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前世

 卓上の銀色の目覚まし時計の針は3時過ぎを指していた。南に面した大きな窓には真青な空と、光を透かしながら底に影を湛える雲が映り、室内は影を落としながらも心地よい明るさである。カップには冷めた紅茶がまだ少し残っている。

 赤ずきんはソファに深くもたれ、頭を垂れながらまどろんでいた。

 すると突然、くぐもった耳の中に、外界の音がまるで夢の中の出来事のように飛び込んできた。ひっそりとした家の中で呼び鈴が遠慮がちに、しかし凛と響いた。

 兄は隣で横になって眠っている。お腹は呼吸に合わせて膨らんでは戻っていく。静かな寝息は赤ずきんをも眠りに深く誘い込むようだった。

 赤ずきんと兄が暮らす家を見知らぬ人が訪ねてきた。

「一晩泊めてもらえませんか。実はこの辺を歩いてたんですけど、あの、そろそろ宿を見つけようと思ったんですが家が建ってなくて。どうしようかと思いまして」

 伺うように赤ずきんを見つめる男性は深緑色のマントを羽織っている。

 ここら一帯はこの家しか建っていない。周りを囲む畑と田は人の手を離れ、競わんばかりに草が生い茂り、もはや境界もない。もう少し山沿いを東に行くと家々が立ち並んでいるのだが、そこはお金持ちたちが夏の間暮らしているだけで、秋の気配漂う今は閑散としていた。

「ここでよかったら、どうぞ。入ってください」と正面の障子を開け、ソファで眠る兄を起こした。


 ここ数年はずっと兄と二人で、訪ねてくるものも少なかった。二人は夕食の席で男性の話に耳を傾けた。男性は兄の一つ上の三十歳だと言う。裕介と名乗った。薬売りだそうだ。赤ずきんは裕介の出目金のような目に魅かれた。他の町から来た者を見るのは珍しく、どきどきとした。


 赤ずきんは寝る時、太腿にサテン生地の、どうやら他の家では履かないらしいものを履く。足の付け根付近まであげて、膝丈のネグリジェから見えないようにする。何のために履いているのかは分からないが、赤ずきんにとっては下着も同然のものだった。

 しかし、今日はそれらをそばに放って暖炉の前で横になって寝入っている。左右ちんばだったので、恥ずかしくて脱いだのだ。裕介は二階の客室のベッドでもう寝ていた。


 赤ずきんは目を薄く開けた。暗い部屋の中で暖炉の火だけがそばをかすかに明るくしている。体を起こし、ふと視線を下に移すと、脱いだはずのものがやはり色違いで赤ずきんの太ももを包んでいた。呆然としていると、兄は可愛かったからはかせたと、いたずらっこのように微笑んだ。

 

 


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