鳴り
掲載日:2026/05/15
二両編成と言うと、笑われたことがある。
「もう、出ますよ。」
駅員は、笛を吹いた。
私が乗り込むと、背の後ろで扉が閉まる。
電車は、動き出した。
端に座る。
人が疎らだった。
耳鳴りが、する。
隣の男性は居眠りしている。
バッグの金具がカチャカチャ鳴った。
手元のスマホを確認する。
姉からメッセージがあった。
「もう、長くないみたい。」
短い文章に、指先が止まる。
流行病だった。
窓の外に菜の花が見えた。
それに、喉が締まる。
「マスク、しなさい。」
その声のする方へ、視線がいく。
母親が子に手渡したマスクがぺらぺら揺れる。
「あっ、咳した人がいる。」
子が指した奥の方に、母親は目を伏せる。
「いいの。こっち来なさい。」
視線を落とす。
どうして。
耳鳴りが、強くなった。
音がして、視線を上げる。
隣の男性がバッグを落とした。
男性は拾って座り直す。
鍵が目の前に転がっていた。
触れようとして止める。
それは、なんだ。
手に取ったら、すっとした。
「ありがとうございます。」
男性と視線は合わない。
耳鳴りは、止んでいる。
窓の外を見る。
景色は、知っていた。
了




