第七章 過去と現在の邂逅
**現在 二〇二四年**
結衣は祖母の最後の暗号に辿り着いていた。家の構造そのものが暗号になっているという発見は、彼女の世界観を一変させた。
畳の下、柱の傷、本棚の配列——すべてが計算された暗号の一部だったのだ。結衣は建築学の友人に協力を求め、家の設計図を詳細に分析した。
「これは驚異的ですね」友人の建築士が感嘆した。「建物全体が一つの巨大な暗号装置になっています」
解読作業は困難を極めた。しかし、結衣には決定的な手がかりがあった。自分のDNA配列である。祖母が生物学的暗号を仕込んでいたことを突き止めたのだ。
遺伝子検査の結果と家の構造データを組み合わせることで、ついに最終的な隠し場所が判明した。それは家の庭の特定の場所——祖母が大切に育てていた桜の木の根元だった。
結衣が土を掘ると、防水処理された金属製の箱が出てきた。中には、戦時中の検閲に関する完全な記録と、現代への警告が記されていた。
しかし、最も衝撃的だったのは、黒沢中尉の戦後の手記だった。元憲兵が戦後に記録した検閲の内幕と、民主化への提言である。
「戦時中の検閲は国家による暴力だった。しかし、民主主義の下でも、形を変えた検閲は存在し続ける。技術の進歩と共に、より巧妙で見えにくいものになるだろう。未来の世代は、常に警戒を怠ってはならない」
黒沢の手記は、現代のデジタル検閲を正確に予言していた。AI検閲、プラットフォーム依存、アルゴリズムバイアス——すべてが既に予見されていたのである。
結衣は自分の使命を理解した。過去の真実を明らかにするだけでなく、現代の検閲システムの問題点を暴露することだった。
彼女は国際的な研究ネットワークを構築し、世界各国の研究者と協力して大規模な調査を開始した。戦時中の検閲と現代のデジタル検閲の比較研究である。
しかし、圧力も激化した。佐々木率いるIT企業連合は、結衣の研究を「危険な陰謀論」として攻撃し始めた。SNSでは組織的な誹謗中傷が行われ、結衣の社会的信用を失墜させようとする工作が展開された。
「これって戦時中の憲兵と同じですね」結衣が田原に相談した。「手法は違うけど、本質は変わらない」
「そうですね。でも、あなたには強力な武器があります」田原が励ました。「真実と、それを支持する世界中の仲間たちです」
結衣は祖母の暗号技術を現代版にアップグレードし、検閲不可能な情報発信システムを完成させた。ブロックチェーン、暗号通貨、分散型ネットワーク——あらゆる最新技術を組み合わせた革新的なシステムだった。
ついに、結衣は世界同時発表を決行した。戦時中の検閲の全貌と現代のデジタル検閲の実態を暴露する大規模な調査報告書を、検閲不可能な形で世界中に配信したのである。
報告書は瞬く間に拡散され、世界的な議論を呼び起こした。特に、AIによる自動検閲システムの偏見と不公正さが明らかになり、IT企業に対する厳しい批判が巻き起こった。
佐々木は反撃を試みたが、既に時遅しだった。真実は光の速度で世界中に広がり、もはや隠蔽することは不可能になっていた。
結衣は祖母の写真の前で報告した。
「おばあちゃん、やりました。あなたの暗号は時空を超えて、現代の人々に真実を伝えました」
しかし、戦いはまだ終わっていなかった。真実の公表は始まりに過ぎず、これからは検閲のない自由な社会を築くための長い道のりが待っていたのである。