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休章 女を追って江戸時代へ(前半) ―1603年~1868年―

物語の都合上、実際の出来事や文献等に載っていることと(かなり)異なります。

あらかじめご了承ください。

「うわ〜、ひとがたくさんいる!」

「賑やかね〜」

「ねえねえ、あのお店何売ってるかな?」

 瓦屋根の家が並ぶ街並みを歩く一行。人が多く活気があり、様々ところにお店もある。

 女子三人は人の多さに少し浮かれてる。

「さて、日浦さんはどこに行ったかな?」

「まあまあそう言わず、少し楽しもうぜ」

「笹野さんまで浮かれてどうするんですか」

 笹野まで浮かれて、優斗は一人冷めている。

「まあでも浮かれるのもわからなくもないですね。だって今は……」

「ねえ優斗。結局今何時代なの?」

「はぁ? まだわからないのかよ。江戸時代だよ、え・ど・じ・だ・い」

「あ〜、なるほど!」

「結衣ちゃん、もっと勉強しなきゃな」

「はい……」

 優斗と手をつないでいる希衣がキョロキョロと辺りを見渡している。

「どうした?」

「おばちゃんのけはいがする」

「なんだって!? どこにいる?」

「あっちかな」

 希衣が指差す方に行ってみると、勇子が歪みに入っていくところだった。

「待て!」

 優斗が叫ぶも勇子は止まらず、そのまま歪みに入っていってしまった。

「追いかけるぞ!」

 優斗たちがダッシュで追いかけるが、女が入った直後、歪みは消えてしまった。

「えっ!? うわ!」

 先頭を走ってた結衣がいきなり止まるので、その後ろを走ってた優斗は折り重なるように倒れた。

「優斗……どいて……」

「す、すまん」

「ふむ、追われないために保持するのをやめたか。これは困ったな」

「とりあえず先の時代に行ったのは確かだろうから、他の歪みで追おう。ノウェム、どこか近くにない?」

「ありますね。早く行きましょう」




〈Narrator Part〉

 ついに江戸時代!なんといってもこの時代、長いのなんの。なんと、1603年から1868年まで続いていたんです。二百六十五年ですよ!徳川家おそるべし。

 さて、ついに謎の女の正体がわかりました。まさか優斗たちの母親の妹だなんて。しかも双子。びっくりですね。

 しかし、追われないためか歪みの保持をせずどこかに行ってしまいました。

 このままでは追うことが出来ない!というわけで彼らは、長い長い江戸時代をとりあえず見つけた歪みに入り、女を探して、また別の歪みに入り……ということを繰り返しました。

その間の話、全てをお話したいのは山々なんですが、そんなことをすると何時間かかるかわからないので、特に印象が強い三つの話を紹介したいと思います。




 一行が訪れたのは1630年。歴史的な出来事はこれといってなく、いたって平和だ。

 この時代に勇子がいるかわからないが、とりあえず一行は、町を散策しながら勇子を捜すことにする。

 しかし、なかなか見つからない。

「ねえ、本当にこの年にいるの?」

「わかんないから探してるんだろ」

「みつからなかったらどうする?」

「絶対どこかに形跡があるはず。それを見つけるしかないな」

「はぁ〜。そうするしかないのね……」

 一行が歩いていると、何か賑やかな音が聞こえてきた。

「何してるんだろ?」

「ねえ、見に行ってみない?」

「そうだな。折角だし見ていこう」

 賑やかな方に行ってみると、そこでは歌舞伎をやっていた。

「すごい! 生の歌舞伎だ!」

「おお。私も初めて見た」

「現代じゃなかなか見る機会ないからなぁ」

 みんなが見入っていると、希衣が勝手にどこかへ歩いて行ってしまった。

「あっ、希衣!?」

 慌てて優斗が追いかける。

 希衣が向かった先は舞台裏だった。

「希衣どこだ〜?」

 すると、横から突然誰かがぶつかってきた。

「きゃっ!」

「あっ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

 ぶつかってきたのは着物を着た少女だった。

「こ、こちらこそすいません。でも、ここは舞台裏ですよ?一般客は立ち入りをご遠慮願いたいのですが」

「すいません。連れの女の子が勝手にこっちの方に入っていっちゃって」

「それは大変ですね。私も一緒に探しましょう」

「いえ、まだ仕事中でしょう? 僕だけで探します。邪魔にならないようにしますので」

「そうですか。わかりました」

 そう言うと、彼女は慌ただしくあっちにいったりこっちにいったり。頑張って仕事をしていた。その様子を見ながら優斗は希衣を探した。

「希衣〜、どこだ〜?」

「あっ、おにーちゃん」

「希衣、ダメじゃないか。ここは入っちゃいけないんだぞ」

「ごめんなさい」

「反省したならそれで良し。じゃ、みんなのところに戻ろうか。そうだ、彼女に挨拶ぐらいしておこう」

 辺りを見回すと、彼女は舞台袖から舞台をみていた。

「すいません」

「ひゃ、はい!?」

 彼女はびっくりして、声が裏返った。

「あ、すいません。突然呼びかけたりして。見つかったんで失礼します。どうもお騒がせしました」

 そう言って、優斗と希衣は頭を下げる。

「あ、はい。どうも」

「……歌舞伎、好きなんですか?」

「ええ、今舞台にいるのは父と兄です」

「へぇ、一家で歌舞伎か。すごいですね」

「でも、今は女性の歌舞伎は幕府によって禁止されてるんですよ。あぁ、私もやりたいなぁ……」

「本当に歌舞伎が好きなんですね」

「はい。だから、その分父や兄の助けとなるように裏方仕事を頑張っているんです」

「いいですね。俺も頑張れることがあればいいんですけど」

「きっとありますよ。それじゃあ、そろそろ仕事しないといけないんで。失礼します」

「すいません。長々とお引き止めしてしまって」

 お互いに頭を下げ、優斗と希衣は外へ出ていった。

「……はぁ」

 彼女の小さなため息に優斗たちが気づくことはなかった。


 私の名前はあやの。

歌舞伎一家に生まれ、両親に兄が二人、弟が一人いる。幼いころから家族の歌舞伎を見ていて、とても大好きだった。小さい頃には歌舞伎ごっこをして兄や弟と遊んだ。そして将来は、舞台で歌舞伎をしたいと思っていた。

しかし、幕府によって女性の歌舞伎が禁止されていた。

私は歌舞伎をやることを諦め、父や兄の舞台の裏方仕事をして、少しでも歌舞伎の近くで仕事ができるように頑張った。でも、それが逆に私の歌舞伎への執着を強め、一時は諦めた歌舞伎をやりたいと思うようになった。

ある日、私は父に歌舞伎をやりたいと言った。しかし、もちろん父は反対。それならと、私は幕府に直談判すると父に言った。父は大激怒。直談判なんてしたら、どうなるかわからないからだ。他の家族もやってきて、私を説得しようとするが、私の耳にはもう何も届かなかった。

私は家族の静止を振り切り、家を飛び出した――。


「はぁ、はぁ」

 あやのは走っていた。江戸城に向かうために。

 しかし、

「……あれ? 江戸城ってどっちだっけ?」

 あまりに夢中で走っていたため、今自分がどこにいるかわからなかった。

「え〜と……あっちかな? いやこっちかな?」

 今彼女がいるのは人気のない田んぼ。道を訊こうにも訊く相手がいない。

というかそもそもどうして町から外れてこんなところに来たのかが不思議だ。もしかすると、ちょっとドジなのかもしれない。

その場であたふたしていると、田んぼの方から何かの鳴き声が。

「もおおおおおおおおおお!」

「う、牛!?」

 あやのに向かって一頭の牛―正確には牛型の魔物―が突進してきた。

「えっ、ちょっ!?」

「もおおおおおおおおおお!」

 突進してくる牛をあやのはなんとかかわす。

 しかし、牛は方向転換しまたあやのの方に向かってくる。

「きゃあああああああああ!」


 その頃、優斗たちは町から少し離れた道を歩いていた。

「はあ、この年にはいないか」

「早く次の時代にいきましょ。ノウェム、この辺に次の歪みがあるのよね?」

「もう少し歩いた先にあります」

 ノウェムが言っていたとおり、少し歩くと田んぼの上に歪みが出来ていた。

「よし、じゃあ次の時代に……」

「きゃあああああああああ!」

「兄ちゃんあれ!」

 そこには歌舞伎の時に会った少女が、牛に追われていた。

「優斗、あれ魔物よ! え〜と、牛型であの模様だから『カウォクル』ね!」

「マスター、正解です。奴は獲物を見つけると、仕留めるか止められない限り突進し続けます。早く助けないと」

「この魔物ならやったことあるわ。私に任せて!」

 そういうと、結衣は鞭を伸ばし、魔物の経路に張り、足かけを……しようとしたのだが、

「きゃっ!」

「あ、やば……」

 ミスって、少女の前に張ってしまった。

 もちろん、魔物は容赦なく突進してくる。

「きゃああああああああ!」

 ド―――――――ン!

 砂煙が舞う。それを見た結衣は「ああ、ごめんなさい……」と必死に頭を下げている。

が、

「危なかった〜」

 優斗が放ったライフルが魔物の頭に命中。少女に当たる直前で息絶え、消滅した。

「これでライフルは弾がなくなっちゃった。まあまだ銃があるからいいか。……大丈夫かい?」

 少女の方を向いて優斗は問いかける。

「は、はい……。あっ、あの時の……」

「どうも」

「こんにちは!」

 優斗と希衣が挨拶をする。

「知り合い?」

「数日前に歌舞伎見たろ。その時、希衣が舞台裏に入っちゃってそこで出会った」

「へぇー。意外な出会いもあるもんだねぇ」

「そうだな。……ところで、名前を聞いてなかったですね。俺は優斗」

「私はあやのです。あの、ありがとうございました」

「いえいえ。ところでどうしてこんなところに?」

「ちょっといろいろありまして……」

「よかったら、話を聞かせてください。なにか力になれるかもしれないし」

「……はい。実は、……」

 あやのはこれまでの経緯を優斗たちに話した。

「そういえば、あの時も言ってましたね」

「私は、どうしても歌舞伎をやりたいんです! だから幕府に直談判しにいこうと家を飛び出したのですが……」

「道を間違えさらに田んぼで牛に襲われた、と」

「恥ずかしながら……」

 あやのは顔を赤らめる。

「そうですね。さすがに直談判は家族にも迷惑がかかるから、とりあえず家族と取り合ってみましょう。俺たちも付き添います」


 町に戻り、一行はあやのの家に来た。

 そこで、あやのの家族と対面した。

「お父様、ごめんなさい。でも、私はどうしても歌舞伎をやりたいんです!」

 あやのは懇願する。

「彼女の気持ちは確かです。まだ二度しか会ってないけど……それでも彼女の気持ちは本物だと思います!」

 優斗も援護する。

 あやのの父親は少し黙ってから、口を開いた。

「……私もちょっと言い過ぎた。お前が出て行ってからみんなと考えたんだ。舞台には出せないが、私が直々に教えてやろうってな。まあ、直談判されたらそれどころではなかったがな」

はっはっは、とあやのの父親は笑った。

「これからも仕事手伝ってくれ。……そうだな、頑張った分歌舞伎を教えてやろう!」

「ちょっと、それは酷いんじゃない!?」

「ふふふ。でも私仕事頑張る! だからちゃんと教えてよね」

 あはははは、あやのに笑顔が戻った。もうこれで大丈夫だろう。

「それじゃあ、俺たちはこれで」

「そうですか……。なんかいろいろありがとうございました。大したものではないですが、お礼です」

「これは……、けまりですね」

「はい。私はけまりが大好きで、これは愛用のものなんです」

「いいんですか? 大事なものなのでは?」

「私にはもっと大事なものができました。それに、命の恩人に持っててもらうなら手放しても大丈夫です」

「そうですね。では、これは大切に持っておきます」

「はい。なくしたりしないでくださいよ?」

「もちろん。それでは」

「みなさん、お元気で!」

 さっき入ろうとしていた歪みは消えてしまったので、一行は別の歪みから次の時代へ向かった……。




 次に訪れたのは1725年。

 前と同じように町を散策しながら勇子を捜す。

 すると、どこからかすごくいいにおいがしてきた。

「このにおいは……、スルメイカね!」

「お~、さすが美咲ちゃん。鼻が効くね」

「兄としてはこんな特技、うれしくないんだが……」

「おにーちゃん、おなかすいた」

「そうだな。お金はないが……なんとかなるかな?」

 においのするほうにいくと、大勢の人がスルメイカを持っていた。

「この年はスルメイカがはやっているのか?」

「そんな記録はありませんが……」

「なんか怪しいわね。この人たちを追ってみましょう」

 スルメイカを持つ人の流れに沿って歩いていくと、人だかりが見えた。

 あまりに人が多く中で何をやっているかわからなかったので、小柄な美咲に中に入ってもらい、偵察させた。

数分後、美咲が戻ってきた。

「何やってた?」

「え~と、踊り子さんが踊ってて、周りで我先にと踊り子さんの足元にある箱にスルメイカを入れてた」

「なにそれ」

「ふむ……、その踊り子はスルメイカがそうとう好きなようだね」

「それが……、なんだか変なんだ」

「変?」

「うん。踊り子さんはなんか無理やり笑顔を作ってる感じだし、周りの人はまるで洗脳されたみたいにスルメイカを差し出していたから」

「なるほど。その踊り子がどんな人かはわからないが、こんなに大勢の人がスルメイカを持ってくるのは確かにちょっとおかしいな。洗脳の可能性もあるが……霊術師かなんかが裏にいるのかな」

「ちょっと様子見てみる?」

「ああ」

 すると突然「ぐぅ~」とかわいい音がなり、希衣が優斗の袖を引っ張ってきた。

「おなかすいたよぉ……」

「ごめん、ごめん。すっかり忘れてた。誰かくれないかな……」

「なあ、あの踊り子にもらったらどうだ?」

「そうですね。ごめんな、希衣。もうちょっと待ってくれ」

「ぶう……」

 希衣は可愛らしく頬を膨らませたが、ないものはしょうがない。希衣にはもうしばらく我慢してもらう。

 それからしばらく踊りが終わるのを待っていた。

 その間もスルメイカを持っていく人は絶えず、ものすごいにおいを発していた。そのにおいのせいで、希衣だけでなく他のメンバーも腹の音を鳴らし始めた。

「もうだめ。おなかすいた」

「私も~。何か食べたいよぉ~」

「うぅ、さすがにこのにおいは強烈過ぎるな」

 あまりに腹が減り、倒れかねないという時、美咲がみんなを救うように言った。

「あっ、終わったみたいだよ!」

 美咲が言うように、踊り子は踊るのをやめ、箱を持ってどこかに歩き出した。

「早く追おう!」

「ちょっと待って」

 今にも踊り子の方に飛び出していきそうなみんなを、優斗が制止する。

「周りの人たちを見て!」

 優斗が言うように周りの人を見ると、「はっ、俺は何をしていたんだ」とか「なんでスルメイカなんて買ったんだろう」とか言っている人が大勢いた。

「やっぱり洗脳のたぐいか……。多分踊りが元凶だろうな」

「もういいでしょ。あの人を追いましょう!」

 結衣たちは待ちきれんとばかりにダッシュで踊り子が歩いて行った方へいく。

 が、腹が減ってすぐにへばってしまう。仕方なく、歩きながら追う。

 ちょっと遅れてしまった上、歩いているため踊り子を見失ったが、町の人たちに訊いて、なんとか追いかけることが出来た。

 話を聞いているときに知ったが、あの踊り子は「お宇佐」といい、この辺りで結構評判らしい。ただ、最近彼女の踊りを見に行くと、みな踊りを見始めた後からの記憶が欠落しているという。

 追っていくうちに着いたのは町外れの一軒家。そこにお宇佐は住んでいるようだ。

「この家か。中の様子を見てくるけど、人数が多いとばれるから俺とゆ……」

「あたしが行く!」

 優斗は結衣と言おうとしたが、美咲が先に名乗り出た。

「お前、大丈夫か?」

「あたしだって戦えるもん」

「まだ一年しかやってないだろ」

 すると結衣が助け舟(?)をだす。

「まあまあ。美咲ちゃんが行くって言ってるんだから連れてってあげなよ。もしもの時は兄貴が体張って守れば……」

「あー、もしものときは俺が死んでもいいと?」

「うっ……」

 優斗に強烈な一言を返され、結衣は言葉につまる。

「ま、二人なら大丈夫だろ。もしものときはすぐ駆けつけるから」

「わかりました」

「そうだ。ノウェム、あの中を調べて」

「わかりました。……あの中には人が一人。これはお宇佐さんでしょう。それと……何でしょう? 生き物……なのかな?」

 珍しくノウェムがはっきりしない。

「一体なんなの?」

「ちょっとよくわからないんです。ただ、魔物ではないですね。優斗さん、美咲さん、一応気を付けてください」

「わかった。それじゃあ行こうか」

「うん!」

 優斗と美咲は踊り子の家に近づいていった。家はかなりボロく、少しの衝撃で壊れそうだ。

 二人はそ~とドアの隙間から中の様子を覗いた。

 そこにはお宇佐さんと人(?)がいた。

「……兄ちゃん、あれ、何?」

「さぁ……?」

 二人がそういう反応するのも無理はない。なぜならその人らしき生き物は、人といっても二足歩行ってだけで、全身毛むくじゃら、目はぎらりと光り、口はかなりでかかった。要するに怪物のたぐいだろう。

 その怪物はお宇佐の前でうまそうにスルメイカを食っていた。

「よくやった小娘。今日もちゃんとスルメイカ百個持ってきたな」

「あの、もうやめてくれませんか」

「なにを言っている。俺様のおかげでお前のつまらん踊りに人がたくさん見に来るようになったじゃないか」

「あ、あんなの意味ありません! しかも、洗脳の踊りだなんて……」

「貴様、俺様に反抗する気か? そうしたらどうなるかわかってるだろうな? お前は俺様の飯となり、江戸は俺様のためにスルメイカを作り続けることになるぞ」

「うぅ……」

 どうやらお宇佐はその怪物に脅迫されているらしい。そして、そうとうスルメイカが好きらしい。

「さて、どうするか……」

「ス、ル、メ、イ、カ、食、べ、た、い……」

「み、美咲?」

 たくさんのスルメイカを前にもう限界だったんだろう。美咲は本性をあらわしかけている。このままではいつ飛び込んでもおかしくない。

「いいか美咲。まだ動く……」

「も〜う、我慢できない!」

 そう言って、優斗の声を聞かずに家の中へ飛び込んでいった。

「!?」

 突然の襲撃にお宇佐と怪物はびっくり。

「すぅぅぅぅぅるぅぅぅぅぅめぇぇぇぇぇいぃぃぃぃぃかぁぁぁぁぁ!」

 そう叫びながら怪物に突っ込んでいく美咲。その両手にはどこから出したのかスタンガンが。

「そういえばあいつ、なぜか武器としてスタンガン使ってたな……」

 ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ…………

「ぎゃああああああああああああああああああああああああ…………」

美咲のダブルスタンガンは怪物の急所(どことは言いませんが)に当たり、小さな家に怪物の断末魔が響く。

 その叫びに何事かと駆けつけた結衣たちが見たのは、ぐったりとする怪物と、ビクビクしているお宇佐と、呆れている優斗と、スルメイカを美味しそうにほおばる美咲の姿だった。

「…………」

 お腹が空いているのも忘れ、結衣たちは玄関で棒立ちになっていた。

 しばし沈黙。といっても美咲の食べる音だけはしているが。

「あの……」

 その沈黙を破ったのはお宇佐だった。

「怪物を倒していただきありがとうございます。……けど、どちら様ですか?」

「あっ、すいません。一家で旅をしているんですが、近くの町で異様な光景を目にしたので、何かあるんじゃないかと思い、少し探らせてもらいました。勝手なことしてすいません」

「いえいえ、こちらこそ怪物を倒していただきありがとうございます。なにかお礼がしたいのですが……」

「え〜と、既に一人食べてますけど、そのスルメイカでいいです。みんなお腹が減ってて……」

 そういう横で、希衣がまた「ぐぅ〜」とお腹を鳴らした。

「あらあら。こんな小さな子まで。他の人から盗ったようなものなので少し気は引けますが、これなら仏様も許してくれるでしょう。さぁ、みなさんもどうぞ」

お宇佐からスルメイカを受け取り、楽しく談笑しながら食べた。

「そういえば、この怪物は一体なんなんですか?」

「名は網代あじろというそうです。本人が曰く海の精だそうで、最近海を荒らす人間に天罰を下すとか言ってましたけど、多分嘘ですね。じゃなきゃスルメイカをこんなに集めるはずがありませんもの」

「確かにそうですね。それで、運悪く網代に目をつけられ、脅されていたと」

「そうです。でもあなたがたのおかげで助かりました。それにしても美咲さん、すごいですね。自ら網代に突っ込み、手から雷を出して一発で倒しちゃうなんて」

「えっ、え〜と……」

 いきなり話を振られて動揺する美咲。

「あの、よろしければこれを受け取ってくれませんか?」

 そう言ってお宇佐は自分がつけていた髪飾りを美咲に差し出した。

「う、えっ……、でも……。いいんですか?」

「えぇ。逆にこんな物しか渡せなくて失礼なくらいです」

「そ、そうですか……。じゃあありがたくいただきます」

 試しに美咲は髪飾りをつけてみた。

「か・わ・い・い!」

 突如現れた結衣がでかい声で好評する。

「えっ、そうかなぁ……」

「すっごいかわいいよ! うんすごいかわいい」

「きいもほしいよ〜」

「ごめんね。一個しかないんだ」

「まあまあ、希衣には今度買ってあげるよ」

 それからしばらくまた談笑し、そろそろ出ることにする。

「そうですか……。もう少しいてほしかったのですが、仕方ないですね」

「ええ、また会えますよ」

「じゃあね〜」

「さようなら! 美咲さんありがとうございました!」

「は、はい!」

 こうして、一行はお宇佐と別れた。

結局、勇子は見つからなかったが、美咲にとってとてもいい思い出になったようだ。


ちなみに貰った髪飾り、実はかなり貴重なもので優斗たちの時代でうん千万の価値がついたとか。

※後編でまとめてお話します※

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