第零章 時空冒険の幕開け ―2179年 タイムマシン完成―
物語の都合上、実際の出来事や文献等に載っていることと(かなり)異なります。
あらかじめご了承ください。
〈Narrator Part〉
まず話を始める前に、物語の始まりより前のことについて少しお話したいと思います。
西暦2127年、自然現象を操る究極の原子――「アルティメット・マナ」(略称・A=M)――が発見されたことにより、人々の生活は一変しました。どこでも火を使え、水を使え、電気を使える。それをベースにして科学も発展しました。しかし、それと同時にこの原子を使った事件も多発するようになりました。
西暦2129年、事態を危惧した国は研究機関に多額の資金を投資し、A=Mを安全に使うための機械を作らせました。その結果、A=Mの力を火・水・風・雷・光・土の六つに分け、それをそれぞれ色を付けた石に組み込みました。そして石を出力するためのアクセサリー型の機械――「アルティメット・マナ・ストーン・マシン」(通称・アマスマ)――を通してでしか使えないようにしました。それにより、事件はほとんど起こらないようになりました。
西暦2140年、しばらく続いていた平和が突如壊れ始めました。ある日突然日本で謎のウイルス――「モンスターウイルス」(略称・M-V)――が発生しました。M-Vは人間以外の動物に感染し、その動物を凶暴な魔物へと変貌させました。魔物は町で暴れまわり多くの犠牲を出しました。国は魔物が出現した日から自衛隊を動員し魔物の討伐を開始しましたが、魔物は異常な繁殖力をもち、自衛隊の力だけではいくら討伐してもなかなか減りませんでした。
西暦2141年、一般人しかも高校生がアマスマを使って魔物を倒したというニュースが流れました。それ以降、各地で一般人が魔物を倒し始めました。多少犠牲が出たものの、自衛隊だけで討伐していた頃よりも確実に魔物は減っていきました。
西暦2143年、国は中学二年以上でアマスマと武器を使った魔物との戦闘訓練を義務化しました。反対意見もありましたが、結局、自分の身は自分で守るということとこのまま自衛隊だけでは国の安全が守られないということから承認されました。これにより、魔物による被害は一気に減りましたが、やはり魔物がいなくなることはありませんでした。
西暦2152年、国は本城博士の論文を評価し、博士を筆頭にA=Mを使った時空間移動の研究を始めました。それに伴って、「時空研究所」を設立。本城博士が所長に就きました。
西暦2164年、冒頭でお話した事件が起き、本城博士の妻が行方不明になりました。
西暦2179年、ついにタイムマシンが完成しました。
少々話が長くなってしまいました。
今とかなり状況が違うため、これを説明しないとこの先の内容が少しわかりにくいかもしれないので説明させていただきました。
では、そろそろ本編に入りましょう。
西暦2179年。主人公である本城博士の息子、本城優斗が留学先から帰ってきたところから物語は始まります――――。
「二年じゃなにもかわんないな」
四月の初め頃、大きなスーツケースを持って飛行場から出てきた一人の少年がいた。
彼の名は本城優斗。年齢は十七歳。
父と同じ道に進むため中学時代に猛勉強し、高校入学から二年間アメリカに留学して時空間移動について勉強していた。
去年の春の終わり、タイムマシンが来年には完成すると聞いた彼は、父のもとの方が勉強になると思い残りの数ヶ月で来年分の単位も終わらせ、そして先月、同級生より一年早く高校を卒業。日本に戻ってきて、日本の高校に(一応)通いながら父のもとで勉強することにしたのだ。
彼が迎えを待っていると、少し離れた所から手を振りながら走ってくる二人の少女の姿が。
「兄ちゃーん!」
「ユウトー!」
少女の一人は優斗の妹、本城美咲。年齢十五歳。誕生日が早いため高校生ではなく、今年で中学三年生。
そしてもう一人は、優斗の同い年の幼馴染、東川結衣。彼女の親も研究者で昔から家族ぐるみで付き合っているため、優斗とは十年以上の付き合い。ちなみに一つ下の妹がいるらしいが優斗と会うよりも前から離れて暮らしているらしい。そのため優斗は見たことがない。
「やっと来たか」
「久しぶりね、元気だった?」
「もちろん。ま、流石に数ヶ月で三年生の分の勉強までするのは大変だったけどね」
「兄ちゃん、お土産ちょーだい!」
「おまえは少し静かにしろ。お土産ならあとでちゃんとあげるから」
「わーい!」
「私の分もあるよね?」
「はいはいありますよ。とりあえずここで立ち話もなんだし、一応これでも疲れてるから早く車まで連れてってくんないかな」
「むー、久々に会ったのに無愛想な奴。まあいいわ。行きましょ」
三人は少し離れたところにある駐車場に向かう。駐車場では本城家の自家用車の前で父である本城博士と結衣の両親が待っていた。
「おお優斗、ようやく帰ってきたか。ちゃんと勉強してきたか?」
「出会って早々に勉強のことなんて聞くなよ。それに人一倍どころか三倍くらい勉強しなきゃ帰れてねぇよ」
「こっちで高三の勉強してもよかったんだがな。ま、元気そうで何よりだ。見ないうちにだいぶ成長しやがって、俺より身長高くなってないか?」
「あーそうかも。でもアメリカでは周りが大きすぎてこれでも小さい方だったんだけどね」
「そうかそうか。それで、飯とかどうだった」
「意外とおいしかったな。量はかなり多かったけど」
二人が長話をし始めてしまったので結衣の母親が恐る恐る割り込み、
「あのー、そろそろ出発しませんか? 研究所の皆さんを待たすのも悪いと思うので」
「そうだった。おまえのために研究所でパーティするんだった。早く帰らんと未来の所長をみんな待っているからな」
「そうだよ、そして早く私にお土産……」
「美咲、うるさい」
「私にも……」
「結衣ものるなよ……。そういうことなら早く帰った方がいいな。早く車に乗ろう」
そして、みんなは車に乗り出した。本城家の自家用車は本城博士直々に設計した車で、燃料はいらず、A=Mの力で動く世界に一台だけの車だ。また、ワンボックス型なので大勢乗れる。それでも六人もいる今回はちょっとぎゅうぎゅうだった。
車の中でも話を続け、いつしか研究所に着いていた。
彼らは研究所の人たちに迎えられ、会議なので使う大部屋ではじめられたパーティは夜遅くまで続いた。
数日後、高校の始業式があった。
結衣が高校入学から通い、優斗が今年から通うことになった「私立黎豪高等学校」は彼らの自宅からも研究所からも近い。また中学校も併設されていて、過去に優斗と結衣が、今は美咲が通っている。約四十年前にできたまだ歴史の浅い学校だが、ちょうどそのころアマスマと武器による戦闘訓練が義務化されたため、戦闘関係に関しては日本で最も充実している。
とはいっても優斗は昔から研究者になるつもりで、ただ近いから通っていた。そのため中学生時代、戦闘訓練は単位を取れる最低限だけ受けあとはサボって勉強していた。
それに対し結衣は、勉強大嫌い運動大好きのため、この学校はぴったりだった。しかし、もちろん最低限の勉強はできなければいけないため、戦闘訓練と体育以外はいつもぎりぎりの成績である。
優斗自身はもう一度高校卒業しているためここに通うくらいなら学校行かなくていいと思っていたが、法律上大学に行くには日本の高校を卒業しなければならない上、近くに黎豪以外の学校がないため泣く泣くまたこの学校に通うことにした。
始業式が終わり懐かしい面々と再会した優斗は結衣と一緒に家に帰った。
タイムマシンの発表会は明日だ……。
タイムマシンの完成記念式典当日。
式典は夕方からのため、優斗と結衣の二人は学校が終わったあと「時空研究所」に来た。
ちなみに美咲は、中学三年初日から早速補習のため来られなかった。
すでに多くの記者やお偉いさんが研究所に来ていた。
二人は一通り挨拶を済ませたあと、式典に出席するのから逃れるため、式が開かれているタイムマシンの置かれている部屋の隣の倉庫にいた。
「まったく、人が多いったらありゃしない」
「そうねぇ。でも、よくテレビに出てるような人とも会えたし、何より自分がテレビに出られたし!」
「ふぅ、その楽観的な思考は一体どこから出てくるんだか……」
二人が楽しく談笑しているそのすぐ横では式典が順調に進められていた。
「それでは次に、時空間移動の第一人者であり、このタイムマシンを作った本城歩夢博士にお話をしていただきたいと思います」
「どうも、本城歩夢です。このたびは完成式典にお越しいただき、誠にありがとうございます。…………」
博士の話が十分ほどで終わりついにタイムマシンをお披露目する時がきた。現在、タイムマシンには布がかぶさっており、その全貌を見ることはできない。
「それでは、ついにタイムマシンのお披露目です! 本城博士、よろしくお願いします」
「では、人類の夢であったタイムマシンをお見せしましょう!」
そう言ったのを合図にタイムマシンにかぶさっていた布が下される。
「おぉ……」
「素晴らしい……」
各著名人の感嘆の声。そして報道陣が放つ無数のフラッシュ。
ついにタイムマシンはその全貌を全世界に公開された。銀色のボディ。無数のパネルとモニター。そして、中央には大きな空洞が。どうやらそこが時空の歪みを人為的に発生させる場所のようだ。
歓声を聞きつけ優斗と結衣もタイムマシンの部屋に向かおうとした。
そのとき、大勢の著名人や報道陣をかき分けてやってくる一人の女が。その女は周囲の制止を振り切り、突然タイムマシンを起動し始めた。
それを見た周囲は大混乱。しかし、一瞬で状況を理解した博士は冷静に、
「みなさん危険です! 時空の歪みに巻き込まれるかもしれません! 早く外へ!」
と、周りに指示した。その言葉を聞き、我先にと外へ向かう人々。博士は全員の身の安全のため警備員にも逃げるよう指示した。
「なんか騒がしいな」
「タイムマシンを見て感動してるんじゃないの?」
そんな騒動が起きているとは知らず、優斗と結衣は部屋に入る。
その瞬間、タイムマシンは時空の歪みを作り出し、そのまま巨大化し周りの物を吸い込み始めた。
「え? なに、どうなってんの?」
パニックに陥る二人。
そんな二人を見た博士は、
「二人とも、早くこっちへ!」
と、叫ぶが周りの悲鳴にかき消され二人には届かず。
しかも不幸なことに倉庫とつながるドアはタイムマシンにかなり近かった。
どんどん大きくなっていく時空の歪み。その吸引力はものすごかった。
周りに掴まるものなどなく、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!!!」
二人はなすすべなく吸い込まれてしまった……。
近くのものに掴まって耐えていた本城博士は周りが落ち着いたようなので、手を離し辺りを見渡す。
散乱する機材。いくつかなくなっているようだ。
そして、近くに優斗と結衣の姿がない。
「優斗、結衣ちゃん……。それにあの女……」
もちろん起動した犯人である謎の女もいない。
博士は女に何か思い当たることがあったようだが、今はそれどころではなくもしかしたら二人が助かっているかもと思い、辺りを捜す博士。
しかし、やはり二人の姿はなかった。
「くそぅ! 俺は二度も家族を失わなければならないのか!」
他の人が戻ってきたとき、そこには静かにたたずむタイムマシンとうずくまって嘆く本城博士の姿があった――――。
どうも、kumihaです。
プロローグに近いうちと書きましたが、プロローグだけでは僕がどんなものか判断しにくいと思ったので、本編の始め「第零章」を早速投稿させていただきました。
これから、日本で起きた様々な歴史的出来事を通して物語が展開していきますので、ご期待下さい。
短いですが、今回はこれで。
これからもよろしくお願いします。