし、スナイパーライフルのスコープで侵入者を観察していた。

 現在いる塹壕は二桁街に住む選りすぐりの工兵たちがわずか一〇分足らずで掘りつくしたものである。他にも、周囲には堅牢なトーチカが設置され、そこに銃座が設けられている。

 現在、ここサイド・シティ西に築かれた陸上要塞はRWW基準十段階で八、と言う高い評価を受けている。そこに上級プレイヤー五〇〇〇名が加わり、敵歩兵からの街防衛としてはほぼ完璧で有ると言えた。

 このラインを突破するのならば二桁街プレイヤーの三倍の数は必須である。

 だが、三倍と言うのは現代装備が整っている状態の話で有って、剣と弓では言わずもがなである。

 トヨイズミは後ろを振り返り、それぞれに指示を飛ばした。みなそれぞれの持ち場に就いていく。トヨイズミはクフィ達にトーチカの銃座に行けと言おうとし、クフィの後ろに隠れた見慣れない人物を見つけた。

「誰だ、こいつは」

「えーと、入団希望者らしいです」

「そうか、まあいい。話は後だ。クフィとお前――」

「ミューデと言います」

 ミューデというらしい入団希望者はクフィの前に一歩出て自分の名前をトヨイズミに名乗った。

「そうか、ではクフィとミューデはトーチカの銃座から面制圧射撃、相手が攻めてきたら、撃ちはじめろ、敵に頭を上げさせるな」

「了解です」「はい」

 元気よく返事をした二人は五つの弾倉、簡易銃座、銃本体を抱えトーチカを目指した。

指示を出し終わったトヨイズミはモニターを開き塹壕の様子を素早く確認する。

 あらかた確認し、問題が無いと判断したトヨイズミはウィスパーを使い、セントラル・シティ中央指令室に連絡を入れた。

『HQ、HQこちら第一防ライン担当の《ボルボックス》トヨイズミだ。準備完了。次の指示を頼む』

『了解しました。追って指示を出します。現段階では待機でお願いします』

『了解した』

 報告を短く終えたトヨイズミはウィスパーを切ると、地面に座り込み、スナイパーライフルを左肩によりかけた。

 空いた右手でズボンのポケットから煙草とライターを取り出し、一服ふかした。


エストール王国 王都シェーネンブール エストール王宮謁見の間


「なぜ、お分かりになられないのですか!」

 黒いマントで体を隠し、顔に包帯を巻いた男は声を荒げた。

「貴様! 無礼であるぞ!」

「良いんだアトリア。下がってくれ」

 エストール王家の威厳と権力をそのまま表したような荘厳な謁見の間、その奥の数段高い位置に置かれた玉座には十代半ば、少年の面影を残した人物が座っていた。

 その隣には意匠の凝らされた鎧を着込んだ女性アトリアは玉座に寄り添うようにして佇んでいた。アトリアは腰の剣の柄を握りしめ、常人ならば萎縮してしまうような剣幕で黒衣の男を睨みつけていた。

「もう一度、もうします。私はあなたの父エストール三世本人からの依頼を達成できたのです。先ほどお渡しした、羊皮紙にしっかりと記されているはずです。私に騎士団十万を七日間お預けください!」

「無理です」

「なぜですか!」

「公式にはまだ発表していませんが、父上が一月前に亡くなられました」

 男の顔は包帯が巻かれ、表情をうかがい知ることはできなかったが、あまりのことに呆然と立ち尽くしているようにも見えた。

「そのことが、東の大国ガイゼリック帝国に知られてしまった。帝国は国王不在の今が好機と大軍勢を率いてエストールへと進軍してくることでしょう」

王の急死や敵国の侵略の可能性などエストール王国は国家滅亡の危機に陥った。

エストール王国の大臣たちは、この危機を乗り越えようと、本来二五歳で王位を継ぐはずだったエストール三世の息子、アルファルド王子を指揮系統の回復のために、エストール王国現国王に祭り上げた。

「守りを固めなければならない今、父上の依頼とはいえ、十万もの人員を割くことはできません。そこであなたには五千名の騎士団を預けます。その兵で可能な限りのその不死の軍団を連れてきてください、その軍団が有用であると確信が持てれば、さらなる人員をあなたに与えましょう」

 黒衣の男の手は黒い外套を握りしめ包帯の隙間から除く瞳には憎しみが灯っていた。

 黒衣の男はエストール四世の条件をのみ、五千名の騎士団を引き連れ、一路東へと進んでいった。

「アルファルド様、あれで宜しかったのですか?」

「いいんだ」

 男が去った後、近衛兵を下がらせた謁見の間には若き王アルファルドとその護衛騎士アトリアが居た。アトリアの口調は依然として変わることなく、アルファルドに王として接する物だが、アルファルドのアトリアに対する口調は年相応の少年の物であった。

 アルファルドは玉座に深く腰掛け寄りかかると暗い笑みをこぼした。

「……あの男に貸し出した騎士団には事前に命令してあるんだ、王都が見えなくなった位置で男を殺し、骸は燃やせ、遺灰は細かく砕いて地面に埋めろとね」

 アトリアの顔に驚愕の表情が浮かんだ。

「その後騎士団は王都に帰還することなく、ガイゼリック帝国国境沿いの偵察に行ってもらうことになっているよ」

「そうだったのですか……そのような謀があったとはつゆ知らず、出過ぎた真似をしました。お許しください」

「はははっ、まったくアトリアはいつも変わらないな。二人だけの時は身分なんか関係無っていつも言ってるだろ?『ごめん、気が付かなかった』でいいんだよ昔みたいに。さ、言って」

「――――っ……ご、ごめん、き、気が付かなかった」

 アリシアは顔を真っ赤にして顔を下にうつむかせ、肩をぷるぷると震わせた。

「よし、それで良い」

 アルファルトはそんなアリシアを見て満足そうにうなずくと、玉座から立ち、謁見の間を後にした。アリシアは慌ててアルファルドの後を追うのだった。


(あの男のせいで父上は死んだ。あの男が来てからすべてが狂ったんだ。僕が殺すんだ。でも僕は弱い。どうすれば……、そうだ国王になればいい。無能なふりをして欺こう。傀儡になったふりで大臣を欺き利用するんだ。そして、あの男は僕が、僕の意思で殺すんだ)


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