ガラスの靴で舞踏会行ったけど王子様がウザすぎて婚約破棄
夕暮れ、木の窓が開いた寝室にオレンジの光が差し込む。
「レイチャミ、これからは新しい継母と仲良く過ごすんだよ」
「なんで、お父様、いなくならないで、私を、置いていかないで……」
「そして、大きくなったら、素敵な王子様と、結婚して、そうすれば君は、幸せで……」
「なんで、なんで……」
そうしてレイチャミの父親は死んだ。
1ヶ月後に現れたレイチャミの新しい母親は、2人の姉を連れてきた。
継母と姉たちはレイチャミを、新たな名前として
"シンデレラ"
と呼んだ。「薄汚い娘」という由来である。
継母と姉たちはシンデレラに家事や雑用を全て押し付け、毎日優雅に暮らす。
シンデレラは、与えられた1番小さな自分の部屋の中で、夜空の下に輝くお城を眺めながら、ぼんやりと考えていた。
今度、王国の城で舞踏会がある。
王子様の姫を決める舞踏会だ。
それに参加をして、王子様の姫となり、王族になれば、私はこの生活から、解放される、かもしれない。
私は多分、それを、望んでいる。
今の、3人に支配される、下の立場として支配される生活が嫌すぎて、私は、自由になりたくて。
もし、王子様の姫となり、王宮に行けばどんな生活が待っているのだろう。
多分、私は毎日優雅に暮らせるのだろう。いいものも着させてもらえるし、お金もたくさんもらえるだろうし、みんな、私のしもべとして……。
そうだよね。
私が姫になるってことは、私のために尽くすたくさんの誰かがいるってことだよね。
そしたら、私、その人たちに申し訳ないって、思ってしまうのかな。
そんなことを考えていること自体、気にしすぎ?
でも、今の生活から解放されることは確かで。
今の生活が嫌すぎて、死にたいくらいで。
それから解放される、のは、今しかない。
それなら、やっぱ。
その舞踏会に参加しなければずっとこの生活なのなら。
その日の舞踏会に、賭けるしかない。
舞踏会の開催の日、シンデレラは継母と姉たちにいつも通りの雑用を任された。
仲の良かった動物たちが作ってくれたドレスも、姉たちに破られてしまった。
そして、3人は、馬車で、舞踏会まで行ってしまった……。
夜空を見上げて思う。
この部屋は狭いけれど、星が綺麗に見えるから、実は気に入っていて。
私には多分、ずっと、自由はない。
ずっと、継母に支配され続ける。
私は元々気にしやすくて、多分、継母が優しくなる日が来たとしても私は、多分変わらないだろう。
王子様と結婚すれば、全てがうまくいく。
そう、この国の女性は全員、信じきっている。
それは、私の継母も、姉たちも、そして……。
『そして、大きくなったら、素敵な王子様と、結婚して、そうすればレイチャミは、幸せで……』
今は亡き、私の父親も。
それにしても、今日は夜空が綺麗。
シンデレラは階段を降り、玄関を開けて外に出て、少し散歩をした。
そして、空を見上げる。
星が降っていた。一瞬のきらめきと共に儚く散る星たちを見て、何も為さずただ生き続ける私と比べてしまう。
夜空はとっても美しくて、吸い込まれそうで。
「……ちゃん、そこ綺麗なお嬢ちゃん!」
他人の声に気付き、急いで顔を向けた。夜空に夢中で気づかなかった。
そこには猫背の、フード付きの青色ローブを着た老婆が長い杖を持ち、立っていた。
「そこで何をしているんだい?」
「私、舞踏会に行けなくて、それで……」
これから私はずっと、この生活から解放されない。
そう思っただけで、涙がぶわっと溢れ出てしまった。
星たちが滲み、視界がぼやける。
「私が魔法をかけて、あなたを舞踏会に連れて行ってあげるよ」
そう言うと軽快な歌を歌い出し、杖を振りながら魔法を唱えると、星屑のような光を放ちながら、私の服がキラキラと輝く真っ白なドレスに変わった。
そして、もう一度魔法の言葉を放つとカボチャが馬車に、ネズミは白馬と騎手に変化した。
すごい、なんで、こんな事が……。
「さあ、早く馬車に乗りなさい。そうすれば、舞踏会に間に合うわ」
「う、うん! ありがとう、優しいおばあちゃん!」
すぐにカボチャの馬車に乗り、城へ向かう。
初めて訪れた、青白く輝くその城は、とっても大きくて。
階段を見つけた。多分あそこを降りた先が舞踏会の会場だ。そしてその奥、王子様が見える。
美しく整えられた黒髪に、大きくて切れ長の目、シュッとしたアゴにすらっと伸びた身長も、確かにこれは、国中の女性が魅了されるわけだ。
私が降り始めると、王子様がなにやら騒ぎ出し、そして、王子様の家来? たちが、私のために道を開けてくれた。
その道を進むと、王子様が私に手を差し伸べた。
「僕と、踊ってくれませんか」
王子様は、不敵な笑みを浮かべていた。
「はい、私もあなたと踊りたかったです」
幻想的な音楽の中、私たちは踊った。
息はぴったりで、ステップも軽やかに。
「僕はアラン。あなたの名前は?」
「私はレイ……シンデレラ」
「……シンデレラ。僕は貴方ほど美しい女性を見た事がない。出会えてとても嬉しいよ」
「……私も」
そう会話をして踊り続ける。
少し私がうまく踊れない事があると、手を取って、合わせてくれる。リードしてくれる。私の間違いを、自然に、指摘、してくる……。
その後、私はアラン王子に連れられるがままに、宮殿の奥へと進んだ。
「ここは王国の中でも限られた者しか入れない中庭だよ」
蒼く茂る芝生に白く輝くブランコ、ベンチ、それらが月の光に照らされて、とっても綺麗で、私たちはそこで、ロマンチックに会話をしている。
「僕は、貴方に恋をしたみたいだ。舞踏会にいる他の女性は全然いい人いなかった。今まで出会ってきた女性も酷い人ばっかりだったよ。でも、君のような美しい女性に出会えるなんて……」
「酷い人、って、どんなふうに?」
「あ、ああ、どんなふうにって聞かれると、困るけど……貴方みたいに、あんなに僕の指図する通りに踊ってくれたり、この中庭に来てって、言ったらきてくれたり。そんな人は、あんまりいないかも」
フフッ、と笑みがこぼれた。
「なにそれ」
「もし、もしだよ、シンデレラが俺と一緒になってくれたら、僕の家来に好きに命令してもいいよ。あいつらは僕の言うことを全部聞いてくれるから。君は、僕と結婚をすれば、全てを手に入れられるんだ。一緒に、幸せに暮らそう」
好きに命令……。
指図する通りに……。
一緒に、幸せに暮らす……。
12時の、鐘が鳴りはじめた。
やばい。
魔法が、切れる!
「ごめんなさい、私、行かなきゃ!」
「え! 待って、待ってくれよ!」
中庭を出て、スカートを両手で持ちながら大広間の階段を一気に駆け下り、外で待っていたカボチャの馬車に乗り込んだ。
「早く、できるだけ早く戻って、お願い!」
ドアを閉めると馬車は全速力で走り始めた。
後ろを見ると王子様の家来の馬車が追いかけてくる。
やばい。
でも、これは魔法の馬車。
とっても速く走り、そのまま、追っ手を撒いた。
そして魔法が切れ、カボチャと動物に戻ってしまい、服はみずぼらしいものになってしまった。
結局、また、この生活に逆戻りか。
はあ。
あれ。
片足に、ガラスの靴が残ってる。
これは……。
あれから1ヶ月が経ったころ、変わらずシンデレラは雑用をこなしていた。
しかし、継母から、今日だけは、部屋から出るなと鍵をかけられ閉じ込められてしまった。
なんだろうか。
窓を開けると……!
玄関に、アラン王子と国王が来ている!!
な、なんで!?
ドアから耳を澄まして会話を聞く。
「この、ガラスの靴が合う女性を探している」
ガラスの……。
私のだ。
それ、私のだ……。
今、出ていけば、この生活から、解放される。
解放、され……。
果たして、これでいいのか……?
いや、これでいい。これでいいに決まってる。なんで私は、こんなことで躊躇っている。
ガチャ、と、部屋のドアの鍵が開いた。
なんで? ドアを開けるとそこにはロバがいて。
他の動物たちも、一緒になって開けてくれていた。
……動物たちはみんな、私の味方なんだ。
……私に、味方なんていたんだ。
『さあ、早く馬車に乗りなさい。そうすれば、舞踏会に間に合うわ』
あの、魔法使いのお婆さんも
そっ……か。
私、ずっとひとりぼっちな気がしていたけど、そうじゃない、のかもしれない。
「待って、私もいます」
継母や姉が慌てて誤魔化そうとする。
それを家来たちが止め、私にアラン王子がガラスの靴を履かせようと。
ごたついていたから、ガラスの靴が宙に舞い、そして、パリーンという音とともに、地面に落ちた。
「ああ、これじゃあ、もう、誰のものか、わからくなってしまった」
「わかりますよ。だって、もう片方は私が持っていますから」
そのサイズは私の足にぴったりで。
そりゃそうだよ、だって私が、私が、私の、友達の、魔法使いからもらった大切な、大切なガラスの靴なんだから!!
「あなたが、シンデレラ……」
アラン王子は、箱を取り出し、スッと膝をついて、私の方を見つめ、箱を開けた。
中には、今までに見たこともないような、この世界の全ての光を集めたように輝くダイヤモンドの指輪が入っていた。
「僕と、結婚してください」
「はい、喜んで」
これで、よかったんだ。
これで。
これで……。
あれ。
なんでだろう。
目から、水が。
目から、たくさんの水が出てくる。
私、なんで、こんなに、嬉しいはずなのに……。
なんで。
こんなに。
苦しいの……?
「アラン王子、シンデレラ姫が泣いて喜んでおられるぞ」
「ああ、僕はとっても嬉しいよ。こんなに喜んでもらえるなんて」
違う。
違うの。
私は……。
ステンドグラスから光が差し込む。
十字架の下、タキシード姿のアラン王子の前と対峙する。今日のために家来の人たちが整えてくれた最高級のウェディングドレス。今の私は多分、過去最高に美しいんだろうな。
「アラン王子、シンデレラ姫に永遠の愛を誓いますか?」
「誓います」
「シンデレラ姫、アラン王子に、永遠の愛を誓いますか?」
「誓……うわけないでしょ」
「なっ……!」
式場がどよめく中、流石は王子というべきか、アランは一瞬で、全てを察したかのようなギラリとした目に変わり、私の肩を掴みにかかる。
私はアランをドンと突き倒し、バージンロードを一気に駆け抜けた。
「追え! シンデレラを捕まえろ!」
そうアランが叫んだ頃にはもう遅い。
私は、外で待ち構えるカボチャの馬車へともう着きそうだ。
魔法使いのお婆さんが手を振っている。
馬車のドアに手をかけた。
「ロバに聞いて駆けつけたけど、シンデレラ、あなたは、本当に、これでよかったの?」
「うん、大丈夫。私は気づいたんだよ。私は、生まれた時から、自由だったんだって!」
それを聞いた白馬が吠え、ネズミの騎手は笑う。
「ハハ、最高だよシンデレラ姫、いや、レイチャミ!」
私は馬車に乗り込んだ。
カボチャの馬車は、追っ手をもろともせず、全速力で駆け抜ける。
このまま、どこまでも行こう。
もう、誰かに縛られたシンデレラは死んだんだ。
私はレイチャミ。
『あんなに僕の指図する通りに踊ってくれたり、この中庭に来てって、言ったらきてくれたり。そんな人は、あんまりいないかも』
『もし、もしだよ、シンデレラが俺と一緒になってくれたら、僕の家来に好きに命令してもいいよ。あいつらは僕の言うことを全部聞いてくれるから。君は、僕と結婚をすれば、全てを手に入れられるんだ。一緒に、幸せに暮らそう』
あのままだったら私は、必ずアランに縛られる。アランは継母と同じ考えを持っている。指図する通りに踊ってくれる。リードしてくれるなんてよく言ったものだよ、私はそんなの全く望んでいない。
私は自由な人間なんだよ。継母にも、王子にも、そして……。
『レイチャミ、これからは新しい継母と仲良く過ごすんだよ……そして、大きくなったら、素敵な王子様と、結婚して、そうすればレイチャミは、幸せで……』
私にレールを敷いてきた、お父様にも、誰にも支配されない、私は私のもの、それが本当の自由なんだよ。
『僕と、踊ってくれませんか』
あの時の、こいつは必ず俺のものになるって確信したかのような不敵な笑み。
そうやって生きてきたんだろお前は、女性はみんな俺のことが好きなんて勘違いしてるみたいだけど、私は違う。ざまあないね、そもそも自分が結婚相手を選ぶために国中の女を招待して舞踏会を開くって何様?
そんな奴に、私の自由を奪われてたまるかよ。
もう、追っ手は遠くなって来ている。
1番前にいる追っ手の馬車から声が聞こえる。
……アランの声だ。
「シンデレラ、最後にお願いがある、君が舞踏会で言いかけた、本当の名前を教えてくれー!!」
息をすうっと吸った。
「レイチャミ! シンデレラはもう、いないから!」
ハハ、アランが悔しそうな顔をしてやがる。
あいつはずっと周りの人たちを思い通りにし続けて来たから、生まれてこの方こんな気持ちを味わうなんて思ってもいなかったんだろうな。
私はその逆。ずっとその逆を生きてきた。
でも、今は違う。
ウエディングドレスにしまっておいた婚約指輪。
このまま別の国に着いたら、まずはこれを換金して寝床を確保しよう。
誰にもコントロールされない、1人の生活。
困った時は、この馬車のみんながいる。
そして、魔法使いのお婆さんという最強の味方もいる。
仕事を探して。
怖くなんてないさ。
今まで雑用をたくさんこなしてきたんだから。
私はこれから生きていける。
継母のためでも、お父様のためでも、そして、王子様のためでもない。
私のため、そのためだけに、生きていける。
フフッ!
空が青い!
最高の気分だわ!




