休章 女を追って江戸時代へ(後半) ―1603年~1868年―
物語の都合上、実際の出来事や文献等に載っていることと(かなり)異なります。
あらかじめご了承ください。
「今度は……、何年だ?」
「1775年ですね。日本では特にこれといったことはありません。アメリカでは独立戦争が始まってますが」
今度もまた、日本では特になにも起こっていないようだ。
しかし、小さな出来事はいつでも起きている。
「ね、ねえねえ。なんか幽霊が出るってあっちの人たちが言ってたんだけど……」
結衣が珍しくビクビクしている。
そう、あんなに強気な性格なのに幽霊のたぐいが大嫌いなのだ。
「へ〜、面白そうじゃん。ちょっと詳しく訊いてくる」
対して、優斗は大好き。というより、科学で説明できないものを解明するのが好きなのだ。
止めようとする結衣を無視して、噂をしていた人たちのところに行ってしまう。
「すいません。幽霊についてお聞きしたいのですが」
「鎧武者の幽霊のこと? ここから少し行ったところにあるお墓に夜な夜な現れるの。みんな怯えちゃって困ってるのよ。でも幽霊なんでどうしょうもならないじゃない? 自然に消えるのを待つしかないのかなぁ?」
「なるほど。ありがとうございました」
優斗はみんなのもとに戻る。
「どうだ、優斗。何かわかったか?」
「多分、『ユータイリダツ』のせいですね」
「幽体離脱?」
「違う違う。『ユータイリダツ』って魔物。とりつかれると寝るたびに幽体離脱して、しかもそれが実体化するっていう厄介な魔物。でも、もともと大したことなくて、現代ではほとんど見ないな」
「よかった〜。本物の幽霊じゃないのね」
結衣は安堵する。しかし、
「あくまで予測だけどな。じゃあ早速、今夜確認しに行こう」
「え、行くの!?」
「もちろん」
「う〜」
優斗に返されて泣きそうになる。もし魔物が原因じゃなかったら結衣はどうなることやら。
そして、夜。
町外れの墓場に一行はいた。
時刻は深夜二時。さすがに希衣は眠たそうだ。
「やっぱ幽霊って言ったらこの時間だよな」
「帰りたい帰りたい帰りたい……」
結衣は念仏を唱えるように「帰りたい」と連呼している。
すると美咲が意地悪そうな笑みを浮かべ、こう言った。
「兄ちゃん、あそこなんかいるよ?」
その表情に気づいた優斗も悪のりする。
「む、あれはただの火の玉だな」
それを聞いた結衣は
「ひっ!?」
と、マジで泣きそうな顔する。
「……冗談だ」
「もう! 二人していじめないでよ!」
「おい優斗、いたぞ」
「笹野さんまでいじめ……!?」
笹野が指差すその先には、うっすら青く光る鎧を着た人がいた。
「お、現れたか。ちょっと話訊いてくる」
「え、ちょっ、優斗!?」
優斗はさっさと鎧武者のところに行ってしまった。
「すいません。何があったか教えてくれませんか?」
「や、やっと話を聞いてくれる人がいた……。ありがとうございます!」
「い、いえ。とりあえず話を聞かせてください」
鎧武者は自分の身に何が起こったのか話し始めた。
「私の名前は不動明正。ごく普通の侍だ。ことの発端は三週間前……。森を散策していた私は、見たこともない生き物を見つけた。これはもしかしたら新種かもと思い追いかけていくと、突然その生き物は私に襲いかかってきて、そのまま私の中に入り込むように消えてしまったのだ。それから、毎晩このような状態になっている。解決する方法は見つからないが、町の人に話せば町から追い出されるかもしれない。それで困っていたのだ」
「わかりました。では、どこに住んでいるか教えていただけませんか? もしかしたら解決できるかもしれません」
「それはありがたい! 私は町で一番大きな屋敷のむかいに住んでいる。朝になったら是非来てくれ」
「わかりました。では、朝に会いましょう」
優斗は明正と別れ、みんなのもとに戻る。
「ど、どうだった?」
「朝になったらあの人を訪ねる。それである方法を試す」
「ある方法?」
「ユータイリダツを追い出す方法さ。詳しくはノウェムに訊いてくれ」
それから一行は仮眠をとり、しばらくして朝になった。
町で一番大きな屋敷……のむかいの家を訪ねると、昨夜の幽霊と同じ顔の人が現れた。
「どちら様ですか?」
「えっ? 昨夜約束したじゃないですか」
「なんのことだかわかりません。お引き取りください」
そういって、その人は背を向けて中に入ろうとした。
「仕方ないな」
そう言うと、優斗は美咲のポケットからスタンガンを取り出し、首の後ろに放った。
もちろん失神。床にぶっ倒れる。
「兄ちゃん、何してるの!?」
「ちょっと事情があるみたいだ。だから強行手段に出た。ちなみにしまってある場所はこの前の怪物騒ぎの時知った」
「だからってこんなことするか……」
笹野は呆れ顔。結衣はぽかーんとしている。どうやらいつもとのギャップに驚いたようだ。
「さ、この人を運ぶぞ」
家は一人暮らしにはちょっと広いくらいだった。
「じゃ、早速やるか」
そう言うと優斗はアマスマ六属性すべてのストーンを一個ずつ入れた。
ユータイリダツを出す方法――ノウェム曰く、「この魔物はどの属性にも当てはまらないので有効属性はないのですが、六属性全てをぶつけるとびっくりして出てきます。ただ、うまく当てないととりつかれている人が怪我するかもしれません」――を試そうとする優斗。しかし、事前に方法をノウェムから聞いていた結衣はそっと優斗に言う。
「ちょっと。優斗大丈夫なの? 失敗したら怪我させちゃうんでしょ?」
「ああ、そうだな。じゃあ、結衣頼むわ」
「どの位でやればいいの?」
「ユータイリダツは臆病だから各属性とも小出力でいいと思う」
「オッケー」
結衣はうまく出力を調整してその人に六属性の攻撃を当てる。
しかし、
「出てこないよ?」
その人の体から何かが出てくる様子はない。
「そんなはずは……」
「もっと出力を強くしてみる?」
「いや、これ以上強くしたら怪我させちゃう」
「じゃあどうするの?」
「もしかしたら……。ノウェム、解析してくれ」
「わかりました」
ノウェムが解析している間、希衣が周りのものを漁り始めた。さすがにまずいので笹野が優しく注意する。
「希衣ちゃん、勝手にいじっちゃダメだよ」
しかし、希衣はまだ漁っている。すると、希衣は何かを見つけて持ってきた。
「これは……!?」
それを見た笹野はびっくり。
それは、兜だった。それはすごく大事そうに布で包まれていた。
しかし、その兜には血が。
「優斗さん、解析できました。この人の中には何もいません」
「優斗くん、これ」
優斗はノウェムと笹野に提示されたものをみて、考え込んだ。
そして、何か思いついたようだ。
「これは、もしかしたら本当に幽霊かもしれない……」
他のみんなは優斗の予測を聞いた。それは、突飛ではあったが筋は通っていた。
「じゃあ、確かめに行くぞ」
一行はまだ明るい墓場に向かった。
そして、多くの墓の中から不動とつく墓をみんなで探した。
「優斗、見つかったよ」
そこには「不動明正」と書かれていた。
「やっぱり……。ノウェム、ここの下を解析してくれ」
「わかりました。…………はい、優斗さんの予想通りです。この下にユータイリダツがいます」
「そうか、じゃあちょっと気が引けるがここを掘ろう」
不動明正と書かれた墓標の下をみんなで掘っていった。しばらく掘ると少し白骨化した死体が出てきた。
さすがに希衣に見せるわけにはいかないので、笹野が希衣を少し離れたところに連れて行って、遊び相手をしていた。
「結衣、さっきみたいにアマスマを当ててくれ」
「わかったわ」
さっきのように六属性の攻撃をその死体に当てる。すると、青く光る丸っこい生き物が現れた。それを優斗は銃で撃ち落とした。そのまま魔物は消えていった。
「はあ、優斗の予想通りね」
優斗の予想――それは、不動明正は既に死んでいるということだった。
このあと、もう一度明正の家に行き、そこの住人――不動明正の兄――に謝罪をし、話を聞いた。
不動明正は一週間ほど前、小さな戦いのさなか敵の矢が頭に当たり、死んでしまったという。兜の血はその時ついたものだろう。
魔物が入ったまま土葬されたため魔物は中で活動し続け、明正が死んでもなお墓場に幽体離脱したものが現れ続けたのだ。まるで、本当の幽霊のように。
優斗が話しかけた時彼があのように言ったのは、魔物の中に残る彼の生前の意思がずっと助けを待っていたからかもしれない。
優斗たちは再度、明正の兄とともに墓に出向きお参りをした。
「よかったな、明正。これで苦しまなくて済むな……」
お参りしている時、明正の兄は隣にいた優斗にしか聞こえないくらい小さな声でそう呟いた。
そして、明正の兄と別れ、次の時代へと向かった。
だれも、ここで勇子を探そうとは言わなかった。
あとでノウェムのデータを見て知ったが、ユータイリダツにとりつかれると、毎晩寝るたびにうなされているような状態になるらしい。
きっと明正の兄は、そのことを知っていたのだろう……。
二百六十五年もある江戸時代を捜し回った一行は、ついに江戸時代末期に着いた。
「ふう、なんかいろいろあったけど、結局日浦さんは見つからなかったね……」
「そろそろ江戸時代も終わりのほうか。もう先の時代に行ってしまったのかな?」
「もしかしたら追い越してたりして」
「おい結衣。冗談よせよ」
一行とすれ違う人々の中にはまげをしてない人もちらほら。もうすぐ武士の時代が終わり、明治時代へと入る。
「ねぇ、おにーちゃん。おばちゃん?のけはいがする」
「ん? 日浦さんじゃないのか?」
「わかんない。にてるけどちがう?っていうのかな」
「とにかく確かめにいこう」
希衣の言う方へと向かっていくと、そこには和服を着たあの女……に良く似た女性がいた。確かにそっくりだがどうみてもこの時代の人だ。
「う〜ん。どういうことだ?」
「先祖とか」
「私が確認してこよう」
そう言うと、笹野はその女性へと向かっていった。
「すみません」
「あっ、し、翔くん!?」
「へっ?」
「よかった〜、ようやく助けに来てくれた〜」
「えっ、優子さん!?」
なんとその女性は事故で行方不明になっていた優斗と美咲の母、本城優子だった。
「あの事故でこの時代に飛ばされてから、どうしようか困っていたところを周りの人たちが助けてくれたおかげでなんとか生活してたの。あれから何年?」
「十五年。大変だったよ」
「へ〜。優斗と美咲は元気?」
「そのことなんだけど……」
笹野は優斗たちの方をみて、こっち来て、と手で合図した。
「お、母さん……」
「優斗……、美咲……。」
親子は固く抱きしめ合った。
「こんなに大きくなって……」
「よかったぁ……」
「美咲、泣かないの。もしかしてそこの女の子は結衣ちゃん?」
「はい。はじめまして」
「私にとってははじめましてではないけどね。それで……その女の子は?」
「それも含めて話したいことがたくさんあるから、どこか座れる場所とかない?」
「それなら知り合いのお茶屋さんがいいかしら」
一行はそのお茶屋さんに行った。中は思ったより広く、結構座席がある。
そこで優斗たちは優子に今までのことを伝えた。
「私は死んだことにされ、それを暴くために勇子が事件を起こし、優斗たちが巻き込まれ、勇子を追って様々な時代をめぐり、今に至ると」
優子はうーんとうなり、少しの間考え事をしていた。
「あなた達について行けば勇子に会えるかもしれないわよね?」
「そうですね」
「勇子を捕まえてやめさせないと」
「でも、お母さんが帰ったら結局バレちゃうんじゃ……」
「そのへんはなんとかなるわよ。とりあえず勇子があなたたちを巻き込んだっていうなら、ちゃんと謝らせるわ。どうせ挑発的なことばっかしてるんでしょうし」
「おっしゃるとおりです」
「それに希衣ちゃんのことも気になるわ。それじゃあこれからは私もついてく。ちょっと待ってて、準備してくるから」
そう言うと優子は外に出て、二十分ほどで帰ってきた。その手には大きな荷物。
「そんなに持ってくの……?」
「ええ。歩夢にお土産を持って帰らないと」
「そんなことしなくてもこれからはいくらでも来れるぜ」
「あっ、そっか。じゃあ預かっといてもらうか」
優子はまた外に出て、今度はすぐ戻ってきた。結構近くに住まいがあるらしい。
「それじゃあいきましょ。で、勇子はどの時代に行ったの?」
「それが……」
「ちょっと前にまかれて、この時代にもたまたま来たんだ」
「う〜ん。結衣ちゃん、HT-001貸して」
「はい」
結衣がノウェムを手渡すと優子はなにか操作する。
「まだ他に歪みを使ってる人いないわよね?」
「博士が余計なことしていなければ」
「それなら大丈夫か。ならこうしてああして……」
様々なグラフやら表やらいろいろなものが表示される。
「何してるの?」
「ちょっと特殊なこと。企業秘密よ」
どうやら開発者にしかわからないことらしい。
「……わかったわ。勇子がいるのは1998年。だいぶあとまで行っちゃったみたいね」
「でも、都合良くその時代に行ける歪みなんて見つかるの?」
「大丈夫。実は、HT-001に歪みの経路を変更させる機能を付ける計画があったの。それを歩夢がちゃんと作ってれば…………あった。これを使えば追いかけられるわ。ふふ、勇子はHT-000の方が高性能だと思っているようだけど実はこっちのほうが高性能なのよね」
意外な事実に一同びっくり。
とりあえずそれは置いといて、勇子がいる年に関して優斗が質問する。
「なんでいきなり1998年に?」
「多分戦争を避けたんだと思う」
「そういえば、保持は?」
「してるわ。……う〜ん、もしかしたら心の奥で止めて欲しいって思ってるんじゃないのかな?」
「そうかもしれませんね」
優子の推測に笹野が同意する。
「それじゃ、どこか近くにある適当な歪みにいきましょ」
すると、結衣が待って、と一同を止める。
「ねえねえ、せっかくだしこの辺散策したいな」
「きいもどこかいきたい」
「それじゃあ少しだけ散策しましょうか」
「さんせ〜い!」
結衣と希衣が喜んで賛同する。他のみんなも異議はないようだ。
それからしばらく、いろいろなところを見て回った。絵を描いてもらったり、船を見たり。火事を見たときはびっくりしたが、火消しの活躍で鎮火し、みんなで拍手をおくった。
いつの間にかだいぶ時間が経ち、一行は適当な歪みのところへ来た。
「よし、今から二分後に出現するわ。現れたらまず私が飛び込むから、そのあといつもどおり飛び込んでね。経路の変更は私がやるから」
はーい、と女子三人が返事する。しかし男二人は、
「本当に大丈夫なんですか?」
「まあ、優子さんの設計だから博士が余計なことしてなきゃ大丈夫でしょ」
「そこの二人、なにブツブツ言ってんの?」
「なんでもないです」
優子は研究について文句をつけられるのが大嫌いだ。聞かれたら二人だけ違う時代に飛ばされかねない。
「さ、歪みが現れるわよ。五…、四…、三…、二…、一…、ゼロ! 行くよ!」
優子を先頭に、一行は歪みに飛び込んだ。
どうも、kumihaです。
今回、前回は休章ということで江戸時代を舞台に友達に考えてもらった大筋を元に書いた短編三つでした。
ちなみに年代は「日本で大きな出来事が起こってない年から好きな年選んで」という質問で決めました。
さて、物語も次から終盤に入っていきます。
これからあんなことやこんなことがどんどん起きていきますよ~。
(全くなにかわかりませんねw)
次回は少し飛んで平成時代です。
どこを使ったかはまだ秘密ってことで。
では、また。
しばらく毎日投稿します。
といってもあと5回くらいで終わってしまいますが。




