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第五章 大吹雪のスキージャンプ(前編) ―1998年 長野オリンピック―

物語の都合上、実際の出来事や文献等に載っていることと(かなり)異なります。

あらかじめご了承ください。

 勇子を追ってたどり着いたのは、江戸からかなり発展した時代だった。すでに電化製品があり、服装も普通の洋服。電車も車も普通に走っていた。

「よし、ちゃんと経路変更できたみたいね」

「1998年か……。もう百五十年くらい前まで来んだな」

「はじめは千五百年前だっけ? いつの間にかあたしたち、すごい旅してるんだね」

「ねぇ兄ちゃん、なんかお祭りみたいだね」

 美咲がそういうように、辺りはかなり湧いていた。

「この年って何かあったっけ?」

「1998年は長野オリンピックの年ですね。それに、ちょうど私たちがいるのは長野みたいです」

 ノウェムが答える。

「なるほど。だから雪が積もっているのか」

「へくちっ」

 希衣が可愛らしいくしゃみをした。

「あらあら希衣ちゃん、大丈夫?」

「結構雪降ってるし風も強いからな。どこかでマフラーとか売ってないか?」

「あ、あのお店でいろいろ売ってるみたい」

「お金は?」

「硬貨はこの年で使われていると今も変わってないので使えると思います」

「百五十年も同じものってすごいな。よし、じゃあ何か買いに行こう」

一行は近くのお店に入り、厚手のジャンパーやマフラーを買っていった。といっても硬貨しか使えず、あまりなかったので人数分は買えなかった。とりあえず希衣優先で買い物をした。

「わ〜。あったかい」

 今希衣はマフラーにジャンパーと完全防寒だ。

「ねえねえ、折角だし何か観てかない?」

「あ、私もなにか観たい! カーリングとかやってないかなぁ?」

「きいもみたい」

「そうね〜、長野オリンピックって日本結構メダル取ってるんでしょ。なにかひとつくらい観てみたいわ〜」

「おいおいみんな、チケットなきゃどうしょうもないだろ」

 夢を膨らませる女性陣に優斗がツッコミを入れる。

「うう……そうだった」

「さすがにチケットは買えないよね……」

「そういえば笹野さんは?」

 さっきから笹野の姿が見えない。キョロキョロと辺りを見渡すと見知らぬおばあさんと話している笹野の姿があった。

 少し待っていると話終えたのか戻ってきた。

「すまん、すまん。見知らぬおばさんがスキージャンプのチケットを受け取ってくれないかってしつこくて。どうも一家で観に行くつもりだったらしいが急用で他の家族が実家に帰ってしまったらしいんだ。それで、どういうわけだか私を選んだみたいで。うまい具合に六人分あるし、せっかくだから観に行くか?」

「賛成!」

 女子三人が元気に返事する。

 こうして一行は、スキージャンプ、ラージヒル団体を観に行くことになった。




〈Narrator Part〉

 全く、江戸時代長いのに冒頭一回しか出してくれないとは……。これは抗議したほうがいいな。こっちだって仕事だっての。

 …………

 はっ、失礼しました。

え〜と……、はい、ついに母親発見! いや〜、感動的ですねぇ。

あの事故のあとまさか江戸時代末期にとばされていたとは。よく生きてましたね。

おっと、これは失礼ですね。すいません。

という訳で六人に増えた一行は、勇子を追って1998年につきました。

この年と言ったら、長野オリンピック。

長野オリンピックと言ったら、やっぱりスキージャンプ。

日本が大活躍し、この種目だけで金二個、銀一個、銅一個取ったんです。また、この時日本は初めてメダルを二桁獲得したんです。

では、本編の話をしましょう。

優斗たちが観に行ったのはラージヒル団体。四人の選手が順に飛び、その飛距離に応じた得点が付き、四人の総合得点を競うものです。ちなみに二回行います。

優斗たちが会場に入った時、すでに日本の一本目の出番は終わっているので先に結果をお伝えしましょう。

一回目の時点で日本は四位。得点は397.1。一人が失敗ジャンプをしてしまい、現状ではぎりぎりメダルに届きません。

しかし、この競技で日本が取ったメダルは銅じゃありません。

さて、どうなったのでしょう。続きをどうぞ。

……そうだ。始めに言ってたことは忘れてください。お願いします。




 優斗たちが会場に入ったとき、既に半数以上が一回目を飛び終えていた。日本は現在四位。ギリギリメダルに届かない。

「ああ、日本は四位か……。もう一回飛べるかな?」

「どういうこと?」

「ほら、今すごい雪降ってるだろ。あんまり天候が悪いと中断されちゃう可能性があるんだ。そしたら今の結果が採用される。そうなると日本はメダルに届かないってこと」

「ふえ〜。兄ちゃん、結果どうなったの?」

「それを今訊くか……。まあいいや。結果は金。このあと天候がもっと悪化し二回目の途中に一度中断される。しかし、テストジャンパーが二十五人ちゃんと飛び、試合は再開。日本代表は四人とも素晴らしいジャンプをし、他の国に大差をつけて優勝、だったはず」

「へぇ〜。早くその素晴らしいジャンプ観てみたいわ」

「もうすぐ一回目が終わるぞ」

 他に日本の得点を抜く国はなく、四位のまま。

 二回目が始まるが天候はどんどん悪化。三ヵ国がとんだところで一時中断された。

「あれ? ちょっと早すぎないか?」

「なにが?」

「中断するタイミングだよ。なんかさっきから異常に雪強いし」

 優斗が言うようにさっきよりさらに天候は悪化。もう彼らの位置からスタート地点は全く見えない。完全防寒している希衣でさえ寒そうだ。

「もしかして、魔物か?」

「そんなことはない。……と言いたいところだが、新種が現れていることを考えるとありえないこともないか……」

「よし、行きましょう! きっとこの山にいるはず」

 一行は一度席をたち、警備員に見つからないように会場から出て、木々中へと入っていった。


 一行が行ったあと、二人がなんとか飛んだ。

――テストジャンパー あと二十三人――



 道なき道を進む一行。とはいってもノウェムがいるので迷うことはない。

 しかし、道がわかっても寒さはしのげない。

「うぅ〜、さぶっ! ねぇ、優斗。おしくらまんじゅうしない?」

「歩きづらくなるからやだ。それに希衣を抱っこしてるから無理」

 その希衣は優斗の背中ですやすやと寝ている。……鼻水を垂らしながら。

「兄ちゃん、早く、へっくしょん、なんとかしないと、ふあ、凍え死んじゃ、へっくしゅん、う」

「あらあら。私のコート着る?」

「うん……ありがとう……」

 完全に風邪状態の美咲を気遣って、優子は自分のコートを渡す。

「ノウェム、何かいる?」

「この辺にはいませんね。少々性能は下がりますが、広域レーダーに切り替えます」

 ノウェムはレーダーのモードを切り替えて魔物を探す。

「この山の頂上付近に一体魔物の反応があり、ます」

 ノウェムの声がおかしい。

「どうした?」

「広域、レーダー、は少々バッ、テリー消費、が激しいの、で。それに、今ま、でずっとつい、たままだった、ので」

「おいおい、今切れたら俺たち遭難しちまう。道だけさっと教えて少し休んでろ」

「はい。では、この先、を……」

 なんとかノウェムは優斗たちに道を伝え、省電力モードになった。

「さ、いこうか」

 ノウェムに言われたとおり進んでいく一行。

 しかし、想像した距離よりはるかに遠く、なかなか着かない。

 その間もどんどん天候は悪化していく。

 希衣はさすがに寒かったのか起きて、今は笹野に抱っこされている。

「ねぇ、優斗……。私たちが過去に来てから何日経ってるか、知ってる……?」

「笹野さんや美咲によると、四ヶ月経ってるらしい……」

「もうそんなに経ってるんだ……」

「時空の歪みの中は時間の進み方が違うからね……」

「高校生活最後の年なのに……」

「仕方ないだろ……」

「卒業できるかな……」

「もしもの時は俺が教えてやるよ……」

「ありがとう……。そういえば、大丈夫かな……。大会中止になってないかな……」

「おい結衣……。そんなこと言うなよ……」

 先頭を歩く二人は疲れた声で会話する。

 もし、テストジャンパーが失敗して大会が中止になったら、歴史が変わってしまう。それだけは避けなければならない。

 しかし、その前に自分たちが危ない。だから、かなり緊張感を持って進んでいた。

 ……はずだった。

 きっとノウェムがいれば気づいただろう。しかし、ノウェムが使えない今、そんなことは言えない。

その穴は、優斗と結衣がある場所を踏んだ時に現れた。

もちろん、踏んでから現れたのだから二人がその穴に落ちないはずがない。

「あっ…………」

「えっ…………」

 そのまま二人は奈落の底に落ちていった。

「ふえっ! 兄ちゃん!?」

「優斗くん!? 結衣ちゃん!?」

「おーい、優斗―」

「おにーちゃんだいじょうぶかなぁ」

 穴に向かって残された四人は叫ぶ。しかし、返事はない。

「……ねぇ、笹野くん。これからどうする?」

「どうしましょう。HT-001はないし、今どこかも分からない。かと言って二人を助けに行くこともできない。それに、美咲ちゃんと希衣ちゃんをどこか暖かいところに連れて行ってあげないとそろそろ危ないな……」

 笹野がそういうように美咲と希衣は顔を真っ赤にし、くしゃみに鼻水と完全に風邪だ。

「まあ、多少バッテリーは残ってるだろうし、二人なら大丈夫でしょ。もしもの時は誰か連れて戻ってきましょう」

 笹野たちは二人の無事を祈り、その場を後にしとりあえずもと来た道を戻っていった。


 その間に六人が辛うじて成功した。そろそろミスしてもおかしくない。

――テストジャンパー あと十七人――



 穴の下、真っ暗な中で二人は重なるように倒れていた。

「優斗……、重い……」

「ご、ごめん!」

 どうやらまた結衣に覆いかぶさるようにして優斗が倒れていたようだ。

「真っ暗だな……」

「優斗、炎のストーンは何個ある?」

「五個」

「じゃあまだ持ってて。私が三個持ってるから、まずはそれ使って灯りの代わりにするわ」

 そう言って、暗闇の中で結衣はアマスマに炎のストーンをいれて、出力を少なくして炎を出した。

 その炎が灯ると辺りは少しだけ明るくなった。

「わお……」

 上を見上げると、はるか上に空が見えた。

「特に傷を負ってないのは雪のおかげか……」

「どうする? ここで待つ?」

「いや、助けが来たとしてもかなりあとだろうし、このまま放っておいたら歴史が変わっちゃうかもしれない。まだノウェムは使えるよな?」

「ええ。ノウェム、起きて」

「はい。なん、でしょうか」

「あまりバッテリーは残ってないな。さっとこの辺りの地下を調べて脱出経路を教えてくれ」

「わかり、ました」

「大丈夫かな……?」

「道さえわかれば大丈夫だろ。……そういえばノウェムって普通のバッテリーなのか……?」

「……わかりま、した。ここか、ら北西、に進んでい、くと分か、れ道があり右、の道に進む、と外、に出、ます。そこ、か、ら……」

 プツン。

 そこまで言って、画面が消えた。

「くそっ、限界か……」

「まあでも、外に出るまではわかったからなんとかなるでしょ」

 そう言って、ノウェムをしまい、二人は歩きだした。

 真っ暗な中、たった一つの炎だけを頼りに歩いていく。

 しばらくしてノウェムが言っていた分かれ道に差し掛かった。

「ここを……左だっけ?」

「右だよ! 結衣、大丈夫か?」

「ごめん、ごめん。ちょっと疲れちゃって……」

「無理もないよ。俺も疲れてるし。早く出よう」

 さらに歩いてくと光が見えた。

「出口だ!」

 これで下に行けばとりあえずは助かる。悪天候の方はきっと大丈夫だ。

 そう思い、外へと走っていく二人。しかし、そこにあったのは絶望の光景だった。

「えっ……」

 天候はさっきと変わっていなかったが、逆にそれが問題だった。

 ただでさえどこだかわからないのに、辺り一面真っ白。

 しかも、たいして傾斜の無いところなので、どちらが上でどちらが下かわからない。

 外に出ればなんとかなるという二人の考えはあまかった。

「そ……、んな……」

 突然、結衣がその場に崩れ落ちた。

「おい、結衣! こんなところで座り込むなよ」

「だって、もう、無理だよ」

「無理じゃない。諦めるな。まだ方法はある」

「無理よ! この山大きいから、道間違えたら一巻の終わり。それに今あるストーンで二人を暖めるとなると、一時間も持たない」

「うっ……」

 雪の上に座りながら、結衣は言う。

確かにその通りだった。優斗には反論できない。

「もう終わり。もとの時代に帰れず、ここでこのまま死んじゃうのよ」

「…………」

 優斗は、何も言えなかった。

 励ますこともできた。しかし、言葉にできなかった。

 きっと、励ませば励ますほど、結衣はどんどんネガティブに考えるだろう。

「ダメだった……。二年間頑張ったのに……」

「……なあ、どうして勉強を捨ててまで、武術だけをそんなに頑張ったんだ?」

 ずっと気になっていたことを、ついに優斗は訊いてみた。

「なんでそれを……」

「前にも言ったろ、担任から二年間のお前の様子を聞いたって。何度補習になっても、何度先生に勉強しろと言われても、私は武術を極める、って言って聞かなかったそうじゃないか」

「うん……」

「それで、ずっと気になってたんだ。今まで訊く機会が無くて……。どうして、そこまでして……」

 少しの間黙っていたが、決心したのかついに結衣の口が開く。

「優斗のそばで…………優斗を、あなたを守りたかったの」

「えっ……」

 意外な告白に、優斗は言葉を失う。

「小二くらいだったかな。その時、勉強に関して優斗はすでに成績トップ。私はそのころからダメダメ。でも、運動は全く逆だった。そうだよね?」

「そうだな。確かにあの頃から差がついてきたんだったな」

 そう、そのころから優斗は勉強に長け、結衣は運動に長けていた。

「うん。それで、蒼明公園で遊んだ日のこと、覚えてる?」

「ああ。遊んでたら突然草むらから魔物が飛び出してきて、俺たちに襲いかかってきた時だろ。そういえば、あれから怖くて一度も行ってないな」

 蒼明公園は二人の家からちょっと行ったところにある大きな公園だ。当時は人がたくさんいたが、この魔物が現れた事件以来人は減り、最近ではマンションを建てる計画が出ている。

「そう。その時優斗は、魔物が出た直後に気絶しちゃって知らないかもしれないけど、あの魔物はあたしが全部倒したの」

 二個目の意外な告白に、優斗は驚愕する。

「えっ!? 結衣、大人が駆けつけてきて倒してくれたって言ってたじゃん」

「あれは嘘。優斗に暴力女だと思われたくなくてそういったの。それからかな。優斗は頭はいいけど運動できないからあたしが守ってあげなきゃ、って思ったの」

「そう、だったのか……」

 さらに結衣は続ける。

「そして中三の終わり。中学の卒業試験が終わったあと、二人っきりの教室で優斗は、四月からしばらく勉強のためにアメリカ留学するって言ったよね」

「うん。その時のことは今でも鮮明に思い出せる。結衣はほとんど表情もなく、頑張ってね、の一言しか言わなかった。怒ることも、笑うこともなかった。それが、留学する前に最後の会話だったよな」

 そのあと、結衣は見送りに来なかった。だからこの時が最後だったのだ。

「優斗の告白を聞いた時、あたしは泣きそうだった。十数年ずっと一緒だった人と、何年離れることになるのかわからなかったから。でも優斗は、うん、とだけ言って、そのままあたしに背を向けて帰っていった。その時、思ったの。優斗はただ幼馴染に報告しに来ただけ。あたしのことはなんとも思ってないって……」

「…………」

「高校に入学して、優斗がいない環境にさらされ、あたしは悔やんだ。なぜあの時引き止めなかったんだろう、なぜあの時もっと話せなかったんだろうって。六月くらいまで、何もやる気が起きなかった。でも、ある時、優斗のお父さんがあたしに言ったことが全てを変えたわ」

『思ったよりタイムマシンが早く完成するかもしれない。そしたら優斗を呼び戻すつもりだ』

『えっ! そ、それは早くていつですか?』

『そうだな……。結衣ちゃんが高三になるころにはできるかな』

『ということは二年後ですか……』

「それであたしは、その二年で自分に何ができるか考えた。あたしが唯一できるのは武術。だから、あたしはその武術を極めて優斗を守れるようになろうと思ったの」

「そうか……」

 優斗は心の中で思う。結衣はそこまで俺のことを思っていたのか、と。

しかし、結衣は突然大粒の涙をこぼしながら叫んだ。

「でも、全然ダメだった! この旅でも何度か優斗を守ろうとはした。でも、失敗ばかり!」

「そんなことない。結衣は戦闘が得意じゃない俺を十分守ってくれた」

「じゃあ、応仁の乱の時、嬉しさのあまり巨大な魔物に気づかなかったのは!?」

「うっ……」

「今だってそう! 一時の気の緩みで足元の穴に気付けず、そのまま落ちて、そして遭難! そんな状況であたしはあなたに何もしてあげられない! 結局、二年頑張っても、あたしは無力なの!」

 結衣は、涙をボロボロとこぼし、浅く腕に指を食い込ませていた。

「どうしてそこまで俺のことを……」

「…………」

「…………」

 沈黙。しかし、すぐに結衣が優斗の問いに答えた。

「……それは、優斗のことが……」

「俺のことが……?」

「あなたのことが好きだから!」

「!?」

 それは、今までの告白とは比べものにならないものだった。

「好きなの! どんなに無知なのを馬鹿にされても、どれだけ冷たくされても、あなたのことを嫌いになれない! 頭がよくて物知りなあなたと離れたくない! いつだってあたしは、あなたと一緒にいたいの!」

 立ち上がり、涙を飛ばしながら、結衣は叫ぶ。

「その気持ちは……いつからだ?」

「ずっと前! もういつかもわからないくらい前! 頭のいい優斗を尊敬し、いつしかそれが恋になってた!」

「ははは、そうか……。そうだったのか……」

 それを聞いた優斗は笑い出した。

「な、なにがおかしいの!?」

「俺も……結衣のことが好きなんだ。多分、結衣と同じくらいの頃から」

「ふぇ!?」

 今度は結衣が驚く番だった。

「俺も、結衣を尊敬していた。だって、俺よりかなり運動できて、さらに俺のことを守ってくれるんだもん。そして、同じように、いつしか尊敬は恋になってたんだ」

「そう……だったのね……」

「でも、留学を告白したときの結衣の反応を見て、なんとも思われてないんだ、って……」

「……じゃあ、あたしたちはずっと昔から、お互いのことを好きだったってこと……?」

「……そうだな。なんか不思議だな。こんなにずっと近くにいたのに気づかなかったなんて……」

「ふふ、そうね」

 もう、結衣は泣くのをやめ、笑っていた。すると優斗が決意するように叫ぶ。

「もう一度言おう。俺も結衣のことが好きだ! 結衣とずっと一緒にいたい! これからもず―――――っと! だから、まずはここから脱出しよう! もう弱音なんかはくな! 俺たちは二人だ! 一人じゃない!」

「うん!」

 二人で山を抜ける、歴史が変わる前に。


 この告白の間、テストジャンパーは一人しか飛ばなかった。中止もあり得たが、選手側の要望でもう少し待ってくれるようだ。

――テストジャンパー あと十六人――

※後編でまとめてお話します※

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